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ある日ダンジョン出現に巻き込まれた  作者: 鹿野
2章 目指せSランクパーティー
77/129

#77 豚の角煮

 9月22日(祝・月)


 今日は1日家でゆっくりするつもりだったのだが、無性に豚の角煮が食べたくなってしまい、どうせならビッグボアの角煮を作ってもらおうと、夕方に1人で学校のダンジョンの4階層に来てしまった。


 この階層ならビッグボアは5体で出て来るので、効率がいいと思い5階層の転移陣を使って移動して来た。


 今日は雛がいないので5割もの確率でドロップアイテムが出る事はないだろう。

 通常ドロップの普通のドロップ率は3割程らしいので、俺も同じくらいだと思う。


 とはいえ、10体倒せば3Kgのバラブロックが手に入るので、すぐに帰れる筈だ。


 案の定、バラブロック3Kgはすぐに手に入ったので、さっさと帰ってばあちゃんに作ってもらおうと思ったのだが、5階層に降りたタイミングで悲鳴が聞こえた。


 慌ててサーチを使いながら悲鳴が聞こえた方に走った。


 途中ですれ違った探索者が逃げろと言っていたが、無視して走った。


 見えて来たのはこんな浅い階層にいては行けないレベルの魔物、30階層のボス、タイランド・ウルスス・マリティムスだった。


 近くに人はおらず、悲鳴の主は逃げられた様だったが、こいつを放置する訳にも行かない。


 ほのかも雪兎もエレンもいないので、ウィンドアーマーは掛けてもらえないけど、今の俺なら素の能力だけでもこいつを倒せるだろう。


 瞬歩で接近して横一閃、タイランド・ウルスス・マリティムスの首を刎ね飛ばし、光の粒子へと変えた。


「ドロップアイテムはなしか〜」


 俺はタイランド・ウルスス・マリティムスが落とした中魔石だけを拾い、転移陣まで歩いて戻り、支部へと帰還した。


 帰還した支部内は大騒ぎになっていたのだが、気にせず専属カウンターへ行き、紗奈さんに魔石の換金を頼んだ。


「これって中魔石?」

「ええ、5階層に30階層のボスのタイランド・ウルスス・マリティムスがいたので、ついでに倒して来ました」

「えっ!?5階層で発生したダンジョンの気まぐれで出て来た魔物って、マーダーグリズリーじゃなかったの!?」

「ええ、タイランド・ウルスス・マリティムスでしたよ?一応、サーチで周辺を調べましたけど、サーチの範囲内にマーダーグリズリーはいませんでしたから、タイランド・ウルスス・マリティムスをマーダーグリズリーだと勘違いしたんじゃないですかね」

「なるほどね。ちょっと待っててね。支部長に報告して来るから」


 紗奈さんは俺を残して奥へと行ってしまった。

 5分もしない内に支部長の井上さんが、紗奈さんと一緒に現れた。


「黒木くん、久し振りだね」

「お久し振りです」

「海野さんから報告を受けたんだが、5階層で発生したダンジョンの気まぐれで出て来たのは30階層のボスのタイランド・ウルスス・マリティムスで、既に黒木くんが討伐したという事で間違いないかい?」

「ええ、間違いないです」

「そうか。ありがとう。5階層に30階層のボスが出るなんて、普通だったら大惨事になっているところだ。今回、最初に遭遇した探索者もすぐに逃げて、無傷で戻って来てくれてるし、彼がダンジョンの気まぐれが発生した事を知らせながら逃げてくれたお陰で避難がスムーズに進んだ事もあるが、黒木くんが偶々いてくれたお陰で早期に無事解決出来たよ。ありがとう。」

「まあ、ホントに偶々でしたけどね」


 井上さんからのお礼の言葉を受け取り、挨拶をして帰路に就いた。


 帰宅して、ばあちゃんに角煮を作って欲しいとビッグボアのバラブロック肉3kgを渡し、自分の部屋に着替えに行く。

 圧力鍋を使えば1時間くらいで作れるらしい。


 コンコン


「春くーん、何で1人でダンジョンに行ったのー?」


 着替えていると、ドアをノックして唯佳が部屋に入って来た。


「唯佳?ノックをしたら返事があってからドアを開けるんだよ?勝手に開けちゃダメなんだよ?」

「知ってるよーでも、春くんの部屋だから平気ーそんな事よりも何でダンジョンに1人で行ったかの方が大事なのー」


 何だか唯佳が怒っている様に見えるんだが...?


「いや、急に無性に豚の角煮が食べたくなってな?どうせだったら美味しいのが食べたいなって思ったから、ビッグボアのバラブロック肉を取って来ただけだけど...」

「だったら私を誘ってくれればよかったのにー低階層とは言っても、もし何かあったらどうするのー?」


 どうやら心配して怒ってくれている様だ。


「心配してくれてありがとうな。でも、4階層くらいじゃ何も起きないy...あっ」

「どうしたのー?」

「いや、何でもないよ」


 ダンジョンの気まぐれが発生してタイランド・ウルスス・マリティムスと戦闘になった事が頭に浮かんだのだが、無駄に心配させる事もないかと思い、敢えて言わなかった。


 すると唯佳が何処かに連絡をし始めた。


「あっ!紗奈ちゃん?唯佳だよー。今日春くんの対応してくれたのって紗奈ちゃんだよねー?あのねー今日、春くんに何かなかったー?」


 唯佳の通話相手は紗奈さんだった様だ。って、それはマズイ!紗奈さんには特に口止めをしていない。今日起こった事を報告されてしまう。


 だが、気付いた時には時すでに遅しだった。


「えっ!?ダンジョンの気まぐれでタイランド・ウルスス・マリティムスが出て、春くんが1人で討伐したの!?」


 唯佳の視線が突き刺さった。


「紗奈ちゃん、教えてくれてありがとーじゃあ、またねー」


 唯佳は紗奈さんとの通話を切ると、今度は誰かとコミチャでやり取りをしながら、無言で部屋から出て行った。


 怒られずに済んでホッとしたけど、唯佳の行動が凄く気になった。


 着替えを済ませリビングに降りて行くと、何故か雛とほのかもおり、俺を手招きしている。


「雛とほのかは何でここにいるんだ?」


 手招きされたので近くに行きながら質問すると、床を指差され、唯佳に正座を命じられた。


「春くん?ダンジョンの気まぐれに遭遇したんだって?」


 正座している俺を取り囲んだ唯佳、雛、ほのかから厳しい視線が向けられる。


「はい」

「さっき聞いた時は何も起きなかったって言っていたのに、どういう事かなー?」

「いや、一撃で倒せたし、何も問題はなかったので...」

「春斗くん?私は、そもそも1人でダンジョンに行った事自体が間違いだったと思っています」

「何でアタシ達に言ってくれなかったん?」

「いや、4階層でビッグボアのバラブロック肉を取りに行っただけなので、わざわざみんなに付き合ってもらう程の事でもないかと思いまして...」

「確かに私達は、1人でもある程度の階層までなら問題なく対処出来ると思います。ですが、だからと言って油断していいという事にはなりません!」

「そうだよ!春くん!」

「ただでさえ油断癖のある春斗っちなんだから、気を付けなきゃダメじゃん!」

「はい...」


 3人からお説教されていると、様子を見ていた智佳姉と凛もこちらに寄って来た。


「な~に春斗、また油断しちゃったの?」

「お兄ちゃん?唯佳姉達に心配させちゃダメって言ったよね?」

「はい...」


 3人に加え、智佳姉と凛からもお説教されていると、ばあちゃんが夕飯が出来たからまずは食べる様にと声を掛けてくれた。


 心の中でばあちゃんに感謝しつつ席に着いた。

 今日は俺のリクエストの豚の角煮だ。

 怒られる原因になってしまったけど、ビッグボアのバラブロック肉を使って作った角煮は、それだけの価値がある一品だ。


 顔には出さない様に気を付けながら、気持ち的には喜び勇んでテーブルの上を確認する。


 3kgもの肉で作られた角煮は十分な量あるのだが、俺の目の前には戻していない状態の乾燥わかめが、小皿に山盛りで置かれている。


「あ、あの、ばあちゃん?これは?」

「春斗の分のおかずよ?また油断をしたって聞いたから、今度は昆布じゃなくてわかめにしてみたの」

「えっと...角煮も食べていいんだよね?」

「何故いいと思ったの?良くないわよ?」

「.....」


 俺のおかずは戻していない状態の乾燥わかめだけらしい...


 俺が食べたくて取って来たビッグボアのバラブロックを使った角煮は、俺以外の胃袋に納められて行く。


 俺は乾燥わかめを食べながら、食べやすさは昆布よりも上だけど、味的には昆布の方が断然上だな、なんて感想を呟いた。


 油断した時のおかずが、どんどん酷くなっていっているけど、今の状況では文句も言えないので、甘んじて受け入れるしかなかった...

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