第20話 余波
次の日、ソフィアは熱を出した。
理由が分からない両親は、慌ててジョシュアに使いを出した。
ジョシュアは、苦笑いしながらリリー、マイア、モリンに
見舞いをしてくれるよう使いを出す。
ある程度、ソフィアが衝撃を受けることは想像していたが、
まさか熱を出すとは思わなかった。
……知恵熱だな……。
そう思い、急いでソフィアのもとに向かったジョシュアは、
部屋の前でオーリーに、呼び止められた。
「ジョシュ、一体何事だ?」
オーリーも、さすがに慌てていた。
ジョシュアは冷静に、答えた。
「大丈夫、たぶん知恵熱だ」
苦笑するジョシュアをみて、オーリーは呆気に取られていた。
「……お前……、動いたのか?」
ジョシュアは、静かに答えた。
「そうだ、昨日動いた。晩餐はリリー達と取ったと連絡が来たから
大丈夫かと思ったのだが、思ったより驚きが大きかったのだろう」
オーリーは、珍しくモゴモゴと話していた。
「そうか……、動いたのか……。まあ、良かったな……。
で……ソフィは、なんて言っているんだ……?」
ジョシュは少し笑いながら、昨日の出来事を教えた。
「世話をされるのは俺が良いと。だから側にいても良いそうだ」
それを聞いたオーリーは固まった後、ため息をついた。
「あいつ……、ちゃんと分かっているのか?」
「分かったから、熱を出したんだろう。
ソフィと相談して、陛下達に話すかどうか決めないと……」
「そうだな、ソフィは滅多に熱なんて出さないから、
心配なさっているだろう。お前、大丈夫か?」
「大丈夫だ。そのくらいの覚悟はできている」
しっかりと冷静に考えているジョシュアを見て、
オーリーは また たくましくなったなと思った。
そんなオーリーにジョシュアは笑いながら話した。
「オーリー、前に俺の気持ちは俺のものだから
相手を思う事を辞めないと話していただろう?
あの気持ち、やっと理解した。俺も諦められないだろうから、
必ず頷かせて見せる」
ジョシュアの爽やかな笑顔と、内容があっていない気がする……。
そう思いながらも、オーリーは快活に笑った。
「そうだな、ジョシュ。お前の腕の見せ所だ。
がんばれ、副閣下」
そう言われたときに、慌てて来た侍女長がジョシュアを見つけて
ほっとしたような顔をした。
「ジョシュア様、良かった。ソフィア様にお会いになりましたか?
「いいや、これからだ」
「侍医の見立てでは、お疲れから来るものだろうと。
念のため、昨日のご様子を伺いたいとのことでした」
「分かった。閣下にお会いしてから、侍医の元に行こう」
ジョシュアはオーリーを振り返り、今日1日の警護を頼んだ。
「オーリー、俺は執務の調整などで、ここを行ったり来たりする。
しばらく落ち着くまで警護を頼む」
「そのつもりだったぞ。今日1日は俺が担当する」
「ありがとう。じゃあ、またあとで」
そう言うとジョシュアは、ソフィアの部屋に入っていった。
その背を見て、オーリーはニヤニヤと考えていた。
……あいつ……開き直ったな……。
侍女長がドアを開けると、ソフィアは
こっそりとベッドを抜け出し、本を持っていた。
こちらを見て、しまった、見つかった……。
と言うような顔をする。
その様子に、ジョシュアは少しホッとした。
大丈夫だ、ソフィアはソフィアらしくいる。
侍女長は、まあまあと言い、
慌ててソフィアの元へ行った。
「ソフィア様、本は読んで構いませんから
水分をとって横になって下さい」
そう言われてソフィアは大人しく
言われる通りにした。
少し落ち着くと、ジョシュアはベッドの脇に
椅子を持ってきて腰掛けた。
「ソフィ、気分はどうだ?」
「大した事はない。皆が大げさなのだ」
少し頬が赤い。やはり熱はありそうだった。
ジョシュアは、ソフィアの頬に手を伸ばした。
ソフィアにはジョシュアの冷たい手が
心地良かったらしく、ほぉっと息をついた。
「ソフィ、やはり熱は高そうだ。
薬はどうした?」
「そこまで高くない。疲れだから、
寝て治すように言われた」
「そうか。何か食べたか?」
「いいや、水だけだ」
「食べると気持ち悪いのか?」
「いいや、大丈夫だと思う」
「そうか。後で、フルーツのジュースと
アイスを持ってきてやろう」
それを聞いて、ソフィアはパッと晴れやかな顔をして喜んだ。
「アイス!!しばらく食べてなかった!!
それなら食べられそうだ!!」
「まだ暑い季節ではないからな」
ソフィアはニコニコと、ジョシュアを見た。
そのソフィアにゆっくりと話す。
「ソフィ、今回は知恵熱だな。表向きは
疲れと言うことにするが、陛下達には
説明しなければ、ご心配をおかけするだろう?
どうする?」
「知恵熱……?大人になってからもなるのか?」
「どう思う?どう考えても知恵熱だと思うんだが」
ソフィアは目を丸くした後、クスクスと笑い出した。
「ふふっ、確かに知恵熱だろう。
イヤだな、自分が自分でおかしくなってきた。
父上と母上には正直に話す。
……特に母上は、後からバレるとマズイのだ」
「分かった。俺から話すが、いいか?」
「……ジョシュが良いと思う。私が話したとしても
母上は良いにしても、父上が信じない気がする……」
「分かった。では侍医のところに行ったあと、
陛下にお目通りを願おう。
ソフィ、それを読んだら寝るんだぞ」
「分かった」
そう言うと、ジョシュはスッと立ち上がった。
侍女長に、少し、手配したら戻るとつげ
部屋を後にする。
侍女長は、今見た光景を信じられない気持ちで見ていた。
今の甘い空気は、いったい何だったのだろう?
長年、2人を見てきたお付きの者達は、
早くお二人が恋仲になれば良いのにと話、
主人の噂話など、不敬でしてはならないことだと
指導する立場にいたのだ。
侍女達にはとても言えないが、何かが動くだろう。
でも見ている自分は、微笑ましく感じた。
きっと良いことがおきる。
そう思って、ソフィアに声を掛ける。
「ソフィア様、さあ御本を読まれるのなら
お水をもう少し お飲みになって下さい」
侍女長は、にこやかにソフィアの世話をやくのだった。




