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俺の閣下  作者: テディ
本編
13/186

第12話 さざ波

 案の定、昨晩はよく眠れなかったジョシュアは、

珍しく重い身体を叱咤して、ソフィアの元に向かった。


今日は通常の業務しかないのが、自分をホッとさせる。

いつも通り、ソフィアを叩き起こし、準備させ、

颯爽と廊下を歩くソフィアの後ろを、書類をめくりながら

歩いていた。


その中に、いつもと違う書類があり、机の前にゆっくりと座ったソフィアに

確認をとった。


「閣下、この書類に書いてある視察とは?」

聞いていたソフィアは、腕を高く上げ伸びをしながらアクビして答えた。

「ジョシュ、コーヒーをくれ。その視察、父上に頼まれたんだ」

「陛下に?」

「以前から、打診が来ていたらしい。国内の視察のあと、

隣国に行って欲しいらしいのだ」

「閣下が、赴くのですか?」

「そうなんだ。グリフォンの野生の生態系を教えて欲しいと頼まれたらしい」


グリフォンは、希少とはいえ、この王国には馴染みの聖動物だ。

上半身は鷲で翼もあり、下半身は獅子の動物。

ソフィアの家名であるグリフィスは、この動物からとったのではと言われている。


気難しい性質で、魔力が高い人間になつきやすい。

でも誰でも良いわけでもなさそうだった。

グリフィス王家の面々は、代々グリフォンに懐かれ

辛い時代を共に乗り切った歴史もある。

はるか昔、もうおとぎ話になるくらいの昔のことだ。


聖動物は、何種類かいる。ユニコーン、ペガサス、龍、

どの国にもいるし、大切にされている。

人々に加護をもたらすと信じられているからだ。


「グリフォン……、生態系を知るのは問題ないように思いますが、

何故、今なのでしょうね?」

そう聞いたジョシュアに、ソフィアは珍しく苦々しい顔をした。

「目的は分からん。父上も警戒するようにと話している。

どこにでもグリフォンはいるが、親密になれるのはこの王国だけだ。

まあ、もっとも聖動物は賢い。自分達が利用されることを

敏感に察知して、その事をもっとも嫌う。

自分の国が滅ぼされる可能性があっても良いなら、

やってみよと思う。ただ……その場合は国民が気の毒だな」


真顔で聞いていたジョシュアは、ため息をついた。

「閣下、それは厄介そうですな」


ソフィアはしばらく考え込んでから答えた。

「どの国にも、相性の合う聖動物がいる。

それだけで有難いと思うべきなのだ。

彼らは、神の使いなのだ。欲を出してはいけないのだ」


「閣下、承知しました。少し用心深く行いましょう」

そう言って、ジョシュアは隣の部屋に引っ込んだかと思うと

コーヒーカップを手に帰ってきた。


「閣下、コーヒーです。本日は20件、目を通していただきたい

物があります。午後はいつもとおり稽古、その後

午後の書類があるでしょう。頑張って定時に帰りましょう」


いい笑顔のジョシュアを見て、ソフィアはウッと詰まった。

ジョシュアが笑顔の時は、やる気に満ち溢れているか

怒っている時だ。

……今日は、どっちだ?……


そう思ってカップを受け取る。口をつけようと思った瞬間、

ジョシュアの手が横から伸びてきた。

「閣下、飲むならカップを見てください」


自分の口元を見ると、取っ手を持った自分の手があった。

……こぼすところだった……

恐る恐るジョシュアを見ると、さらに笑顔で言われた。

「閣下、朝から着替えをするところでしたよ」


近侍たちは、にこやかに2人を眺めていた。

いつもの通り、仲睦まじい上司たち。


でもソフィアは、別のことを思っていた。

……まずい……ジョシュアが怒っている……聖動物の件だな……


正義感の強いジョシュアは、何かを利用することを嫌っている。

そんな疑いがあるだけで、彼には怒りが湧く原因になるのだ。


確かに、ソフィアも政治に疎いながらも隣国の要請は

疑問を持つくらい不自然な物だった。

珍しく弟も乗り出してきて、父にあれこれ質問していた。


聖動物は人から積極的に関わるものではない。

あくまで彼らの気が向いた時に、恩恵を受けられたりするのだ。

生態系も自然に任せるべきだ。ソフィアはそう思っていた。

……さて、仕方あるまい。状況を見てからだな……


そんなソフィアの脇に、ジョシュアは書類を積み重ねた。

「閣下、始業の時間です」


いい笑顔のジョシュアに、ソフィは観念して仕事を始めたのだった。


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