第11話 自問
皆と食事をとった後、ジョシュアは自室に戻った。
毎日の日課である、身体を鍛える基礎訓練をし、
シャワーを浴びると、濡れた髪を大きなタオルで
ガシガシ拭きながら、ベットに腰掛ける。
それにしても疲れた……。
大きく息を吐いた。
ジョシュアは、今日のソフィアとの会話を思い出していた。
ありのままの自分か……。
そんな事、ジョシュアにとってはお安い御用だ。
だいたいソフィアに変わって欲しいと思った事がない。
しかし、1つだけ傷ついた。
ソフィアは笑って、ジョシュアが良いというが、
それは世話をされる感覚が1番良いからと言った事だ。
恋ではない……。
笑って、ありのままの自分が良いと言うなら結婚すると言っていたが、
本当にできるのだろうか。
ソフィアの心が動き出した途端、
自分自身も動揺する事に、
ジョシュアは苦笑いしていた。
我ながら分かりやすすぎる……。
ごろんと背を敷布につけ、伸びをした。
考えてもしょうがない。またマイアに暗いと
怒られるな。ソフィアがありのままの自分が良いなら、自分はどうなのだろう。
子供っぽくなったりしたらソフィアはイヤになるのだろうか?
あいつの事だ。多分気にしないな。
そう思って、ふっと笑いがこぼれた。
ジョシュアは、あの恋を自覚した日を思い起こした。
それはとても幸せで、苦しい体験だった。
ソフィアが学校を卒業した日、下級生は全員
式典に参加することになっていた。
ルークが総代として、式典で挨拶し、
オーリーは武芸が優れるものに与えられる特別賞を勝ち取り、
ソフィアは魔法部門の特別賞を授与された。
ジョシュアもカイも、皆と特別仲良かったので
誇らしい気分になったものだ。
式典も終わり、祝いの言葉を言うためにカイと
門へ急いだ。
ソフィア達は、楽しそうに皆と話していたが、
自分達を見つけて、振り返った。
そのソフィアの金色の髪が、風にのって
扇を広げるかのように輝いた。
ああ……、綺麗だ。
確かにジョシュアは、そう思ったのだ。
そして、ソフィアにこう言われた。
「ジョシュ、お前が卒業するのが待ち遠しい。
卒業したら、私のそばにいるのだぞ」
ソフィアは、別に愛を囁いたのではない。
ジョシュアも、それは分かっていた。
だから、傷ついた。そして、その傷が
自身が恋した事を知らせていたのだ。
まあ、その後 1ヶ月もしないうちに国王から呼ばれ、
何事かと家族が蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
なんのことはない、ソフィアのお世話係を涙ながらに頼み込まれたのだ。
乳母も、侍女長も、近侍も、爺やも、誰もソフィアを
御せなかった……。
そんなことを取りとめもなく思い出していたら
コンコンっとドアをノックされる音がした。
「誰だ……?」
「僕だよ。」
それはカイだった。
ドアを開けると、カイもあとは寝るだけのようだった、
「どうしたんだ?何かあったのか?」
そういってジョシュアはカイを部屋に招き入れた。
カイは照れ臭そうに、少し視線を外しながら部屋に入った。
「いいや、特に用事って訳でもないけれど……。
今日はジョシュにとって、色々と考える日になっただろうなって思って……」
カイは小さな頃から、いつでもそうだった。
要領がよく、誰よりも賢く立ち回れる。
でもジョシュが少し考え込むことがあると、
こうして寄り添おうと行動で示してくれる。
そして、ジョシュアの考えがまとまらぬうちに
ただジョシュアの話に耳を傾けてくれるのだ。
ジョシュアには、なぜカイがここまでしてくれるのか
さっぱり分からなかったが、カイはジョシュアに小さな頃から
助けられてきたと思っていてくれるようだった。
「まあ、入れよ」
「うん」
カイはそう言うと、ジョシュアの机の脇にある椅子に腰掛けた。
「ジョシュ、ちょっと気になってさ」
「何がだ?」
「うん、僕も色々考えてみたんだけど、
やっぱりジョシュが、告白してしまった方が早いとおもうんだ」
いつになく真剣なカイに、ジョシュアは目を丸くした。
「なんでそう思うんだ?」
「うまい具合に、ソフィは自分のことを考えるキッカケができただろう?
でも、どれが恋なのかは気がつかないと思うんだ」
ジョシュアは、眉を寄せて考えた。
……まあ、確かに……。
「ソフィは、気がつけば早い。あれでいて思いやりもあるから、
ジョシュなら告白されたら真面目に考えると思うんだよ」
「各国の王族の求婚を、断り続けているのに?!」
「うん。それは相手がジョシュだから、可能なんだよ。
ジョシュは、もっと自分に自信を持った方がいい」
そう言われて、ジョシュアはさらに目を丸くした。
「俺は別に、自分を卑下しているつもりはない」
「もちろんそうさ。ジョシュは知らないだけで、
結構、君を気にしている女性は多いんだよ?」
「……?!っっ、なんの冗談だ?!」
びっくりしているジョシュアにカイは笑って教えた。
「ジョシュの想い人がソフィなのは、有名だからね。
だから、他の女性はジョシュに声をかけられないのさ」
ジョシュアは、固まった。ソフィ以外の誰もが自分の気持ちを
知っていると言うことか……?!
ジョシュアはあまりのことに、頭を抱えた。
「ジョシュ、悪いことではないよ。余計な噂をされなくて済むもの。
僕なんて……、自分のものにするために、わざと噂を流されたり、
ホント困っちゃうよ」
カイは大きくため息をついた。
確かに、それは腹が立つな……。
そう思ったジョシュアに、カイは立ち上がりながら続けた。
「ジョシュ、告白の事、考えてみてね。君は叶わぬ恋だと思い込んでいる。
でも周りは、そう思ってはいないんだよ」
カイは優しく笑って、そういった。
「おやすみ、また明日ね」
カイの背をみて、唖然としていたジョシュアは
しばらく固まったあと、大きく息を吐いた。
この俺が、告白する……??
あまりの急展開に、今夜は眠れそうになかった。




