第21話 一方、大牙は――
昼休み――
その頃、大牙は現実逃避をしていた。
「……」
何度かりんに話しかけようとしてもダッシュで逃げられてしまう。
それが何度も繰り返されたせいで――
ショックでその場で固まっている。
(…りんとのデートは、いい感じだったはずだ)
(その……はずだ――)
りんとは、それなり信頼関係は築けていると思っていた。
(まあ…アレされて築けていないなら――)
(さすがに…泣く)
キスされた動揺が、まだ残っていたのか――
少しだけ冷静な判断ができない大牙。
そこに――
「た~~~い~~~が~~~く~~~ん」
「!?」
机の下から眼鏡をかけた男子生徒が恨めしそうな目で現れる。
(…ん?こいつは確か…)
大牙は、彼に見覚えがあった。
「…あ!お前はファンクラブの!」
そう、大牙が桜・りん・めぐみの三人とデートするという噂を聞き、大牙の前に現れたファンクラブの代表生徒の一人である。
「えーと…そうだ!りんのファンクラブの!」
「…ああ、そうだよ…りんさんのファンクラブ会長――!!」
「――須藤 海斗だ!!!」
そう、名乗った。
須藤海斗、その目には恨めしさと悔しさ、そして怒りが写っている。
――実際、涙を流している。
「う…うぅ~~~~」
なんとなく理由はわかるが――
「……お帰り下さい」
面倒くさいので、お帰り願おう。
「いや…そうはいかない!!」
(…やっぱりか)
想定した通りのことで、さらに面倒になっている大牙。
「君は…君は…うぅ~~~~~!!」
嫌な予感が的中したと、目の前の須藤の号泣でわかった。
「……さっさと言ってくれないか?」
号泣しっぱなしで話が進まない。
「~~~き…君は…」
(もう、覚悟を決めて聞こう…)
「…今週の休日に、りんさんと水族館でデートしたよね……?」
予想通り過ぎて、さらに嫌になる。
「――ああ、したぞ」
バッサリとはっきりとそう言った。
(こういうのは…経験上、一刀両断するのが良い)
「や…やっぱり…~~~~~!!」
穴と言う穴から水分を出すかという勢いで、涙や鼻水を流し出す須藤。
「……」
大河は黙って、その痛々しい姿を見ている。
中途半端な優しさは、相手のためにならない。
それは、目の前の「敗北」した男にとっても――。
「――りんさんが決めたことだし、恨むのはお門違いとわかってる……」
泣きながらも、そう言葉を続ける須藤。
「~~けど!!」
須藤は、俺の胸ぐらを掴み、今も泣き続けている顔に近づける。
「どうした?…何か言ってみろ」
「!?」
俺は、須藤の話を聞く。
それが――
「同じ女」に惚れた男の役目だと思う。
「……僕は――」
やっと口を開いた須藤は、悲痛な声で――
「――…あの人が好きだったよ」
――そう言った。
「あの人の凛とした姿や…笑顔が…好きだった」
「……そうか」
「僕のことを…助けてくれたこともあった!」
(あいつらしい…)
そう…りんらしい…惚れさせ方だ。
「僕のことは…同級生の一人としか見ていないだろうけど…」
「それでも彼女が笑顔でいられるようにファンクラブを作った」
須藤なりのりんへの愛し方、守り方なのはわかる。
「それを使って彼女の情報を集めたり…」
「うん」
情報は大事だ。
「彼女を困らせるものを密かにはい…交渉したり――」
(今…排除って言おうとしたな)
「もしものために彼女の家や私物なんかを――」
うん、コレは――
「――おい…」
ガシッ――
「あぁぁーーーーーー!?」
アウト!!!
俺は、須藤の顔面を掴み――アイアンクローの状態にする。
「痛い痛い痛い痛い!!なんでーーー!?」
「なんでじゃねえよ!さすがにアウトだ!バカ野郎!!」
コイツのために聞いていたが――
よくよく考えてみたら、ストーカーのやり口だ!
数十分後――
「二度とやるなよ!?」
「はい…」
「「「もう、しません…」」」
とりあえず、説教をして、二度とやるなと約束させた。
もちろん、ファンクラブの奴らにもだ。
(…同じ好きでも拗れるとこうなるのか)
さすがに、惚れたやつが一緒でもストーカー行為はダメだ。
だが――
見守ることだけは許してやった。
さすがに全部ダメと言うと何をするかわからない。
ファンクラブというやつも利用できるかもしれないしな――。
ストーカーたちを撃退(説教)した後――
放課後に俺は気分転換に屋上に行くために階段を上っている。
「あー…疲れた」
(ファンクラブの連中……あんなのなのか?)
そう考えると、桜とめぐみのもあんな奴らばかりなのか?
(……とりあえず、それは裏取れたらやろう)
そんなことを考えながら、階段を上って、扉の前まで行き――
扉を開けると――
「――…ん?」
目の前には――
「!!」
「!?」
――りんがいた。
「り…りん」
「大牙…」
お互いに目が合い、気まずいせいか黙ってしまう。
「「…あ」」
口を開こうとしたが、同時になってしまう。
「……」
「……」
また、気まずくなる。
「――…ねえ、大牙…」
「!」
りんが先に口を開く。
「どうした?」
「……あの時の」
(あの時?)
「水族館の……」
「!!」
(アレか!!)
頬にキスした時のことを思い出し、俺は少し赤くなる。
「…アレ…嫌じゃ……なかった?」
「!!?」
(え、これ…どういうべきなんだ?)
あの時のことが嫌じゃなかったと聞かれ――
どう言うべきか困惑してしまう。
(…ええい!素直な感想を言おう!)
考えた結果、素直に言うことを選択した。
「……驚きはしたが…嫌じゃなかった」
「!!」
りんの顔が真っ赤になる。
――だが、その表情は嬉しそうだ。
「なあ…りん?」
「…何?」
「アレはいったい、どういう意味で…?」
「!!?」
今度は俺が「アレ(キス)」について聞こうとする…と――
ヒュ――
「…え?」
りんは、一瞬にして消えた。
「ええ!?りん、どこ…!?」
タタタタタタ――
「…ん?」
後ろの扉の方から音が聞こえる。
そこには、全速力で走っているりんの姿が――
「ええーーー!?いつの間に!!」
そのまま勢いよく階段を降りるりん。
「ちょっ!?りんーー!!」
俺の叫びも無視して走り去る。
――そのまま下校したそうだ。




