第三十三魚 宿命
おサンマをキメる時は周囲を明るくして、精神状態を整えてからキメましょう。
『三魔との約束だ!』
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
刃を掲げ〜
Hope is a sword!!
(前奏)
血に飢えしサンマ〜
大罪の炎がその身を灼く
夜を駆け
奴らを狩れ
正義の刃
悪を切り裂け〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ
Saury in the dark!!Saury in the dark!!
刀は掲げ〜
サンマを断て!!
正義の刃を執り
運命を討ち破れ!
Hope is a sword!!
『斬り裂け!サンマ』
真頂点に昇った日が対峙する二人の剣士を照らす。
銀箔のコートを纏った剣士が獅子のように獰猛に刃を振るい、濃紺のコートを纏った剣士が雪豹のように軽やかに刃を振るう。
それは決闘であった。
己の信念を抱き、違えた刃の交わり合う。
相互理解など有り得ず。
対敵を打つために刃を振るう。
刃鳴る。
示すは譲れぬ在り様。
求めるは刃が示す真実。
在るのは心。
それは──何よりも重き刃金。
模擬秋刀魚を振るい、カカシへと打ち込む。
相変わらず細蘭の捜索から外されており、時間を持て余し、鍛錬ばかりしている。
打ち込む刃は俺の心を写すようで、鈍い音を立て力みすぎていることを伝えてくる。
当たり前のことで、力を入れれば入れるほど良いという訳では無いと理解しているのだが、打ち込む時に無意識に力を入れてしまう。
「はぁ…」
嘆息。
己の剣の鈍りを強く感じてしまう。
模擬秋刀魚を下げ、納刀する。
日は登り、正午よりも少し早い時間だろう。
空腹を感じ、早いが時間だが昼食を採ることにする。
屋敷内の食堂で済ませることにして向かう。
食堂に着くと、まだ早い時間だというのにマリアンヌとサリーがいた。
「マリアンヌ、用事か?」
「用事という程のものではないのかもしれないでかありますが、サリーに会いに来たであります」
二人は同じテーブルで椅子を並べて会話をしていたらしい。
「三魔さんはどうしたでありますか?」
「少し早いが昼食を採ろうと思ってな」
「確かにちょっと早いでありますが、いい頃合いでありますね。ご一緒していいでありますか?」
「ぼ、僕もいいですか?」
マリアンヌとサリーが問いかけてくる。
「問題ない。簡単なものしか出来ないがな」
「三魔さんが作るでありますか?その、自分が作るでありますよ?」
「いいさ、座って待っててくれ」
隠し味にサンマーマレードを入れられる危険性があるため、丁重に断る。
料理はさほど上手いとは言えないが、簡単なさんま料理であればわけない。
懐から七輪を出し、さんまを調理する。
手早くさんまの塩焼きを三尾作ると、ご飯やインスタントの味噌汁と共に並べる。
「美味しそうであります!」
「はい!」
二人が目を輝かせ、並べられた料理を眺める。
「召し上がれ」
席につき促すと、二人が食べ始める。
「美味しいでありますよ!」
「とっても美味しいです!」
さんまの塩焼きを口にすると、顔を綻ばせる。
「作った甲斐があるよ」
思いの外、早いペースで食べ進める二人をみて満足しながら箸を進めて食事を終える。
二人もほぼ変わらない位に箸をおく。
「ありがとうであります!」
「ありがとうございました!」
感謝の言葉をおくられ、お粗末さまでしたと返すと一服置き、二人を眺める。
同じように喜び、笑い、食べ終えた二人はまるで姉妹のようで微笑ましい。
「その、サリー?」
和むのもよいが、一応連れて来た身として聞いておかなければいけないことがあり、問いかける。
「はい…?」
「記憶の方は…その、どうだ?」
「…まだ、戻っていなくて…」
「そうか…」
「…本当にごめんなさい。まだもうちょっとだけお世話になるかもしれません」
サリーが申し訳なそうに頭を下げる。
「いいんだ。サンマの被害にあった人を保護するのも日魔星の務めだ。それに、サリーがいた方がマリアンヌも嬉しそうだ」
「そうでありますよ!サリーがいると嬉しいであります!」
「…ありがとうございます」
サリーが微笑みながら礼を言う。
「お礼なんていらないでありますよ!」
マリアンヌが合わせてサリーに笑いかける。
サンマとの戦いはいつも命がけで、時には大切な仲間を失ってしまう。
俺は今まで、大切な仲間と言えるほどの者をあまり作らずに生きてきた。
だからこそ、今、大切な仲間であるマリアンヌが宝石のように輝いて見える。
マリアンヌといると、心が落ち着く。
このような平和な一時も悪くない。
そう思ってしまう自分がいる。
「我ながら甘くなったものだ」
「ああ、そうだな。元から腑抜けた野郎だったが落ちるところまで落ちたな」
食堂の入口から声をかけられる。
その声には…聞き覚えがある。
「達…!!」
振り返りながら、濃紺のコートを纏った男に声をかける。
「覚えていてくれたか。忘れられてたらとヒヤヒヤしていたぜ」
「どれだけい嫌いな奴でもお前は…忘れられないさ」
「おいおいやめてくれよ。俺たちは仲良しちゃんじゃないんだぜ?」
達が憎まれ口を叩きながら、俺達の方へ歩いてくる。
「…三魔さん…知り合いでありますか?」
「お?三魔、なんだそこの可愛い子ちゃんは?いや、そっちの子も可愛な。二人とも…」
「黙れ!!」
達が軽率なことを言い捨てる前に遮る。
「二人には近づくな」
「おー怖い怖い。でもさ、それは横暴すぎないか?」
「横暴だろうがなんだろうが、俺はお前を許せない」
「三魔さん…?」
マリアンヌが困惑するように俺を見つめる。
「俺を許せないか。まあそこは同感だ。俺もお前を許せない」
「三魔さん…あの方は一体…?どういった関係でありますか…?」
「奴は俺たちと同じ日魔星。だが、俺とは相容れぬ存在だ」
「日魔星ねぇ…。まあ公にはそうか」
達が呟く。
「おい三魔。表出ろよ。久しぶりにお前の刃を折ってやる」
「…望むところだ。お前程度の刃で俺に触れるなど驕りであったと知れ」
立ち上がり、達の方へ向かおうと足を伸ばすが、その前にマリアンヌとサリーに忠告する。
「気をつけろ…あいつはツインテールフェチだ」
鍛錬場まで戻ると、模擬秋刀魚を持つ。
「ルールはいつも通り、決定打を打った方が勝ち。それでいいな?」
「構わない」
達の問に答え、距離を取ると構える。
対する達は模擬秋刀魚を二刀構え、俺に向き合っていた。
決闘に合図などない。
承諾し、向かい合ったのならば既に始まっている。
しばしの静寂。
それから俺から駆け出した。
「魚オオオオオオ!!」
上段に構え、袈裟斬りを放つ。
単純な剛の剣。
二刀流は受け即太刀。大敵の一刀を受け、隙をつく一刀が基本だ。
しかし、そのためにはあくまでも片手の剣で受けねばならない。
であるならば、片手で受け切れぬほどの剛の剣は有効打の一つである。
「ふんっ…!!」
目論見は当たり、達が二刀を交差させ刃を受ける。
このまま自重をもって刃を押し込み、体勢を崩せば一手にて片がつく。
踏み込み、自重を与える。
「…この程度か?日魔星の刃はこの程度の重さなのか!!」
刃を受けていた達が踏み込み、押し返される。
「くっ!!」
体勢を崩されないように自分から飛び下がり、距離をとる。
「次は俺から行くぜ!!」
二刀を中の円相に構えると駆け出す。
まず、右手の模擬秋刀魚を突き出し、俺の喉元へ向かって刃が迫る。
左に踏み込み、それを交わすと、狙っていたとばかりに左の模擬秋刀魚が突き出される。
すんでのところで模擬秋刀魚で受け膠着。
「へへへっ!まだ負けてくれるなよ!」
達が足蹴を放とう右足を引くが、それよりも早く起こりを見ていた俺が身体を当て突き飛ばすと距離をとる。
「認めな。剣も髪も二刀流が強え!!」
再び中の円相に構え、達が吶喊してくる。
「戯言を。一にして全。剣も髪も一刀にて全てを断ち切るのみ!!」
達の刃を受け止め叫ぶ。
「ならば何故迷う!?お前の刃のそれは迷いだ!!」
俺が受け止めた刃を達が自重を込めて押し込めようとする。
「本当は認めているのだろう?ツインテールの方が優れているのだと!!」
刃を受け止めきれずに、背後へ飛ぶ。
「俺は認めない。日魔星。それが俺の在り様。ただ一刀にて全てを断ち切る!!」
(サンマを討て~~♪運命の戦士よ〜♪)
四合目、俺から踏み込む。
「清楚、活発、可愛さ…!!ポニテは一にして全てを統べる!!無限の可能性、それこそがポニテだ!!」
(闇は蠢く)
「一にして全て?無限の可能性?笑わせるな!どれほど刃を並べようと、至上の一には叶わない!可愛さ!!ツインテールのそれは至高にて至上!!」
(爪を研ぎ 人を貪る 暴挙のサンマ)
「至高にて至上?それは仕手を喰らうだけだ。仕手に寄り添い、仕手と共にある。それがポニーテールだ!!」
(サンマを討て〜運命の戦士よ)
「仕手だと?はんっ!ツインテールはどのような仕手だろうとも可愛く演出する!!」
(必殺の太刀で)
「誰もが誰も可愛さを望んじゃいない!仕手あっての刀。誰もが振るえ、誰をも求める刃。それこそがポニーテールだ!!」
(己の剣 燃やせ!サンマインド!)
「ここまで相容れないとはな…!!このわからず屋!!」
「そのまま言葉を返す」
刃が交わる。
(七輪が如く〜灼熱の焔〜おお〜)
俺は…。
俺は、この男には負けられない。
受け止めていた二刀の刃が俺を押し込める。
成程、これが二刀の重みか。
一太刀、一太刀の重み、それが如実に俺に伝わり、押し込まれていく。
…だか。
俺は負けられない。
負けられないのだ。
意識がこの二刀に打ち勝つため研ぎ澄まされていく。
俺の細胞の一つ一つが吼えたて、力が湧き出る。
勝つ。そう身体中が叫んでいる。
「いつだって…敵に打ち勝つのは…。研ぎ澄まされた心だ!!」
二刀を押し返し、踏み込むと刃を構える達へ。
突き出された一刀が達へ駆ける。
(サンマを断つ戦士!日魔星!)
「…へぇ…やるじゃねぇの」
喉元に模擬秋刀魚を突きつけられ、達が呟いた。
(挿入歌『燃えよ!サンマインド』)




