表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
39/77

第三十六魚 悪意

 おサンマをキメる時は周囲を明るくして、精神状態を整えてからキメましょう。

『三魔との約束だ!』


 闇ありし所にサンマあり。

 死をもたらす災厄の化身。

 サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。

 だが、人は希望の光を手に入れた。

 人を守り、人を導く存在。

 人は彼らを称えてこう呼んだ。

『日魔星』


 Saury in the dark!! Saury in the dark!!

 闇の中へ〜

 Saury in the dark!! Saury in the dark!!

 刃を掲げ〜

 Hope is a sword!!

(前奏)

 血に飢えしサンマ〜

 大罪の炎がその身を灼く

 夜を駆け

 奴らを狩れ

 正義の刃

 悪を切り裂け〜

 Saury in the dark!! Saury in the dark!!

 闇の中へ

 Saury in the dark!!Saury in the dark!!

 刀は掲げ〜

 サンマを断て!!

 正義の刃を執り

 運命を討ち破れ!

 Hope is a sword!!


『斬り裂け!サンマ』


 記憶。

 水面(みなも)に広がる曲線。

 光が波及して(だれか)の像が現れる。

 酷く不明瞭で、崩れていくだけの絵画。

 出来損ないの屑の集まりになったそれが私を締め付ける。

 瞼を開くと途端にそれは消えてしまうのだけど、心がその窮屈さを求めて瞼を押し下げる。

 不明瞭な絵画はどれも色とりどりで、一つ一つの美しさがある。

 けれでも、それらは触れてしまうと崩れていくばかりで鮮明な姿を映してくれない。

 わたしが私であった時のもの。

 ただ遠くから眺めることのみを許され、朦朧とする意識でそれを観る。

 懐かしい誰かや、恋しい誰か。

 恨めしい誰かや、嫌いな誰か。

 その誰にも会うことは無いのだろう。

 途端に胸の内に痛みが走り、苦しむ。

 閉じていた瞼を見開いて、外を観る。

「悲しいのですね。大丈夫ですよ、あなたのお友達は来てくれます。だから…泣かないでくださいね」

 ニッコリとサン魔が笑った。


 夕闇が溶けて、夜闇に変わったサンマーリンランド。

 つい先日訪れたその場所に沿うように立てられた豪邸の敷地に足を踏み入れる。

 三階建ての洋風建築の白い家はまるでさんまの肌のようだ。

 庭には整えられた庭園が開かれ、青く生い茂る草木にさんまが泳ぐ大きな池で彩られていた。

 その庭を駆け、本屋の玄関まで辿り着くと扉に触れる。

 鍵はかかっておらず、押せば開く。

 なるべく音を立てないように力を押えて、ドアを押していくと不意に内部から引き込まれ、ドアが大きく口を開けた。

「ようこそ。僕の邸宅へ」

 中世ヨーロッパの男性貴族のような、派手でありながら優雅な服装に身を包んだサン魔が笑いながら俺にお辞儀をする。

 物腰は柔らかだが、どこからともなくサンマキシマムと対峙した時のような威圧感を感じ、村正刀魚に手をかけ後ずさる。

「他にもいらっしゃいますよね?」

 俺の素振りを気にとめない様子でサン魔が問いかけてくる。

「……」

 睨んだまま、無言で構える。

「ああ、失礼いたしました。僕はサンマエレヴェンスのサンマリスと申します」

 構えもせずに無防備に笑いながら、俺に告げた。

「あなたは?」

 名前を問われるが、答えるつもりはなく押し黙って村正刀魚を抜き放つ。

「物騒ですね。仕方ないことですが。しかし、僕はここで戦うつもりはありません。あなたのお仲間ともです」

「…信用にならない」

 村正刀魚を切っ先を向け、肩がけに構える。

「…信用ですが。別にしなくても構いませんが、こちらで預かっているあなたのお友達とお会いしたいのであれば、僕について中に入るしかありませんよ」

「細蘭はやはりここにいるのか…」

「ええ。隠す気はありません」

 サンマリスの声は平坦で、その言葉の真意を掴みきれない。

「俺は従うよ」

 背後の植木に隠れていた達が姿を表し、サンマリスに投げかけ、俺と並ぶ。

「…お二人、ということにしておきますか。どうぞ、中へ」

 サンマリスが身を翻し、中へ俺達を招く。

「行くぞ、三魔」

 達が納刀し、その後を追っていく。

 達はあくまでも気を張っており、突然の奇襲にあってもすぐに抜刀できるように構えている。

 それに習って納刀し、構えながら中に入る。

「足元が暗くて申し訳ありません」

 俺達の数歩先を歩くサンマリスが、一直線の廊下を進む。

「こちらです」

 廊下の先の扉を押し、中に広がっている大広間を見せながら言った。

 招かれるままに中に入ると、奥の椅子を勧められる。

「いや、こちらで結構だ」

 入口付近の椅子を指し、返答する。

「当然、ですね」

 サンマリスが奥の椅子に座るのを見て、警戒しつつも座る。

 俺達が椅子に座るのを見計らってサンマリスが話し始める。

「僕はあなた達と戦うつもりはありません。出来れば戦わずに事を収めたいのです」

「…サンマのくせに随分ないいようだな」

「はい、確かに僕はサンマですが、普通のサンマとは違いますからね」

 俺の悪態を軽く流し、サンマリスが笑う。

「本題はなんだい?」

「それを話すと長くなりますからね」

 達の問いを流し、指を鳴らして何かに合図をする。

 すると、入口からメイド服を着たサンマが現れ、手にしたトレイからテーブルに料理を並べていった。

 あまりにも異様な光景に呆気を取られつつ、

「なんだこれは?」

「食事ですよ。あなた達とは本音でお話したいですからね」

 テーブルに並べられた料理に目をやると、どれも作られたばかりのようで湯気が立っていた。

「簡単なシチューですよ。そこのサンマが作りました」

 サンマリスがメイド服を着たサンマを指す。

 指されたサンマは恐縮とばかりに頭を下げ、大広間から去っていった。

「どうですか?お食べにならない?毒なんて入っていませんよ」

 言いながら、サンマリスがシチューを口に運ぶ。

「あぁ、美味しい」

 恍惚の表情を上げ、サンマリスが呟く。

「…やはり、お食べにならないですか?」

「…食事は済ませてきた」

「おや、それは失敬いたしました。その可能性を完全に失念していましたゆえ…」

 大袈裟に肩を落とし、サンマリスが項垂れる。

「…悪いがそんなことより、本題に入ってくれ」

「せっかちな方だ。…本題、と言っても私はあなた方と戦わない以外に要求はありません。話すべきはあなた方のお友達のことでしょうか」

「細蘭はどこにいる」

「この邸宅の地下に」

「細蘭を返してくれれば争うつもりはない」

「そうですか。…それはお会いしてから決めてください」

「…今すぐ会わせろ」

「かしこまりました」

 サンマリスが立ち上がる。

「待ちな」

 立ち上がったサンマリスに向かって達が声を上げる。

「随分と簡単に返してくれるようだが、何故細蘭を攫った?」

「攫った…ですか。それは僕としてはニュアンスが些か違うような気がしますが…。ともかく理由であればお見せするのが早いでしょう」

「…無事なんだような」

「ええ、勿論。どうぞ、こちらです」

 サンマリスが大広間の入口から出て、来た道を歩き始める。

 追って屋敷の出口の方まで来ると、階段に突き当たる。

「ここを下った先ですよ。足元に気をつけてくださいね」

 暗い階段をサンマリスの後をつけて降り、最下層に辿り着く。

 サンマリスが扉に手をかけ、ゆっくりと開く。

 中から光が漏れ始め、内部が少しずつ露になる。

 先程の大広間に引けを取らない地下室。

 中にはサンマの科学力を感じさせられるような機械が密集し、さながらジャングルだ。

 そのジャングルの中心に。

 まるで眠姫のゆりかごのようにカプセルが据えてあり、そこに。

 (さいら)が眠っていた。

 泣き疲れて眠る子供のように、穏やかでありながらどこか悲しげに眠る。

 細蘭がいた。

 刻日サンマ(こくさんさんま)となり、人の姿を失った細蘭が人の()()()形をしている。

 人のような…初めて出会った時の細蘭に似た姿で。

 思い出す。

 細蘭と共に駆けて、共に打ち合った修行の日々。

 彼女は長年かけてその拳と脚を鍛え、秋刀魚にも劣らない破壊力と強度をみにつけ、人を救ってきた。

 その、細蘭の。

 手足が根元から先がなくなっていた。

「…どういう……こと…だ…」

 常軌を逸した現実の光景に目を疑い、それを幻だと主張するかのごとく視界が明滅する。

 しかし、幾ら見直してもその光景は変わらなかった。

「説明した方がよろしいでしょうか?」

「…こたえろ……答えろ!!」

 村正刀魚を抜き放ち、怒号を上げる。

「簡単に申し上げると、刻日サンマというのは人間が仮面を被るのと変わりないのですよ。仮面を被って私でありながら他人である状態。まあ、他人であるという意識が強くなりすぎるのは特殊ですがね」

 謳うようにサンマリスが続ける。

「ですので、世界は仮面を被った誰かをサンマではなく人と判断します。そのため刻日サンマには三界がおりません。サンマとして人に仇をなしても」

 サンマリスの言葉がひどく遠くから聞こえるように感じる。

「サンマイルドなどと名乗って自ら望んで三界中に住まうものもいますが。ともかく、重要なことは刻日サンマの仮面を剥がし、別のものが被ったらどうなるでしょう。ということです」

 サンマリスは笑いを押し殺して続ける。

「結果はご覧の通りですよ。あなた達のお友達のおかげで僕はここで完全な顕界を果たしました!!」

 宣言すると同時にサンマリスが両手を広げ、その姿が揺らぐほどのサン魔力が迸る。

「あなた達のお友達には悪いことをしましたよ。何せ自身をサンマだと思い込んで暴れるものですから、つい手足を切り落としてしまいました。まあそれでも、見ての通り無事に生きていますよ!!」

 サンマリスが高らかに笑う。

「これでも申し訳ないと思ったのですよ?大切な手足を切り落としたのですから。なので、せめての償いとして有効活用しようと料理に使わせていただきました。本当は、お友達に食べていただければご本人も悔いはないと思ったのですが、残念ながらそうはいきませんでした」

「ああああああーーーっ!!!」

 村正刀魚を振るい、我武者羅に突き進む。

「やめろ三魔!!迂闊に近づくな!!」

 どこからか達の制止が聞こえる。

その制止を振り切る。

 胸の内に広がる黒い感情のままに、サンマリスに駆け込む。

「あぁぁぁ!!」

 もはや自分でも何を叫んでいるのかも見当がつかず、ただ叫び村正刀魚を振り下ろす。

「いいですね」

 振り下げた村正刀魚はサンマリスにいとも容易く受け止められる。

「いいですよ。あなたは今どんな気持ちですか?」

 俺のうちの黒い感情を見透かすようにサンマリスが呟く。

「その感情ですよ…それがある限りあなた達は僕を斬れない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ