第4話 詰問
俺は、【作戦:協力者の確保】を開始し、桜に友人を紹介してもらった。
その一人、清水りんに「信用していない」と言われた。
「……今日会ったばかりなのに、いきなりだな」
「ええ。さっきも言ったけど、あなたのことは信用していないわ」
完全に詰問状態だ。
だが、確かに俺の見た目は強面の不良だ。
警戒されるのは仕方ない。
(こんな見た目では、なおさらだ)
(しかもここで踏み間違えれば、任務にも支障が出る)
「転校したばかりなのに、どうして桜と距離が近いわけ?」
(友人を心配してか……)
「転校初日に、向こうから話しかけに来ただけだ」
「俺から近づいたわけじゃない」
とりあえず、嘘は悪手だな。
「…そう。でも私は、あなたが桜を利用しただけに思えるんだけど?」
(鋭いな……清水りん)
「俺はただ……この見た目のせいで友人が作り辛いんだよ」
差し障りのない答えで対応しよう。
「だから、桜に頼んだ」
「ふーん。そうだとしてもあなた……」
「ん?」
「本当に中学生?」
(何か感づかれた?)
「どういうことだ?」
「普通の人とは何か……空気が違うのよ。妙に落ち着いてるし」
「……随分警戒されてるな」
(本当に鋭い。観察力も異常に高い)
このままじゃ、ぼろが出るかもしれない。
(さて、どうしたものか)
「お二人ともー」
その時、邑楽めぐみが口を開いた。
「少し落ち着きましょう」
「でも、めぐみ!」
「りんさんの言い分も分かりますけどー。」
めぐみは穏やかな口調で続ける。
「今のところ、桜さんに悪意があるわけでも、危害を加えてもいません」
(まだ、敵ではないしな)
それに――紹介してもらった‘‘借り‘‘はある。
「ですから、私は‘‘安全‘‘と判断しました」
「……確かにそうだけど」
「りんさんの納得しない気持ちも分かります。ですが……」
穏やかだが強い口調。
その目は鋭くなり、りんを静かに黙らせる。
「彼を否定することは、紹介した桜さんを否定することですよ?」
「……っ!」
りんは何も言えず、弁当を片付け、扉へ向かった。
「桜はね……」
背を向けながら、静かに言う。
「桜は、優しい子なの……」
その言葉には、静かだが力強い重さがあった。
「そのうえ、お人好しだから、大抵の人間は信用しちゃうの……」
俺は黙って聞いた。
りんにとって、桜がどれだけ大事な存在かが分かる。
その言葉を遮る言葉を、俺は持ち合わせていない。
「だから…私が見て、助けてあげなきゃいけないの!」
そう言い放ち、扉を開けて去っていった。
りんが去ったあと、めぐみと二人になった。
敵に助けられたのは少し思うところがあるが――助かったのは事実。
「……なんで助けたんだ?」
「なんでと言われましても、先ほども言った通り……」
鋭い目つきは消え、再び観察するような目でこちらを見る。
「あなたがまだ‘‘安全‘‘だからですよー」
(さっきも思ったが……)
(こいつは絶対に怒らせないほうが良い)
そして、俺の屋上での昼食は終わった。
~りんサイド~
屋上を去り、廊下を歩く。
しかし、顔と足取りには苛立ちが隠せていない。
(……何よ!めぐみ!)
友人に言われたことが納得できない。
王守大牙は‘‘異質‘‘だ。
直接会って、それがはっきり分かった。
確かに遠目で見たときは、ただの不良にしか見えなかった。
だが、今日直接会って――
まるで、獣と対峙しているかのような感覚があった。
(あいつは危険……!桜が危ない!)
りんの頭の中には、どうやったら桜を守るかでいっぱいだった。
「あれ?りんちゃん?」
後ろから桜に声がかかる。
「……桜」
「ご飯、もう食べたの?」
「ええ」
悟られないように、平然を装う。
「……ねえ。桜」
「どうしたの?」
「放課後。時間ある?」
「大丈夫だけど……どうしたの?」
「いいえ……何もないわ」
「そう……」
「じゃあ、放課後に校舎裏に来てくれる?」
「分かった…」
(守るために、私は私のできることをする)
~大牙サイド~
教室に戻り、席に座る。
「大牙くん……」
隣から桜が現れた。
ただ、いつもより元気がない。
「どうした?」
「屋上で何かあった?」
(さて、どう言ったもんか)
「部活の用事が終わって、りんちゃんに会ったんだ……」
(ああ…なるほど)
何か感じ取ったわけか。
「りんちゃん、何も言わないけど、隠してるって分かるんだ。」
(こいつ、天然に見えてよく見てるんだよな)
隠す必要もない。
俺は屋上であったことを話した。
「そんなことが……」
桜の表情は暗くなる。
このままやれば、仲違いも可能だが――
それは相手が‘‘魔法少女‘‘であった場合だ。
今のところ、確定ではない。
協力者を得たい俺にとって、三人の仲違いは都合が悪い。
「まあ、俺は気にしてない。こんな見た目だしな」
そう言った瞬間。
「良くないよ!!」
「っ……!?」
怒りの声に、俺は思わずたじろいた。
(……桜が、怒った?)
まだ数日しか会ってない俺のために、ここまで感情を露わにするとは。
いや、桜は出会った時から、一度も俺を疑ってない。
「大牙くんが誤解されたままなんて!」
「何でそこまでしてくれるんだ?」
桜は胸を張り、笑顔でこう言った。
「言ったでしょ!私は直観を信じるって!」
堂々と言われ、気圧される。
(まさか、ここまでとはな)
「それに、あなたは私を助けてくれた!」
昨日助けたことが、ここまでの信頼に繋がってるらしい。
「一応言っとくが、清水はお前のために言ったんだからな」
「どうして?」
「俺が清水だったら、俺みたいなやつ信用しない」
(こんな強面男、不良以外の何に見えるんだよ)
普通の人間なら、不良を見たら近づかない。
なのに桜は――。
「大牙くんは良い人だよ!」
迷いなく言い切る。
自分の考えに真っすぐだ。
(ここまで芯が強いとは……厄介だ)
「……とりあえず、清水のことは責めるな。」
「……うん」
納得はしきれてはいないが、頷いた。
「じゃあ。あとは清水と話してく…」
「大牙くんも行こう!」
「……はっ?」
――なぜか俺も行くことになった。
~放課後の校舎裏~
いつもより空気が張り詰めている。
屋上でのやり取りの余韻がまだ残っていた。
「…何であんたがここにいるの?」
桜に押し負けてしまい、ここまで来てしまった。
清水の顔は、俺を睨みつける。
(まぁ。そうなるよな)
そんな考えを巡らしていると、桜が口を開く。
「りんちゃん…」
「桜……」
桜とりんは、お互い目を合わせた。
二人の間に、静かな緊張感が流れる。
「りんちゃんが私のことを心配して、言ってくれたのは分かってるよ…」
「桜……」
桜は、りんに笑顔で話しかける。
変わらない、笑顔のはずだが、その笑顔には悲しさがあった。
「私がお人好しってこと分かってるよ…」
(桜。それはお前が思ってる以上だ…)
そんな考えが浮かんだが、余計なことを言う無粋な真似はしない。
「そのせいでりんちゃんに心配かけさせてばかりで…」
「……違う」
清水が口を開く。
「それは、私が勝手に決めたこと……」
清水は思い出すかのように口を動かす。
「あなたを守るって決めた……」
(私はあなたを守る!)
「桜、聞いて!そいつは普通じゃない!」
清水は俺から感じ取ったことを話す。
「確かに人間の姿をしているけど、纏う空気はまるで獣よ!」
「りんちゃん――」
(本当に観察力と勘が異常にいいな)
俺は心の中でまずいと感じている。
(このままでは…)
俺は最悪の状況を考える。
「それは違うよ!」
「……っ!?」
清水の言い分を否定した。
「確かに――」
桜は決心したかのように口を開く。
「大牙くんは無口で怖い顔をしてる」
(…おい)
庇うんじゃないのかよ。
「でも…大牙くんのお花を見る目はとても優しいの」
桜は、昨日の俺を話す。
「それに、階段から落ちそうな私を助けてくれた」
「桜…」
「今。りんちゃんに大牙くんを信じてって言わないよ」
桜は、清水に訴えるように言う。
「だから、これからの大牙くんを見ていて」
そんな決意が籠った言葉を桜は放つ。
清水の顔は呆れたような安心したような顔をした。
「…王守大牙」
俺は清水の方を見る。
清水はしばらくの沈黙のあと、息を吐いた。
「今回は桜に免じて、見逃すわ……けど」
「りんちゃん」
どうやら折れてはくれたらしい。
「私はあんたを監視てるわよ」
確かな決意と強い意志がその目にはあった。
(監視、か……)
そして、清水はその場を後にする。
(清水りん。最も厄介なタイプだ)
こうして、俺は校舎裏での件は終わった。
「今日はありがとな…」
俺は桜に礼を言う。敵に礼を言うなんておかしいだろうが――
今回は言っておいたほうが良いだろう。
「大牙くん!」
「ん?」
「私はね。あなたを信じてる」
そう言われ、俺は何回目か分からない驚きを受けた。
(怪人にそれいうか?)
俺は軽く手を振り、その場を後にする。
「…おい」
俺は隠れていた。邑楽めぐみに言った。
「あらーばれてましたの?」
(白々しい…)
邑楽めぐみも勘が良い。普段のほほんとしているが、その正体は切れ者だな。
「一応、言っときますけどー」
「別に盗み聞きをした訳じゃありませんー」
そう言うめぐみは悪戯が成功した子供の様な顔をしていた。
「あの二人ならこうなると思ったからここに来たんですよー」
(もしもの時は仲裁に来たってところか……)
付き合いが長いってのもあるだろうが、こいつは――
(油断ならない)
そう俺が再確認するとめぐみは。
「とりあえず、私もりんちゃんと同じくあなたを観察ています」
そう言って去っていった。
(作戦失敗か…)
協力者を得るどころか、厄介な存在を作ってしまった。
三人にも目を付けられる形になった。
(今日はどっと疲れたな……)
張り詰めた空気がようやく緩んだ。
とりあえず、桜との仲と、清水とめぐみの関係性、危険性が分かっただけ良しとし、俺は拠点に帰るのだった。




