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人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
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第四十三魚 血祭

 おサンマをキメる時は周囲を明るくし、精神状態を整え、周りの目を気にしながらキメましょう。

『三魔との約束だ!』


 闇ありし所にサンマあり。

 死をもたらす災厄の化身。

 サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。

 だが、人は希望の光を手に入れた。

 人を守り、人を導く存在。

 人は彼らを称えてこう呼んだ。

『日魔星』


 貫け!走れ!

 刃を振るえ!

 金色の夢を抱いて〜


 常闇の街に

 狂笑が鳴り響く〜

 絶望の到来

 終末の鐘が鳴り渡る〜


 誓いを込めた

 刃を胸に

 サンマを裂く刃金

 金色の夢を抱く者よ

 飛び立て〜闇黒の空に~

 闇を討ち倒すために!


 貫け!走れ!

 獅子の如く駆けろ!

 喪おうとも吼えろ!

 魔を裂く刃となれ

 三魔~~~!!


『駆けろ!三魔』


「見るな」

 そう呟いて三魔さんが村正刀魚を突き落とした。

 その光景を見てはいけないのだと思った。

 背けなければいけないのだと。

 瞼を押し下げ、視界を閉じようとする。

 けれども、頭の中にあるドロドロとした感情がそれは許さないと訴え、私は瞳を見開く。

 村正刀魚に貫かれ、青葉のように血が大きく広がる。

 三魔さんが湧き出る血に塗れた村正刀魚を引き抜くと、血払いを済ませて納刀する。

「マリアンヌ…帰ろう」

 サンマを討ち倒した後のように。

 いつもと変わらず三魔さんが呟いた。

 三魔さんは私に背を向け、血溜まりの中で茫然と立ちつくす。

 サンマイクで連絡を入れ、三魔さんに背を向ける。

 胴体を貫かれ、一切動くことが無くなった友達の元へ駆け寄る。

 サリーは大きく目を見開き、驚愕した表情を浮かばせ続けている。

 綺麗な白髪は紅く染まり、まるで別人のようだ。

 手を伸ばし、その体を抱きとめる。

 煤けた鉄のような匂いが鼻を突く。

 血が抜けたせいかサリーの体は軽い。

 まだ体は温かくて、まだ生きているように感じる。

 それでも、彼女の心臓が動いていないことで無情にも現実を突きつけられる。

 不意に目頭に燃えるような熱が広がる。

 けれども、涙は一切流れ落ちず、視界を滲ませるだけだ。

 身体中にのしかかる鉛のような重さを感じつつ、頬を撫でる潮風の匂いに包まれていた。


 月下の路地。

 住宅街から離れた工場地帯の曲がりくねった道路の上。

 息絶えたさんまの死骸の中に人の死骸が混じっていた。

 肩口や腹部をサンマに噛みちぎられ、妖しきサンマの呪いによりさんまを噎せて死に絶えたのだ。

 鯉口を切り、村正刀魚に手をかける。

 月明かりを背に、サンマへと向かう。

 サンマ共は絶えた人を眺め、物珍しそうに覗き込んでいたが、俺に気づき振り返る。

 俺を敵と視認し、鈍色をしたサンマが吼える。

 数は三。

 普通のサンマとは一線を駕す妖色サンマ(ようしょくさんま)なれど、恐れなどない。

 村正刀魚を抜刀し、突き進む。

 妖色サンマは口を大きく開き俺を威嚇するが、止まらない。

 まずは一太刀。

 肩口より袈裟懸けに刃を走らせる。

 狙った一番手前の妖色サンマは後ろに飛び跳ねてそれを躱す。

 続いて二体目が俺の隙を逃すまいと正面から吶喊してくる。

「舐めるなよ」

 その一言共に手首と刃を翻し、斬り上げる。

 秋刀魚返し(つばめがえし)

 腰の位置から肩にかけて斬り裂かれたサンマは悲鳴を上げる暇もなく両断され息絶えた。

 村正刀魚を振るい、血を払うと刃を上段に構える。

 残りの二体は易々と斬り捨てられた仲間を見て、俺から距離を取り警戒しているようだ。

「そちらから来ないのであれば俺から行くまでだ」

 地を蹴り駆ける。

 二体のサンマは身を寄せあっていたが、吶喊してくる俺を見て左右に別れた。

 鉤爪を構え、二方向から俺に飛び掛る。

「なるほど、サンマにしては賢いな」

 左を斬れば右が、右を斬れば左が。

 単純かつ合理的な捨て身の策。

 左右より迫る妖色サンマの鉤爪。

 右方に飛び、鉤爪を村正刀魚で払う。次に、着地と同時に地を蹴り、背後の妖色サンマの鉤爪が俺を刺すより早く、前後の妖色サンマをまとめて回し蹴りで一蹴する。

「お前ら…本当に何ものだ?」

 通常のサンマでは確実にこういった行動を取らない。

 なぜなら、通常のサンマはただ人間を貪る魔でしかない。

 奴らは無抵抗な人間を貪る残虐な知性があれど、戦略的な知性などなく、日魔星と相対しても、他の人々にするように襲いかかることしか能はない。

 サン魔ならまだしも、サンマ同士が連携をとって一体の獲物を仕留めようと行動することは異常なのだ。

 まるで人を貪るためにでは無く、日魔星と戦うために作られているような。

 そんな印象を感じつつ、鉤爪を刃で弾いた妖色サンマに刃を突き出してトドメを刺す。

 引き抜いてすぐに残る一体に向け刃を構える。

 一体になった妖色サンマはもう既に俺から距離をとり、間合いから外れていた。

 天を衝くように切っ先を大きく上に向け、肩口に構えると吶喊する。

「魚オオオオオオ!!」

 妖色サンマはその場で腰を落とし、受けの姿勢をとる。

 緩むことなく駆け続け間合いまで入ると踏み込み、自重を乗せて渾身の一太刀を振るう。

 その一太刀を妖色サンマが受け止める。

 俺の自重と刃の重みを両腕で支え、踏ん張る。

 地に着いた足で踏み込み、刃を押し込める。

 それに応えるように妖色サンマが踏ん張るが徐々に刃が押し込まれ、腰が引けていく。

 やがて、妖色サンマの腕が斬り落とされ、地に落ちる。

 すぐさま後退しようと背後に跳ねる妖色サンマだが、俺が刃を突き出すのが早く、その喉元を貫かれる。

 村正刀魚を引き抜き、血払いを済ませると納刀せずに声を上げる。

「いるんだろ?出てこい」

 路地内に反響する俺の声。

 数瞬の静寂の後、俺を挟み込むように路地の入口と出口から人影が現れた。

 入口には一人、出口には二人。

「…お前ら日魔道士だな?」

 入口側の日魔道士に問いかける。

 答えは沈黙。

「お前らの仲間がとっくにゲロってるよ」

 先日、二人の男に襲われそのうち一人は生かして捕らえたのだ。

 男は旬のさんまを目の前で七輪で炙り、白米と一緒に食べる様を見せつけ続ける日魔星特有の拷問で数分で吐いた。

 その後、サワンナ法師に連絡を入れ、顔写真で確認してもらったところ確かに日魔道士であった。

 日魔道士も日魔星も戦い方が違えど、志すことは同じ。

 信じ難いが、その男含め数名の日魔道士と連絡が取れていないという事実もあり、信じざるおえなかった。

「……お命頂戴す」

 日魔道士の内一人が呟き、地を蹴った。


 友達(サリー)の部屋に踏み入れる。

 先日、主を失った部屋だが内装は片付けられていないと聞き、片付けを申し出たのだ。

 サリーの部屋は備え付けられたベットやデスク、空っぽの本棚と数着の衣類が畳んで置いてあるだけでほとんど何も無かった。

 サリーがここで過ごした時間は決して長いとは言えない。

 けれど、床や棚には微かにホコリやサリーの綺麗な白髪がつのっており、ここで彼女が時を過ごした跡が残っている。

 綺麗に畳まれた衣類を持ち上げる。

 私が一緒に買いに行った服だ。

 大切に着ていてくれたのだろう。

 汚れや解れはほとんどなかった。

 服からは微かに洗濯剤の匂いがした。

 三魔さんと同じ匂い。

 同じ屋敷に住んでいるのだから当たり前なのだろう。

 でも、正直に言ってあまり女の子らしくない臭くないだけの匂い。

 男であれば気にしないのだろうけれど、女の子としてはすこし味気ないのかもしれない。

 柔軟剤、あるいは香水なんかを使ってもいいだろう。

 そういえば、秋刀魚商工会(サンマーケット)の方にサンマンデビラ・ボリビエンシスの香水が売っていた。

 サリーの日魔星就任祝いにプレゼントするのもよかっただろう。

 でも、サリーはプレゼントしたら喜んでくれただろうか?

 サリーはこの洗濯剤の匂いが好きなのかもしれないし、匂いにこだわりがないのかもしれない。

 …サリーとの過ごした時間は少ない。

 私はこの先何倍もの時間をサリーと過ごすのだと思っていた。

 サリーが日魔星になると言った時は心から心配した。でも、彼女が本気でそれを口にしていることを知って心から応援もしたのだ。

 サリーが日魔星として才能があり、すぐに就任したことが、ただただ嬉しかったのだ。

 自分の友達はすごい。

 自慢の友達なのだと、吹聴したくなった。

 私はそんな自慢の友達の好みさえも知らなかったのだ。

 それを知っていくことができると思っていたから、知ることがなかった。

 この主のいない寂れた部屋からではサリーを知ることが出来ない。

 微かに積もったホコリを払い、サリーが来ていた服を持って部屋を出た。

 ほんの少しでいい。

 僅か、ほんの僅かなのだけど、サリーがここにいた痕跡を残したかったのだ。

 片付けることを勝手でたのだけど、何もしていないに等しい。

 きっと、誰も責めないと思うのだけど、胸の中にほんの少しの罪悪感。そして、寂寞感。

 外はもう暗くなっていて、夜闇が入り込んでくるように胸の中がざわつく。

 ざわつく心を無視して、家に向かうために玄関へ。

 けれども、外に出て夜闇に対面した瞬間、わたしの心がどうしようもなく震えた。

 悲しみや寂しさや憎しみ。

 夜闇に包まれるとそんな気持ちが胸に広がる。

 私は踵を返して、屋敷へ戻る。

「三魔さん…いるでありますかね…」

 一人でいるのが堪らなく怖くなって、三魔さんに会うことにした。

 私にとって三魔さんは誰よりも強い。

 浅はかで自分勝手なのだけど、今はその強さに縋りたかった。

 三魔さんの部屋の前まで来てノックをする。

 中からは返答がなく、どうやら不在のようだ。

 寂しさを感じつつも、ここで待ち続ける訳には行かず、諦めて帰ることにする。

「あーキミ。三魔さんとよくいる子だよね?」

 三魔さん部屋に背を向け、廊下を歩き始めると声をかけられる。

 振り返ると、屋敷に常駐する日魔星の一人だった。

「はい、何か用でありますか?」

「いやぁ、その用というかね、ちょっと聞きたいというか…」

 歯切れ悪く日魔星は答え、続ける

「なんというかさ、最近?三魔さんがちょっと変というかさ…。余裕が無いというか。さっきも、サンマを一人で狩るって聞かなくてさ、一人でいっちまったよ。えっとさ、つまり…何か知らない?」

 困り果てたように頭を掻き日魔星が言い終えた。

「三魔さんは…その、最近忙しいでありますよ」

 心当たりはあるのだけど濁す。

「三魔さんが向かった場所、分かるでありますか?」

「あ、えっとねー」

 日魔星がサンマイクで仲間に連絡をして、居場所を確かめる。

 三魔さんはサンマランドの路上の方へ向かったようだ。

「ありがとうであります」

 頭を下げ、サリーの部屋に行くと、服をベットの上に置いて外へ向かう。

 三魔さんは強い。

 きっと、どんなサンマが来ても足元に及ばないだろう。

 そう信じる傍ら、胸の鼓動がどこか不吉な予感を告げていた。

 再び夜闇に対峙して、ざわつく心を無理やり従わせて駆け出した。


 村正刀魚を振るう。

 あくまでも冷酷に。

 対敵に向かって命を奪うために。

「ひいっ……ひぃ!!」

 最後の一人が腕を斬り落とされ、尻もちを着く。

 涙を浮かべ、懇願するようにオレを見上げる。

「やめてくれよ…なぁ…?」

 くしゃくしゃの顔で、くしゃくしゃの声。

 必死に俺を見つめて、命乞いを続ける。

 俺の背後には首を斬り落とされた死体が二体転がっており、白銀の刀身の村正刀魚は赤く染まっている。

 村正刀魚を振り上げる。

「やめてくれ、助けてくれよ…もう二度とこんなことを…」

「お前の仲間は俺の仲間に命乞いなど許さなかったよ」

 冷淡に、鉄のように硬い言葉を吐き出す。

「ひ、ひとごろしぃ!!」

 その絶叫だけを残し、男の首が宙を舞った。

 血払いをするために村正刀魚を振るう。

 サンマを斬った後に行ういつも通りの仕草。

 けれど、村正刀魚に付いた血は中々落ちることがない。

 噎せ返るような血の匂いを吸い込んで溜息をつく。

 帰投後にしっかりと手入れをしようと決め、一先ず納刀し踵を返そうと足を引く。

「ひ…人殺し!!」

 背後から少女の声が響く。

 ──あぁ…見られてしまったか。

 心は酷く落ち着いていて、そのような感想しか湧かない。

 目撃者をどうしたものかと、振り返る。

 瞬間。

 銃声と共に胸に衝撃が走った。

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