#98 温泉旅行2日目後半 白川郷と裏切りと
「みんなは一緒に行動していたの?」
「うん!みんな一緒だったよー」
「楽しかったよね~」
「凛があんなに大食いだとは思わなかったよ」
「凛ちゃん先輩以外の人も、結局は全員同じくらい食べてたけどね」
「智佳ちゃんと裕人くんが面倒見てくれたのよね?ありがとうね」
「全然大丈夫だったよ。春斗とほのかちゃんはしっかりしているし、特にほのかちゃんはガイドみたいな事までしてくれてたしね。私達よりもほのかちゃんの方が大変だったと思うな」
「そ、そんな事はないですよ?智佳さんが一緒にいてくれて安心感がありましたし」
「ほのか、俺はそこに含まれないのか?」
「兄さんは智佳さんに鼻の下を伸ばしっぱなしでしたもん」
「そ、そんな事はないだろ!?」
「いや〜あれは伸び切ってたよ〜裕人さ〜ん」
「伸びてたよねー」
「あらそうなの?裕人頑張りなさい。こんないいお嬢さんは中々いないわよ」
「ヒロ君、私を狙ってみる〜」
「ちょ、ちょっと!母さんや先輩まで誂わないで下さい!」
昨日と今朝の車内と違い、標的が裕人さんになったので、俺は大人しく父さんズの方に混ざって趣味の話などをしながら、存在感を極力消して白川郷までの時間を過ごした。
その間車内では、裕人さんから年少組に飛び火して、裕貴くんも誂う対象にされてしまったが、直人に彼女がいる事を暴露して、標的を直人に移す事に成功していた。
白川郷の駐車場に着いて解放された直人の顔には、明らかな疲労の色が見えた。
「裕貴くん俺を売るなんて酷いって〜」
「悪かったって、何か奢ってやるから機嫌直せよ。なっ?」
「マジっすか?丁度新しいスパイクが欲しかったんすよ!」
「スパイクって!そうじゃなくて白川郷で何か美味いもんでも奢ってやるって意味で、帰ってからの事じゃないからな!?」
「俺にとってはかなりデカい秘密だったんすよ?裕人兄も助けてくれないし、絶望を味わったっす」
「いや、あれはその...スマン」
「直人!あんまり無茶を言わないの。スパイクなら今度アタシが買ってあげるから」
「姉ちゃんホントに!?やった〜!姉ちゃん愛してる!!」
「ハイハイ。先輩も裕貴もごめんね~。こいつには何も奢る必要ないからね」
雛の介入によって直人からの追及から逃れた2人は、ホッと溜め息を吐いていた。
駐車場から橋を渡って川の反対岸にやって来た。
高山の時とは違い、全員で一緒に回る事になり、より一層賑やかな集団になってしまった。
「ここが白川郷?古いお家が一杯あるけど、それだけなの?」
「それだけで十分に価値がある場所なのよ?」
「そうなんっすか?」
「ええ、だからこそ世界遺産に認定されて、保存して行きましょうって事になってるのよ」
「「世界遺産!?」」
「2人共ホントに知らなかったのか?ここ、結構有名だぞ?」
「裕貴は知ってたの!?」
「当然だな」
「何かムカつくっすね」
「そうね。直人くん、何か考えましょう」
「了解っす!凛ちゃん先輩!」
「何でだよ!」
凛と直人から理不尽に報復されそうな裕貴くんに苦笑いしながら、白川郷内を散策して回る。
「合掌造りのお家ってもっと小さいのかと思っていましたが、結構大きなお家もあるんですね」
「そうね。私も意外だったわ」
「ほのかちゃんや先輩もなんですね。よかった~私だけじゃなくって」
「そうだよね紗奈姉、私も安心したよ〜」
「5階建ての建物もあるそうよ」
「ええ!?おばあちゃん、そんな大きなお家もあるのー?」
「ええ、パンフレットに載っているわよ」
「おばあちゃん、パンフレットなんていつの間に何処でもらったの?」
「バスの運転手の田中さんがどうぞってくれたのよ」
ばあちゃんが持っているパンフレットを参考にしながら、建物内を見学出来る所を回って駐車場に戻って来た。
「そのパンフレットに載っている所にも行ってみたいな〜」
パンフレットには、少し高い所から撮られた様な写真が載っていた。
「そうね。田中さんに聞いてみましょうか」
「「「さんせ〜い」」」
ばあちゃんの提案に唯佳、雛、凛が賛成してバスの所に走り出した。
「そんなに急がなくてもいいだろう?」
「ハハッ元気だな~」
走って行く3人に俺は苦笑いを浮かべたが、裕人さんはそんな3人の事を元気だと肯定的に笑っていた。
「春斗〜3人のああいう所を苦笑いじゃなくて肯定的に受け取ってあげないとダメだぞ~うちのヒロ君みたいにね~」
「せ、先輩!?う、うちのヒロ君って!?な、何を一体!?」
智佳姉の標的は俺と見せ掛けて裕人さんだった様だ。
てっきり俺が標的だと思って油断していた裕人さんが、意表を突かれてしどろもどろになっている。
「そうだね智佳姉。智佳姉の彼氏さんを見習うよ」
「ちょっ!?は、春斗!?」
「あら?裕人、春斗くんの事いつから呼び捨てに?」
「ああ、高山観光している時に呼び捨てにして下さいって俺から言ったんですよ」
「そうだったのね。仲良くなってくれて嬉しいわ」
智佳姉に乗っかって裕人さんを誂い、涼子さんに裕人さんと仲良くなった事を喜ばれながらバスの所に戻ると、走って行った3人ががっかりした感じでバスの席に座っていた。
「このバスじゃ大き過ぎてあの写真の所まで行けないんだって〜」
「そっか〜残念だったな」
落ち込む3人の頭を順に撫でて慰める。
「それじゃあ仕方ないから戻りましょうかね」
「そうですね。結構歩いて疲れちゃいましたしね」
「そうね。ちょっと運動不足なのを実感しちゃったわ」
「私も足パンパンになっちゃったわ」
「瞳さんはまだ若いからいいわよ。40超えたら大変よ」
ばあちゃんと母さん達は結構疲れている様だし、旅館に戻って温泉で疲れを癒しましょうという事になった。
男子4人は、行きの車内での裕人さんと直人が根掘り葉掘り聞かれた事から、帰りの車内で誰かが標的になったら、一致団結して庇い合おうと約束した。
帰りの車内では、裕貴くんがターゲットとなり、あれやこれやと質問攻めにあっていた。
俺を含む他の男子陣は、事前の約束なんてなかったかのように、打合せした訳でもないのに一斉に寝たフリをして、自分に火の粉が飛んで来ない事を祈って、宿に帰り着くのを待った。
旅館に着いた時に、裕貴くんから裏切り者を見る様な目で見られたが、男子3人揃って視線を逸らして部屋へと移動した。
一旦部屋に戻ってタオルと着替えを持って大浴場に行くと、裕人さんと裕貴くんが脱衣所で服を脱いでいた。
「あっ!春斗さん!ずっと寝たフリなんかして狡いじゃないか!兄さんも直人も春斗さんも裏切り者だって事がよく分かったよ!」
「いや〜ごめんごめん。でも、男子全員寝たフリしたのは、思わず笑いそうになったよ」
「ああ、薄っすら目を開けて確認したら、春斗も直人も寝たフリしているから、吹き出しそうだった」
「兄さんも春斗さんも、こっちは大変だったんだからな!」
「聞こえていたから知ってるよ」
「ああ、俺も知ってる。プッ!」
裕人さんがバスの中の事を思い出したのか、吹き出してしまった。
全員服を脱ぎ終わったので、プリプリと怒る裕貴くんを宥めながら浴室に入り、頭と体を洗ってからお湯に浸かった。
「それにしても、春斗はやっぱりいい身体しているな~」
「まあ、探索者ですからね」
「探索者ってみんなそんな身体しているの?」
「前衛は比較的そうなんじゃないかな~。中には変わらない人もいるらしいけど」
「後衛の人は違うの?」
「後衛はそれなりにって感じじゃないかな?でも、全く筋肉が付かないって事はない筈だよ。移動したりすれば、それだけで筋肉も体力も付くからな」
「まあ、当たり前だな」
そんな話をしている内に脱衣所の方が騒がしくなり、父さんズと直人が入って来た。
「あっ!直人!お前にも話があるからな!」
「いやいや、行きの時に俺を売ったのは裕貴くんだったじゃん!」
「うっ!?」
「て事でお互い様って事で!」
「くっ仕方ないな」
人数が増えた事で賑やかになった内風呂から、露天風呂に出て、涼みながら1時間くらい温泉を楽しんで部屋に戻った。
女子達はまだ戻って来ていなかったので、テレビを付けて観ていたのだが、いつの間にか寝ていたらしく、夕飯時になって唯佳に起こされるまで、何をしても起きなかったらしい。
何をしてもって、一体何をしたんだ?変な事はしていないよね?
夕飯を食べ部屋に戻り、女子達が求める事を頑張ってから眠りについた。
探索者になって体力お化けになってなかったらと思うとゾッとする一方で、女子達も探索者だからこそなのでは?と考えてしまい、夢の中でも悩む事になるのだった。




