#99 温泉旅行3日目 スタンピード発生
10月14日(祝・月)
朝の5時前、いつもと同じ様に目が覚め、いつもはウォーキングの後に汗を流している所を、諸事情により先に汗などを流す為、部屋風呂へと移動した。
色々と流し、サッパリして部屋に戻りテレビを付けて着替えようと思ったのだが、テレビのニュースから流れて来る声に動きを止め、テレビを凝視してしまった。
テレビからはアナウンサーの女性が必死に避難を呼び掛ける声と共に、何処かのダンジョン支部の監視カメラの映像と思われる物が流れていた。
何年か前にやはりテレビで観た海外で起こった事件の映像と同じ、ダンジョンから魔物が溢れ出している映像、スタンピードの映像だった。
『繰り返します!本日未明に乗鞍高原ダンジョンにて、スタンピードが発生しました!近隣にお住いの方は慌てず速やかに避難して下さい!』
テレビの中のアナウンサーの女性は、繰り返し避難を呼び掛けている。って、乗鞍高原ダンジョン!?それって確かここの近くのダンジョンじゃ!?慌ててスマホで確認すると、直線距離だと10km弱くらいの距離しかなかった。
「みんな起きろ!!」
まだ寝ている女子達を叩き起こした。
「春斗っちなあに〜」
「春くん、もうご飯ー?」
「どうしましたか?春斗くん」
「テレビを観ろ!乗鞍高原ダンジョンでスタンピードだ!急いで装備に着替えて出発出来る様にしておいてくれ!俺は父さんと可憐さんを起こすから」
寝惚けていた女子達も、俺の慌てぶりとテレビから流れて来るアナウンサーの女性の声に、頭の靄も晴れた様で、急いで準備を始めた。
可憐さんに連絡をして事情を伝え、テレビを付けさせた。
事情を把握した可憐さんが隣の部屋の父さんを起こしに行ってくれたので、その間に俺も装備に着替える。
俺達の装備は唯佳の空間収納の中に仕舞ってあるので、こういった緊急時でもすぐに準備が出来る。
女子達の入浴と着替えを終えた俺達は、急いで父さんの部屋に移動して、これからどう動くつもりなのかを伝えて乗鞍高原ダンジョンに移動する予定だったのだが、父さんと可憐さんに止められた。
「ちょっと待ってくれ。時間が惜しい状況なのは分かるが、俺と源を一旦富士森公園支部に連れて行ってくれ。装備を整えて俺達も乗鞍高原ダンジョンに行く」
「ブランクはあるけど、これでも元高ランク探索者よ。役に立てるわ」
時間は惜しいが戦力は少しでも多い方がいい為、唯佳に2人を連れて転移してもらった。
「春斗もみんなも無理はしない事!それだけは約束してちょうだい」
いつの間にか集まっていたみんなの家族を代表して、ばあちゃんが無理をしない様にと声を掛けて来た。
「うん。無理をするつもりはないよ。折角可愛い彼女が3人も出来たんだからね。俺も3人も必ず無事に戻って来るよ」
「今調べたら、乗鞍高原ダンジョンは何階層まであるのかまだ分かっていないダンジョンだったわ。56階層までは攻略されているけど、最終エリアにはなっていないらしいから、最低でも70階層まではある事になるわ。スタンピードはダンジョンを完全攻略して、最後の転移陣を使う事が、唯一の止める条件なの。今、日本でこのスタンピードを止められるのはクローバーと宵闇だけ、だけど、絶対に無理はしないでね?いい?絶対にだからね?」
「分かりました。情報ありがとうございます」
紗奈さんから情報を聞き終わったタイミングで、唯佳が父さんと可憐さんを連れて戻って来た。
「じゃあ、行こうか。みんなは避難をしてね」
全員揃ったので俺達は旅館を出て、ウィンドアーマーをほのか達に掛けてもらい、急いで乗鞍高原ダンジョンに向かった。
避難誘導していた女将さん始め従業員の人達に、完全武装で現れた事に驚かれたが、俺達の事は知っていたらしく、応援されて力をもらえた。
初めてウィンドアーマーを経験した父さんを連れての移動だったが、10分程の移動で現場に着く事が出来た。
既に戦っている探索者の姿が見えるが、まずは対策本部と書かれた場所に行き、責任者に応援に来た事を伝えた。
「Sランクパーティーがこんなに早く来てくれるとは思っていなかった。ありがとう!」
「いえ、偶々近くに旅行で来ていたので、それじゃあ、動き始めますね」
「宜しく頼む」
「春斗、スタンピードの止め方は聞いているな?」
「うん。紗奈さんから聞いたよ。教えてもらった情報から考えて、早くても1週間くらいは掛かると思うから、父さんと可憐さんも気を付けてね」
「1週間って...ああ、俺達も無理はしないから、気を付けて行って来い!」
「うん!行ってきます!」
父さんと可憐さん、乗鞍高原ダンジョンの職員さん達に見送られ、乗鞍高原ダンジョンの攻略に向かった。
時刻は午前6時前、1番早く起きた俺でも起きてから1時間くらいしか経っていない。
そんな状況で俺達は、ダンジョンの入り口に突入した。
「教えてもらった情報だと、洞窟エリアは攻略されたエリアにはないみたいだから、全速力で飛ばして行くぞ!!」
「「「はい!」」」
眼下に広がる溢れ返った魔物の群れを無視して、どんどんと階層を降りて行く。
幸いな事にこのダンジョンは、確認されている限りの階層では、階段間の距離が短く、進むだけなら短時間で進めるだろう。
「何だか魔物の数が多くない?」
「そだねー。何だか最終エリアにいるみたいな感じだよねー」
「スタンピードになると、普段以上に魔物が湧いているんじゃないかと言われています。過去のスタンピードの事例では、例外なく魔物の数が多かったという報告が上がっているそうです。それから、普段は深い階層にいる魔物も浅い階層やダンジョンの外にも出て来る事も確認されているそうです」
「この数の魔物が、しかも深い階層の魔物までもがダンジョンの外に出て行くと、外の探索者も危険になるし、一般の人にも被害が及ぶかもしれない。さっさと完全攻略してしまおう」
「「はい!」」
「ですが、焦りは禁物ですよ」
「ああ、そうだな。気を付けるよ」
今まで潜ったどのダンジョンと比べても、階段間の距離は断然短いのだが、30階層まで降りて来るのに12時間以上掛かった。
「階段エリアにまで魔物がいるとか聞いてないってば!」
「冷静に考えれば、深い階層の魔物が浅い階層やダンジョンの外にいる時点で、こういう事だって気付くべきだったな」
「焦ってたのかもねー」
「そうですね」
普段ならば2時間も掛からずに到達出来ている筈の場所に、6倍以上の時間を掛けて漸く到達した事実に、考えが甘かった事を痛感させられる。
普段のダンジョンでは、階段エリアには魔物が入って来れない様に見えない壁の様な物があり、安全エリアとして利用出来るスペースなのだが、スタンピード時にはその見えない壁がなくなり、魔物が自由に出入り出来る様になる様だ。
お陰で今の階段エリアは、狭いスペースに魔物が押し寄せている状況で、相手が低階層の魔物であっても突破するのに無駄に時間が掛かってしまい、中々先に進めずにいる原因になっていた。
バトルジャンキーの雛でさえ嫌気が差している状況が、魔物の多さを表している。
「取り敢えずもう少し階層を降りて、ここと同じ様に階段の前に結界を張って結界内で眠ろう。出来ればあと、2〜3階層は降りたいな」
「「「はい」」」
「じゃあほのか、これまでの階層の階段前と同じ様に、エレンと一緒に土魔法で壁を作っておいてくれるか?」
「分かりました。エレンくんやりますよ。ロックプラトー!!」
「パオーン!!」
ほのかとエレンの詠唱に合わせ、岩の台地が迫り上がる。
ほのかが生成した台地を外側に、エレンが生成した台地を内側に配置した、合わせて1kmにも及ぶ鉄にも負けない硬度を誇る岩の台地が上の階層に続く階段の前に姿を現した。
唯佳の結界と違い、術者が寝てしまうと魔法の効果が消えてしまうが、従魔は眠らなくても問題ない為、睡眠が必要なほのかの魔法を外側にして、睡眠が必要ないエレンの魔法を内側にしている。
そうする事で、出来るだけエレンのロックプラトーの耐久が削られない様に工夫をしているのだ。
その後、3時間掛けて44階層まで降りて来た俺達は、ほのかとエレンのロックプラトーで階段前を覆って、一旦ダンジョンの外に報告をしに戻る事にした。
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時間は少し遡り、春斗達がダンジョンに突入してから3時間後の乗鞍高原ダンジョン前
黒木 春輔視点
「黒木部長。ダンジョンから出て来る魔物の数が減っている様です。それに、出て来る魔物も1階層のホーンラビットやゴブリン、シンリンオオカミだけになったという事です」
敏感に変化に気付き、情報を集めに動いていた可憐が戻って来て、春輔に報告をする。
「春斗達がダンジョンに突入してからまだ3時間くらいしか経っていない。流石にあいつ等がSランクパーティーとはいえ、まだ攻略出来た訳はねぇだろう?何が起きているんだ?」
「ほのかちゃんとエレンくんの魔法で、階段を封鎖しているとか?」
「ウォール系の魔法か。ほのかちゃんなら強力な魔法を創り出せるかもな。でもいつまでも保つとは限らねぇから、集中は切らすなよ源」
「いくらブランクがあるからって、そんなヘマはしませんよ」
「ハハッそれもそうだな。」
「近隣の支部からも応援の探索者が来ていますし、少し休憩にして、対策本部で報告と打ち合わせをしませんか?」
「そうだな。こっちの戦力もきちんと把握しておきたいし、そうするか」
対策本部に戻り、報告と情報収集を行い打ち合わせをする事にした。
「おお、黒木さんと源さん。今呼びに行こうとしていた所だったんです」
「ん?何かあったんですか?」
「いえ、魔物の数が減ったという報告が上がって来まして、まだ息子さん達が完全攻略するには早いですし、何か原因に心当たりがないかお聞きしたくて」
「ああ、それに関してはこちらも憶測でしかないですね」
「俺はAランクパーティーSWORDの御剣 太陽だ。あんたが剣鬼黒木 春輔かい?」
「ああ、黒木だ。宜しく頼む」
「魔物が減った事に心当たりがあるっていう事だけど、その心当たりっていうのは何なんだ?」
「憶測でしかないが、恐らくダンジョン内に入ったクローバーの魔法使い、ほのかちゃんがウォール系の魔法で、階段を封鎖しているんだと思う」
「なるほどな。でも、ウォール系の魔法で階段を封鎖しているんだとしたら、強度的にいつまでも保つ訳じゃないって事だな」
「そうなるな。でも、ほのかちゃんの魔法なら、普通のウォール系の魔法とは比べ物にならないくらい強力な魔法の可能性もあるがな」
「そんなに凄え魔法使いなのか?」
「ああ、話を聞く限りではな」
「その点に関しては、専属担当の私が保証します。今回使っているであろう魔法は見た事がありませんが、彼女の魔法が規格外である事は間違いない事実です。この目で何度か直接見ていますので」
「つう事は、油断は禁物だが暫くは楽出来るって事だな」
「では、他の探索者にも今の話を伝え、魔物が少なくなっても油断しない様にと伝えます」
春輔の話を元に話し合われた考察が、探索者達に伝えられ、気が緩み掛けていた探索者も集中し直し、警戒態勢を取り続けたのだが、1階層の魔物がちょこちょこ出て来るだけで、脅威を感じる様な魔物は現れなかった。
春輔達も予想外の事に戸惑ったのだが、春斗達が44階層から一旦戻って来るまで、その理由は分からなかった。




