第100話 来客
ヘイネシア王国とウィライ王国の会談は、ほぼ合意となった。
お互いの状況の情報交換、対策と方向性、訓練をどうするか。
おおむね、予想通りの展開となった。
1つだけ、3カ国で話し合わなければならない件ができた。
シモーヌは、気がかりな情報を持っていたのだ。
まだクアドロとソフィアは知らない情報だった。
ガザンは、聖動物を操り3カ国を傘下に入れる気だと。
拒否すれば、開戦のつもりでいるらしい。
クアドロは、聞いている内容があまりにも滑稽で
目をパチクリさせた。
「1国で3カ国相手に戦争ですか?」
「ええ」
シモーヌは、おっとりと答えた。
「では今回の聖動物の生態調査は、
脅すために我らを呼ぶのですね?」
「ええ」
「ガザン国王陛下は、ご存知なのですか?」
「いいえ、ご存知ではないと思います。
表向きの理由を信じていらっしゃるのでしょう。
臣下に廃嫡の動きがあり、まだそれを止めていらっしゃるのです」
「廃嫡とは……。穏やかではありませんね……」
「聖動物を、おとりにするのです。国内ではさぞ、ざわめいているでしょう」
「シモーヌ妃、貴方はどう思いますか?」
「正直なところ、我が国としては関わりたくなかったのです」
シモーヌは、にこやかに本領を発揮してきた。
「子を想う親として、ガザン国王陛下の気持ちは痛いほどよく分かります。
彼は第一王子も大切に思っているのです。でも、やり方がいけません。
それであれば、もっと早くに彼の様子に気がつくべきでした。
幸いなのは今の王妃が賢明であることでしょう。
自分の目で、彼が何をしようとしているのか確かめれば
自ずと決心なさるでしょう」
「何とか彼に立ち直る機会を与える方法があると?」
シモーヌは微笑んだ。
「私の子であれば、いくつか方法を思いつきます。
でも、それを受け取るには本人にも資質が必要です。
そこを見極めなくてはいけないでしょう」
クアドロは静かに考えていた。自分の持っている情報が正しければ、
彼にその資質があるとは思えなかった。が、実際に
この目で見ないと、その判断が正しいかどうか分からない。
「やはりガザンに行く必要がありますね」
「ええ、残念ながら」
シモーヌは微笑みを絶やさなかった。
結局、3カ国で合同訓練、合同会議をすることになり、
翌朝、ソフィア達が到着した時には、クアドロが全て
お膳立てを整えていた。
ソフィアは、クアドロに笑った。
「クアドロ殿、これはまた見事な速さで」
クアドロは涼しい顔で答えた。
「ソフィア殿、貴方が教えてくださったのですよ?
仕事を早く終えないと、蜜月は過ごせないと」
そこにシモーヌが加わった。
「御二方とも、本当に幸せそうで何よりですわ。
ジョシュア殿は存じておりますけど、クアドロ殿下の運命の君は
まだ存じておりません。機会があれば、ご挨拶させてくださいね」
「シモーヌ妃は先輩であらせられるからな。
私も後学のために色々伺ってみたい」
ソフィアは、会うたびに母親らしく美しくなるシモーヌを
幼い頃から尊敬していた。
彼女は、決して柔らかさを失わない。
幼いソフィアは、1度聞いたことがあるのだ。
どうやったら、いつも穏やかでいられるのですか?
何歳かしか違わないのに、貴方のようにしたくともできない……と。
少しお姉さんだったシモーヌは微笑んで教えてくれたのだ。
声を荒げたくなる時は、自分が未熟だからなの。
でもソフィア様は、ソフィア様らしくいることが大切だと思うわ。
ソフィアは、思いがけず母と同じように自分らしくと言ってくれる人に
初めて会ったのだった。
こうして久方ぶりの3者の対面は、喜びに溢れていたのだった。




