Bパート(後半さっくり)
レインボーローズが1億円という金額の入金があったことに対し、驚いたのは事実だが……それ以上にあの時の発言も気になっていた。
「転売ヤーハンターに、背中を撃たれたくなければ、ね」
シグルドリーヴァの春川マイア、彼の発言だった。
警告という意味合いは、発言のトーンやニュアンスを考えると、その路線は少ない。
しかし、彼女としては……何かが引っかかる。
まるで、忍者構文をめぐる事件であったあの時のように……。
レインボーローズがマイアと遭遇してから一週間後、彼女は春日野タロウのゲーミングパソコンショップへと足を運んでいた。
ここはただのパソコンショップではない。ある意味でもレインボーローズと月坂ハルカにとっては、活動拠点でもある。
拠点といっても、基地の方は地下に作られている。地上から見ても、ここが基地であることは分からないのだ。
実際、この店舗に足を運んだことのある諸葛亮孔明でさえ、初見では気づいていない。
「シグルドリーヴァに遭遇したのか」
レインボーローズの話を聞き、こう切り出したのは会計スペースにいた仕事着にエプロンという男性、春日野タロウである。
いかにも特撮作品で主役をやっていそうな雰囲気をする男性だが、これは実写版対電忍において実際に特撮出身者の俳優が演じていたことにも由来する一方で……詳細は割愛。
彼もシグルドリーヴァに関しては色々と警戒するところもあり、遭遇してもスルーをしろとは指示していたようだが……。
「彼らは、どのように動くかの予測がつかない。ガーディアンも予測は付かないが、向こうは一定の指針が明言されている以上、予想はできる」
タロウは手持ちのタブレット端末に表示されたシグルドリーヴァのSNS情報を見るが……それを踏まえての発言なのだろう。
ガーディアンは炎上勢力の一掃であるため、分かりやすくはある。彼らの場合は本当の意味でも第3勢力になりうるのだ。
「でも、シグルドリーヴァって……唐突にできた組織ではないんでしょ? なら、何かしらの……」
レインボーローズのいう事も一理ある、そう言いたそうなタロウの表情を察するに、何か引っかかるものはあるのだろう。
「不知火穂村、一時期に名前が知られていたVTuber。それをめぐる事件の中心にいたのがシグルドリーヴァの4人、と言われている」
「現実問題、こちらも一種のカバーストーリーの方が拡散していて、真相を知る者は少ないという話だが……」
「忍者構文の事件が発生している時期と同じ時系列の事件とは言われているが……SNS上で、そこまで言及しているサイトはないだろう」
タブレット端末で該当情報を調べても、カバーストーリー以上のものは出てこない。それこそ当事者しか知らない、というべきか。
タロウも、気にはしているようだが調べようがない事件を調べても無駄足になる、そう考えているのだろう。
不知火穂村、過去に有名だったVTuber、その彼女が炎上したことで起こった事件、それがシグルドリーヴァの周囲で発生した。
「関係者の一人として、こういう人物がいるらしいが……真相は闇の中、というべきか」
ある程度の検索ワードを絞り込み、ようやく「不知火穂村、アバター製作者」とワードを検索した結果で出現したのが……。
「秋月穂村……?」
レインボーローズも若干困惑をしている。様々なアバターを個人勢に無償提供する人物、それが秋月穂村だった。
画像はいっさいなく、シルエット扱いである。
それに加えて、彼の製作したVTuberアバターは画像付きで紹介されていた。
何という矛盾だろう。まるで、秋月穂村というブランドで生み出されたVTuber、ある意味でも企業勢に見えなくもない。
それなのに、実態としては個人勢。アバターを自力で製作するような自給自足的なVTuberもいる、という中で……。
その一方で、個人勢規模でここまでのハイクオリティーアバターを用意するような人物がいるのか……というのもあるかもしれない。
秋月穂村、彼は別の意味でも陰謀論者と言われるような気配はあったらしい。
しかし、その内容を『はっきり』と当てはめられるかと言われると、そうではないという結論に至っている。
実際、そう決めつけていたのは一部のアンチ勢力とまとめサイトが結託し、炎上させたことが事件の始まりだった……とカバーストーリーでは書かれていた。
その目的とは……?
しばらくすると、エンディングテーマが流れ始めていた。今回はエンディング画像なしでそのまま流れるパターンのようである。
「あの時に見た、コスプレイヤー……何者だったのか」
別レースに参戦し、以前の動画の事を思い出したデュランダル。
そして、ARゲーム専用のスマートフォンにも似たガジェットでレースを検索した結果……。
(これは……?)
動画を検索しようとしたところ、そこにはあるメッセージとともに動画が非公開の対応がとられていたのである。
【諸般の事情により、該当するレース動画を非公開にしております】
走っていたプレイヤーの中に逮捕された転売ヤーがいたわけでもないのに、非公開の対応……どういうことなのか?
一方で、ARパルクール専用のスーツを着用しないプレイヤーがいることに関して、シグルドリーヴァも把握していた。
「これは、あくまでも違法なシステムじゃない。最低でも、ツール検知に関してはクリアしている」
シグルドリーヴァのメンバー4人が全員集まった場で、春川マイアがこの動画を見て宣言する。
違法性はない。ただ……。
「しかし、これは他社IP作品のコスプレイヤーだ。賞金も出している以上、無許可のものを出すのは……」
このコスプレが規定違反であると指摘したのは、冬川ハンゾウだった。
彼としては、コスプレといっても一般的なものであり、版権作品のコスプレは想定外だったのである。
「こちらとして一掃したいのは転売ヤーであって、自称正義マンのような勢力ではない。だからと言って……」
秋月も心境は複雑であっても、一掃すべきは転売ヤー。他は捨て置く考えなのだろう。
しかし、それに対して意見したのは……。
『まぁ、あちらは放置でいいんじゃないかな?』
その声を聴いた冬川と春川の二人が驚く。実際、これはボイチェンによる男性声だったから。
秋月の方はポーカーフェイスを決めているかのように反応が薄い。
4人が一堂に会しているのは確かだが、それはいわゆるチャットのような小さなメタバース空間を利用したものだ。
それに加えて、姿を最後に見せていたのがパワードスーツにも似たような、それこそ意匠が諸葛亮孔明とは異なるようなスーツを着用した人物……。
「放置ですか。それこそ、なおさら危険なのでは? ガイドラインを守らないような人物も一掃するのが……」
「それに、彼らは確かにチートツールという点に関しては使っていない。そこは百歩譲って認めるにしても、ガイドライン違反のコスプレまで認めようとは……」
その声に対し、冬川が反応するのだが、春川は無反応、秋月もノーコメントを貫く。
『確かに君の性格上、ルールを守ってプレイすること……そこは大原則だと思うよ』
『しかし、ゲームの楽しみ方は十人十色、そういうことでいいんじゃないかな?』
パワードスーツの人物、その人物をよく見てみると、男性声ではあるのだが……ある特徴の影響で、矛盾が生じているようにも思える。
しゃべり方は春川にも似たような箇所はあった。ざっくりいうと、ネガティブを含むニュアンスは一切入れない、という部分。
「しかし、それによって転売ヤーのレース参戦という展開を許した。それは分かっているでしょう?」
冬川の方もヒートアップすることは避けつつも、正論を続ける。
転売ヤーがコースを変更し、そのコース内にあるコンビニのコラボ商品を入手し、ゴールしようとしたこと……他にも類似事例はある。
「さすがに不正ツールを用いたプレイヤーは、すり抜け専用ツールを摘発することで減少傾向ではある。ただ、転売ヤーやコスプレイヤーは違う……」
こうしたケースを踏まえると、今回のコスプレイヤーも転売ヤーと同様に何らかのペナルティを加えるべきではないか、という発言が続く。
「それでも特例処置を続ける気ですが……夏川ライカ!」
冬川の正論に対し、パワードスーツの人物が臆することはない。
メットの関係もあって、表情は分からないが、薄く眼鏡っぽいものは確認できる。
それに、肉付きのいい体系に、巨乳にも見えなくもない体系……おそらくは、この人物は女性だろう。
夏川ライカ、そう呼ばれた人物が反応することはなかった。
エンディングクレジットも、ここで脚本担当と演出担当が表示されており、ここでクレジットが終了、という事にもなるだろう。
ちょうど、エンディングテーマも流れ終わったところである。




