第70話 『イエロー』の恋愛講座
この作品で語られる恋愛論は、あくまでキャラクターたちの考え方です。恋愛や人との付き合い方に正解はありません。「こういう考え方もあるんだな」くらいの気持ちで、物語を楽しんでいただけると嬉しいです。
「――それで…」
「ドゥしたの~?マイブラザ~?」
(――相変わらず…チャラいし、明るい…)
「――えっとね…相談があって…」
彼女と付き合う方法を相談するためにイエロー兄さんに連絡して……。
人気のない店…しかも個室で二人きり…。
これで兄さんとの話は聞こえない…。
兄さん、声が大きいからな~…。
「ワオ!ブラザーが相談とは珍しいじゃな~い!」
(やっぱり、この人苦手だ…)
兄さんの人柄自体は問題ないんだけど…。
「それで~何の相談かな~?」
兄さん――
橙並みに明るいし…
あと、この喋り方のせいで、相談したことを後悔しそう…。
「え~と…――」
考えたけど…兄さん以外に女性付き合いに適切な人はいないから話すことにした。
「――中々に~……」
「ベリ~~~…ハァ~~~~……ドゥ!!」
話した結果、こう言われた。
まぁ…僕に彼女が三人できたっていったら、こう言われるか…。
「三人もなんて、中々にお盛んになったね!ブラック!」
「いや…別に僕が望んだわけじゃないんだけど…」
脅されて、強制的にだったしね…。
「まあ、でも…付き合うって決めたから…兄さんに相談に乗ってもらおうと…」
「オーーケーーイ!」
僕が言い終わる前に、兄さんは了承してくれた。
「女の子との付き合い方なら任せとけーい!」
元気よくそう言っている兄さんは、少し頼もしく見えた。
「では!…マイブラザーブラァーック!」
兄さんは伊達メガネをかけて、どこから出したのかホワイトボードまで出てきた。
「準備はOK!?」
「はい。大丈夫です」
ハイテンションについて行くのは大変だけど――。
こうしてイエロー兄さんによる『女の子と付き合い方講座』が始まった。
「ナンパ師の俺は何人もの女性と付き合ってきた!」
それは知ってる。だから頼んだ。
「ナンパに成功して、付き合うまでも四苦八苦した――」
それ…何回も見たことがあったな。
最初は、真正面から断られ、がっくりすることもあり、ひどい時は平手打ちにされ――
そういったことを経験したせいか、今では九割近くの確率で一発成功も…失敗しても連絡先も交換するくらいに成長した。
「しか~し、本番は付き合った後だ!付き合った後こそ男としての「価値」が問われる!」
おお…なんという説得力。
「まずは――これだ!」
ダン!!
兄さんはホワイトボードを叩き――
『相手の情報収集!』
――…とホワイトボードに書いている。
「当たり前のことだが、「女性と付き合う」のは「赤の他人と付き合う」ということだ」
(確かに…)
「ナンパする段階でもそうだが、他人にアプローチをかける為には、相手の興味のあるもの、好きな食べ物、趣味などの情報を知ることが重要だ!」
兄さんの言う通り――
相手の興味ある事、好きな事を知ることは、アプローチや交渉に有利になる。
「付き合ったら、相手の新情報が更新されることもある。しっかり覚えて、プレゼントやデートなんかに役立てろ!」
さすが兄さん…経験からくるから説得力がちがう。
「ただしやり過ぎるとストーカーになるからほどほどにな!」
うん…これは……兄さんがやっていないことを祈ろう…。
「次にこれだ!」
次に書かれていたのは――
『相手をよく観察する!』
「相手をよく見ているつもりでも気づかないことは結構多い。」
兄さんは、そう言っているけど…
「観察には自信あるんだけど…」
隠密なんかで、ターゲットを観察することが多いから、それなりに自信は――
「甘~~~い!!」
「!?」
兄さんは、顔面ドアップでこちらにそう言った。
「パンケーキにはちみつや、生クリーム、砂糖を直に入れたくらいあま~い!!」
そんなに?
「お前のは、暗殺するための『観察』が多いだろ!それでわかるのは、相手の癖や行動くらいだよ!」
いや…他にもわかるんだけど…
「付き合うってことは、相手と真正面に立ったり、隣に立ったりすることが多い!離れたり隠れたりすることはほぼできない!」
(ああ…そう言われると)
基本、僕の仕事…遠くからすることが多い。人と近くで過ごすなんて…特に異性は姉さん以外にいないや…。
「それに女性というのはな…‘‘察して‘‘欲しいんだよ」
「‘‘察して‘‘?」
「俺たち「男」と言う生き物は、直接相手に言って理解することが多いが…「女」と言う生き物は言うより‘‘察して‘‘欲しいんだ」
「これは脳の構造が違うからと言われて…男は「目的」や「結論」を求めて、女は「共感」を重視しているからと言われている――」
いきなり、理論的になった兄さんを見て驚く。
「――だから、察するためには観察し、予測をして、察することをしろ」
だが同時に兄さんを尊敬する。
内容はともかく…ここまで論理的なことを話せるとは…。
「『観察』を磨くならホストで修行もありだぜ?マイブラザー?」
「――ごめん、それは良いわ」
兄さんのホスト修行の誘いに断った。
さすがに女性や他の人に囲まれては…ちょっと…無理。
「お~さすがにダメか~ざんね~ん」
兄さんもガッカリしている…。
「いや…さすがに僕の顔じゃ…無理じゃない?」
人間の美醜のどれくらいかはわからないし、性格的な問題でも…無理かなー。
「チッチッ…ブラザーそれは違うぜ…」
「?」
「確かに顔が良い方が客は取れるし、人気も取りやすい」
「だけど、ホストには色々いるんだ。顔で客を取るやつ、トークで、お客のニーズで…いろんな武器を使うことで…ホストになれる」
たぶん、この知識は実際に兄さん自身でやったんだろうな…。
「そして……」
「最後はこれだ!」
これで最後か…意外と数は少ない。もう少し多くあるかと思ったけど…。
ホワイトボードには――
『相手との距離感が大事!!』
「距離感?」
「イエス!」
距離感…今までは僕なりに普通にやっていたつもりだったが…
恋人になったら、何か変わるのだろうか?
「問題だ!ブラザー!」
「!?」
兄が急に問題を出してきた。
①イチャイチャして距離がいつも近い距離感の熱々カップル
②サバサバして友人のような距離感で付き合っているカップル
「さあ!ブラザーどちらが長続きするかな!?」
「……」
どちらが長続きするかの問題…熱々のカップルの方が、仲が良くて長続きする感じに見えるけど…
(僕だったら…)
そうして僕が考えて出した答えは――
「――②…かな」
「ワァ~ツ?どうしてその答えに?」
兄さんに答えの理由を聞かれ――
「僕だったらあんまり距離が近いのは…ちょっと…」
自分の視点で考えた結果、②の距離感が僕にとっては良いと感じた。
「な~るほど」
兄さんは、僕の理由に納得したようだ。
「では、答えは~~」
兄さんがポーズを取り、溜める。
「~~~~~せいか~い!!」
正解だった。
「……」
「もうすこ~し喜べYO!」
いや…そんなこと言われても…
「まあいいや!」
いいのかよ…。
「何で②が正解なのか、それはお前が行った通りだ」
「え?」
「最初にも言ったが、恋人は「赤の他人同士」が付き合っている状態の事だ」
「うん」
確かに言ってた。
「怪人もそうだけど人間は一人一人違う。だからちょうど良い距離感も違ってくるし、」
それはわかる。
「熱々で距離が近い方は距離が近い分、知ってほしくないところ、関わってほしくないところまで足を踏み入れてしまう。」
(ああ…それは僕にもある)
僕は距離が近い人は苦手だから…。
「それに熱がある分、付き合ったあと冷めやすいことが多い…」
ああ…なんとなくわかる。
「だが、友人感覚で付き合ってる人は、近づきすぎず遠すぎずだから、熱もちょうど良いから長続きするぞ!」
「そうなんだ」
兄さんの説明で、『距離感が大事』と言うことはわかった。
オカルト部のみんなとも今のままで良いのかと言うことも知れた。
「とりあえず…この三つが重要なことだ」
まとめると――
①『相手の情報収集!』
→相手のことを良く知って、いい関係に。
②『相手を観察する!』
→相手のことを察せるようになって、相手との距離を縮める。
③『距離感が大事!』
→ちょうど良い距離感で長い付き合いを!
(――大体こんな感じか)
「とりあえず、ミーが教えられるのはこんなところだ」
兄さんに頼んでよかったと、僕は思った。ここまで詳しいことは、ウルフマンさんではわからなかっただろう。
「――兄さんが情報収集のエキスパートってのは、本当なんだね…」
僕がやっている情報収集は「陰陽」で言うところの「陰」…影から情報を得るもの。
兄さんのは「陽」…光が当たるところで情報収集することが主だ。
その中でも兄さんは凄腕に当たる。
「信じてなかったのか~?ブラザ~?さすがにひどいYO!」
――こんなんだけど…
「いい加減、姉さんのところに帰ったら?」
情報収集と言って、姉さんから逃げてるんだよな…この人…。
「ははっ!ブラザー!兄は忙しいとビッグシスターに言っといてくれ!」
…これだよ。
「そもそも『ホスト』の語源は知ってるか?」
なんか別の話をし始めたよ。
「…知らない」
「ラテン語で『客をもてなす主人』だ」
兄さんはニカッと笑う。
兄さんの言いたいことは――
「自分」が「主人」だ。と言うことなんだと思う。
つまり、姉さんから逃げるって意味らしい。
「とりあえずミ―の教えたことと、試行錯誤しながら…ゴーフォーイッツ!」
――「がんばれ」って意味らしい。
「――わかった…」
「グッバーイ!!」
そう言って兄さんと別れる。
ヒントは得られたし、兄さんとはなせたから…よかった。
そんな満足感を得て僕は帰るのであった。




