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俺の閣下  作者: テディ
本編
32/186

第31話 下準備

 それは木でできた小屋だった。下に応接室。台所、食堂、浴室。

2階に部屋が6室。それなりに大きいが、全てが木でできている。

この地方の、一般的な建物だ。


その小屋の応接室に、ソフィア達は転移してきた。

転移魔法の風が、少し部屋のホコリを巻き上げた。


さて……。


ジョシュアは、忘れ物がないか確かめた。

人も物も全てある。問題なかった。


結局、侍女長が付き添ってくれる事になったので、

ソフィアの世話を整えてくれるのは早かった。


ジョシュア達も、野営の訓練を受けていたりするので、

自分達の身の回りくらいは問題ない。


食事も、村人が何人か通いで来てくれるので

大丈夫だ。村の(おさ)は、ソフィアが来ると言うので

いつもの田舎料理でいいのか、とても心配して

連絡をよこしていた。


ジョシュアはソフィアが、その土地の料理を食べたいと希望している事、

疑っているわけではないが立場上、ジョシュアが毒味をする事を伝えてあった。

それはルークから頼まれている事でもあった。


荷物を片付けると、侍女長は古屋の掃除を始めた。

村人が大切に建物を守ってくれているとはいえ、

衛生と不審物を確かめる為もあった。

念の為、彼女と近衛1人でやってもらう。


もう1人に古屋の外の点検を頼み、

ソフィア、ジョシュア、オーリーは村の長を訪ねる事にした。



村の長は、ソフィアの父と同じ歳だ。

柔らかい雰囲気で、村人をまとめるのが上手だ。

幼い頃から、何度も会った事があり可愛がってもらっていた。


同じような建築法の家に通され、応接室の椅子を勧められる。

小さな村なので、もちろん侍女がいるわけもなく、

長の妻が、入れたてのコーヒーを持ってきてくれた。


ソフィアは、自分のカップを先に

ジョシュアが飲む事を、すまないと謝った。


恰幅の良い妻は、ニコニコと首をふった。

「いえいえ、姫様。当然の事です。さ、どうぞどうぞ」


ジョシュアが口をつける前、香りを嗅ぐ。

毒味の一貫だと気づかれぬよう言葉をかけた。

「ああ、良い香りだ。豆はどこのものですか?」

聞かれた妻は嬉しそうに答えた。

「ありがとうございます。ここより南の土地で獲れるものです。

酸味よりは苦味の方が強いのですが、いかがでしょう?」


ジョシュアは一口含んだが、予想通り何もなく

それは普通の美味しいコーヒーだった。

「閣下もお好きなコーヒーだと思います。

さあ、閣下。どうぞ」

「ありがとう」


ソフィアはジョシュアと同じように香りを楽しんだ。

「ああ、良い香りだ。ひきたてなのか?

……うん、美味しい」


ソフィアが柔らかく笑うと、妻は嬉しそうにした。

その妻が、部屋を下がろうとしたので、ソフィアは引き留めた。


「下がらずとも良い。あなたにも聞いて欲しいのだ。

そして、私が何の為にこの村を訪れたのか、

村人に話してやって欲しいのだ」


長と妻は顔を見合わせた。

「姫様、よろしいのですか?」

長は、少し躊躇している。

「良いんだ。護衛の観点からも、私がいることを

皆に知っていて欲しい。この村は皆、心が暖かいからな。

それが私を守ってくれることに繋がる」


長は、少し考えて答えた。

「承知しました。ここ10年、家族が増えることはあっても

知らない土地からやってきたものはおりません。

確かに、その方が姫様をお守りできかもしれません」

「しばらく、窮屈な思いをさせるな。

悪いが頼む。その内、村人と交流できる事もあろう。

それまでの辛抱だと思ってくれ」

「何をおっしゃいます。早くくつろいでいただけるよう

考えておりますので」


長はそう言って柔和な笑みを浮かべた。

ソフィアは、優しく笑い本題に入った。

「実はな、父上から聖動物の生態調査を頼まれたのだ」


長は、かなり驚いていた。

「陛下がですか?生態調査とは、また陛下のお考えらしからぬように

思うのですが……」

「そうだな、父上の考えとは少し異なるからな。

隣国より、その国の聖動物の生態調査を私にと依頼がきたらしい。

いきなり隣国にいくわけにいかんだろ?

それで、まずは自国からとなったようだ」

「いったい何で……そんなことを考えついたのか……。

あれは神の贈り物なのです。こちらから探しに行くなど……。

姫様は他意が、おありにならないから大丈夫でしょうが……」

長は困惑を隠しきれなかった。


「そうだな、私も愚かなことだと思う。

外交上、どうなっているのか解らんのだ。

ただの調査だからな。無下に断れんと言った所だろう」

「隣国の王族は、どうなさっているのでしょう?

その国の王族が調査すれば良いだけだと思うのですが……」


そう疑問を持った長に、ソフィアが単純に答えた。

「できぬのであろう。そんなことを考えつく王族であれば

自分で調査できぬのだと思う」


それを聞いて長は絶句した。

「姫様……、それを姫様に依頼してくるなど

隣国の恥なのでは?」

「表向きは、他の国の王族も入り

公正に調査したいと言っておけば恥にはならん」


長はかなりの間、考え込んでいた。

「……姫様、陛下の勅命であれば

調査せざるを得ません。何かご協力できるようなら

いつでもお声をかけてください」


そう言われてソフィアは微笑んだ。

「ありがとう。……私はな、今回は群れに会えなくて良いんだ。

隣国には、なぜか用心されて群れでは会えていないと言えば良い。

でももし、グリフォンが群れで私の前に現れたら……。

それは、この問題を片付けよと言うことだ」


長は、唇を噛み締めた。

「姫様……」


ソフィアは、空気を変えるかのように

吹っ切れた笑顔になった。

「最近、村人はグリフォンに会えているか?」

長も笑って答えた。

「1年前に幼子が2人、グリフォンに会えました。

興奮して夜中まで喜び、親は大変だったようです」

「そうか。ここの村人達は魔力が高い家系が多いからな。

それでもやはり子供の方が会う確率は高いな」

「はい、姫様。やはり純心無垢な者の方が良いのでしょう」


ソフィアは、村人に生態調査にきている事だけを話、

あとは内密にしてくれと頼んだ。


「また来るな」

そう優しくいって、長の家を後にしたのだった。



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