第三十四魚 戦車
おサンマをキメる時は周囲を明るくして、精神状態を整えてからキメましょう。
『三魔との約束だ!』
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
刃を掲げ〜
Hope is a sword!!
(前奏)
血に飢えしサンマ〜
大罪の炎がその身を灼く
夜を駆け
奴らを狩れ
正義の刃
悪を切り裂け〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ
Saury in the dark!!Saury in the dark!!
刀は掲げ〜
サンマを断て!!
正義の刃を執り
運命を討ち破れ!
Hope is a sword!!
『斬り裂け!サンマ』
大広間。
中心には豪勢な食卓が据えられているが、朱に染まりその上には人の頭がまるで一つの料理であるように並べられている。
幸い。と言ってよいものか。
並べられている人頭の表情はどれも苦悶の表情を浮かべておらず、自分の死を感じとる暇もなくその命を刈り取られたことが窺える。
それはある種の幸福であるのだろう。
人では抗えぬ悪意が振りかかろうとも、恐れることなく安寧の死を得られたのだから。
その人々は、ただ日常の延長線上で極当たり前に死を享受することが出来たのだから。
とうに血は抜けきり、ただ腐っていくだけのそれを眺めながら、サンマリスが切り出した。
「材料を持って来てくれたこと、感謝しているよ。君はやっぱり優秀なサン魔だ」
「ありがたき幸せ」
サンマッチャーがサンマリスの背後に跪く。
「ところでさ。その腕どうしたの?」
サンマリスが振り返ることなく、サンマッチャーに問う。
「これは…少々、手強い日魔星に遭遇しまして」
「大変だったね。処理してきたのかい?」
「それは…材料の方を優先させていただきました」
「うん。優秀な部下を持って僕はうれしいよ」
サンマリスは声のトーンを上げて優しく話しかけた。
「ありがとう。今日はもういいよ。早く根城に戻って傷を癒すといい」
「…はい」
サンマリスに促され、サンマッチャーが立ち上がると大広間を後にした。
「…彼はもうダメかな」
サンマッチャーが去った大広間でサンマリスがポツンと呟いた。
「相変わらず元気そうですね、達」
母秋刀魚が俺の傍らに座る達に声をかける。
「いえ、母秋刀魚も変わらぬ様子で」
達が深々と頭を下げる。
達との決闘を終え、日が傾き始めた頃に母秋刀魚に呼ぼれ、座敷に訪れた。
「こちらへ着いたのはいつ頃なのですか?」
「はい、昨日の正午にはサンマランドへ着いていたのですが、先に仕事に取り掛かっておりまして、こちらの屋敷まで来たのは今日の正午です」
「それはそれは。仕事熱心のいい子ね」
母秋刀魚が感心したように笑いかけ、達がそれに答える。
「三魔、あなたは達からもう話は伺ったらのかしら?」
「いえ…何も。話というのは?」
唐突に話を振られ、戸惑ってしまう。
「話というのはね…その、細蘭のことなの」
「細蘭の…?こいつ…達が細蘭と何か関係が?」
「俺から話すさ」
傍らで母秋刀魚の方を向いていた達が俺の方を向く。
「刻日サンマ…つまるところ、日魔道士が変化したサンマと対峙するのは初めてだろ?」
「…ああ」
達は息を飲み、続けた。
「そう珍しいことじゃないのさ…。どれだけ優秀だろうと、どれだけ意思が強かろうと、日魔道士は戦い続ける限り、いずれサンマになる」
「……」
「だというのに、この事を知らないものが大多数だ。何故だか分かるか?」
「…あまり考えたくないことだが…裏方で処理している…ということか?」
「おっ…こういう時は物分りがいいんだな。つまるところそういう事だ。殺人秋刀魚と呼ばれている」
「殺人秋刀魚…まさかお前が?」
「その通りだ。俺は数年前から殺人秋刀魚として人を殺している」
普段人懐っこい笑顔を浮かべている達だが、一転して神妙な顔つきで呟く。
「『人を殺している』んだ、あくまでもね。大抵の場合は末期に近づいた日魔道士を張り、変化が始まると同時に…」
達声はどんどん低く、小声になっていく。
「細蘭も張っていたのか?」
「いいや…。細蘭にはその兆候が見られていなかったんだ。…だから、今のような状況になっている」
「見られてはいなかった…では、なぜ?」
「俺たちが見落としていた…あるいは…」
「他の要因も考えられる…のか?」
「まだ憶測の域だよ」
達が肩を落とし、大袈裟に身をすくませる。
「ともかくだ…酷な様だけど、できるだけ早く彼女を見つけなければいけない」
「だが…宛はあるのか?」
できるだけ早く細蘭を見つけたい。それには同意であるが、事実細蘭の足跡は掴めていない。
「宛はあるさ。優秀な猟犬を見つけてさ」
達は自信ありげに笑った。
サンマランドより数十キロ離れた港場の廃工場。
月光に照らされ、物寂しげにただ住むそこに一匹のサン魔が帰還した。
その廃工場を住処としており、内部はサンマサセッチュー工科大学にすら引けを取らない程のサンマ工学の温床となっていた。
三界を発生させる訳にはいかず、低レベルな三魔分体に身を包んだサンマを働かせ二十四時間稼働している。
そのため、昼夜問わず機械音が鳴り響き、普段は廃工場といえど活気があると言っても過言ではない。
しかし、今はただ住むだけでその活気を感じさせず静寂に包まれていた。
怪しみながらサン魔が住処に足を踏み入れ、普段は最も活気のある本工場へと向かう。
物静かさが放つどこか異様な雰囲気を感じつつも、本工場の重たいシャッターを開き、中に入る。
そこには。
惨殺されたサンマの死体が乱獲されたさんまのように広がっていた。
「…!?」
唖然とし、死体に駆け寄る。
ここにいたサンマ達の本体はサン魔界にあり、三魔分体が壊されてはまた一から召喚しなければならない。
「…なんてことを!!」
苛立ちを隠しきれず、吐露する。
「お気に召さなかったか?」
サン魔の背後より男の声が響く。
「お前は…!!」
「実験体なんて呼び方やめてくれ。その名前はとうに捨てたんだ」
刀を構え、迫った男がサン魔を突き刺す。
「相変わらず隙だけだな、サンマッチャー」
「ぐふっ…!!」
実験体と呼ばれた男、サンマーベリックに突き刺されたサンマッチャーは鮮血を吐き出し、恨めしそうに睨む。
「どうせ三魔分体なんだろ?本当の意味で死にはしないんだろうが…仮とはいえ死ぬなら楽に死にたくないか?」
刃を押し込みながら、サンマーベリックが問う。
「お前が攫ったサンマ…あいつはどこにいる?」
「誰が…答えるものか…」
サンマッチャーが笑い、己を突き刺す刃を掴むとそのまま前進、刃をさらに深く突き刺した。
「ぐふっ……ふっ…ふっふっ、流石に痛いな」
「…楽に死にたいとは思わないか?」
「それはそっくりそのままお前に返すとも…」
サンマッチャーはそう呟くと、さらに刃を強く押し込め、勢いよく鮮血を吐き出すとそのまま力尽きた。
サンマーベリックが死体から刃を抜くと、あっけなく地に倒れ伏し、ピタリとも動かない。
「それでどうやって俺を倒そうと言うのだ」
血払いを済ませ、呟くと納刀する。
「とはいえ…振り出しか」
探し物の手がかりを得られず、サンマーベリックが溜息混じりに言い放つ。
「仕方あるまいな…」
サンマッチャーの死体に背を向け、シャッターを潜ると外に出る。
そこで。
サンマーベリックが異変に気づく。
「三界が…出現している?」
その異変に気づくと同時に轟音が鳴り響き、背後にあった本工場の壁に何か巨大なものが飛来し、爆ぜた。
「…!?」
爆風に煽られながら、サンマーベリックが刀を抜き放ち臨戦態勢を執る。
周囲を見渡し、気を張る。
「実験体よ!!逃げられると思うな!!」
高らかに謳うサンマッチャーの声。
その元へサンマーベリックが刃を向けると。
そこには異形にして巨大なサンマがいた。
…いや、サンマかどうかは怪しい。
以前、サンマーベリックが日魔星と共闘して葬ったサンマシーン。それを彷彿させるようなサンマテリアルで作られた外壁を纏い、前面には巨大な主砲、足元は帯状に並んだ車輪を携えている。
「…生物兵器か!!」
「生物兵器?これはサンマウス。サンマシーンなどという量産型などと一緒にしてくれるな。これは三魔複合兵器!!」
「三魔複合兵器…!?」
「くくくっ!!さあひれ伏せ!!」
サンマッチャーが狂笑する。
「…たかが鉄のサンマ、何するものぞ」
サンマーベリックが刀を構え、駆け出す。
「飛んで火にいるサンマとやらかぁ!?」
サンマッチャーの叫びと共に、主砲が唸る。
巨大な鉄のさんまが放たれ、サンマーベリックに迫る。
「くっ!!」
それをすんでのところで避けると、サンマーベリックの背後で玉が爆ぜ、爆風に身を煽られる。
その爆風を味方につけ、サンマーベリックが勢いに乗り駆ける。
が、一直線に駆けるサンマーベリックに向かって主砲近くに備え付けられた副砲より、さんまが放たれる。
サンマーベリックの視界を全て埋めんとの如く放たれる弾丸の雨。
それから逃れるために、サンマーベリックが近くにある第二工場の裏に隠れる。
「なんという弾幕だ」
サンマーベリックの武器がある以上、距離を詰めねば勝機はない。
されど、苛烈な弾幕の中、身を躍らせるのは自殺行為に等しい。
どうにか近づくための隙を作らねば。
サンマーベリックが身を隠したまま思考する。しかし、その思考は耳を劈く爆音で遮られる。
「隠れんぼかー?」
サンマッチャーが発すると主砲を向け、サンマーベリックが隠れた第二工場の方へ放ったのだ。
放たれたさんまの砲弾が爆発し、あえなく建物が倒壊する。
再び、サンマウスの前に身を晒すサンマーベリック。
嘲笑するサンマッチャーが主砲と副砲、そのどちらもでサンマーベリックを捉える。
「終わりだ!」
サンマウスの中から、サンマッチャーが宣言する。
サンマーベリックはその宣言を聞きながらも、刀を構えサンマウスに対峙している。
銃弾の雨が己を襲うまでの数瞬、如何にしてそれを避けるか思考をめぐらせる。
近くに物陰になるようなものはなく、降り注ぐ銃弾の雨を全て斬り落とすなど不可能に近い。
奇跡。
サンマーベリックが求めるのはその二字なのだろう。
それほどまでにも、絶望的な状況に立たされ、サンマーベリックは苦々しげに歯を食いしばる。
そして…。
「幕切れにはちょっと早いんじゃないのかな?」
サンマウスから銃弾が放たれる直前、二つの影が躍り出た。




