第33話 痛み
ソフィアは、村人を心配させぬように、いつものように
朗らかに歩いた。
あっという間に村人にソフィアが来たことが広まっていて、
ソフィアを慕う人々からの贈り物で
野菜、肉、魚、お菓子、いろいろなものがジョシュアの
コントヌールに収められた。
子供達からは、花、大切な光る石、お絵かき、
可愛らしいお金では買えないものが沢山。
ソフィアはそれを、嬉しそうに受け取った。
「ありがとうな。皆もありがとう」
子供から大人まで、その嬉しそうなソフィアの笑顔に
幸せそうだった。
「またな」
ソフィアは、村人にそう言って自身の使う小屋に帰宅した。
ソフィアは、侍女長に食料と贈り物を預け
2階の自分が使用する部屋に行く。
侍女長のおかげで、小屋中が清められ快適な状態になっていた。
オーリーは1階に1人、外に1人、見張りにいかせた。
ジョシュアは、コントヌールから木でできた大きなタライを出した。
手をかざして水を張り、魔力を込める。
水はキラキラと虹を写したかと思うと、また透明に戻って行った。
これがスゥァフェ・ドォ、遠くにいる相手と話す方法だ。
魔力が高いもの同士がいれば、誰でも使える。
王宮では上官達が使用することがあるのだ。
「ルーク、……ルーク、いるか?」
「ジョシュ?何かあったのか?」
水の向こうにはルークが写っていた。
今回は念のために、ルークの執務室にも
スゥァフェ・ドォの準備をしていたのだ。
転移魔法で行き来するよりも簡単だ。
「ソフィが、お前に話があると」
ルークは、タライをのぞき込むソフィアを見た。
「ソフィ、何かあった?」
「グリフォンが大群でいる」
「大群?どうゆうことなんだい?」
「分からん。が、推測はつく」
ソフィアは、静かにルークを見つめた。
「ルーク、ガザンはいったい聖動物に何をしたのだ?」
少し詰まったルークは、小さなため息をついて答えた。
「まだ確証が掴めていない……あくまでも可能性なんだ。
そのつもりで聞いて欲しい。聖動物は尊い生き物だ。
でも動物でもある。習性を掴んで、山、川、海、林、
のそれぞれの一区画に、囲い込むよう試したとのウワサがあるんだ。
聖動物が暴れ出したりはしていないようだ。
あくまで生態調査という名目を通している」
「グリフォンは、逃げ出したのだ。間違い無いと思う。
ルーク、ガザンの情報を急いで集めてくれ。
大馬鹿ものだからこそ、この影響は大きい。
他の国は、どうしてる?」
「我が国と同じ行動をしているだろう。
いくつか国内調査を検討していると情報が入っている。
我が国が1番早く動いたようだ」
「1時間後に父上と話がしたい。用意してくれ」
「分かった」
ソフィアはジョシュアを振り返った。
「もう良いぞ、ジョシュ。次は1時間後だ」
「分かった」
ジョシュアは、そう答えると魔力を納めた。
そして優しくソフィアに言った。
「ソフィ、コーヒーを飲もう。ちょうど午前の
休憩時間だ」
「ジョシュ、髪を解いてくれ。父上は何も言うまい」
「そうだな、陛下もお許しくださるだろう」
ジョシュアは、長に分けてもらったコーヒーを
全員分用意した。
小屋にコーヒーの香りが漂う。
ケーキを毒味し、小さく切り分けた。
残りはまた明日に食べれば良い。
ソフィアの部屋に持っていき、出してやった。
オーリーは、2人が食べ終えたら食べると言って笑った。
オーリーかジョシュア、どちらかがソフィアの安全のため
反応できれば良いと。
ソフィアがコーヒーを飲む間、
ジョシュアは、髪を器用に解いて行った。
いつもの真っ直ぐな金色の髪は、編まれていたので
柔らかいウェーブがかかっていて、フワフワしている。
ジョシュアは子供達にもらった花を一輪取ってきて
髪に差してやった。
「ソフィ、子供達の気持ちがこもっている。
とても綺麗だ。陛下もきっとそうおっしゃる」
ジョシュアは、そう言って頬にキスした。
「気持ちはな、金でも、無理強いしたとしても
手に入らぬものだからな」
ソフィアは弱々しく笑った。
ジョシュアはソフィアの前にひざまづいた。
髪を耳にかけてやり、優しく微笑んだ。
「ソフィ、大丈夫だ。陛下には
この子供達の心、村人の心、世界の平和を願う人々の心
全てが伝わるはずだ。心配するな」
「……ジョシュ。私の側にいるのだ。良いな……?」
ジョシュアは微笑んだ。
「お前の望み通りに……」
そう言ってソフィアの手をそっと包むジョシュアは
幸せそうに微笑んでいた。
オーリーは、静かな気持ちだった。
冷やかしでも、興奮でも、意見もない。
……聖動物のおかげかもな……。
そう思いながら、2人を見ていた。
まるでたった2人、世界の平和を支えているようだ。
いずれソフィアも、自分の気持ちに気がつくだろう。
ジョシュアが、ソフィアの気持ちを待つのなら
それが運命だろう。
そして自分が、何があっても2人を、ソフィアを守るのだ。
それがオーリーの使命だった。




