第三十二魚 二刀
おサンマをキメる時は周囲を明るくして、精神状態を整えてからキメましょう。
『三魔との約束だ!』
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
刃を掲げ〜
Hope is a sword!!
(前奏)
血に飢えしサンマ〜
大罪の炎がその身を灼く
夜を駆け
奴らを狩れ
正義の刃
悪を切り裂け〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ
Saury in the dark!!Saury in the dark!!
刀は掲げ〜
サンマを断て!!
正義の刃を執り
運命を討ち破れ!
Hope is a sword!!
『斬り裂け!サンマ』
時がめぐり、日が傾く。
この廃墟に身を隠して一日以上が経った。
夕暮れの斜陽に照らされ、廃墟内は黄金色に染まっていた。
呆然とした意識でそれをながめていた。
意識には波があり、鮮明になったり朧気になったり。
私の意識があるのに誰かの視点で世界を見ているようで、自分自身の実感がない。
「まだ自分が何者か思い出せないか?」
サンマーベリックと名乗る男が刀を振るいながら私に問う。
まだ言葉を上手く話せなくて、首を横に振って答える。
「よい。サンマイルドになれなくとも生きる道はある」
サンマーベリックが声色を変えることなく言い放った。
それから、再び刀を振るうことに集中し、様々な型で技を繰り出す。
どの型から放たれた刃も目で追うことも難しいほどの速度で振るわれ、サンマーベリックの技量の高さを感じさせられる。
「今は理解できないのかもしれないが…」
刀を振るいながら再び口を開く。
「お前がこの先、生きていくというのであれば二つの選択肢がある。一つは望みは薄いが…世界と契約を交わし、サンマイルドになること…。それと」
そこでサンマーベリックが言葉を止めた。
「誰だ!?」
私とは対角線上にある廃墟の入口に向かって、サンマーベリックが声を上げた。
「流石にバレちゃう〜?」
陽気な声と共に、濃紺のコートを纏った小柄な男が入ってくる。
「何者だ。答えろ」
サンマーベリックが男に向かって刀を向けて問いかける。
「…問われて答える義理はないんだけどね。俺、こういう名乗り好きなんだよな」
コートを翻し、隠れていた二つの刀を抜き放つと男が答える。
「俺は殺人秋刀魚の達!!そこの刻日サンマ狩らせてもらうぜ」
「させない」
互いの刃が向き合い、衝突した。
達と名乗る青年が大小二刀の秋刀魚を抜き放つ。
右手に打刀、左手に脇差を持ち上段の円相に構えると俺の喉元を喰い破らんと駆け出す。
二刀流の基本は受け即太刀。
こちらが先の太刀を振るわば右の打刀で受け、すかさず左の脇差で喉元を喰い破る。
こちらが先の太刀を受ければ右の打刀を受けると同時に左の脇差が喉元を喰い破る。
用は対敵の隙を脇差で突くという単純にして攻防一体の型だ。
「打ッ!」
二刀のうち、右手に構えた打刀が俺へ迫る。
その一刀を受ける訳にはいかず、右半身を引き、左へと避ける。
そのまま、刃を対敵の喉元へと走らせるが左の脇差で受け止められる。
「はははっ!やるね!」
戦いの最中だと言うのに達は笑う。
「ほらよっ…と!」
達が腰を落とし、刈り上げるように足払いを放つ。
何とか起こりを捉えていたため、地から足を離ちそれを避ける。
秋刀魚に自重を乗せ、押し込む。
「よっと」
秋刀魚を避けるように後ろに跳ねると、着地と同時に構える。
一見軽薄そうに思えるが、かなりの手練だと感じる。
「逃げろ!!」
背後にいる細蘭に声をかける。
一度戦ったことがあるだけなのだが、サン魔力の質から彼女であったのだと当たりをつけている。
細蘭は俺の声に反応して廃墟の裏口から外へ走っていく。
「おいおい。あいつを逃がされたら困るじゃないか」
達が中段の円相に構えると両の刺突を繰り出す。
二刀流の刃は同時攻撃でありながら、若干の誤差のある曲者である。
先に至る打刀を踏み込みで避け、次なる脇差を刃で弾く。
「この太刀筋…日魔星に連なるものなんだろ?何故刻日サンマを助ける!今のうち殺しておかないと…」
刃を交えながら達が問う。
「答える義理はない」
「そうかい!」
達が当身を繰り出し、俺と無理やり距離を作る。
「耐えてみろよ…!!」
腰を落とし、二刀の秋刀魚を逆手に持つ。
「麗刀・霰舞」
秋刀魚を一つに、両刃へと変える。
「廻投」
腰を落とし両刃を引くと、秋刀魚を中心に烈風が吹き荒れる。
「秋刀魚ノ───」
達が両刃を放とうとしたその瞬間。
廃墟の壁の一部が崩れ、サン魔が現れた。
「「──!?」」
「久しぶりだな!!実験体よ!」
ベレー帽を被ったサン魔が声を上げる。
「お前は…サンマッチャー!!」
「随分とお前を探したよ。ええ?さっさとあの方の元へと戻ってもらおうか」
「…アイツに伝えておけ。すぐにお前の首を刎にゆくと」
「笑わせるな!お前はここで死ぬ!!」
「…伝言はなしだ。お前は一足先に地獄に落ちてやつの為にも精々清めておくがいい!」
刃をサンマッチャーに向ける。
「あのさぁ…なんかお取り込みの所みたいだけど?」
達が割って入る。
「とりあえず、仕事としてはサンマ優先なもんでさ。これでも喰らっておきな!」
俺に向けていた両刃をサンマッチャーに向ける。
「秋刀魚ノ弐衝華」
声高らかに吼えたて両刃を走らせる。
烈風を纏い、旋回しながら両刃がサンマッチャーに向かう。
「たかが人間の技!このサンマッチャーに通じると思うな!」
サンマッチャーは避けようともせず、手を伸ばしそれを受け止めようとする。
迫る刃、受け止めんと仁王立ちするサンマッチャー。
かくして。
鮮血が舞い、サンマッチャーの右腕が飛んだ。
「なぬうううううぅぅぅ!!??」
宙を旋回する己の腕を見上げてサンマッチャーが日名を上げる。
「たかが人間だと?お前らを狩る為に磨いてきた刃、何よりも鋭きと知れ!!」
自分の手元へ舞い戻ってきた両刃を手に、達が吼える。
「くっっ!!お前!!なんて名前だ」
「俺は達だ!」
「覚えた…覚えたからな!お前は俺が殺す!」
右腕を抑えながら、入ってきた崩れた壁の方へ走る。
「「待て!」」
つい先刻まで斬り結んでいた事を忘れ、達と共にサンマッチャーを追いかけ、外にでる。
日が落ちかけ、夜空は黒くなりつつあった。
廃墟の外には、五体の普通のサンマが待ち受けており、三界が降りていた。
「いつの間に!?」
達が驚いて声を上げている中、サンマッチャーの視界に捕らえる。
サンマッチャーは肩に細蘭を抱え、三界の端へと走っていた。
「くっ…待て!!」
サンマッチャーへ怒鳴り、サンマへ吶喊する。
「秋刀魚ノ款詰…開封!!」
その一説と共に、秋刀正宗が姿を表す。
一気にサンマとの距離を詰め、鉤爪を避けると一体を切り捨てる。
続いて踏み込み、二体。
三体目に至ろうとした時、背後から達が駆けてくると、飛び上がり俺と目の前にいたサンマを超えると奥にいた二体に迫り、容易く斬り捨てた。
二体のサンマを斬り捨てた達がこちらを振り向く頃には三体目を斬り捨て、五体のサンマを死肉へと変える。
「お前よりもあっちが先だ」
「優先順位をつける理性ぐらいはあるようだな」
「嫌な奴だよ」
言いながら達が駆け出し、その後を追うように駆ける。
「奴はサン魔だろう?逃げようが無い。何故一直線に三界の端へと向かう?」
達が走りながら、俺に問う。
「三魔分体だ」
「三魔分体…?」
「詳しいことは省くが、世界の目を掻い潜り、こちらに潜伏できる。この三界もやつに発生したものではなく、今斬り捨てたサンマに発生したものだろう」
「やっかいなこって…!!」
肩を並べ、サンマッチャーを追いかける。
サンマッチャーは三界を駆け抜け、夜闇へと向かう。
「逃がすか!」
逃すまいと更に足を伸ばす。
が、目の前にまたもや普通のサンマが三体現れた。
「邪魔をするな!!」
達と共に、サンマと闘う。
それほど時間を有さずに斬り捨てるが、その時にはもうサンマッチャーが視界から消え去っていた。
「くっそ…!!」
地面を殴りつけ吼える。
「やられちったな」
達が脱力しながら呟いた後、俺に向かって声をかける。
「…で、続きやるかい?」
「……」
秋刀正宗を構えつつ沈黙で答える。
「…はんっ。興が削がれた。お前はさっさとアイツを追いな」
二刀を収め、俺に背を向けると達が答えた。
「お前は…どうする?」
「そうだなー。ちょいと懐かしいやつにあってくるさ。じゃ、達者でな」
先程まで斬り結んでいた相手に背中を向け、あまつさえ無事を祈ると達は涼風のようにさわやかに去って行った。




