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人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
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第四十二魚 殺人

 おサンマをキメる時は周囲を明るくし、精神状態を整え、周りの目を気にしながらキメましょう。

『三魔との約束だ!』


 闇ありし所にサンマあり。

 死をもたらす災厄の化身。

 サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。

 だが、人は希望の光を手に入れた。

 人を守り、人を導く存在。

 人は彼らを称えてこう呼んだ。

『日魔星』


 貫け!走れ!

 刃を振るえ!

 金色の夢を抱いて〜


 常闇の街に

 狂笑が鳴り響く〜

 絶望の到来

 終末の鐘が鳴り渡る〜


 誓いを込めた

 刃を胸に

 サンマを裂く刃金

 金色の夢を抱く者よ

 飛び立て〜闇黒の空に~

 闇を討ち倒すために!


 貫け!走れ!

 獅子の如く駆けろ!

 喪おうとも吼えろ!

 魔を裂く刃となれ

 三魔~~~!!


『駆けろ!三魔』


 生きるということは無限ではない。

 愛する人に囲まれて静かに息を引き取るのも、サンマに引き裂かれ苦痛に堕ちていくのも。

 畢竟は同じ。

 死とは誰にも同価値。

 サンマに引き裂かれる父と母を見てそれを知ったのだ。

 父と母の生暖かい血の温もりを受けて、この世に終わりがあるのだと。

 大事にしていた玩具を壊したことがあった。

 お母さんが大切にしていたお皿を割ってしまったことがあった。

 砕け散って、もう二度とは戻らない形。

 そこに終わりがあるのを知っていた。

 それでも、一番大切な何かが壊れることはないと。

 漠然とそう信じて、変わり続ける不変の明日を信じていた。

 生とは形のある有限。

 死とは形のない無限。

 私という形が、私たちという形がある限りそれは有限。

 私たちは変わり続け、やがて形のない無限へと堕ちていく。

 貪られ原型を留めない父も、それを見つめて眉ひとつ動かすことが出来ない頭だけの母も。

 それが永遠なのだ。

 それが必然なのだ。

 それが生なのだ。

 生きている限り、人はそこへ歩み続ける。

 …だからこそ。

 堕ちていくだけではなく、歩み続けるだけではなく。

 生を享受しなければいけない。

 許してはいけないのだ。

 終わり(サンマ)を。

 有限だからこそ無限であるために。

 燃え尽きる一瞬まで輝き続ける星のような人の生は美しい。

 それを嘲笑うサンマを。

 許せるものか。

 私は日魔星として戦うことを選んだ。

 けれど、それは私怨。

 あるいは、復讐。

 根底にあるのはサンマへの恨み。

 私は人のために自分の復讐を続けてきた。

 苦しくて辛くても。

 人を守るという正義(復讐)のために。

 そうやって生きてきて…。

 サリーの血を浴びる。

 つい先刻まで笑っていた彼女は、腹部に大きな穴を開けて唖然としていた。

「こっ……ひゅ……」

 声の代わりに血を吐き出して、今何が起きているのか見当もつかないように首を傾げた。

 そのまま、痛みに呻くことなくサリーの表情は彫像のように固まって、一切変わるがことなくなった。

 サリーの体を駆け巡っていた生暖かい血が私の首筋を伝う。

 写真を組みあわせたような遅回しの光景の中、鋭敏になった感覚が伝うサリーの血液をくすぐったいと告げる。

 早鐘を打つ心臓が煩わしい。

 サリーの体を拳で貫いて、男は卑しく笑っている。

 一人の少女の命を踏みにじったことを誇るように。

 殺意。

 冷えきったシチューのようにドロドロと固まった感情が私の胸を詰める。

 懐には秋刀魚銃がなく。

 変わりに握りしめた拳を放つ。

 男がサリーの体から手を引き抜くと、血塗れた拳を払う。

 サリーの血が飛んできて、瞼に生暖かい感触。

 咄嗟に目を閉じたため、拳が空を切る。

 暗闇に包まれたまま、二発目を放とうとした瞬間。

 首元を掴まれ、私の体が宙を浮く。

 足をばたつかせながら逃れようとするのだけど、ガッツリと掴まれており逃げ出せそうにない。

 サリーの血を浴びた瞼を押し上げる。

 そこには、サリーの体を貫いた時のように卑しく笑う男の顔が広がっていた。


 アスファルトを打つ俺の足音が酷く遠くから響いているように感じる。

 早く、速く、迅くと心が沸き立つ。

 男に拳を突き出すマリアンヌ。

 崩れ落ちるサリーの体。

「やめろ!マリアンヌ!!」

 悲鳴にも近い声で叫ぶ。

 けれども、彼女は止まることなく拳を振るい。

 それを易々と躱した男に首元を捕まれ持ち上げられる。

 宙に浮いたマリアンヌは、必死に宙を蹴り男から逃れようとするのだが、無意味。

 自分の腕の中で藻掻くマリアンヌを見て男が下卑な笑みを浮かべる。

「やめろ…やめろぉぉおおおおおお!!」

 つい数瞬前の光景が蘇る。

 男の拳で貫かれたサリー。

 拳を引き抜かれ、何も抵抗もなく地に崩れ去ったサリー。

 そこに…命はなく。

 指先一つすら動かさずに沈黙し続ける体が、サリーの死を伝えていた。

 叫びと共に駆ける。

 男は俺に見せつけるようにマリアンヌの体を揺らし笑い続けている。

 村正刀魚に手をかけ突き進み、間合いの一歩手前までへと。

「おっと、それ以上近づくな」

 さらにもう一歩踏み込もうとした瞬間、男が俺に警告した。

「このアマもぶっ殺していいんだぜ?」

「うっ…」

 男に首を絞められマリアンヌが呻く。

「マリアンヌを離せ…!!」

「なんだその口の利き方?生かすも殺すも俺次第ってわっけんねぇかなぁ?」

 呆れたとばかりに男が言い放つ。

「…何をすればいい?」

「まずはそっちの物騒なもんを捨てな」

 男が顎で村正刀魚を指す。

「わかった…今置く」

 頷き、村正刀魚を置くために腰をかがめる。

 村正刀魚を手放し、右手を胸へと伸ばす。

 さして、立ち上がると同時に懐から七輪を取り出して男に投げつけた。

「なっ──!?」

 完全に虚を付かれた男が咄嗟に顔を隠そうと手を伸ばす。

 その隙を逃すまいとマリアンヌが腕に噛み付く。

「いっでっ!!」

 絶叫と共に男がマリアンヌを手放し、顔に七輪が直撃する。

 七輪の直撃を受け、地に倒れる。

 それを機に村正刀魚を持ち上げ駆け込むと男に刃を突きつける。

「何者だ?」

 切っ先が震える。

 サリーの命を奪ったこの男を殺したいと心がざわつく。

 しかし、この男の正体を突き止めなければと理性が働いて刃を突きつけようとも押し込める手を抑える。

「…助けてくれよ」

「人を殺しておいて随分ないいようだな」

 刃を男の肌に触れる程突きつける。

「おめぇに言ってねぇよ」

 男が唐突に顔を上げてニヤリと笑う。

 瞬間、背後から気配。

「三魔さん!避けて!」

 マリアンヌの警告と共に、大柄な男の蹴りが迫ってきた。

 身を翻し、すんでのところで躱す。

「仲間がいたのか…」

「けっ、あとは任せたぜ!」

 先程まで村正刀魚を突きつけられていた男が仲間に声をかけると俺から逃れようと立ち上がり駆け出す。

「逃がすか!!」

 振り返り、追いかけようとする。

 しかし、大柄な男の拳がそれを許さない。

「くっ…」

 拳を避けながら、腕を振りかぶり村正刀魚を投げつける。

 一直線に男の後を追う刃が突き刺さり、地に縫い付ける。

「来い。秋刀魚がなくても十分だ」

 大柄な男に向き直り、拳を構える。

「………!!」

 大柄な男が何も答えずに拳を外側から振るう。

 大振りだが、威力を感じさせる一撃。

 だが、サンマスラオや細蘭の拳には遠く及ばない。

 潜り込み、内側からその拳を払う。

 すかさずがら空きの胴に膝蹴りを入れる。

「うっごぉっ…!」

 呻く大柄な男に流れのまま拳を振る打ち込み、巨体が揺れる。

 特に抵抗もなく大柄な男は気を失い地に倒れふす。

「マリアンヌ、そいつを頼む」

 マリアンヌに声をかけて、村正刀魚を突き刺したもう一人の元へと向かう。

「くんじゃねぇ…よ」

 背中に刺さった村正刀魚を伝い血を滴らせ、己の血溜まりの中を男が這っていた。

 致命傷である。

「答えろ、お前らは何者だ」

「殺さないで…くれ…」

 血を大量に流し、朦朧としているようで俺の問いが届いていないようだ。

 血溜まりを踏み抜き、男まで迫ると村正刀魚を引き抜く。

「うぐっ…お願いだ…やめてくれよ……ガキがいるんだ」

 地を這い、俺を捉えることなく男が呻く。

「三魔…さん…?」

 マリアンヌが背後から声をかけて、俺の方へ向かってくる。

「来るな!!」

 振り返らす、怒鳴る。

「…見るな」

 そう一言告げると、手にした村正刀魚を振り上げる。

 そして。

 男の後頭部目掛けて突き落とす。

 頭蓋骨に辺り、腕に重い感触が走る。

 構うことなく体重をかけて押し込むと、途端に手応えは軽くなり、村正刀魚が男の貫いて地面に突き刺さった。

 軽い手応えを感じながら、村正刀魚を引き抜くと血払いを済ませて納刀する。

 サリーのようにピクリとも動かなくなった男を見下ろし、手に残る感触に実感が籠る。

 俺は人を三人殺したのだ。


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