第四十一魚 水兵
おポニテをキメる時は周囲を明るくし、精神状態を整え、周りの目を気にしながらキメましょう。
『三魔との約束だ!』
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
貫け!走れ!
刃を振るえ!
金色の夢を抱いて〜
常闇の街に
狂笑が鳴り響く〜
絶望の到来
終末の鐘が鳴り渡る〜
誓いを込めた
刃を胸に
サンマを裂く刃金
金色の夢を抱く者よ
飛び立て〜闇黒の空に~
闇を討ち倒すために!
貫け!走れ!
獅子の如く駆けろ!
喪おうとも吼えろ!
魔を裂く刃となれ
三魔~~~!!
『駆けろ!三魔』
美しさとは何だろうか。
言うならば光。
光とはごく自然に世界に溢れ、意味を求めるところに意味がある。
蒼穹に溶け込む海も、排水溝の汚泥の中に混じる玉石も、照りつける日差しを一心に浴び葉先を天へと広げる向日葵も。
全てが美しく、同様に意味などない。
『美とは定義がないことが唯一の定義』
かつて詩人がそう謳った。
なるほど。それ正しい。
美しさはただそこにあり、しかして普遍ではない。
たが、しかし。
普遍たる永遠の美。
それがあるとするならば。
ポニーテール以外他はないのだろう。
揺れる波が光を反射し、潮風に靡く白い髪を輝かせる。
「三魔さーん!僕、海って初めてです」
靡く白髪を抑え、サリーが笑う。
その髪は高めの位置でまとめられると三つ編みに編み込まれ流されている。
想像して欲しい。
美術館に飾られている絵はそれ単体で美しい。
しかし、美術館を飾る美とは絵単体によるものでは無い。
絵の美しさを引き立てる額縁という美があり、一つの美を作り出すのだ。
三つ編みポニーテール。
それは美と美が織り成す一つの作品。
芸術に他ならぬのだ。
清廉さを持つポニーテールの美しさ。
サリーの雪のような純白で綺麗な髪がポニーテールにより美しく纏まる。
それに三つ編みを合わせることで華麗さが加わり、清廉かつ華麗な、さながら真面目系委員長美少女が放課後の夕日の中、愛読の詩集を読んでいる光景のような淡い美しさを生み出す。
だが、ここは夕焼けに呑まれる教室などではなく陽光に照らされる浜辺。
儚さとは反対の活気に溢れた場である。
故にこそ。
三つ編みポニーテールは荒野に咲く一輪の花のように美しく咲き誇る。
頬を温かいものが伝う。
人は美しさに囲まれ、その中で生きる。
だからこそ、何よりも美しさを知り、美に心を支配される。
抗うすべなどなく。
ただ美を享受する。
「三魔さん?どうしたんですか?行きましょう」
サリーが首を傾げ、俺に問いかけると踵を返すと埠頭の方へ歩いていく。
先日、サリーと共に普通のサンマとは色が違う上に、俊敏に動く異常なサンマと遭遇した。
そのサンマに遭遇したのは俺達だけではなく、他の日魔星達も遭遇したのだ。
そのため、普通のサンマとは一線を駕す新たな驚異として『妖色サンマ』と名ずけられた。
妖色サンマの足跡を辿るために、その姿を確認された場所を調査することが今の俺の任務だ。
日魔星としての責任感でポニテの抗い難い魅惑に耐え抜き、サリーの三つ編みポニーテールを後ろから堪能しながら調査をする。
埠頭に残る先日の戦いの跡を調べていると背後から気配がして振り向く。
「三魔さん、何か見つかりましたか?」
ローポニーテールにまとめた髪を三つ編みにし、ヴィーナスと見紛うが如き美の化身たるマリアンヌが立っていた。
「…………………!!」
「三魔さん?」
日魔星と言えど所詮人の子。
美そのものを目にして、平静でいられるはずもなく、ただ必然の合理として見惚れてしまう。
「ど、どうかしたでありますか?」
マリアンヌが不思議そうに首を傾げ、こちらへ駆け寄ってくる。
人が自然界の豹が駆ける姿を見て、その健脚に美しさを見出すように。
美しさとは静止した永遠だけではなく、一瞬の世界の煌めきを映し出した永遠の瞬間としての様相をもつ。
ポニーテールの美しさとはその動きの美しさでもあるのだ。
打ち上げられた花火の光が散っていくように。
あるいは、降り積もる雪が灰色の地面の上で溶けていくように。
美とは決して閉じられたものではなく。
生まれ、満たし、在り続ける。
世界に映し出されたポニーテールという美が、世界に沿い変化する。
世界の様相であり、美の所在。
「三魔さん…?」
目の前までやってきたマリアンヌが心配そうに俺を覗き込む。
「…大丈夫だ。少し、世界の真理について馳せていただけだ」
「え、えっと、難しそう…でありますね。それで、何か進展は?」
「いや、これといって気になる痕跡はないな」
「そうでありますか…えっと、」
「キャーーー!!!!」
マリアンヌが何かを言いかけた所で悲鳴が上がり、遮られる。
「なんだ!?」
「三魔さん!大変です!」
サリーが青ざめた顔で俺たちのほうに駆けてくると、声を荒らげて叫んだ。
「海に…海にサンマが!!」
岩場に囲まれた人目が及ばない砂浜でサンマヌーバが日を浴びながら事の成り行きを見ていた。
「日魔星といえど所詮は人間。サンマが海にいては手も足も出まい」
眼鏡のブリッジを押上げ、ニタリと笑うと続ける。
「後は彼らが上手くやってくれるといいのですが…」
「俺はサンマリノ!!サンマリンバイクを自在に操るサン魔!!俺が海にいては手も足もでまい!!」
海の上を獅子のように駆け回るサン魔が吼える。
「くっ…あのサン魔…海に!!」
「どうするでありますか!?」
俺は村正刀魚を持ってきているが、二人は武器を持ってきていない。
遠距離から攻撃できない以上、間合いを詰めるしかないが、件のサン魔は海にいる。
文字通り手も足も出ない。
「ははははっ!!人間ども!!嘆くがよい!!」
サンマリノがサンマリンバイクで自在に海を駆け回りながら、秋刀魚大銃をぶっぱなす。
「伏せろ!!」
咄嗟に叫び、マリアンヌとサリーはすんでのところでそれを回避する。
だが…
「うわっ!!」
運悪く埠頭に居合わせた一般人の男が流れ弾に当たって倒れ込む。
「くっ…なんということだ…。マリアンヌ、サリー手当を!!」
二人に指示し、立ち上がって吼える。
「おい!!サンマリノ!!お前の敵は俺だ!!」
「威勢のいい日魔星じゃねぇか!!」
サンマリノが俺に向かって秋刀魚大銃をぶっぱなす。
「くっ…!!」
走り回りながら銃弾の雨を躱し、埠頭を駆け回る。
だが、ジリ貧。
このままではいずれ、餌食になるか、または更に誰かを巻き込んでしまう危険性が。
「何とか打開せねば…!!」
呟きながら、辺りを見渡す。
すると…そこに。
「サンマリンバイク!!」
目線の先にサンマリンバイクを捉え、一直線に駆ける。
「魚オオオオオオオ!!」
雄叫びを上げ、突き進みサンマリンバイクに跨ると急発進。
「な、なんだ!?何故そうも都合よくサンマリンバイクがぁっ!!」
吼えるサンマリノは秋刀魚大銃を乱射するが、鯱のように海を駆ける俺を捉えることは無い。
サンマリノは秋刀魚大銃を投げ捨て、俺に向かって吶喊。
合わせて俺も吶喊し、交差する。
「魚オオオオオオオオオオオオオオ!!」
村正刀魚を一閃。
サンマリノの頭を斬り落とす。
「呆気なかったな」
村正刀魚を納刀し、サンマリンバイクを岸の方へ走らせる。
エンジンを切って、埠頭に登ると二人の元へと向かう。
「三魔さーん!!大丈夫そうでありますよー!」
遠目で俺を視認したマリアンヌが手を振りながら叫んだ。
その後ろにはサリーと流れ弾に当たった一般人の男が立っている。
巻き添えにしてしまったとはいえ、軽傷の用でホッとしつつも近づく。
男は俺の方を見やってニヤニヤと笑っていた。
それを見て、言いようのない不信感。
日魔星としての勘が危険信号を鳴らす。
「サリー離れろ!」
危険信号に従い、男の傍にいるサリーに叫ぶ。
だが…。
次の瞬間。
サリーの胴体に穴が空き。
体から飛び散った血でマリアンヌが赤く染まる。
録画したビデオを遅回しするようなスローモーションの光景。
サリーの血を浴びながら、目を見開き唖然とした表情で振り返るマリアンヌ。
その先には。
サリーの体を拳で貫き、それを快感だと言わんばかりに口角を歪めて笑っている男が立っていた。




