第二十四魚 奇術
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
刃を掲げ〜
Hope is a sword!!
(前奏)
血に飢えしサンマ〜
大罪の炎がその身を灼く
夜を駆け
奴らを狩れ
正義の刃
悪を切り裂け〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ
Saury in the dark!!Saury in the dark!!
刀は掲げ〜
サンマを断て!!
正義の刃を執り
運命を討ち破れ!
Hope is a sword!!
『斬り裂け!サンマ』
「ほう?あなたにこのサンマジシャンが斬れますか?」
サンマジシャンと名乗るサン魔がトランプ宜しくさんまを広げて不敵に笑う。
「斬るさ、お前がサンマである限り」
村正刀魚を抜いて、中段に構えると距離を詰める。
「こちらにさんまがあります」
サンマジシャンは広げたさんまのうち一匹を俺に差し出す。
無視して、横に切り払う。
「おっと」
サンマジシャンは軽やかに後ろに跳ねてそれをかわす。
「っと。それでは見てください。さんまはどこにあるでしょう?」
華麗に着地したサンマジシャンは手を広げる。
広げられた手の中には一匹もさんまがいない。
「答えは…」
サンマジシャンが俺の腹部を指す。
そこには。
さんまが突き刺さっていた。
サンマーリンランドでの行方不明事件の調査だが、大きな成果を得られず、また最近出没が相次ぐサンマだか何者かに殺害されその死体を放置されるという事件が相次いだため、他の日魔星に引き継ぐ形で調査を終えた。
最近はマリアンヌや細蘭と組んでサンマを狩ることが多かったが、人手が足りないため当面の間は、単独での任務になるだろう。
久しぶりになる単独任務で気を貼りつつも、秋刀馬で現場の機械工場まで来る。
夜も更けていることもあり、工場内には人がおらず閑散としている。
サンマの気配を探りつつも、探索を行いう。
第一工場棟に入ると、そこらかしこにサンマの死体が転がっていた。
「ビンゴか?」
気配を殺して進み、第一工場棟と第二工場棟の間にあるサッカーコート半分ほどの庭に入ると、そこでシルクハットを被ったサン魔がマントをたなびかせ待ち構えていた。
「ようこそ!日魔星。今宵は拍手の代わりに貴方の悲鳴で賑わせましょう!!」
サン魔が高らかに謳う。
村正刀魚に手をかけ、サン魔を睨みつける。
「ほう?あなたにこのサンマジシャンが斬れますか?」
腹部に突き刺さったサンマを引き抜く。
幸い、さほど深く刺さった訳ではなく少し肉が削がれただけで軽傷だ。
引き抜いたさんまを放り投げサンマジシャンへ村正刀魚を向ける。
「おやおや、食べ物を粗末にしてはいけませんよ?」
「食べ物でマジックをするな」
「これは手厳しい…」
再び中段に構えると一気に距離を詰める。
この手の手合いには小細工をする時間を与えてはならない。
先ずは村正刀魚を振るうのではなく、蹴りを入れる。
「おっと」
刀での実戦剣法において、体術の効果は舐められるものでは無い。
蹴りや足掛けは必殺ではないが、体勢を崩した相手に必殺の太刀を入れるのは容易い。
タイ捨流、足蹴。
狙いは功を奏し、サンマジシャンの胴体を強く蹴り上げ、体勢を崩す。
後はすかさず村正刀魚を振り下ろすだけである。
中段に構えていた村正刀魚を一度腕を伸ばして振り上げると、勢いをつけて振り下ろす。
重力に引かれながら迫る村正刀魚。
だが、刃が届く前にサンマジシャンがマントを翻し、俺の視界を塞ぐ。
「小細工を…だが!!」
例え視界を塞がれようと、外すわけがなく村正刀魚を振り切る。
しかし、手応えはない。
マントの向こうにあったはずのサンマジシャンの体は空気に溶け込むように消えていた。
「こちらですよ」
背後からサンマジシャンの声が響き、背中に痛みが走る。
反射的に村正刀魚を振りかぶりながら振り返るのだが、サンマジシャンは軽やかに後ろに跳ねてそれをかわす。
「くっ…!」
痛みを感じながら、背中に手を回すとさんまが突き刺さっていた。
呻きながらさんまを引き抜く。
「おやおや?日魔星とはかくも脆きものなのですか?」
「サンマの分際でよく煽るじゃないか?」
村正刀魚を構え直す。
「下等な人間にサンマウントとって何がいけないんです?」
サンマジシャンは苛立ちながら答えると、
「まあよいです。あなたはもう終わりです」
マントを翻し、次の瞬間には大量のさんまを構えていた。
「さあ、避けられるものなら避けて見せない!」
サンマジシャンがさんまを投擲しようと身構える。
が。
サンマジシャンは背後から刀を突き刺される
「ぐふっ」
刀がゆっくり引き抜かれ、鮮血を吐きながら倒れる。
倒れゆくサンマジシャンの背後には、黒衣を秋刀魚仮面を被った男が立っている。
「サンマーベリック…!!」
「ほう?あの時の日魔星か」
刀を振るい、血を払うとサンマーベリックが答えた。
「日魔星とはこの程度のサン魔一匹討ち滅ぼせないのか?」
「…わけない」
「そうは見えなんだが」
「試してみるか…?」
村正刀魚を向け、問う。
サンマーベリックは刀を構えずに月を見上げた。
「…今宵の月は美しい。日魔星の剣を肴に楽しむのも悪くなかろう」
刀を下段に構え、俺を見据える。
「行くぞ」
「…来い」
剣術とは化かしの技術。
人同士の斬り合いによって生死を分けるものは読みの深さと騙しの技術である。
剛の剣が柔の剣に敗れるのではなく、柔の剣が剛の剣に敗れるのでもない。
一手読み間違えた者が敗れるのだ。
肘を大きく張り、鍔を耳より上の位置に置く。
剣先を高く、さながら甲冑剣術だ。
引の構え、剣聖塚原卜伝が伝えた鹿島新當流の構えである。
『身は深く与え、太刀は浅く残して心はいつも懸りにて在り』と説かれ、対敵に己の身を晒しつつも動きに合わせて斬り掛かる先の先、後の先の型、面ノ太刀
それが俺が選んだ騙しだ。
対するサンマーベリックは、下段に構えたまま不動。
剣先が揺らぐこともなく、石の彫刻の様だ。
対敵の呼吸を読めない。即ち、対敵の手を読めないことと同義だ。
下段の構えから考えられるのは、おおよそ防御の難しい斬り上げや刺突といったところだろう。
問題は俺が間合いに入るの虎視眈々と狙っているのか、俺の太刀をかわし後の後で斬り捨てようと企んでいるのかである。
緊迫した雰囲気のまま、サンマーベリックの間合いに入る。
果たして刃は走らない。
サンマーベリックは未だ不動のまま俺を見据えていた。
俺の間合いにも入っているのだが、浅い間合いで放てば一足にて避けらかねない。
一足一刀の間合いまで詰めて放てるのが理想であり距離を詰める。
サンマーベリックを見据えたまま、一足一刀の間合いまで詰め硬直する。
互いの間合いに入りながらも刃を構えたまま膠着し、時が経つ。
決して対敵から意識を外すことはなく、その呼吸を探ろうとひた睨み続ける。
刻々と消費され続ける一瞬にして永遠の時間。
果たして、その時間に終わりが告げられる。
俺から刃を振り下ろす。
無論、その太刀で斬り捨てるつもりはなくあくまでも虚偽である。
本命は続く二の太刀、秋刀魚返し。
サンマーベリックが一の太刀をかわすと踏んでの一手である。
だが、目論見は外れ、サンマーベリックが俺の刃を受け止める。
「くっ…!」
直ぐに体重を乗せ、斬り込む。
「中々重い剣ではないか」
サンマーベリックが俺の刃を受け止めなが、言い放つ。
「だが…」
サンマーベリックが刃を振るい、刃を弾く。
弾かれた刃を直ぐに手元に引き寄せるが、同時にサンマーベリックが上段にて斬りかかってくる。
ほぼ反射でそれを受け止める。
刃鳴り、刃がぶつかり合う。
奇しくも一手前の状況と反対に押し込まれ、サンマーベリックの刃を受けながら、押し返そうと踏ん張る。
「魚オオオオオ!!」
慟哭と共に、全身の力で押し返し、踏ん張った足で足蹴を放つ。
サンマーベリックの胴体を掠めるだけであったが、それをかわす為にサンマーベリックが距離をとった。
「惜しい……何故だ…?」
たった二合であったが、この男の力量の高さはひしひしと伝わってきていた。
「何故人に仇なす!」
距離を詰め、村正刀魚を振り下ろす。
「しれたことよ!」
サンマーベリックが斬り返し、刃が交わる。
「サンマも人も…須らく悪だ!!」
サンマーベリックが刃を返し、一瞬の隙を刺突で突く。
「人は悪では無い!」
喉元に迫る刃を右半身に捻ると躱し、伸びきった対敵の刀を刃先で打つ。
鐘が響くような低重音を鳴らし、対敵の刀が大きく天へ逸れると、踏み込んで首元に刃を突きつける。
「貴様と俺は相容れぬ。斬るがよい」
サンマーベリックが俺を見据えたまま、呟く。
サンマーベリックの秋刀魚仮面の下にはどのような表情が浮かんでいるのか。
人を悪と謳うこの男の表情は人への憎悪が満ち溢れているのかもしれない。
…だが。
例えそうであろうと、なかろうと。
俺は日魔星として人に仇なすものを生かしてはおけない。それが人であろうとも。
村正刀魚を押し込もうと、両腕に力を入れる。
その瞬間、俺の背後から轟音が響いた。




