Bパート(前半ざっくり)
『遂に、エクストリームパルクールの名物と言ってもよい、新人戦が始まろうとしています』
「ええ。ある意味でも上位ランカー戦以上に盛り上がるのは間違いないでしょう」
フィールド近くのビル、その3階にあったのは実況及び解説用の特別ルームと言ってもいいような一室だった。
ここで実況及び解説の人物がスタンバイし、レースの実況と解説を行っている。
ここで言うレースとは、当然だがエクストリームパルクールだ。決して、競馬ではない。
スタジオのセット的なことを言ってしまうと、確かに競馬中継の中継セットと似ている事に関しては……と言う具合だが。
実況、解説ともに男性で、その外見は本当に競馬中継の実況と解説と言っても差し支えないような……。
『先ほどのレースでは、まさかの人気薄のプレイヤーが1着を取ったようで驚きですが』
解説に対し、説明を求める実況の男性……一応、パルクールの知識はある程度持っている人物の様だが、エクストリームパルクールは初耳の模様。
「いわゆる競馬のような公営競技と違い、ギャンブルと言う形で行われているわけではないです。裏で違法賭博をしているような団体は、ありそうですがね」
解説の男性は、何やら微妙にシグルドリーヴァも察知していないような話題を離し始めようとしている。
それに対し、進行を担当するスタッフの男性がタブレットをかざして話を止めようとしていた。
【そういうのは、なしでお願いします】
タブレットには、日本語でこう書かれていた。
さすがに進行のスタッフが声を出すのは、放送で拾われると炎上する……と思っているのかもしれない。
「それでも、いわゆる不正ツールに関しては排除できていないような気配は、しますがね……」
解説の男性は、違法ギャンブルの話はさっくりと流したが、今度は不正ツールに関する話を出してきた。
それに関して言えば、先ほども別レースで競争除外される人物がいたため、そういう事なのだろう、と。
ここで、少し時間を巻き戻すことにする。春日部皐月がフィールドへ向かっている途中の話だ。
「あんた、エクストリームパルクールに出るのか?」
集合場所へ向かう途中で、一人の男性に声をかけられた。見た目は20代中盤辺りだろうか?
外見を見る限り、周囲とはかなり異質な服装なので、すぐに目立つのは間違いない。明らかに整備士と言う感じだ。
「出るのであれば、見てほしいものがあるのだが」
彼は「急いでいるので」と言おうとした皐月のセリフを遮るかのように、話を続けていく。
「あまり時間は取らせません。新人戦がもうすぐ発走なのでしょう」
明らかに何かを知っているような発言に対し、皐月も少しだけなら、と男性の話を聞くことにする。
「新人戦に勝つために、こういうカスタマイズはどうでしょうか……というものなんですがね」
男性が次にどこからかタブレットを取り出し、その画面を皐月に見せた。
画面に映し出されているのは、エクストリームパルクール用にカスタマイズされたガジェットの映像である。
「ガジェットの実物がない? そう思う人もいると思いますが、ガジェットのアーマーは拡張現実……いわゆるARと呼ばれる技術で生み出されているので、在庫なし出品の類ではありませんよ」
皐月は明らかに何かが怪しい、とは思うのだが男性の方は話し続ける。
最終的に、このガジェットは有料であり、本来は数百万するのを割引で1万円と最後に切り出そうとしたのだが……。
「そこで何をしている?」
取引を持ち掛けようとした男性の話を遮るかのように、突如として、二人の前に姿を見せたのは……明らかに駅伝で見かけそうなジャージ姿の男性である。
背中には、何やら見覚えのある巻物を背負っており、もしかすると……と言う気配もするが。
その姿を見た周囲の人物も何かに気づいたのか、一部の人物がその場を離れ、更に別の人物は該当エリアへと集まり始めていた。
(ガーディアン? まさか、違法ツールの密売に気づいたのか?)
ガジェットを売ろうとしていた整備士の男性の方は、若干だが汗が出ているようにも見えた。
明らかにこちらがやろうとしていたことを、ガーディアンが察知していたかのように。
実際、野次馬の方も若干だが出てきているのを踏まえ、彼の方も逃げようとしているのだが……逃げ道はふさがれているだろう。
「あの、もしかしてあなたは……」
皐月の方はジャージ姿の男性を見て、もしかして……と声をかける。
「箱根も走った、橿原……」
「ストップ、ストップ。気持ちは分からないでもないけど」
何かを言おうとした皐月を止めたのは、声をかけられた男性の方だった。
そして、彼は皐月の腕にガジェットが装着されているのを見て、エクストリームパルクールに出るランナーであることを察する。
別の場所から見える近くの電光掲示板には新人戦の発走を知らせるお知らせも表示されており、橿原隼鷹はそれを見て……。
「もうすぐ新人戦が始まる。急いだほうが良いと思うが」
橿原の一言を聞き、皐月はようやく自分の置かれている立場に気づき、該当するエリアへと急いで向かう事に。
「さて、こちらとしてもせっかくの新人戦に水を差したくはない。まぁ、少し前のレースで不正ツール使用で競争除外になったケースを見ているだけに……」
橿原は整備士の男性に対して警告を行うのだが、向こうは聞く耳を持たない。いつぞやの転売ヤーと同じ反応である。
それに加え、転売ヤーの時とは違って向こうも特殊な不正ガジェットを呼び出し、徹底抗戦と言う展開にも見えた。
「転売ヤーや炎上勢力と一緒にされるのは、こちらとしても困るのだよ!」
整備士の男性は、ビームライフル型のガジェットを展開し、それを橿原の方に向ける。
それを見た橿原の方は加減の必要なしと判断し、背中に背負った巻物に手を伸ばし……。
「そこまで言うのであれば、覚悟を見せてもらおうか! 転売罪が存在している状況で、転売ヤーが絶滅危惧種以外の何物でもない……それを否定できるかを!」
その後、わずか数十秒の橿原無双とも言えるアクションシーンが展開され、あっという間に不正ツールを販売した勢力は一斉摘発されることとなった。
そして、次のシーンは皐月のレース開始シーンへと切り替わる。




