第3話 邂逅(知らない)
~拠点にて~
エル・ロコから用意されたアパート。
その部屋にある地下室に、俺はいた。
魔法少女に関する調査資料とパソコンが並ぶ空間。
俺はさらに奥の部屋へと足を進める。
そして、大型モニターのスイッチを押す。
ブォン――
画面の目の前に現れたのは、仮面の男。デスピエロだ。
「どうですか。学園初日は?」
「警戒しすぎて楽しめはしなかったよ…」
事前に聞いていた通り、こいつが定期報告の担当者である。
フールキングからの配慮らしい。
仮面越しでも、笑っていることだけはわかる。
軽く世間話を交わした後、本題へと入る。
「そうですか。さて……」
「ああ」
互いに視線を合わせ、定期報告を開始する。
「今のところ、候補が多すぎて絞り込めん……」
「まぁ、仕方ありませんね。彼女たちの情報は皆無です。地道にやるしかないですよ」
「……わかっている。だが、できるだけ早く正体を見つけたい」
「あなたのその真面目なところは好ましいですが、もう少し柔軟に行きましょう」
仮面の奥で、また笑っている気配。
「今は、霧の中にいる状態ですかね」
「ああ……そうだな」
ふと、ある少女の顔が脳裏に浮かぶ。
「……一人、妙な生徒がいた」
「ほぉ。それは?」
「花園 桜という少女だ」
デスピエロはわずかに考え込む。
「候補の一人、というわけですか。あなたの見立てでは?」
今日一日の出来事を思い返す。
「…戦う性格とは言えない」
「ほう?」
「優しすぎる」
(……少なくとも、俺の知る限りは)
「なるほど。しかし――」
「どうした?」
「そういった相手ほど、大切なもののために己を差し出すものですよ」
その言葉に、わずかに沈黙する。
「……深読みのし過ぎだ」
そう返答した。
だが、その言葉が的を射ていると知るのは――まだ、ずっと先の話だ。
「そうかもしれませんね」
「それに、運動神経が良いとも思えない」
「庇いますねー」
「違う」
軽口を交えながら、報告は続く。
そして、一通りの報告を終えた俺は、風呂に入り、食事を済ませ、静かに就寝した。
~早朝~
学ランに着替え、学園に向かう。
校門の前まで差し掛かった時、聞き覚えのある明るい声が飛んできた。
「おはようー!大牙くん!」
「……おはよう。桜」
満面の笑みを向けられ、一拍おいてから挨拶を返す。
「……早いな」
「うん!昨日植えた花壇の様子が気になっちゃって!」
他愛のない雑談。
だが――任務は別だ。
「……桜」
「ん?」
昨晩、デスピエロと話した計画を実行する。
「お前の友人を紹介してくれ」
――作戦:協力者の確保。
「いいよ!」
即答だった。
「そんな簡単に決めて良いのか?」
「大丈夫!大牙くんだし!」
(この人の好さに感謝すべきか……呆れるべきか)
「昼休みの屋上で良い?」
「ああ。構わない」
「じゃあ、昼休みにねー!」
そう言って学園に向かう桜を見送る。
最後に彼女は振り返って言った。
「お弁当忘れないでねー!」
(……こいつの友人たちも、似たような性格かもしれんな)
こうして、計画の第一段階は動き出した。
(……思った以上に順調すぎるが)
――そして俺は、知らずに敵のど真ん中へ足を踏み入れる。
~昼休み~
言われた通り、屋上へ向かう。
そこには、桜と二人の少女がいた。
青い長髪で鋭い眼をした少女。
そして、縦ロールで穏やかな雰囲気の少女。
「大牙くん!待ってたよー!」
いつも通りの笑顔で迎える桜。
「……そっちの二人が」
「うん!私の大事な友達!」
「初めまして。清水りん(しみず りん)です」
青髪の少女――清水りん。
その視線は、明確に警戒の色を帯びていた。
「初めましてー。私は邑楽めぐみ(おうら めぐみ)と申します」
もう一人の少女は、こちらを値踏みするように、楽しそうに観察している。
「王守大牙だ。よろしく」
簡潔に名乗り、四人で昼食を取ることになった。
俺が用意したのは購買のパン。
チキンと卵を挟んだ、たんぱく質重視のものだ。
「そういうの食べるんだ」
桜が興味深そうに覗き込む。
「たんぱく質が取れるからな」
「身体鍛えてるの?」
「まぁ……それなりに」
そんな会話から昼食が始まる。
「桜の弁当は手作りか?」
「うん!弟や妹の分も作ってるんだ!」
定番の家庭的な弁当。
ハンバーグにたこさんウインナー。
いかにも彼女らしい。
「偉いですわよねー。自分で作るなんて尊敬しますわ」
邑楽の弁当箱は高級感のある重箱だった。
「えっと…邑楽さん?」
「あらー。私のこともめぐみで良いですわよ?」
「じゃあ。めぐみ…その弁当は?」
「あらー。びっくりしましたー?」
「うちのシェフが作ってくれたものですよー」
「シェフ……」
(なるほど。本物のお嬢様か)
「三人は付き合いが長いのか?」
「うん!小学生の頃からずっと一緒!」
「本当に長いですわねー」
「…そうね」
(情報収集の好機だ)
ここで初めて、清水が口を開く。
俺は清水の弁当に視線を向ける。
和食中心の、堅実な内容だった。
「……なによ?」
「いや、弁当が気になっただけだ」
「言っておくけど、私の弁当は桜と同じで手作りよ」
「そうか」
(やはり、警戒されているな)
無理もない。
強面の転校生など、警戒して当然だ。
「あっ!」
突然、桜が声を上げる。
「どうしたのよ。桜?」
「どうしましたかー?」
清水とめぐみが桜に聞く。
「ごめん!私、部活の用事があったんだった!」
慌てて弁当を片付け始める。
「りんちゃん!めぐみちゃん!大牙くん!三人はゆっくり食べてて!」
そう言い残し、桜は急ぎ足で屋上を後にした。
「桜!転ばないでよ!」
「お気を付けてー」
「…」
そして――屋上には三人だけが残った。
屋上の空気は、一気に静まり返った。
さっきまでの穏やかさが、嘘みたいに消えている。
(花園がいないだけで、空気が一気に変わった…やはり、警戒されてるな)
桜がいたから会話が成立していた。
この状況で情報収集を続けるのは難しい。
(さっさと食べて戻るか…)
「王守大牙くん」
清水りんが、静かに俺の名を呼んだ。
その視線は鋭い。
「私」
一拍の沈黙。
「あなたのこと、信用していません」
断言だった。
感情ではなく、冷静な警戒。
(……来たか)
昼の穏やかな空気は完全に消え去っていた。




