第102話 署名
リリーは、自分にその意図はなくとも
クアドロを傷つけたことに動揺していた。
クアドロは、リリーの隣に座り、そっと手をとった。
「リリー殿、こちらを見て下さい。怒っているわけではないのです」
リリーは、混乱したままクアドロを見た。
こんなに人を傷つけたことは生まれて初めてだった。
なぜ……?こんな状況になったことがない……。
クアドロの瞳は、もういつものように優しかった。
「リリー殿、私が焦りすぎていた。一刻も早く
貴方を手元に呼び寄せたかった。愛しているのです。
今まで貴方を知らなかった自分の生活を思い出せないほど、
貴方を知ってからの私は、見るもの全てが変わってしまった」
リリーは、そう言われた瞬間に自分の過ちに気がついた。
そしてあっけにとられた。
クアドロは真剣に自分を求めているのだ……!!
リリーは、今度はしっかりとクアドロの瞳を見た。
「……殿下……、本当に私が運命だと
想ってくださっているのですね……?」
「……ええ……」
クアドロは、リリーの手に口づけを落とした。
「貴方が私の運命なのです。運命だからお話しするのではありません。
私自身が貴方を望んでいるから、お話しするのです。
愛しています。貴方を愛しているのです」
そのクアドロの言葉は、1つ1つがリリーの胸に染み込むように
溶けて行った。リリーの胸に熱い何かが生まれるように
クアドロの言葉は、リリーの心に落とされた。
リリーは突然、真っ赤になった。
「あ……、あのっ……殿下……、私……、
婚約者の務めを果たせないと……殿下に……あ……呆れられると……」
クアドロは、真っ赤になったリリーを見てホッとした。
どうやら、やっと伝わったらしい。
そして嫌われているわけでもないらしい。
クアドロは、やっとクスクスと笑い出した。
自分の唇をリリーの指先に当てながら、
リリーと視線を合わせる。もう逃さないと言うように……。
「リリー殿、やっと見つけたのですよ?
私が貴方に呆れることはありません。
忘れないでください。貴方を愛しているのです」
リリーは真っ赤になりながら、でも魔法にかかってしまったかのように
視線はクアドロの瞳から離せなかった。
「リリー殿、貴方にご理解いただけるように
たくさん伝えましょう。私の愛する人は貴方なのです。
愛してる、愛しています」
クアドロも、リリーの手を離さなかった。
クアドロが口づけて話すたびに、自分の手に熱がこもる。
まるでクアドロの愛情と同じかのように
それは、とても熱くなっていった。
「あ……あのっ……殿下……、どうか……手をお離しになって……」
クアドロは笑いながら即答した。
「いやです。貴方が、私が貴方を愛していると
認めてくれるまで離しません」
まさかの断りに、リリーは固まった。
……ねっ……熱が出そうだわ……!!
「殿下……、分かりました。愛情を持っていただいていると
充分に分かりました……!!ですから……、どうか、お手を……」
クアドロは、微笑みながら手は離さなかった。
「貴方は、私にふれられるのは嫌ですか?」
リリーは必死だった。恥ずかしくて、どうにかなりそうだ。
「いいえ、そうではないのです!!そんなことはありませんが、
恥ずかしくて……、自分が自分でないような……。
冷静な判断ができなくなってしまうので……!!」
「嫌ではないのですね?」
「嫌ではありません!!殿下がお話になると、私の手に熱がこもるようで……!!
は……恥ずかしくて倒れそうです!!」
クアドロは、やっと指先への口づけをやめて笑っていた。
「倒れられては困ります」
そう言うと、リリーの前へひざまづいた。
リリーは慌てて静止しようとしたが、クアドロはそれを押し留めた。
もう1度、リリーの手を取り、彼女を熱っぽく見つめた。
「リリー殿、私と結婚していただきたい。
愛してる。愛しているのです。貴方だけ生涯愛し続けます。
どうか私のそばに居てください」
真っ赤になって口をパクパクさせたリリーは、
しばらくして、やっとの事小さな声で答えた。
「はい、殿下。殿下の仰せのままに……」




