第三十一魚 総髪
おサンマをキメる時は周囲を明るくして、精神状態を整えてからキメましょう。
『三魔との約束だ!』
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
(ポニテ!ポニテ!ポニテ!)
ローポニー!
(ポニテ!ポニテ!ポニテ!)
サイドポニー!
(ポニテ!ポニテ!ポニテ!)
闇を裂く
(ポニテ!ポニテ!ポニテ!)
ゴールデンポニー!!
燦々と〜輝く〜
僕らの宝石〜
(ポニテ!ポニテ!ポニテ!)
祈りを込めた〜
男のフェチ
闇を照らす光にな〜る
(ポニテ!ポニテ!ポニテ!)
夢は(ポニテ!)
光は(ポニテ!)
愛は(ポニテ!)
全てが(ポニーテール!!)
ローポニー・サイドポニー・ゴールデンポニー・ストレート・ショート・アップ
垂れ髪は?(ノ〜!!)
イッツ・ワールド・オブ?
ぽにぃぃぃぃてぇええええるる!!
(ポニーテール〜)
「吼えろ!日魔星」
硬い床の上で目を覚ます。
ボヤける視界が段々とはっきりし始め、どこか廃墟のような場所にいると分かる。
随分と長い間眠っていたようで、廃墟の中は太陽の光で満ちており、身体は軋む。
「目を覚ましたか」
寝転んでいた私から少し距離をとった場所で小さな生き物…いや、嘗て私と同じもの。
人間が矛を磨いていた。
「多少は人間だった頃の意識が戻ったんじゃないか?」
人間の男が私に問いかける。
「喋れるだろう?」
「あっ…うっ…」
言われて声を出してみたが酷く掠れている。
「時期になれるさ」
男は私のほうを振り返った。
その顔を見てどこか懐かしい気分になった。
太陽が昇り、朝が訪れる。
「細蘭!細蘭どこだ!?細蘭!!」
声を張り上げで彼女の名前を呼び、サンマランドを駆ける。
刻日サンマとなってしまった細蘭。
だが、彼女は恐らく人間の知性を取り戻していた。俺の刃を受けようと静止し、微笑んでいた。
刃が彼女の喉元を喰い破る直前、サンマーベリックの乱入により姿を消してしまったが、何としても見つけ出さなくてはいけない。
細蘭を殺すために、別れるために。
彼女と初めてあったのはサンマキシマムに敗れたあとで、つい最近だ。
それでも、細蘭は俺の大切な仲間であることには違いなかった。
故に…それは俺の務めなのだ。
「細蘭!細蘭!!」
何度もその名前を呼び続け、喉に痛みが走る。
声は掠れて、すぐ目の前に落ちていく。
サンマと戦ってすぐ駆けつけ、休むことなく探し続けているため、疲労で体が悲鳴を上げている。
「三魔さん!」
背後からマリアンヌに声をかけられる。
「休んで欲しいでありますよ」
「細蘭を…後で休むさ」
「今すぐにでありますよ。三魔さん、昨日から飲まず食わずでありますよ」
「これぐらい問題ない」
「でも!」
マリアンヌが俺を本当に心配してくれているのが分かった。
それでも、責務は果たさなければいけなかった。
「三魔、今すぐに帰投しなさい」
サンマイクより、母秋刀魚の声が響く。
「今は忙しい」
「これは命令ですよ?」
母秋刀魚が珍しく語気を強めて言葉を発した。
「…分かった」
石鉛を抱いているような重い体を引きずり、屋敷へ戻る。
その俺の後をマリアンヌが静かに着いてきていた。
「いいですか、とにかく休みなさい。細蘭の捜索は他のものが引き継ぎます」
屋敷に着くと、有無を言わせない強い口調で母秋刀魚に告げられた。
渋々とそれを承知して、自室に戻るとベットで横になる。
細蘭の事で意識は冴えていたのだが、溜まっていた疲れですぐに眠りに落ちた。
目を覚ますと、正午を回っており食堂でサンマグロ丼とサンマスカットジュースを食すと鍛錬場に向かう。
細蘭の捜索は外されてしまったが、発見した際に迷いなく刃を振れるようにしておかなければならない。
木造造りの鍛錬場まで来ると、入口に母秋刀魚が立っていた。
「やはり来るとは…いいですか?休んでいろと言ったはずですよ?」
「体が鈍ってしまう」
「例え鈍ってしまうとしても今日は一切の鍛錬を禁じます」
「しかし…」
「貴方には指令があります」
「指令?」
「はい。貴方が昨晩連れてきたサリーという女の子。彼女にサンマランドを案内してあげなさい」
「え…?」
「サリーは客間にいます」
あくまでもにこやかに母秋刀魚が告げたが、その笑みの中に逆らってはいけない圧力を感じた。
「…分かりました」
つい敬語になってしまいながらも、屋敷の中に入ると客間へ向かった。
「サリー?三魔だ、入っていいか?」
襖に手をかけて問いかける。
「三魔さん?どうぞー」
中から、サリーの声が聞こえ遠慮なく開けるとそこにはマリアンヌもいた。
「三魔さん、サリーに用事でありますか?」
「ああ。母秋刀魚からサリーにサンマランドを案内するように言われてな。邪魔をしたか?」
「丁度いいでありますよ!今ちょうど、自分がサリーに案内すると話していたところであります。三人で行くでありますよ」
マリアンヌがはしゃぎながら言う。
「だが、女子二人で行くところだったのだろう?俺がいない方がいいのではないか?」
「僕は三魔さんとマリアンヌちゃんと僕の三人で行きたいです」
「サリーが言ってるのでありますから、無論尊重すべきであります!」
「分かった」
思わぬ同行者が増えたが、マリアンヌの方がサンマランドの店を知っているだろう。案内するのであればそちらの方が都合が良い。
「ちょっと待ってて欲しいでありますよ」
マリアンヌに言われ、客間から出ると玄関で待つ。
二人は中々出てこず、待たされ続ける。
無論、待つのが嫌という訳ではなく、女性が出かける際に支度時間を長めにとるということは重々承知だ。
しかし、今は一人になると細蘭のことに意識が向いてしまう。
本当にこんなことをしていていいのかと、疑問が湧き上がり気持ちが急く。
今は捜索中なのだ、焦るなと自分に言い聞かせながら待ち続ける。
「お待たせしたであります」
マリアンヌに声をかけられ振り返る。
そこには、二人の美人が立っていた。
二人は同じぐらいの恐らく年齢で、同じぐらいの背だ。胸部に差があれど、二人とも小柄な少女と言えよう。
そんな二人の印象を一言でまとめるならば可愛らしいだ。
その二人の可愛さを、サイドポニーテールが爆発させていた。
ポニーテールは髪の結ぶ位置で与える印象が変わる、千変万化の奥が深い髪型だ。
単純に挙げると、低い位置で結んだローポニーテールは大人っぽさ、耳よりやや上を結ぶゴールデンポニーテールは活発さ、サイドポニーテールは可愛さ。
勿論、それぞれで感じる良さというのは千差満別であるのだが、二人はまとめた毛先をウェーブかかったようにサイドに流し、可愛さを演出している。
忘れてはならいのが、ポニーテールによる仕手との相乗効果である。
例えば刀工、五郎入道正宗が打った名刀となればその刀のみで価値があるものだろう。しかし、刀である以上、真の価値とは仕手の技量に大きく依存する。
正宗が最も輝くのは、それを振るうに相応しい仕手の元でのみである。
同様にポニーテールもそれ単体で名刀正宗のように価値のあるものだが、それをセットする仕手がいるからこそ価値が生まれ、時には最も輝くのだ。
就活生の面接を担当する人事部の垢抜けてきた女性社員の一社会人としての大人っぽさとそれをアレンジする可愛さを秘めたローポニーテールを想像するだけで、男はご飯三合はいけるのだ。
マリアンヌとサリーの場合は、二人の可愛さをウェーブかかったゆるふわ毛先で主張しつつも、ポニーテールがもつ独特の大人っぽさをアレンジすることで、少女の大人っぽい可愛さを作り上げているのである。小さな頃から仲の良い幼なじみが薄いながらも化粧をし始めた事に気づいた時と同じように、可愛いに大人っぽいをアクセントしたサイドポニーテールに萌えない男などいない。
と、普段の俺ならばこの恐るべきポニテ指数の前で我を忘れてしまうのかもしれないが、今の俺はそんな気分にはなれない。
「…二人とも同じ髪型なんだな」
「はい!お揃いでありますよ!なんだか妹が出来たみたいで嬉しいであります」
マリアンヌが照れながら、笑った。
その可愛さに思わず吐血して心停止する所であったが、すんでのところで踏みとどまる。
「マリアンヌがセットしたのか?」
「そうでありますよ。サリーの髪、綺麗で弄りがいがあるでありますよ」
マリアンヌがサリーの肩にかけてある髪の毛を撫でながら言う。
「や、やめて、くすぐったいよ」
半ば照れながら主張するサリー。
毛細血管が切れてしまうのではないかと言うほど目を見張って眺めてしまう。
「ともかく、秋刀魚商工会まで行くか」
「了解であります!」
これ以上可愛いの奔流を受け続けるといくら日魔星の俺でも耐えられない危険性があるため、本題を切り出す。
二人を連れ立って秋刀魚商工会へ移動する。
サリーは見るもの見るものが新鮮だと言わんばかりに目を輝かせた。
「あれはなんですか?」
「あれはサンマスカットであります!サンマーマレードに合うであります!」
「あれは?」
「あれはサンマーマイトであります。見ない方がいいであります」
「あ…あの猫は?」
「あれはサンマンチカンであります。可愛いでありますね〜」
「何でもサンマですね」
「何でもサンマであります!」
二人が本物の姉妹のように微笑ましい会話をしていた。
そんな二人の背を眺めて、やはりポニーテールは後ろ姿にも趣があるなとぼんやりとしていた。
移動を繰り返し、サンマランド中を巡る。
結構な時間がたち、夕刻が差し迫る。
「最後に取っておきの場所に行くでありますよ!」
マリアンヌが待ちきれないとばかりにサリーの手を引いて駆け出す。
二人の後ろ背を追い掛け、時計塔まで来ると展望台まで登る。
いつだったか、マリアンヌと来た場所だ。
あの時のようにサンマランドを見渡し、沈む夕日を眺める。
夕日に照らされるサンマランドの景色は綺麗で。
そして何よりも、その風景を眺めるマリアンヌとサリーの横顔が美しかった。
二人の横顔を眺めて、ふと気づく。
かつて、イングランドの時人、アルジャーノン・スウィンバーンはアルバート・ムーアの絵画「アザレア」を見て『この絵画の意味は美そのものだ。存在することだけがこの絵の存在理由なのだ』と評した。
美しいものは、ただ美しくある。
それが美しさの本質なのだと。
このアザレアには一人の女性が描かれている。
その女性は髪をまとめ、ポニーテールをアレンジした団子ヘアー状にしている。
アルジャーノンが評した美しさ。
それは、ポニーテールにあるのではないか。
ポニーテールは美という存在理由を有して永遠で在り続ける。
アルジャーノンは見事にポニーテールの本質を言い当てたのではないだろうか。
今、目の前に広がる二つの美。
これが永遠なのではないか。
──きっと、そうに違いない。




