第21話 手配
ジョシュアは、その日とても忙しくなった。
部屋を出ると、オーリーによろしく頼むと言い、
いつものソフィアのように颯爽と歩いて行った。
その背を見つめ、オーリーは考え込むようにした後、
ニヤリとする。
アイツたった1日で、色気振りまきやがって……。
ニヤニヤと警護するオーリーは、相当怖かったようで、
仕事に励む給仕や侍女達を震え上がらせたのだった。
当のジョシュアは、オーリーがそんなことになっているとは
夢にも思わず、次々と仕事をこなしていった。
まず、ソフィアに話したとおり侍医のもとに行き、
昨日の出かけたときの様子、食べた物などを話し、
久しぶりに興奮したのだろうと伝える。
ソフィアの症状が熱だけなので、原因は疲労とのことでまとまった。
侍医の許可を取り、アイスを準備するよう厨房に伝える。
次に国王に目通りを願い、返事が来るまで
ソフィアの執務室へ急ぐ。
今日の書類で、自分で済む物、ソフィアがいなければ解決できない物、
その中で優先順位の高いものから整理するように指示を出す。
できるものから判断し、どんどん片付けいった。
それだけで、もうお昼の時間になりそうだった。
やれやれ……そう思ってコーヒーを皆で飲んでいるときだった。
国王から、目通りの許可が降りたと伝えがきた。
午後の訓練の指示を出し、伝えに来た者と部屋へ向かう。
……さて……ここからだ。
ジョシュアは緊張するわけでもなく、かといって興奮するわけでもなく
冷静な顔つきになった。
ソフィアの父と母は、ゆっくりと食後のお茶を楽しんでいたようだった。
部屋へ招き入れられると、ソフィアの母はにっこりとした。
ジョシュアに顔を上げるように言い、ソフィアと会ったかと聞く。
「急なお目通り、申し訳ありません。
閣下には、お会いしてまいりました。
今、ベッドでお休みになっておられます。
陛下、閣下とご相談したのですが、
やはりお話を聞いておいていただきたいと
おっしゃっておられます。私も同じ意見です」
国王は少し眉を上げ、カップをおいた。
「ジョシュア、いったいどうしたのだ?
ソフィアは何か熱を出す原因があったのか?」
ジョシュアは、まっすぐ国王を見て答えた。
「はい、陛下。恐れながら、昨日
私が閣下に求婚いたしました。
閣下は大変驚き、熱をだされたのかと……。
お返事は、まだいただいておりませんが、
閣下は私に世話を続けるようにとおっしゃっております」
国王も女王も、目をパチクリさせていた。
かなりの沈黙の時間が続いた後、女王が口を開いた。
「まあ、ジョシュア、あなたソフィアに求婚してくれたの?!」
「はい」
ソフィアの両親は顔を見合わせた。
2人の願いが、本当に現実に起こったのだ。
しかし、国王を首を捻った。
「ジョシュア、それでどうしてソフィアが熱を出すのだ?」
「おそらく知恵熱かと……」
またしても2人は顔を見合わせた。
そして女王が、コロコロと笑い出した。
国王は、困ったような顔をしている。
「ジョシュア、そうね、あなたの見立てで間違い無いと思うわ。
陛下?そうお想いにならない?」
愛おしい妻を見て、国王は口を曲げた。
「私もそう思うよ。……ただお前、熱は出さずとも良いと思うんだが……」
そんな夫を見て、まだ笑っている女王は幸せそうに答えた。
「陛下、それでこそソフィアですわ。さすが私たちの娘」
笑い続ける妻を見て、ため息をついた国王はジョシュアを見た。
「ジョシュア、よく分かった。それは知恵熱だな。
それで、どう進める?」
早くも婚約させようと言うソフィアの両親に、苦笑しながら答えた。
「陛下、それが閣下からは、まだお返事いただいておりませんので……。
ただ、その場で断られておりませんので、少し望みがあるかと
期待しております。陛下達は、もし閣下が色良いお返事をくださった場合、
反対するお気持ちがあるようでしたら、先に閣下にお伝えいただきたいのです」
それを聞いた女王は、さらに笑い出した。
「いやあね、ジョシュア。あなた、反対されても
諦めるつもりなんて無いでしょう?」
ジョシュアは、少し笑って返事をする。
「女王陛下、私はそうでも、閣下は分かりません。
ご両親のご意見は大切でしょう」
「ジョシュア、ソフィアは私たちに敬意を払ってくれるわ。とても良い子よ。
でもソフィアの自由を閉じ込めてしまうことができるほどでは無い。
あなたもそれは分かっているでしょう?
私たちは、ソフィアが望む通りにします。
それが、あの子があの子らしく生きていける方法だと信じているの。
ねえ、陛下。それでいかがでしょう?」
国王は、しばらく目を閉じて考えていた。
ゆっくりと目を開けると、ジョシュアに考えを告げる。
「ジョシュア、ソフィアの気持ちに任せる。私たちの意見は変わらん。
実際、一緒に生活できそうなのはジョシュアだけだろうからな」
「お時間いただけること、誠にありがたく御礼申し上げます」
ジョシュアがそういって、王族への礼をとると、
国王は急に、茶目っ気のある笑顔で笑い出した。
「ジョシュア、頼むぞ。ソフィアが結婚できるかどうかの一大事。
是非ともお前に娶ってもらわねばもらわねば」
大笑いする国王に、さすがのジョシュアもホッとしたのだった。
表向きソフィアの熱は、疲労で通すことを伝え、
国トップから、思いもよらぬ援護も受け、ジョシュアは
部屋を後にしたのだった。
それは良かったが……肝心のソフィアのことを考えると
いつ返事をもらえるかなんて、誰もわかるまい……。
ジョシュアは、自分のことなのに楽しそうに
そう思いながらアイスを取りに厨房に向かった。




