第二十七魚 傭兵
おサンマをキメる時は周囲を明るくして、精神状態を整えてからキメましょう。
『三魔との約束だ!』
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
刃を掲げ〜
Hope is a sword!!
(前奏)
血に飢えしサンマ〜
大罪の炎がその身を灼く
夜を駆け
奴らを狩れ
正義の刃
悪を切り裂け〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ
Saury in the dark!!Saury in the dark!!
刀は掲げ〜
サンマを断て!!
正義の刃を執り
運命を討ち破れ!
Hope is a sword!!
『斬り裂け!サンマ』
血の晩餐。
凡庸なれど禍々しきそれを指す言葉には何より相応しい。
大広間、豪勢な料理が並べなれ、人が優雅に食事を楽しむことを目的に設計されていたその場所ではサンマによる饗宴が開かれていた。
つい先刻まで真っ白であったテーブルクロスは血の朱に染まり、元の色など感じせない。
テーブルの上に並べられた人の死体はサンマに啄まれ、もはや生前の面影など推察できない。
彼、あるいは彼女はサンマの悦楽のために無惨にも裂かれ、その血肉を貪まれる。
異常にして至極真っ当な光景。
人はサンマに抗えぬが道理。
故に、その人間の末路は必然でもあるのだろう。
噎せ返るような血臭の中、サンマは気にも止めぬ様子で嗤っていた。
この場にいるサンマは二体。
そのうち一体が人の死肉を漁り、愉快そうに嗤い、もう一体は怯えるように黙り込んでいた。
「サンマッチャーくん…だったね?」
手にしていた死肉をテーブルに置くと、サンマが喋り始めた。
「はい、意外なる我が君よ」
「よしてくれ。僕は君の主になったつもりは無いよ」
「それは大変失礼致しました。…サンマリス様」
サンマッチャーと名乗るサン魔、一目するだけでその只ならぬ実力を窺えるサン魔は対面のサンマリスに静かに頭を垂れる。
「僕はね、使える部下が欲しいんだよ」
サンマリスはあくまでも静かに、サンマッチャーへ声をかける。しかし、その穏やかな声の裏には静かな怒りが見て取れる。
「申し訳ありません…」
サンマッチャーは深く頭を下げ、身体を震わせた。
「何について謝っているんだい?」
「はい…今回の失態についてです」
「今回?何をしたんたい?」
「…か、開発途中のサンマシーンを日魔星に破壊されました。私の管理不足です…申し訳ありません」
「それだけかい?」
「そ、それは」
「実験体のこと、隠し通せると思ったかい?」
サンマリスの瞳が妖しく煌めき、大広間中の空気が何倍も重くなったように感じる。
「じ、実験体のことは調査中でして」
「終わっても終わらなくても君の失態に変わりはないよね?」
「はい…」
サンマリスは一度笑みを零し、優しく声をかける。
「君が失態を認めて、挽回してくれるなら別段責める気はないんだよ」
「ありがとうございます…」
「責めない、とは言ってないよ。君が挽回のために何をするかなんだ。…もちろん、賢い君は何か一つは策を講じてるんだよね?」
「はい…サンマシーンを倒した日魔星に刺客を…」
サンマッチャーはそこで口を閉じた。サンマリスの笑みが呆れに変わったことを感じたからだ。
「それは…なんの解決になるのかな?」
「そ、それは」
サンマリスは立ち上がり、広場の扉に手をかけた。
「実験体の確保、それぐらいはやってくれよ」
言い残すとサンマリスが姿を消した。
サンマランドの市街地。
夜闇に紛れて、現れたサンマと対峙していた。
振り下ろされるサンマの鉤爪を既のところで前方に潜り込んで回避する。
懐に潜り込まれたサンマは距離を取ろうと、後ろへ跳ねるが、その隙を見逃さず村正刀魚を真っ直ぐ突き出す。
勢いよく突き刺さった村正刀魚がサンマの肉を抉り、心臓を突き刺す。
村正刀魚を引き出すと鮮血が飛び出し俺を染める。
顔にかかった血を拭い、村正刀魚についた血を払いを済ませ納刀する。
「母秋刀魚、終わった」
サンマイクを通じて、母秋刀魚に連絡を入れる。
帰投するように受け、秋刀馬の元へ向かう。
「…!?」
途中、足を止め村正刀魚を抜き放つとどこからともなく飛来したさんまを切り落とす。
「誰だ!?」
声を上げ問いかける。
闇の中で反響する問いかけには答えが返ってこない。
村正刀魚を構え、周囲を見渡す。
周囲には怪しいものは見当たらず、気を張りつめて深く構える。
上空より空気を裂き迫る音を聞く。見上げるよりも早く、背後へ飛ぶとつい一瞬前にいた場所にさんまが落ちてきてアスファルトの地面に突き刺さった。
宙に浮いた体が地面に足を着く直前、背後より衝撃が走り、前方へ投げ出され、地面に叩きつけられる。
受身をとりながらも、横に転がりながら勢いを殺し体勢を整え背後を見すえる。
「簡単に殺れるとは思ってはいなかったけど…安価手応えないんだねぇ」
隻眼のサン魔が立っていた。
その体は筋肉づきがよいのだが、引き締まり無駄のない綺麗な肉体をしている。
「…サン魔か。姿を表した以上、狩らせてもらう」
村正刀魚を向け、踏み込む。
距離を詰め村正刀魚を突き込む。
「甘い!」
サン魔が上体を倒して刃を交わすと、持ち上げる勢いで俺のがら空きの胴に向かって拳を振り抜いた。
軽トラックに追突されたような衝撃が走り、体が宙を浮く。
すかさず浮いた体に組みつかれ、地面に叩きつけられる。
「ぐはっ!!」
「この程度なのか?他愛ない」
上から押さえ付けられ、サン魔の呆れるような声が聞こえてくる。
「なめるっ…な!!」
上体を持ち上げ、サン魔を無理やり押し上げる。
「おっと…流石にそう単純な仕事じゃないか」
飄々とした態度でサン魔が言い放つと、両腕を構える。
サンマーシャルアーツ。多くの軍隊で正式に採用されている日魔星流の拳法であるが、サン魔が扱えるとは…。
無論、俺もある程度はサンマーシャルアーツを習得しているが、頑強なサン魔に通じるとは思えない。
村正刀魚を構えて、腰を落とす。
受けの型である。
「フッ」
サン魔が短く息を吐き距離を詰め拳をしならせる。
右側より鞭のようにしなり、外から内へと走る拳を既のところでかわし、鼻先を掠めた拳に掴みかかる。
「捕まえだぞ」
サン魔の拳を握りしめ、体を引き寄せると足蹴を放つ。
「この場合、捕まえたのはどちらかな?」
俺の足蹴りを片腕で抑えると、脳天目掛けて頭突きを放った。
サン魔の硬い頭蓋を叩きつけられ、目眩がし掴んでいたサン魔の腕を離してしまう。
続いて腹部に一発、体が折れて突き出された顔面に横から一発、突き飛ばされて住宅のコンクリートの外壁に叩きつけられる。
揺れる視界を無理やり開き、立ち上がる。
「タフネスだけはあるか。めんどくさい相手だ」
言うが否やサン魔が横蹴りを放つ。
俺の顔面に向かって正確無比に放たれた蹴りをすんでのところで村正刀魚で受止めるが、勢いを殺しきれずに、コンクリート壁を突きぬけ、住宅の庭に投げ出される。
足を地面につけなんとか勢いを殺して立ち上がる。
サン魔の方へ向き直ると、さんまが飛来する。反射的にそれを切り落とすが、俺の死角をつくように吶喊してきたサン魔が視線の下に潜り込んでいた。
一瞬遅れて気づき、サン魔が放った拳を何とか受け止める。
その細身から想像できないような重い拳で全体樹を掛けて受け止めているというのに、体が持ち上げられる。
「くっ……!!魚オオオオオオ!!」
拳を受け止めながら、地から離れた右足でサン魔の顔を蹴りあげる。
顔を捻ってかわそうとしたサン魔だが、何とか顎先を捉え、体勢が揺れる。
その隙に着地し、そのままの勢いで体を当て押し倒す。
サン魔の体が揺れ、地に倒れ伏す。
そのままサン魔に跨り、村正刀魚を喉元へ突き立てる。
が、サン魔が両腕を交差させたまま伸ばし、俺の腕へ当てるとそれ以上押し込めないように抑える。
「魚オオオオオオ!!」
雄たけびを上げ、押し込もうと上体の筋肉を使い力を込める。
僅かだが、サン魔の両腕が下がり、喉元へ刃が下がっていく。
「待て待て、日魔星」
「命乞いか?」
押し込める力を緩めずに問う。
「違うさ、取引だ」
「サンマと交わす取引などない!!」
「おいおい、話ぐらい聞けよ。俺はサンマーシナリー。俺はサンマネーさえ払えば誰にでも着く。人間だろうとサンマだろうとな」
「知るか!!」
吼えたて、刃を押し込む。
「ったく。最近の若造は」
サンマーシナリーは押し込まれる俺の腕を押し返し、俺に蹴りを入れると無理やり引き剥がす。
サンマーシナリーに引き剥がされながらも、体勢を整え村正刀魚を向ける。
だが、村正刀魚を向けた先であるサンマーシナリーは俺に背を向けていた。
「逃げる気か!!」
「やめだやめ。お前はあの程度の報酬では釣り合わん。借りを作った方がタシになる」
サンマーシナリーは俺に向かって名刺を投げつけ、駆け出す。
「待て!!」
追いかけるが、サンマーシナリーの逃げ足は早くまかれてしまう。
サン魔である以上、三界から出ることは不可能なのだが、例によっていくら三界の中を探してもサンマーシナリーの姿を発見できず逃亡を許してしまった。
「…また厄介なサン魔が出てきたな」




