第18話 りんとのデート
来てしまった――りんとのデートに
雲は一つもなく、青空が広がる。
「――快晴だな」
その青を見ていると、りんを思う。
約束の時間、一時間前に水族館に来た。
デートってことで緊張してるってのもあるが――
場所間違えないよう早めに来た。
俺は人を待たせるのは嫌いだ。
今回は、相手がりんだ。あまり不興は買いたくない。
それに――
『楽しみにしてる』
そう言われて、何もしなかったら――男が廃る。
りんが来るまで、俺は空を見ながら待つ。
~りんサイド~
とうとう今日が来てしまった!
空は快晴!雲一つなし!
心臓の音が激しく脈打つ。
「この服でいいかしら?いやでもこっちも――」
どの服を選ぶか迷ってる。
「りんちゃん?どうしたの?」
「お婆ちゃん!?」
そんな時、りんの祖母「幸恵」である。
「どうしたの?こんなに服を散らかして?」
「いや!その!――」
デートの服選びをしていたら、ここまで散らかっていた。
「――あ~なるほど!そういうことね!」
幸恵は、すぐに何をしているか分かったらしく――
「私ならそうね――」
「お婆ちゃん!?なにをして――」
孫と一緒に服選びをしようとする幸恵は――
「孫の初デート、応援したいじゃない」
「――っ!」
(バレてる!)
「お相手はあの子?」
相手のこともどうやら祖母にはわかっているらしく――
りんは観念して――
「…はい」
そんな孫を見て、可愛いと思う幸恵であった。
「りん――」
「…はい」
りんは祖母の言葉に耳を向ける。
「あなたは私の可愛い孫よ」
「!」
「だから――自信を持ちなさい」
そう言われ、先ほどの焦りもなくなり、冷静になった。
「ありがとう――お婆ちゃん!」
りんは祖母の言葉を胸に水族館へ行くのであった。
~水族館~
「――早いわね?」
空を見ていたら、いつの間にか、りんが来ていた。
「遅れても悪いからな」
「…そう」
見た感じ、いつものりんだ。
しかし、服装は清楚な感じにおしゃれをしてきている。
おしゃれをしてきているりんに――
「――似合ってるぞ」
と正直にその言葉を送った。
「…ありがとう」
照れてはいるが、素直に受け取ったらしい。
「それじゃあ、行きましょう」
「ああ」
俺たちは水族館に入っていく。
進んでいくと周りが暗くなり、水槽が見える。
大きな大きな水槽、そこには――
魚たちが泳いでいる。まるで動いている絵を見ている気分だった。
「――すごいな」
俺は、自然とその言葉が出てきた。
「そういえば、初めてだったかしら?」
りんが口を開き、聞きにくる。
「ああ」
「見た感想は?」
感想を求めてきて――
「水の中にいる気分だ」
そう答えた。
「…楽しそうね」
「ああ、楽しい」
そう言って、しばらく魚たちを見ている。
「――あまり話すことがないわね」
「別にいいだろ?こうやって――」
(そう、こうやって――)
「お前と一緒に見るのも悪くない」
そんなことを俺は口走っていた。
「――そうね」
その言葉に笑顔になるりん。
(――悪くないな)
(あなたは一緒にいると安心するわ)
二人は同じ気持ちを共有していた。
しばらくして、また歩く。
「次は――」
「水中トンネルよ」
「水中トンネル?」
トンネルは知ってるが、水中にトンネル?
そう歩いていると左右と上が水になっている。
まるで、水の中を散歩している。
途中で潜水している。ダイバーと呼ばれるのがいた。
途中で魚たちと戯れる姿を見る。
「――面白いな」
「そうね」
そんな言葉しか出ないが、同じものを見ていると――
二人で共有できていると感じることができる。
それがなぜか――
((嬉しい))
二人はそう思う。
――静かだが、確かに繋がっている。
――二人の間に、静かな時間が流れる。
――まるで、この瞬間が永遠に続くかのように……。
「――そろそろ行きましょ」
「――おう」
その次も水槽だがさっきのより大きく――
それと比例するように大きな魚も出ている。
「あの魚はなんていうんだ?」
大きな魚は、サメっぽく見えるが牙はない。
何というか安全そうな見た目をしている。
「ジンベエザメよ」
「ジンベエザメ?」
(そう言う名前なのか)
「魚の中では一番大きいのよ?」
「――マジか」
俺は、自分の知らない知識が目の前に広がっていることに驚く。
「――私ね」
「ん?」
「以外にサメって好きなのよね」
「へぇー」
サメが好きか。普通なら変だと思うんだろうな。
「変だと思わない?」
「別に――好きなものは人それぞれだと思うが?」
俺の言葉にりんは笑みを浮かべる。
「――あなたはいつも正直ね」
「そうか?」
現在進行形で嘘ついてるけどな。
「そうよ。サメみたいに嘘がない」
「嘘がない?」
唐突に、りんのサメの話が始まる。
「サメって、生きるのに正直って感じなのよね」
「……正直ねー」
ジンベエザメを見ながら、俺は――
「――あの顔が正直者には見えないけどな」
「ふふ。確かにね。でも――」
笑いながらりんは話を続ける。
「それがジンベエザメの生きるために身に着けた術――」
「術ねえ――」
確かに生き物はそうだな。
「否定はしないけど、ほとんどのサメって狂暴そうでしょ?」
「確かに――」
「そういう、隠してないってところが好きなのよ」
「そうか」
確かに、凶暴さは隠してないな。
「と言っても私の私見だけどね」
(私見か……)
りんのサメの話は続く。
「彼らは痛みを感じないの」
「へえ」
「だから、彼らは痛みを気にせず進み続けるわ」
「そっちの方が良いんだろうな」
「でも、溜まっていくわ」
「ん?」
「痛みが溜まり過ぎれば、いつか限界が来る」
「そうだな」
「そして迎えるのは――」
(――死だよな)
俺もりんもそこだけは言わなかった。
「あんたも――」
「ん?」
「溜め過ぎないでよ。困ったら誰かに相談。わかった?」
りんはどうやら俺がサメにみたいだと言いたいらしい。
(――痛みか)
痛みには慣れちまっているからな――
子供時代の訓練やサバイバル、傷の多い生活だった。
それでも助けてくれた組織のためならば、この身を捧げてもいい。
「――安心しろ。困った時に話す相手くらいはいる」
「――そう。ならいいわ」
「それに今は――お前もいる」
「え?」
その言葉にりんは驚きを見せた。
「あの二人もいるだろ?お前たちがいれば大丈夫だ」
そう一人ではない。
頼れる仲間もいれば盟友もいる。身内も――そして、こいつらも。
りんは、俺の言葉に満足したかのような――
残念のような顔をしながら――笑みを浮かべる。
「それじゃあ。行きましょうか」
「ああ」
りんが行こうした瞬間――
「――あっ!」
「っ――!!!」
躓き、倒れそうになる。
りんの手を掴み、俺の方へ持っていく。
「ふー危なかった…な?」
りんの方を見てみると――俺が抱きしめている形になっていた。
「っ――?!?」
りんの顔は真っ赤になり、俺は慌てて離れようとするが――
ギュ――
りんはどう言う訳か、逆に抱き返しに来ていた。
「――りん?」
「黙ってて…」
そう言われ、俺は何も言わなかった。
抱きしめらてる俺は、りんの体温が伝わった。
そして、俺もどういう訳か、りんを抱きしめていた。
りんの身体は女性らしい細い体だった。
(何してんだろうな。俺)
任務に関係ないデートをして、水族館で抱きしめあう――
(だが――悪くない)
そう思えるほど、りんと抱きしめあうのは悪くなかった。
どれくらい抱きしめいたかはわからないが――
ようやく、りんは俺を放してくれた。
「いきなり悪かったわね」
顔は赤いままで口を開いた。
「いや、気にしてない――」
そう気にしてない、というか。
「――悪くなかった」
そう言った俺の言葉に、りんはさらに赤くなった。
~水族館出口~
そのあとは終始無言のままだった。
「今日は、その――ありがとな」
そう言う俺にりんは――
「――こちらこそ、ありがとう」
あんなことがあったせいで、お互いの顔は熱い。
「じゃあ、ここでお開きに――」
「ちょっと待って」
気まずいからここで別れようとしたが、りんに止められた。
「どうした?」
「耳、貸して――」
俺は耳を貸し、りんに近づく。
りんの吐息が当たり――
そうすると――
りんは、一瞬だけ迷うように目を伏せて――
ちゅ――
りんは、俺の頬に――唇を付けていた。
「っ――!??」
いきなりのことで、俺は固まった。
「――それじゃ!」
りんは、そう言ってその場を去った。
俺は呆然としながら、拠点に帰るのであった。
(報告、どうするかな)
悩みを考えながら――。




