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人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
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第二十九魚 少女

 おサンマをキメる時は周囲を明るくして、精神状態を整えてからキメましょう。

『三魔との約束だ!』


 闇ありし所にサンマあり。

 死をもたらす災厄の化身。

 サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。

 だが、人は希望の光を手に入れた。

 人を守り、人を導く存在。

 人は彼らを称えてこう呼んだ。

『日魔星』


 Saury in the dark!! Saury in the dark!!

 闇の中へ〜

 Saury in the dark!! Saury in the dark!!

 刃を掲げ〜

 Hope is a sword!!

(前奏)

 血に飢えしサンマ〜

 大罪の炎がその身を灼く

 夜を駆け

 奴らを狩れ

 正義の刃

 悪を切り裂け〜

 Saury in the dark!! Saury in the dark!!

 闇の中へ

 Saury in the dark!!Saury in the dark!!

 刀は掲げ〜

 サンマを断て!!

 正義の刃を執り

 運命を討ち破れ!

 Hope is a sword!!


『斬り裂け!サンマ』


 サンマの狂行を覆い隠さんと暗雲が張り詰め月明かりを遮る。

 微かな月明かりと街頭に照らされた夜道を少女が駆ける。

 息は酷く乱れていて、少女が遥か長い時間、恐怖から逃れようとその小さな足で走り続けてきた事が窺える。

 少女の後を三体のサンマが駆ける。

 少女にしては肉付きの良い、柔らかく肌触りの良い絹のような体に触れようとサンマがひた足を伸ばす。

 悲鳴一つあげることなく少女は逃げ続け、やがて行き止まりへと追い詰められる。

 荒い息を上げながら自分に迫るサンマに少女は目を見張り、少しでも離れようと後退りをする。

 だが、背後に広がる壁に背がつきそれ以上下がることが出来ず、呆然とサンマを眺めていた。

 少女は悟ったのやも知れない。

 人であればサンマに抗うすべなどなく、引き裂かれるのみなのだと。

 ここまでの逃避行は無意味なものであったのだと。

 迫るサンマを直視出来ず、少女は目を瞑った。

 何も見ない。あらゆる恐怖を、あらゆる狂気を。

 瞼の裏の闇だけを見つめ、そして。

 サンマの首が飛んだ。

 少女とサンマの間に突然、救世主が現れ弄することなくただ一刀にてそのそっ首を斬り落とした。

「打つが(さんま)。響くは精舎の鐘の音なれば、幕引きはサンマの断末魔が道理であろう」

 救世主…秋水三魔(しゅすいさんま)が刃を振るい、血払いを済ませると残る二体に村正刀魚を向ける。

「すぐに終わらせる。待っててくれ」

 背後で瞠目し、事の顛末を眺めていた少女に声をかけ三魔が駆け出す。

 振り下ろされた鉤爪を軽くいなし、出来た隙でサンマを一足斬。飛び散る鮮血を浴びながらも、一歩も引くことなく斬り返し、一体を易々と肉塊へと変える。

 残る一体は仲間が斬られたのを見ると、三魔に恐れたのか後ろ足を引く。

 すぐ様にその場を立ち去れば、あるいは僅かながらにもその命を長引かせることが出来たのかもしれぬ。

 しかし、恐れを振り切りサンマは果敢にも三魔へ吶喊する。

 脆き人間がサンマの吶喊に耐えられる道理もなし。

 一度それを喰らわばその身は塵の如し、砕け散るであろう。

 されど、三魔は引くことはなく吶喊するサンマへ駆け出し飛びかかった。

 サンマと三魔が宙で交差し、鮮血が飛び散る。

 村正刀魚にて斬り捨てられたサンマは地に投げ出され、そのまま絶命した。

 血払いを済ませ、納刀すると三魔は少女の元に駆け寄る。

「大丈夫か?」

 超人的な技量と運動能力で容易くサンマを斬り捨て、血で濡れている三魔。

 少女にはさながら幽鬼の如く映ったであろう。

 しかし、少女は動じることなく首を降った。

「俺は秋水三魔。奴らのようなモノを狩る専門家だ」

 三魔が自分の名を告げ、少女に名を尋ねる。

「サリー…です」

 鈴の音のような小さく、凛とした声で少女は答えた。


 痛い、痛い、痛い、痛い。

 頭、心臓、背中、足、手のひら、至る所に痛みが走り、その感覚以外は何も感じられない。

 視界は酷くボヤけ、ピントがズレた世界は色を失っていく。

 白く迫っている世界では誰かの悲鳴が絶えず鳴り響く。

 ノイズのような悲鳴を聞き続け、それが自分の声だと気づくと、割れんばかりに痛み続ける頭の中で声が反響し始める。

 それが自分の声だと分かるのに、どこから発せられているのか分からない。

 己の所在すらつかめず、痛みだけでどこかに存在する事だけを知覚する。

 自分の名前を呼んで、誰なのか確認する。

 名を繰り返し、痛みとともに己が何者かを証明し続ける。

 けれど、己の名前を声に出す度に一層痛みが強まり、己の実在を否定せよと誰かの声が響く。

「私は、ワタシは、わたしは?」

 声に逆らい、己の名を問うがすっぽりと穴が空いたようにそれだけが意識の外へと落ちていく。

 そのまま痛みに呑まれ、世界が崩れきる。

 時間の感覚すら掴めずに、苦しみ続け、気づいた時にはピタリとその痛みが止んでいた。

 モヤがかかったような意識を払い、立ち上がる。

 低い天井に頭がぶつかり、慌てて身を引く。

 その際、手が近くにあった机に辺り、音を立てて机が崩れた。

 目をやると、机は何か鋭いものに切りつけられたように割かれていた。

 不思議に思い、手に目をやるとそこには虎のように鋭い鉤爪が広がっていた。


「その…ありがとうございます」

 サリーと名乗る少女は俺に頭を下げ、フラフラと歩み寄ってくる。

「怪我はしていないか?」

「多分、大丈夫だと思います」

 サリーは戸惑いながら答えた。

 サリーは、マリアンヌとそう変わりないぐらいの年に見え、綺麗に透き通った白髪に全く日焼け後が見えない白い肌と、どことなく静謐さを感じさせる綺麗な少女だが、ポニーテールではなくマリアンヌに比べて肉付きが良かった。

「えっと、流石に大丈夫だと思うがまだサンマ…さっきの化け物がいるかもしれない。家まで送るよ…それと」

 七輪を懐から取り出し、差し出す。

「化物よけになるんだ。持ってるといい」

「し、七輪ですか!?それはその…」

 サリーは遠慮がちに手を振り、七輪を受け取ろうとしない。

 仕方なく懐にしまい込み、

「ともかくだ。家まで送るよ」

 サリーに家の場所を尋ねる。

「そ、その…僕はおうちがなくて…」

「家がない…?」

「えっと…ぼ、僕は記憶が…」

 サリーは呟くと、伏し目がちに俯いた。

「…いきなりあんな化け物に遭遇したんだ。記憶が混乱しているのだろう」

 強引に納得づけて、できるだけ優しい声で投げかける。

「暫くは家に来ないか?部屋はいくらでも余ってる」

「…いいんです…か?」

 サリーは申し訳なそうに聞き返した。

「問題ないよ、こっちだ」

 手を差し出し、秋刀馬の元へ引いていく。

「ンマーン」

 独特的な何声を上げる秋刀馬にサリーが目を細めるが、しばらくすると恐る恐る俺の手を握って跨った。

「しっかり捕まっててくれよ」

 サリーに声をかけ、手綱を引く。

 秋刀馬が駆け出し、上下に揺られる。

 後ろにお客さんがいるため、あまりスピードを出さないように調節する。

「あの三魔さん!」

 サリーが俺の体に手を回しながら声を上げた。

「なんだ?」

 風に煽られて声が消えていきそうで、張り上げて大声を出す。

「三魔さんはー!!いつもこんなことをー?」

 サリーが負けじと声を張り上げで聞いてきた。

「あー!奴らが現れる限り、いつでもなー!」

「危なくないんですかー」

「時にはなー!だが、それでも戦う!」

 俺の返答てサリーが口を噤む。

「その…辛くはないんですか?」

 風に飲まれそうな小さな声で、サリーが呟く。

「…時にはな」

「それでも戦うんですか?」

「辛くとも、苦しくともな」

「なんで…」

 サリーはそこで一度言葉を飲み込んだ。

「いえ、その、なんでも」

 途中で飲み込んだ言葉の先、それを俺は感じ取っていた。

 彼女が問いたかったのは何故戦うのか。

 サリーはきっと、優しい人間なのだろう。

 その質問の繊細さを理解して、途中で切ったのだ。

「俺は人を守りたい。それだけで今は精一杯なんだ」

 自分に言い聞かせるようにそう呟く。

「その…ごめんなさい」

「謝ることではない。答えを見つけられない俺が悪い」

「そんなこと…!!」

「いいんだ、気にしないでくれ」

 その言葉が風に飲まれ、会話は無くなった。


 時間にして数十分。秋刀馬を走らせ、屋敷まで着く。

 屋敷は普段は静かなのだが、何故か騒がしい。

「ここだ。すまないが、待っててくれないか?」

「はい…?」

 サリーに断って、玄関で待ってもらうと戸を開けてる。

「三魔さん!!」

 戸を開けると直ぐに、マリアンヌが顔を覗かせ駆け寄ってくる。

「今連絡をしようとしていた所であります。その…大変なことが…」

 そこまで話して、マリアンヌは玄関先にいるサリーに目をつけて首を傾げた。

「誰でありますか?」

「現場でサンマに襲われたみたいでな。ちょっと記憶に障害が出てしまってるようだからとりあえず連れてきたんだが…その、大変なことって?」

「あ、えっと、とりあえずその女の子には屋敷で面倒見てもらうことにして…」

「サリーだ」

「サリーでありますね。ともかく三魔さんは母秋刀魚の所へ!!」

 マリアンヌに促され、屋敷の中に入る。

「サリーのことは任せて欲しいであります!」

「頼むぞ」

 すれ違い様に交わして、母秋刀魚がいる座敷まで行く。

「来てくれましたか三魔」

 母秋刀魚は座敷に座りながら、俺を目にして声をかけてきた。

 それから、歯を食いしばり肩を震わせ、辛そうに切り出した。


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