第四十六魚 父親
おサンマをキメる時は周囲を明るくし、精神状態を整え、周りの目を気にしながらキメましょう。
『三魔との約束だ!』
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
貫け!走れ!
刃を振るえ!
金色の夢を抱いて〜
常闇の街に
狂笑が鳴り響く〜
絶望の到来
終末の鐘が鳴り渡る〜
誓いを込めた
刃を胸に
サンマを裂く刃金
金色の夢を抱く者よ
飛び立て〜闇黒の空に~
闇を討ち倒すために!
貫け!走れ!
獅子の如く駆けろ!
喪おうとも吼えろ!
魔を裂く刃となれ
三魔~~~!!
『駆けろ!三魔』
「ったく、上はあいつをどうするつもりなんだ?」
屋敷常駐をしている男の日魔星がボヤきながら部屋の前に立っていた。
日魔星の背後のドアの向こうには聖良が拘束されている。
「お、マリアンヌちゃんだっけ?」
角から覗き込む私に気づいて手を振ってきた。
「俺になんか用?」
何かを期待するように声を弾ませて、日魔星がこちらまで歩いてきた。
「あ、えっと、そうであります」
「え〜まじ〜?なになに〜?」
「ちょっと、お聞きしたいことがあるであります」
そう伝えると日魔星は分かりやすく目を輝かせ、
「まじか〜なんでも答えちゃうよ?とりあえずお茶する?」
と誘ってきた。
「お誘いは嬉しいでありますが、遠慮するでありますよ」
「うーん残念。で、話って?」
少し落胆するそ素振りを見せながら聞いてくる。
「その…聖良ちゃんはどうでありますか?」
「どうって?」
「体調とか…どうしてるとか」
「体調はねー元気っぽいね。どうしてるかって言われても、ひとまずは大人しくしているように見えるね」
一応は仕事をしているようで澱みなく答えられる。
「あの子のこと気になるの?」
単純に疑問とばかりに問われる。
聖良は一昨日の晩、三魔さんを奇襲し大怪我を負わせる要因になった。
さらに、昨日の晩に脱走して病院の個室にいる三魔さんのもとに忍び込んだ。
幸い、大事には至らず三魔さんは怪我人とはいえピンピンしている。
だが、二度の凶行により聖良の扱いはより厳しくなった。
「気になるであります…。出来れば少し話をしたいであります。難しいでありますか?」
「話かぁ…うーん…」
駄目元で聞いてみたのだが、やはり難しいようで日魔星は顔を悩ませている。
「申し訳ないであります。でも、ちょっとだけ…」
「本当に?本当にちょっとだけでいい?」
「はい、本当にちょっとだけでも」
「わかったよ…みんなには内緒だよ?」
日魔星が渋々と了承し、ドアの鍵を取り出す。
「ありがとうでありますよ!」
「お礼ならこの後お茶でも」
にっこりと笑い、日魔星から鍵を受け取って中へ入る。
寝床と小さなデスクのみが据え付けられた簡素な部屋。
そのシーツは白いが古臭いベットの上に聖良が腰掛けていた。
「お話、いいでありますか?」
「お前…あの時の」
「はい、サン・マリアンヌと言うであります。マリアンヌと呼んで欲しいであります」
「誰がそんなに馴れ馴れしくするか」
「聖良ちゃんでありますよ」
「呼ばねーって意味だよ」
刺々しく答えると聖良がそっぽを向く。
「で?なんだよ」
「え、お話していいでありますか?」
「暇なんだよ、それぐらい付き合ってやるよ」
「それは嬉しいであります。えっと、じゃあ、元気してるでありますか?」
「元気だよ」
「ご飯は美味しいでありますか?」
「普通だよ」
「何をしてたでありますか?」
「別に。ボーッと」
「じゃあ…」
「もういいから本題に入れよ」
私の質問を遮るように聖良が言い放った。
「話したいこと、別にあるんだろ?」
私の方を向いて問いかけてきた。
「…なんで三魔さんを襲ったでありますか?」
「…………お前に言いたくない」
「そうでありますか…」
「でも」
「でも?」
「一つだけ、頼みを聞いてくれるなら…答えてもいい」
私の目を見据えて真剣に言ってきた。
「頼み事でありますか?どんな?」
「行きたいところがあるんだ」
「どこでありますか?」
「サンマランドの…行けばわかる。手伝ってくれるのか?くれないのか?」
私の目を真剣に見つめながら聖良が言う。
「…そうでありますね」
わたしは立ち上がり、聖良に背を向けるとドアを叩く。
「ちょっときてほしいでありますよー」
ドアの向こうの日魔星を呼ぶと、すぐに部屋の中に入ってきた。
「なんだ?何かあったか…?」
「はい…実は」
日魔星の耳元に顔を近づけ囁く。
「ちょっと眠っていて欲しいでありますよ」
「えっ──?」
男の日魔星がその言葉の意味を理解するよりも早く首元を掴んでサンマーシャルアーツの技で強く締める。
「うっ…ぐっ」
すぐに泡を吹いて日魔星が倒れ、ベットに寝かし付けると日魔星のコートを脱いで手足を縛る。
「さ、バレないうちに行こうであります」
今起きた出来事に面をくらっていた聖良に声をかけ、外に連れ出した。
まだ日が高く、活気に溢れるサンマランドを歩く。
人並みの中、聖良を逃さぬように手を繋ぐ。
「そんな事しなくても逃げねーよ」
「はぐれると困るでありますから」
「ガキ扱いするなよ」
「自分の方が歳上であります」
「チッ」
わざと聞こえるように聖良が舌打ちをする。
「それで、目的地はどこでありますか?」
「着いてくればわかる」
「…まさか三魔さんの所でありますか?」
「ちげーよ。今はあいつはいい。とにかく着いてこい」
「サンマランドに来たことあるんでありますね」
「あぁ、ガキの頃な…」
そう答えたきり、聖良が黙り込む。
黙々と人の波をかき分け、進んでいく。
けれど、先程から右に曲がったり、ひだりに曲がったり、まるで行き当たりばったりかのように歩き回っている。
「行きたいところ、分からないでありますか?」
「…よく覚えてないんだよ」
そう答えると、また右往左往と彷徨い始める。
サンマナフィーの水槽の前を通ったり、サン麻婆豆腐の店の脇を通り過ぎたり、サンマホガニーの街路を渡ったり。
サンマランド中を回るんのではないかと思えるほどの
行脚が続き、日が傾き始める。
「思い出せない…でありますか?」
「まぁな」
罰が悪そうに聖良が答える。
「あの時もこんな風に迷ってて…気づいたらその店の前にいたんだ」
「店…でありますか」
「あぁ。私にとっては思い出のな」
「思い出のでありますか!じゃあ絶対見つけないとでありますね!」
立ち上がり、聖良に告げる。
「そうだな」
聖良も立ち上がり、二人で歩き始める。
日が沈み始め、早く見つけなければと焦燥感に駆られ、少し歩調を早くする。
やがて、聖良が店の前で立ち止まった。
「ここだ…」
「ここ…でありますか」
そこは小さな雑貨屋だった。
けれど、小さいながら店構えは立派で高級そうな雰囲気を醸し出している。
立ち止まっていた聖良だが、ドアに手をかけると中に入った。
店の中はレジに老年の男性がいるだけで他の人は見当たらず、細々とした雑貨の数々を一人で管理しているようだった。
聖良は一番端の棚から睨みつけているように見えるほどじっくりと見つめて何かを探し始めた。
そして、入口から数えて三番目の棚の前で足を揃えて固まってしまった。
「何があるでありますか?」
棚のものを穴が空くほど見つめていた聖良は一つを手に取り、私にみせてきた。
「こらは…髪飾りでありますか?」
白を基調としたデザインに花柄をあしらえた綺麗なものだ。
「きれーであります」
「あぁ…そうだな」
その一言を呟くと、聖良は商品を棚に戻してレジの老人に頭を下げると店の外に出た。
「あの時、迷子になっててさ。泣く泣く歩き回ってたらここに着いたんだ」
私が聖良について店の外に出ると、側まで寄ってきて聖良が話し始めた。
「あの頃はガキで一人でいるのが怖かったよ。でも、日魔道士たるもの涙を流すなって父に教えこまれてたから涙をこらえてた」
聖良が一泊置いて語り続ける。
「でも、この店に来て、綺麗なものを見ていたら不意に涙が零れ出した。止めなくちゃ父に怒られるって必死で止めようとした。でも…」
その時を懐かしむように聖良が目を細めた。
「父は怒らなかったよ。むしろ心配してサンマランド中を走り回って、泣いている私を見つけたら優しく抱き止めてくれた」
聖良が目をつぶり、追憶に浸る。
「私は嬉しくて、そして、わがままを言いたくなった。手にしていた髪飾りを欲しいとねだったんだ。稼ぎの少ない父は普段は何があっても買ってくれない品物だ。でも、その時は買ってくれたよ」
髪の毛を抑え、聖良が笑う。
「今は…ないんだけどね。大切にしてたんだけど、壊れちゃったよ」
「……それは残念でありますね」
「ああ。それでも、父があの時、この店でやってくれたことは無くならない」
「お父さんのこと大好きでありますね」
「…ろくでなしのまともな父親じゃなかったよ。だけど、愛していた。……だからなんだ」
「だから?」
「だから、あの男を殺そうとしたんだよ」
「えっ…?」
聖良の吐露した言葉を聞き、思考が白く染る。
「あの男が父を殺した」
「三魔さん…が?」
「ああ…。海で……」
「まさか…聖良のお父さんは…」
「お前もその場にいたのか?」
聖良の問いかけ。
三魔さんに海で殺された人物。
つい最近の忌々しい記憶が脳裏で蠢く。
「確かに…自分はその場にいたであります」
「そうか」
私の答えを聞いて、聖良が一度目を伏せた。それから、私に問いかけた。
「あいつから聞いたよ。父も人を殺したと。…どんな奴だったんだ?」
「…自分の友達であります」
海で殺された友達。
彼女の最期が脳裏をよぎり、手が震える。
「友達か…。他には?」
「名前はサリー。とても真面目な子でありましたよ」
「それだけか?」
「それだけであります。…サリーと過ごした時間は少ないであります」
その一言を告げると、聖良は悲しそうに目を伏せた。
「聖良、もうそろそろ帰るでありますよ」
「ああ…」
頷くと聖良が来た道を戻り始める。
私は後ろを歩きながら、聖良に話しかけた。
「自分はサリーのことをよく知れなかったであります。それを後悔しているであります」
友達だと胸を張りながら、匂いの好み一つすら知ること無かった彼女について思いを馳せる。
「だから。もう後悔したくないであります。自分は聖良のことを知りたいであります」
聖良に肩を並べて、そう告る。
告げられた聖良は少し戸惑うように表情をコロコロと変え、立ち止まった。
「嫌でありますか?」
「……お前なら…ちょっとぐらいはいい」
顔を赤くし、聖良が呟いた。




