第四十魚 妖色
おサンマをキメる時は周囲を明るくし、精神状態を整え、周りの目を気にしながらキメましょう。
『三魔との約束だ!』
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
貫け!走れ!
刃を振るえ!
金色の夢を抱いて〜
常闇の街に
狂笑が鳴り響く〜
絶望の到来
終末の鐘が鳴り渡る〜
誓いを込めた
刃を胸に
サンマを裂く刃金
金色の夢を抱く者よ
飛び立て〜闇黒の空に~
闇を討ち倒すために!
貫け!走れ!
獅子の如く駆けろ!
喪おうとも吼えろ!
魔を裂く刃となれ
三魔~~~!!
『駆けろ!三魔』
人の世ならざるサン魔界。
一切の光すらも許さぬ闇の中でサン魔が蠢く。
発せられる言は人を呪う言葉。
途絶えることなく囁き続けるサン魔の喉を潤すは人の生き血。
当に理性など捨て去った贄はただ虚ろに闇を眺めるのみ。
口にすることすらはばかれる程おぞましいサン魔共の魔宴では、理性があることが最もの狂気である。
呆然と虚空を眺め続ける人々は使い捨ての懐炉の様に消費され続ける。
そこに命の尊厳などなく。
人がサンマに抗えぬという必然に裏打ちされた狂嬉のみが広がっていた。
その魔宴が繰り広げられている深淵の最奥。
闇黒すらも飲み込む深淵の玉座にて。
人が決して触れてはならぬ、最悪にして最厄のサン魔が眠っていた。
「我が麗しの魔王よ。貴方様の望みは直ぐに果たされます」
最恐とあだ名されるサン魔が頭を垂れ、魔王と呼ばれたサン魔を拝する。
魔王は眉一つ動かす素振りもなく眠り続け、魔宴の場と打って変わって静寂に包まれている。
やがて、サン魔が翻り玉座の間より離れる。
「王は相変わらずか?」
玉座の間より離れた三魔四天王の間で最強のサン魔たるサンマキシマムが刀を研いでいた。
「ええ、相変わらずですが問題ありません」
最恐のサン魔たるサンマエストロが答える。
「そうか…。して、サンマリスが人に討たれたと?」
「はい。どうやら貴方が目にかけている三魔とやらに」
「ほう。奴か。ならば得心がゆく」
「随分と気に入ってらっしゃるのですね」
「なぁに、一度敗れた身としてかっているだけだ。邪推はするな」
「滅相もございません。しかし…」
「何だ?」
「サンマリスが討たれた以上は対策を取らねばなりません」
「ほう見込みのある者がいるのか?」
「そうですね。普段であればサンマエナドの仕事ですが今はいらっしゃいませんからね…。代わりのものを」
「名は?」
「サンマヌーバと」
「サンマヌーバ。ほう、どれほどの腕を?」
「いえ。サンマヌーバは大した腕っ節ではありません。しかし、知略に長けておりまして」
「それは見ものだな」
「ええ、サンマヌーバであれば必ず」
サンマエストロは口角を釣り上げ、不気味な笑顔を浮かべながら答えた。
サンマリスとの戦いの後、一ヶ月の時が経つ。
相変わらずサンマを狩る日々だが変化はある。
まず、達がサンマランドを管轄に、殺人秋刀魚としてではなく日魔星として配置されたこと。
また、俺と似た顔を持つ謎の男、サンマーベリックの処遇は聖域での拘禁となり、奴が所持していた秋刀正宗も聖域で保管されることとなった。
そして、何よりの変化は…
「三魔さん!僕に任せてください」
サリーが雪のように白い髪を靡かせ、走り込むと秋刀魚大銃を構え放つ。
辺りに轟音が鳴り響き、逃げ惑うサンマをたちどころに肉塊へと変える。
変わり果て地に倒れたサンマへと近づくと、念の為と頭部に弾丸を撃ち込むと俺の方へ振り向く。
「なんとかなりましたね」
特に苦戦することなく秋刀魚を圧倒するとサリーが一息付く。
細蘭の遺体を聖域に送り届けた日の晩。
サリーが決意を固めた眼差しで日魔星になりたいと宣言した。
記憶喪失のため保護をしているサリーだが、サンマネーを握らせた警察の力で身元を調査しても一切の素性が掴めていない。
そのため、扱いを決めかねていたのだが、サリーが日魔星になりたいと宣言した事でさらに複雑化してしまった。
元々、日魔星も日魔道士もサンマによる被害にあったものが己の怒りと正義を胸に志すことが多い。
サリーの決意が固いことは目に見えており、普段であれば歓迎するところであるのかもしれないが、やはり素性が掴めていない以上、すぐには首を縦に振れなかった。
決定打になったのは、サリーのサン魔力の高さと身体能力の高さである。
その高さは俺と引けも取らず、この逸材を逃す手はないと訓練を開始したところ、一般的な訓練生より頭が三つ分ほど抜き出ており、基礎の習得に半年はかかるサンマーシャルアーツを半月でものにした。
サンマの異常発生と以前の襲撃による人手不足ということもあり、異例ではあるが金サンマ級である日魔星である俺か達が付き添いのもと、現場に出ることが許された。
「油断はするな。まだ三界が出現したままだ」
「失礼しました」
サリーは頭を下げ、俺の方へ駆け寄ってきた。
「行くぞ」
「はい!」
元気よく応え、後ろを着いてくるサリーと共に現場である港を回る。
闇と一体化し奈落と化した海を眺めながら、回り続け三体のサンマを発見する…が。
「なんだ…あれは?」
三体のうち、一番奥にいるサンマ。
そのサンマは姿形が同じなれど他のサンマとは違う。
奥にいるサンマの体表は、銀箔ではなく腐ったサンマのように鈍い赤色をし、月明かりにより妖しく浮かび上がっていた。
一瞬呆気にとられたが、すぐに重大なことに気づく。
妖しい色をしたサンマの目先に男性が一人。
サンマを目にし、幻覚を疑いながらも悲鳴を挙げていた。
こちらに背を向け、気づいた素振りを見せないサンマ共に向けサリーが秋刀魚大銃を向ける。
「ダメだ、人に当たったら不味い」
サリーを静止し、
「俺が終わらせてやる」
三体のサンマに向かって抜刀し、突き進む。
敢えて足音を立て、こちらの存在を伝える。
音を耳にした普通のサンマ二体が振り返り、下顎を引いて俺を威嚇する。
全く怯むことなく突き進む俺に向かって、一体のサンマが鉤爪を構える。
しかし、俺に振り下ろす前に腕ごと斬り落とされ、痛みに呻く隙すらないまま首を断たれる。
続いて、もう一体のサンマが俺に向かって飛びかかってくるが合わせて飛びかかる。
空中で対峙し、サンマの鉤爪が俺に至る前に肩から袈裟懸けにて両断。
血にまみれながら着地し、残る妖しき色をしたサンマへと視線を移す。
だが、時すでに遅く。
サンマが男の肩に噛み付いていた。
男は痛みで身体を震わせ、絶叫し続ける。
やがて、悲鳴を途絶え口と目を大きく見開きながら大きく身体を痙攣させ始めた。
幸い、大きな傷は肩だけであるためまだ助けられると駆けつけようとしたのだか。
男に異変が現れる。
大きく見開いた口。
いや、それだけではなく鼻や耳などの人体の穴という穴から。
さんまが溢れ出る。
「………!?」
溢れ出たさんまは地に落ちると、勢いよく跳ね回るがだんだん弱まり絶えていく。
あまりにも異常な光景に面を喰らう。
「三魔さん!伏せて!」
背後からサリーが叫び、反応して伏せると同時に俺の頭上を弾丸が飛んでいく。
溢れ出るさんまに気を取られていた妖しき色のサンマは秋刀魚大銃に肉を抉られる。
が、普通のサンマと比べ物にならない俊敏な動きで身を翻し、車線から外れるとこちらを威嚇する。
「三魔さん、なんですかあいつ!?」
秋刀魚大銃を構えながら、サリーが駆け寄ってくる。
「…初めて見る。ともかく奴に決して噛まれるな」
警告し、妖しき色のサンマへ突き進む。
サンマが迎え撃とうと俺に飛びかかってくると鉤爪を振るう。
普通のサンマであれば、易々とその腕ごと斬り落とせるのだが。
速い。
明らかに普通のサンマとは一線を駕す能力を兼ね備えている。
「くっ…!!」
その一撃を村正刀魚で受け止めるが、力を殺しきれなず、大きく後退させられる。
すかさずサンマが距離を詰め、鉤爪を振り上げると追撃を放つ。
すんでのところで身を後ろに捩り躱すと、膂力を使って村正刀魚を突き出す。
続く攻撃に身を晒すよりも早くサンマの喉元を貫くが、即死はせずに膝蹴りが放たれる。
村正刀魚を突き刺したまま、手放し横に飛び躱すとサリーが秋刀魚大銃を叩き込む。
今度は避けることなく肉を削がれ続けそのままサンマが息絶える。
絶えたサンマが地に転がると、村正刀魚を引き抜く。
「よくやった、サリー」
「いえいえ、三魔さんが弱らせてくれたからですよ」
秋刀魚大銃を下げ、照れるようにサリーが言う。
「いや、助けられた。頼りになるよお前は」
「そ、そうですか?…なんだか照れます」
サリーが頬を初め、俯きながら応えた。
サンマを屠り、後処理のために連絡を入れている二人を少し離れた倉庫の屋根からサン魔と男が眺めていた。
「あれが秋水三魔ですか。噂に違えない実力は持っているようですね」
眼鏡をしたサン魔がブリッジを押し上げながら呟いた。
「はい、中々のようで…。それで、サンマヌーバ様。どうやって奴を?」
傍らで男が問う。
「簡単ですよ。何せ彼は…」
月明かりに照らされない闇が動き始めようとしていた…。




