#78 Sランク探索者を目指して
9月23日(火)
「何か凄い久し振りな気がすんね~」
「そだねー」
「2か月半振りくらいですから、言う程久し振りではないんですけどね」
今までは、過疎ダンジョンを選んで攻略していたのだが、今回俺達が選んだダンジョンは、国内でも人気上位のダンジョン、富士森公園ダンジョンだった。
理由は女子3人がSランク探索者になる事を望んだからだ。
Sランク探索者になるには、70階層のボスを倒す事が条件なのだが、今までのやり方だといつ70階層まであるダンジョンに当たるか分からない。
そこで、既に70階層まである事が分かっているダンジョンに潜って、Sランク探索者になってから過疎ダンジョンを攻略して行こうという事になった。
俺的にはそんなに急いでSランク探索者にならなくてもいいと思っていたのだが、3人の圧力と雪兎とエレンのエサ問題の解決の為にも、さっさと70階層以降に行ける様にしておいた方がいいと言われ、首を縦に振らされた。
まあ、実際に雪兎とエレンのエサ問題は解決しておきたいとは思ったので別にいいのだが、3人が何であそこまでSランク探索者になる事に拘っているのか謎である。
専属カウンターに向かう俺達に気付いて、周りがざわざわと騒がしくなったが、ここ何日かテレビやネットで放送されていたので、その影響だろうと気にせずに進んで行く。
女子3人は元々注目される事に慣れていて、この状況でもいつも通りだし、1番注目度の低い俺が緊張してもカッコ悪いしね。
「可憐ちゃん、こんにちはー」
「ふふっこんにちは。注目度が上がってもいつも通りね」
「ジロジロ見られんのなんて今更だしね~」
「ええ、ナンパされる事が減った分、環境が良くなったと感じるくらいですね」
「未だにナンパされるの?」
「昨日もされましたよ?」
「アタシもされた~でも、1回だけだったし前よりはマシだね~」
美少女は美少女なりに大変らしい。
「あんた達久し振りだね。道場破りみたいにダンジョンを回っているみたいだけど、次はここを完全攻略してくれるのかい?」
可憐さんの横から顔を出したおばあさんが、そう質問して来た。
「お久し振りです。今回は取り敢えずSランクになりに来ただけなので、完全攻略するかどうかは決めていないです」
俺の発言に周りが一層ざわついた。
「アッハハハ、Sランクになるのは既定路線みたいに言うんだね~」
「あっ」
確かに今の言い方だと、自信過剰と取られてもおかしくない。
周りが一層ざわついたのはその所為か...
失敗したと思っていると、俺の横から唯佳達がおばあさんに言った。
「うん!私達ならSランク探索者になれるよー」
「そうそう、まあ見ててよ!」
「地図があるので、それ程時間は掛からないと思いますよ」
3人は自信満々におばあさんに宣言してみせた。
「アッハハハ、いいじゃないかあんた達。坊やも嬢ちゃん達を見習いな。可憐、地図を渡しておやり」
「はい」
「60階層のボス以降は、魔物の強さが1段どころじゃなく上がる。油断しないで気を付けてお行き」
「「「は~い」」」
「気の抜ける返事だね~」
可憐さんに地図をもらい、俺達は注目される中ダンジョンに潜った。
富士森公園ダンジョンは40階層までは階段間の距離が近く、それ程時間を掛けずに到達出来ると思う。
「よ~し!出発しようか〜」
「おー!」
「30階層台が洞窟エリアだから、そこはあまりスピードを出せないけど、そこまでは今日中に到達しちゃいたいな」
「そうですね。30階層までなら、2時間あれば余裕で行けると思いますし、今日中に行ってしまいましょう」
取り敢えず、今日の目標を30階層のボス討伐に設定して、ダンジョン内を進んで行く。
低階層は新人探索者のいるエリアなので、メインになるのは俺達と変わらない年齢の探索者達になる。
転移で移動して来た俺達と違い、最寄りの高校に通っている探索者以外はまだここに向かっている最中の為、ほぼ誰もいない階層が続いている。
10階層までは学校のダンジョンと同じ森林エリアで、スピードを出し難いエリアなのだが、誰もいないお陰でフルスピードで移動する事が出来、30分程で10階層のボスを突破出来た。
近隣の高校の探索者達もダンジョンに潜り始めた様で人が増えて来たが、街エリアで空を移動出来る俺達は気にせずフルスピードで駆け抜けて行った。
結果、11階層から20階層のボス討伐までに掛かった時間も30分程と、10階層のボス討伐までに掛かった時間と変わらない時間で攻略する事が出来た。
一旦トイレ休憩の為に支部に戻り、攻略を再開した俺達は、40分程で30階層のボスを倒し、洞窟エリアに足を踏み入れた。
「目標達成だね~」
「そだねー」
「あと15分で帰る予定の時間になりますけど、まだ先に進みますか?」
「そうだな。行ける所まで進んでおこうか」
「分かりました」
「「は~い」」
他の探索者と急に遭遇しない様にサーチで常に確認しながら、可能な限りスピードを出して進んで行く。
途中、他の探索者に遭遇した時は、スピードを緩め声を掛けて追い越して進んだ。
階段間の距離が近かったので、スピードを緩めたりしていたにも拘わらず、35階層まで辿り着く事が出来た。
「2分オーバーだけど、35階層まで来れたね」
「ほぼ時間通りだねー」
「では、転移陣で戻りましょうか」
「そうだな。ん?雪兎どうした?」
「キュッ!」
ほのかの言葉で転移陣に向かおうとした時、雪兎が立ち止まり洞窟の奥に視線を向け、一鳴きして駆け出した。
「ゆ、雪兎!?」
「何かあったのでしょうか?」
「兎に角、追ってみようよ」
「うん!」
俺達は慌てて雪兎を追い掛け、ダンジョンの奥へと進んで行った。
「春斗くん、サーチには何か映っていませんか?」
ほのかに聞かれて、慌ててサーチを確認する。
確認したサーチには、700mくらい先に魔物と探索者のマークが見えた。
「もしかしたらゆきとくんはその探索者を助けに行ったのかもしれませんね」
「だとすると、その探索者の人かなりピンチなんじゃない?」
「そうじゃないとゆきくんは介入したりしないもんね」
「急ぐぞ!!」
「「「はい!!」」」
スピードを上げた俺達は、すぐに魔物と探索者がいる場所に辿り着いた。
現場では既に雪兎が魔物と戦闘を始めており、その向こうに4人の探索者が見えた。
「そこの4人、大丈夫か!?」
「ああ、俺は大丈夫だけど仲間が...それに見た事ない強力な魔物まで来ちまって!お前らは逃げろ!このうさぎ型の魔物はヤバい!」
「そいつは俺の従魔だから安心してくれ!俺達も介入させてもらうぞ!」
「じゅ、従魔...?」
動けなさそうな探索者が、雪兎が従魔である事に唖然としているが気にせず介入させてもらった。
俺達が介入するまでに何体か倒していたらしく、残っていた魔物の数は3体だけで、あっという間に討伐は終わった。
介入前に話していた探索者以外は、手足が千切れていたり、腹に穴が空いていたり悲惨な状態だったものの、幸いまだ生きていた為、唯佳の回復魔法で治す事が出来た。
千切れていた手足もくっつき、腹に空いていた穴も塞がり、内臓も修復されたと唯佳が言っていた。
その光景を唖然とした顔で見ていた探索者も唯佳が怪我を治したので、彼は歩いて帰る事が出来るだろうが、仲間を連れては無理そうだったので、他言禁止と約束させて、唯佳の転移で支部に戻った。
何が起きたか分からず戸惑っている彼に、もう一度他言禁止だと念押しをして、近くにいた職員さんを呼び、彼らを預けた。
その後、一度35階層の転移陣に戻って、転移陣で再び支部へと戻って来た。
専属カウンターで可憐さんに報告して帰る事にしたのだが、可憐さんはやる事が残っているという事なので、先に帰る事にした。
同じ市内のダンジョンだし1人で帰れると言われ、それもそうかと納得した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
助けられた探索者視点
今日初めて35階層に降りた俺達は、35階層での初戦闘で全滅しかけていた。
遭遇したのは鎧ムカデ5体。
34階層から出て来る魔物で、俺達も戦い慣れた魔物だったのだが、34階層では1体ずつ出て来る魔物を5体相手に俺達のパーティーはもう少しで全滅する所まで追い詰められ、心が折れそうになっていたタイミングで、新手の魔物が乱入して来た。
雪うさぎの様な見た目のその魔物が乱入して来たお陰で、俺はとどめを刺されずに済んだのだが、新手の魔物の強さを目の当たりにして、絶望してしまった。
その魔物は、俺に攻撃を仕掛けて来ていた鎧ムカデを止めた後、目で追えない程のスピードで鎧ムカデに近付き、気付いた時には1体の鎧ムカデを光の粒子へと変えていた。
更に近くにいた別の鎧ムカデにも攻撃を仕掛け、あっさりと2体目の鎧ムカデも倒してしまった。
そのタイミングで男に声を掛けられ、我に返った俺は、その男と仲間だと思われる女の子達に逃げる様に言ったのだが、驚く事にあのうさぎ型の魔物は男の従魔だと言い、自分達も介入すると言って来た。
残りの鎧ムカデは文字通り瞬殺され、大怪我を負い意識を失っていた仲間達も、男の仲間の女の子の回復魔法で救ってもらえた。
それでも意識を失っている仲間達をどうやって連れ帰ろうか悩んでいると、他言禁止を条件に支部まで連れ帰ってくれた。
まるで転移陣で戻って来たかの様な感覚だった。
彼らと別れ、仲間達に付き添って医務室に移動し、回復術士の人に全員無事であると言われて、漸く安心する事が出来た。
仲間達が目を覚ますのを待っていると、受付の職員がやって来た。
以前は見掛けたが、最近は見掛けなかった富士森公園支部でも1番人気のあった受付嬢だった。
彼女は今日戻って来た方法は、仲間達も含めて一切他言禁止である事を確認し、もし他言した場合には、罰金が科される事が書かれた書類を出し、サインを求めて来た。
命の恩人を裏切るつもりはないので、素直にサインをすると、彼女はサインを確認して書類を持って戻って行った。
俺達を助けてくれた彼らが、今話題のクローバーだった事に気付いたのは、家に帰ってニュースを観た時だった。




