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人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
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第二十六魚 蝸牛

 おサンマをキメる時は周囲を明るくして、精神状態を整えてからキメましょう。

『三魔との約束だ!』


 闇ありし所にサンマあり。

 死をもたらす災厄の化身。

 サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。

 だが、人は希望の光を手に入れた。

 人を守り、人を導く存在。

 人は彼らを称えてこう呼んだ。

『日魔星』


 Saury in the dark!! Saury in the dark!!

 闇の中へ〜

 Saury in the dark!! Saury in the dark!!

 刃を掲げ〜

 Hope is a sword!!

(前奏)

 血に飢えしサンマ〜

 大罪の炎がその身を灼く

 夜を駆け

 奴らを狩れ

 正義の刃

 悪を切り裂け〜

 Saury in the dark!! Saury in the dark!!

 闇の中へ

 Saury in the dark!!Saury in the dark!!

 刀は掲げ〜

 サンマを断て!!

 正義の刃を執り

 運命を討ち破れ!

 Hope is a sword!!


『斬り裂け!サンマ』


 サン丸太へ刃を打ち込む。

 鍛錬にように作られたサン丸太は長い年月、日魔星達による太刀を受けており、切り傷だらけだ。

 それでも砕けることなく、一本の大樹のように堂々と立ち太刀を受け続けている。

 模擬秋刀魚(しない)を当てる事に鈍い音をたてるが揺らぐことは無い。

 先日、サンマーベリックと遭遇しあと一歩まで追い詰めたものも、あえなく逃亡を許してしまった。それだけではなく、サンマシーンなるサンマに一人では太刀打ちできず、サンマーベリックの助けを借りる羽目になった。

 自らの未熟さを痛感し、焦りが募る。

 ただでさえ人手不足なのだ。金サンマ級の日魔星として情けないところばかりを見せていられない。

『サンマも人も…須らく悪だ!!』

 あの晩、サンマーベリックが放った言葉を思い出す。

 その声には確かに怨嗟があった。サンマも人も、そのどちらも憎いと、声を震わせていた。

「奴は何を知っている?…何を見た?」

 気付かぬうちに模擬秋刀魚を握り手に力が篭もる。

「何故憎む…」

 答えが返ってくるはずもなく、サン丸太を叩く乾いた音だけが鳴る。

 俺は人を守るため、サンマを討つために刃を振るってきた。

 サンマは悪で、人に仇なす怨敵なのだと、その存在に憎悪し続けた。

 俺はサンマが許せないのだ。

 人を殺め、人を貪る魔の存在を。

 …そう、信じてきた。

 サンマが悪なのだと。

 けれども、俺は一度も人間が悪なのだ考えたことは無かった。

 いいや…俺は、人間が善なのだとも。

 サンマが悪。それは俺がサンマを狩るための理由であり、闘い続けるための理由だったのだろう。

 何故サンマが悪なのか。それ以上に何故人を守るのか。

 いつだったか、マリアンヌに世界は広いと伝えられた。

 人を守ることを口実にサンマを狩り続けていた頃の話だ。

 そう伝えられて、俺は変わった。

 …変わったのだと思う。

 例えば、俺は──

 模擬秋刀魚を持つ手が震える。

 ──何のために闘っているのだろう。

 見て見ぬ振りを続けていた疑問の蓋を開けてしまう。

 己の中に広がっていた空虚。

 多くのサンマと闘って、多くの人を助けられてきたのかもしれない。

 でも、俺は多くの救えなかった人間の顔ばかりを覚えていて、救えた人の顔を覚えていなかった。

 助けられなかったことが悔しい。苦しい。

 無念が俺の心を焼いて締め付ける。

 俺は人を救いたい、守りたい。

 それが俺の嘘偽りのない真情である。

 けれども。

 己の根源(ルーツ)は酷く不明瞭であった。


 日が沈む頃になると、鍛錬を引き上げる。

 迷いを打ち払いたくて、十時間近く打ち込んでしまった。

 マリアンヌに見つかっていたら、怒られていたかもしれないが幸い、見つかることは無かった。

 鍛錬所から出て、本邸へ向かう途中、細蘭に会った。

「三魔、鍛錬上がりか?」

「ああ。ついつい没頭してしまってな」

「それは良いことだ。お前には頼りがいがあって欲しい」

「…頼りなくてすまないな」

「失言だったな」

 フォローを入れることなく細蘭が俺の傷口に塩を塗る。

「迷いに満ちてるお前は頼りがいがない」

 細蘭はそう呟くと、俺から背を向け離れて行こうとする。

 だが、足を止める。

「サンマの出没を確認。当直日魔星及び、日魔道士は速やかにこれを討ってください」

 サンマイクより、サンマの出没を伝えられる。

「ゆくぞ、三魔」

 有無を言わさない圧力を放ちながら、細蘭が言い放つと駆け出した。


 サンマの出没を確認されたサンマランドの市街地までやってくる。

 細蘭は自身の秋刀馬(さんま)を連れてきており、二魚で走り抜けてきた。

 手綱を引くと、子気味良く鳴っていた蹄の音が止む。

 秋刀馬から降り立ち、高く広がっていた視界が元に戻ると、村正刀魚に手をかけ先行する。

「着いて来い」

 細蘭は文句を言わず着いてくる。

 もう既に暗くなっているとは言えど、まだ浅い時間だ。しかし、人っ子一人おらず、市街地の路地は閑散とし、まるで異世界だ。

 気配を探りつつも路地を進み、曲がり角を曲がった先で異形を発見した。

 身体中に歯型だられけで、食い散らかされた死体。

 その上を這うようにサンマが蠢いていた。

 通常は馬のように逞しい足と虎のように鋭い腕を持ったサンマ。

 しかし、そのサンマには手足もなく、軟体のような体を殻を背負って守っていた。

 死体を貪っていた頭を上げ、俺たちを俺たちを捉える。

 すかさず下卑たる笑みを浮かべ、自分の下敷きになっていた死体の頭を噛みちぎって俺たちの方へ投げ出す。

「くっ…」

 その挑発を身を翻すと避け、村正刀魚を構える。

「細蘭、俺から行く」

 横並びの細蘭が頷くのを横目で見て、駆け出す。

 サンマは迫る俺を見ながらただ笑い続けた。

 そして、振り下ろされる刃が身に当たる前に姿を消した。

 いや、正確には殻の中に入り込んだのだ。

 身を狙って振り下ろした刃は虚しく空を斬り、大きく外れる。

「小細工を…だが!」

 例え殻の中に閉じ篭って一度避けようと、二手目は避けられまい。

 村正刀魚を大きく上段に構え、切っ先を天に向ける。

「魚オオオオオオ!!」

 雄たけびと共に、力強く振り下ろす。

 金属同士がぶつかるような高い音が鳴り響く。手元には重すぎる手応えが響き、殻には傷一つついていない。

「くくくっ!日魔星よ、お前程度の刃でこのサンマイマイに傷は付けられまい!」

 殻の中から反響するように声が響く。

「なら砕けるまで叩き込む迄だ!!」

 刃を再び上段に構え、振り下ろす。先程同様の手応えに、同様の結果。

 三度、同じように構え打ち込む。同様。

 サンマイマイの硬い殻を傷つけられるような結果は得られない。

「なんて硬さのサンマだ!」

「くくくっ!諦めなさい!」

「誰が!」

 刃を振り上げる。四度振り下ろそうと腕を垂直に落とす…が、その腕を掴まれる。

「待ちな、三魔」

「細蘭…?」

「こういった輩は私の役目だ」

 細蘭が俺を押しのけ、前へ出る。

「それにお前の刃は迷いがある」

「…!?」

「鈍だと言っているんだ」

 語気を強めて言い放つと、サンマイマイの前まで歩みでる。

「くくくっ!どんな武器を持ってこようともこの鉄壁の守護を砕けると思うな!!」

「武器だと…?お前らを討つのに何も持つ必要などない。この拳のみで十分だ」

「くくくっ!その細腕でやれるもんならやってみるがよい!」

 細蘭の脳筋を知らないサンマイマイは自信満々に吼える。細蘭の剛腕であれば或いは…と思わなくもないのだが、果たして本当に成せるものなのか。

「はぁぁぁぁ」

 腰を落とし、サン魔力を拳に集める細蘭。

 大気が震えるような錯覚すら覚える。

「砕けろぉぉおおお」

 唸る剛拳。力強く踏み込まれたアスファルトの地面は勢いで穿たれる。

 剛拳が殻に到達し、重車輌同士がぶつかるような酷く重たい音が轟く。

 と、同時に。

「なんとぉぉおおおお」

 サンマイマイの悲鳴が上がり、殻が砕け散っていく。

「な?武器など持つ必要がなかっただろう?」

 殻が破られ、サンマイマイはその場でのたうち回る。

「三魔!」

 細蘭が振り返りながら、俺を呼ぶ。

「この軟体野郎は触りたくない。お前が斬れ」

 のそのそと這いつくばるサンマイマイの本体を指し、細蘭が言い放つ。

「了解だ」

 サンマイマイとの距離を詰め、村正刀魚を振り下ろす。

 鮮血を上げ、サンマイマイが息絶える。

「鈍でもその程度は斬れるな」

 細蘭がそう呟くと、転身し市街地の外、秋刀馬の方へ向かう。

 細蘭の後を追おうと振り返ると、細蘭の足取りがフラフラと揺れていた。

「細蘭!」

 声をかけると同時に、細蘭の足がもつれ地に膝を着く。

「大丈夫か?」

 駆け寄り、声をかけると細蘭が頭を縦に振る。

「問題ない。よくあることだ」

「よくある?」

「代償だ」

「日魔道士の…」

 サン魔力。

 それはサンマの力そのもの。

 人とは相反するそれは、誰もが内に秘めていようと極僅かであり、普通の人間にとって害はない。

 だが、日魔道士はサンマと戦うためにサン魔力を己に纏い、自らをサンマと定義している。人でありながら、サンマという矛盾。

 矛盾を世界から排そうと身を焼く。

 日魔道士はサンマとの戦いの度に己の寿命を削るのだ。

 それが日魔道士の代償。

 故に、サン魔力を己ではなく外部の武器に宿す日魔星が生まれたのだ。

「大丈夫…だ」

 細蘭が立ち上がり、歩き出す。

 サンマと化し、世界に排されながらも世界のために戦う。

 己をサンマとする者は人としての寿命を削り続ける。

 果たして…その末路とは…。

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