第15話 余暇
ジョシュアに髪を編んでもらったソフィアはご機嫌だった。
新種の花……色々聞きたいことがある。
「ジョシュ、いくぞ」
そう言った途端、ジョシュの手が伸びてくる。
「ソフィ、落ち着け。目の前に、本があるぞ」
つまづくところだった……。
ニマっと笑ったソフィは、それでも落ち着けなかった。
学生の頃よりは、自由が効くようになっていた。
警護も隠れて張り付いているし、基本的にジョシュアと2人で
動くことができる。ソフィにとって自由を感じる
最大の喜びだ。さすがにジョシュアと2人だけで出かけると言うのは
叶わぬ望みだった。
警護の意味もあり、そしてソフィアがドジをしないように
ジョシュアが張り付く事になっている。
いつものように手をとるジョシュアにとっては、
密かな擬似デートだった。
時々、甘やかしたくなって困るほどジョシュアは
月に1、2回ある城下の視察を楽しみにしていた。
ジョシュアもソフィアも気がつかなかったが、2人は目立つ。
まずソフィアが目立つ。町娘風にしていても、美しさは変わらない。
そして……好奇心のままに動くので、ジョシュアのフォローが入る。
体格もよく、本人は気がついていないが冷静に見える。ジョシュアの見た目で
街を歩く皆の視線を集めてしまうのだ。
ただ、会話は主に小言だが……。
ソフィアが、フラッと魔法具店に行きそうになると
ジョシュアがサッと肩を抱き寄せる。
2人共まるでその意識はないが、当然のように恋人同士に見えた。
ただ、小言は落ちてくるが……。
「ソフィ、目的地にたどり着かんだろ」
「うん……、すまん。でもジョシュ、
あそこには新しい魔具があるかもしれん……」
「却下だ。目的地に行って、そのあと時間があれば寄ってやる」
膨れるソフィアに、ジョシュは微笑みながら話した。
「ほら、そこだ」
ジョシュアが、視線で指し示した先に小さな店があった。
季節の花が色々と取り揃えてあって、この季節を謳歌できるほどの数だった。
鉢植えもたくさん並べてある。ソフィアが見たことのない物もあった。
多分、自分が覚えている限りだが……。
ソフィアは嬉しそうに、ジョシュアを見た。
「ジョシュ、ここの店だな?」
「そうだ。自分でよく見てこい」
そう言って微笑んだジョシュアは、幸せそうに見えた。
ソフィアは、意気込んで珍しい花を探し出した。
「あった!!あったぞ、ジョシュ!!」
目を輝かせるソフィアに、ジョシュアは
ふっと笑い、店員に声をかけた。
「すまない、こちらの花を見せていただいても良いだろうか」
おかみは、喜んで説明し出した。
「はいよ、もちろん。これはね、先日出たばかりの新種なんだ。
私の実家が、開発農家でね。やっと安定して作れるようになったんだよ」
おかみさんは、にこやかに話した。
ソフィアは、顔を近づけて、その花を観察している。
本当だ……、なんて不思議な形だろう。
でも香りも良いし、色も綺麗だな。
そう思って、見続ける。
「お嬢さん、どうだい?」
「……どうやって栽培するのだ?なんて不思議な花なんだ……」
ソフィアは呟くように質問した。
おかみは、ソフィアの言葉遣いにとまどったようだが、
しばらく考え、身なりもいいし貴族がお忍びできたのだろうと
当たりをつけた。
「この国の山奥にひっそりと生える植物だったのだけど、
主人があまりにも不思議で持ち帰って、栽培してみたのさ。
やっぱり暑さに弱くてね、いくつか他の品種と掛け合わせて
ようやく丈夫な、元の花を生かした物が出来上がったのさ」
「そうか……、原生の種だけでは街中は難しかったのだな。
よく、元の花の特徴が残ったな」
「そりゃあ お嬢さん、30年もかかっているもの」
おかみは、そう言って豪快に笑い出した。
おかみはジョシュアを振り返り、
「旦那さん、買ってあげるんだろう?」
その言葉に、ジョシュアは慌てて旦那ではないと言うと、
おかみは笑い出した。
「じゃあ、まだ恋人なんだね。愛しい彼女に買ってあげないのかい?」
それを聞いて、ソフィアがビックリしたように顔をあげた。
「おかみ、ジョシュは旦那に見えるのか?」
おかみはカラカラと笑いながら、ジョシュアの背をドンっと叩いた。
「もちろんさ、お嬢さん。この若旦那は幸せそうにしているじゃないか」
肝心のジョシュアは、背をたたかれて思わず咳き込んでいた。
ソフィアは、おかみを見つめ、ジッとジョシュアを見た。
「ジョシュ、この花が欲しい。苗もあれば、それも欲しい」
結局、ソフィアはいつもと同じことを頼んだ。
ジョシュが私の旦那?旦那は結婚相手だ……。
他人にそう見える?一体、どのくらい多くの人に?
そう思っているソフィアに、ジョシュアは優しく尋ねた。
「ソフィ、この種だけでいいのか?他の種は?」
ソフィアは、ふわふわとした心もちで答えた。
「これがいい。今日はこの種のために来たから」
ジョシュアは少し首を傾げ、こう言った。
「そうか?まあ、おまえの望みなら……。
おかみ、この種の花と苗を3つずついただこう。
この住所宛に配達を頼む」
おかみは元気に言った。
「はいよ。若旦那……、気持ちの良い方だね。
愛しい人の願いを叶えるなんて……」
そう言いながら住所を確認して、しばし呆然とする。
そして恐る恐る、ジョシュアを見上げた。
「申し訳ありません……ひょっとして……??」
その様子にジョシュアは優しく微笑んで答えた。
「おかみ、噂は噂にすぎん。どうか内密に……」
おかみは、噂は噂と割り切ることにした
気持ちの良い恋人同士が、自分の店を訪れてくれた。
ただそれだけの事にしようと、思ったのだった。




