Aパート(前半さっくり)
「やはり、注視するべきは孔明に絞り込む……?」
秋月穂村は先程のレース動画以外にも、直近の諸葛亮孔明の参戦したレース映像を見ていた。
レース映像以外にも、転売ヤーと思わしきプレイヤーも数名いたようだが、それを中止することも彼はない。
転売ヤーは、彼にとっては有象無象の存在、というべきなのかもしれないが……あまりにも多すぎて、特定の転売ヤーを追うよりも全体を見るべき、ということなのだろう。
その証拠が、今のセリフの『?』にも表れている。
実際、秋月はこのレース映像を見ていた時に報告のあった転売ヤーを発見したからだ。
しかし、この転売ヤーはすでに確保済み。それが……すぐに釈放されるはずもない。何かある、と考えていたのだが。
(やはり、そういうことか)
転売ヤーハンターに関する登録は厳格化しており、それこそ安易に炎上させるようなインフルエンサーにはライセンスがいかないようにはなっている……はず。
それが、書類審査の段階で明らかに、意図的に、悪意を持って通したとしか思えないような有名まとめサイトでも知られるようなインフルエンサーに、ライセンスが渡っていたのだ。一方で、シグルドリーヴァの『あの』3人の誰かがそれを把握していなかったのかというと、それも違う。
秋月は何か引っかかるようなものは感じつつも、今は泳がせることにする。
警察も特殊詐欺の闇バイト募集アカウントなどを探しており、その流れで悪意ある転売ヤーを何度も目撃はしているため、向こうも把握はしていると……。
『なるほど。そういう作戦で出ますか』
孔明は、ふとネット上にある特殊詐欺の募集アカウントの一つを突き止めていた。この時の声は男性ボイスの方である。念のため。
オークションサイトなどでは、あっという間に転売ヤーハンターが発見し、確保してしまう関係上で、賢い転売ヤーは大手サイトでは顔を見せない。
それがガイドラインで明らかに『転売ヤー出入り禁止』とでも言いたいようなサイトで見かけたため、孔明もこういった反応となったのである。
【某有名アイドルのグッズ、買います】
孔明が見ていたのはグッズの交換などを目的にした交流サイトなのだが、そこに堂々と【買います】という記述はおかしいと考えている。
先ほども地の文で言及しているが、このサイトは転売ヤーに関しては厳しい対応を取っており、ガイドラインでも『転売ヤー出入り禁止』と書いていなくても、そう受け取れる文面は非常に多い。
今やオークションサイトでも新規で商品出品をしようというのであれば、古物の取り扱い免許の新規習得、青色申告の報告義務が必須となっていた。
これによって、安易に大儲けをしようという転売ヤーは根絶できた一方で……転売ヤーハンター向けの手配書に出てくるような転売ヤーが出てくるようになっている。
いまだに、最高賞金が懸けられた転売ヤーは、捕まっていない。
すでに複数の企業がこの人物に対し、賞金を懸けているという中で、だ。
フリマサイトなどでも、悪意ある転売ヤーが無双した関係上、こちらも原則として古物の取り扱い免許、青色申告も必須、それに加えて日本人限定という制限を付けるレベル。
それ位に……転売ヤーは日本で最も危険な存在とまで言われることとなった。
場面は変わり、とあるゲームセンター。
大手の運営しているところで、様々なジャンルのゲームが設置されており、それこそゲーマーの多くがこのゲーセンに足を運ぶ。
大手の運営しているゲーセンでも、ある機種に関して比率が多いことをゲーマーが批判することも稀にあるのだが、その該当機種はここにはない。
その理由は、やはりというか転売ヤーの存在だ。
彼らの存在がこのゲーセンからクレーンゲームを一掃してしまったのである。
転売ヤーの行っていることが犯罪行為まがいなのはわかる一方で、クレーンゲームオンリーの店舗もゲームセンターと呼ばれることには違和感を持っているため……こういう展開になっているのだ。
だからと言って、クレーンゲームが埼玉県内で設置禁止になってたというわけではないため、クレーンゲームオンリーの専門店はいくつかあるし、こちらの需要も一定数あるのは事実だろう。
あくまでも、クレーンゲームを設置して他のゲームで発生している赤字部分の利益を何とかしよう、というような手段ができなくなった……ということだ。転売ヤーの存在はゲーセンの事情さえもお構いなしで暴れまわった結果、こういう展開を生み出したのである。
そのゲーセンに一人の女性が姿を見せた。
彼女は足早に目的のゲームを発見すると、筐体の前にある待機列には複数の待ちプレイヤーの姿を見つける。
電子チケットのような待機列を作らないようなものもあるのだが、このお店では待機列用の椅子に座って待機するのがルールとなっていたので、そういうことなのだろう。
(あのプレイヤーは……?)
別のゲームへ向かおうとしていた一人の男性が、待機列のパイプ椅子に座っている女性の姿を見て、ふと思った。
どこかで見覚えがある一方で、どこというのを思い出せないのである。
間違ってもオープニング及びエンディングに姿を見せているので、そこで……というわけではない。
(気にしても負けか)
その後、この男性は別の音ゲー台へと移動する。彼女とは違うゲームをプレイするためにやってきていた模様。
複数の音ゲーを掛け持ちプレイしているプレイヤーは、もはや希少種ではない。
連動イベントなどもあった関係で、こうした複数ゲームの掛け持ちも多くなっている、と言えるのだろうか。
彼女の名前はタチバナ。そこそこ有名なプロゲーマーである。
身長160センチ辺りで黒髪、サングラスをしているようだが……実際はゲーミング用のブルーライト対策のものだろう。
その後、待機列で待っていた音ゲーをプレイすることとなる。
この機種はエンディングで実際にプレイしていたものとは若干異なるものの、上から下に落ちてくるノーツをタイミングよく押して演奏するという機種で、類似システムは多数にわたって採用されていた。
だからこそ、システムが似ているという個所もあって、彼女にとっては……という気比なのだろう。慣れていれば、ゲームは違えど……。
なお、タチバナのゲームプレイシーンに関しては、小説では書こうとしても説明や箇条書きレベルになってしまうため、ここではざっくりと割愛する。
プレイしている楽曲のレベルは、50段階で26、難易度もノーマルという割には、そこそこの難易度があって、初心者向けな譜面というわけではない。
むしろ、それは中級から上級者向けと言われても違和感はないようなものである。実際、この曲はエンディングでプレイしていた音ゲーの楽曲……ざっくりいえば、他機種からの移植楽曲というものだった。
それを踏まえ、彼女の実力は決して低いというわけではない。ノーツをタイミングよくさばき、手の動きなども的確であることを踏まえ、相当なプレイヤーである。その彼女が、なぜにエクストリームパルクールに興味を持ったのか……それはゲーセンの雰囲気を見れば一目瞭然だ。




