第二十二魚 包帯
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
刃を掲げ〜
Hope is a sword!!
(前奏)
血に飢えしサンマ〜
大罪の炎がその身を灼く
夜を駆け
奴らを狩れ
正義の刃
悪を切り裂け〜
Saury in the dark!! Saury in the dark!!
闇の中へ
Saury in the dark!!Saury in the dark!!
刀は掲げ〜
サンマを断て!!
正義の刃を執り
運命を討ち破れ!
Hope is a sword!!
『斬り裂け!サンマ』
「それで、どんなやつだったんだ?」
「黒コートに秋刀魚仮面を被った陰険なやつだったよ」
細蘭が不貞腐れながら答える。
先日のサンマランド襲撃により、多くの日魔星の命が絶たれ、人手不足が深刻な問題になったため聖域より応援を呼んでいた。
その応援として、サンマスラオの元で修行をしていた時に組手の相手をしてくれた細蘭が派遣されてきたのだが、サンマランドについた昨晩に謎の敵と交戦し、敗れてしまったようだ。
細蘭の実力は、組手を通じて痛いほど身に染みており、細蘭が敗れるなどにわかに信じ難かった。
だが事実、細蘭は日が空けてから埠頭で倒れているところを発見され、先程目を覚ましたところだった。
幸い、目立った外傷はなく今は病院のベットの上でピンピンしている。
一応は様子見で明日の朝まで入院するようだ。
「油断してたんだよ」
頭を掻きながら、苛立ただげに答える。
「油断してたとはいえ、お前ほどの奴を容易く…」
「容易く?」
「失言だった」
「次は負けないさ」
「そうだろうな…。ところで、得物は?」
「刀…って、私の獲物を横取りするつもりかい?」
「そんなつもりないさ。少し気になることがあってな」
「心当たりがあるのかい?」
「…いや、今はいい」
頭の片隅で行方不明になった秋刀正宗の事がチラつく。
状況的に秋刀正宗が何者かに盗まれたと考えるのは妥当ではあるのだが、邪な者に渡っていると考えるのはそう易々と飲み込めなかった。
「その男はサンマと人間、どちらも斬ったんだよな?」
「多分な。駆けつけた時にはどちらも死体に成り果てたから憶測だがな」
「切り口が一致してるから、その認識であっているだろう…。妙だがな…」
サンマを斬り捨てた義賊で済んでいれば、さほど懸念することは無いのだが、その場に居合わせた一般人も斬り捨てられている。
「何か言っていなかったのか?」
「そういえば…なにか妙なことを言われた気がするよ」
「何だ?」
「"我らの敵はサンマと人"だったかな…」
「我ら?それに敵はサンマと人か…」
我らと発言していたのであれば、男は俺たちに対して何らかの仲間意識があるのかもれしない。
だが、俺たちの敵はあくまでもサンマであって人ではない。
例えサンマを斬ろうと、人に仇なすものは俺たちと同じであるはずがない。
「…その男がなんの目的があるにしろ、俺たちの敵であることは変わらないだろうな」
日魔星の敵はサンマ、そして俺たちの敵は人に仇なす者なのだろう。
「小難しいことはいい。次にあった時はぶちのめす。それだけだ」
細蘭が拳を握りしめ呟いた。
日が傾き始めてから細蘭の病室を後にして、屋敷に戻る。
「お見舞い済んだでありますか?」
玄関まで来たところで、マリアンヌに声をかけられた。
「大丈夫そうだ。…何か用があったのか?」
今は半壊しているが母秋刀魚の屋敷は司令塔のような役割があり、一部の上級日魔星が常駐しているが、多くの日魔星はサンマランドの敷地内に居を構えている。
マリアンヌもその一人で、有事の際を除いて屋敷にいることはない。
「ちょっと顔を出してみただけであります」
「暇なら訓練所にでも行ってろ」
「…そうでありますね」
マリアンヌは寂しそうに呟いた。
「三魔さん、お見舞いに行ってた方はどんな方でありますか?」
訓練所に行く素振りも見せずにマリアンヌが問うてきた。
「細蘭という日魔道士だ。修行をしていた時に世話になった」
「…女でありますか?」
「そうだが?…まあおそらく単純な殴り合いでは俺の上をいくだろうな」
「つ、強そうな方でありますね…」
「ああ、かなり強い」
「そんな方が…」
「…本人曰く油断していただけのようだが、警戒するに越したことはないだろうな」
「はい」
マリアンヌが返事をして、それから少しの沈黙を置いてから口を開く。
「細蘭は可愛いでありますか?」
「…ん?女性的に魅力的かどうかということか?」
「まあ、その…そうとも言うかも知れません」
予想外の問いに困惑してしまう。
細蘭が女性的に魅力的かどうか。
細蘭は年齢的には俺と同じ位で、マリアンヌより少し年上だろう。
真っ直ぐ伸びた金髪でポニーテールが似合いそうなマリアンヌと比べると、短くまとめた黒髪でポニーテールが似合いそうだ。
体つきは少女らしい凸凹の少ない体つきのマリアンヌに対し、凸凹のある体つきをしている。
どちらが女性的に魅力的かというのはあくまでも個人観であり一概に言えるものではないと思うが、俺個人としてはマリアンヌの体つきの方がポニーテールが似合うかもしれないと思う。
だが無論、細蘭にポニーテールが似合わないかどうかと問われれば否であり、似合うと言える。
総評して、俺個人としては細蘭は女性的に魅力的であると考える。
「魅力的…だと思う」
考えをまとめて答える。
「…そうでありますか。いつかその細蘭にも会ってみたいであります」
マリアンヌはまた寂しそうに呟いた。
「夕飯は食べたか?」
このまま別れるのが忍びない気がして、食事に誘ってみる。
「まだでありますよ」
「嫌じゃなければ一緒に行かないか?」
「はい!であります!」
マリアンヌが嬉しそうに笑みを浮かべて答えた。
次の瞬間。
「サンマの顕界を確認。日魔星は直ちに現場に急行してこれを討ってください」
サンマイクが鳴り渡る。
「…先にサンマを狩るか」
「…はい」
屋敷をあとにして、秋刀馬まで走る。
「マリアンヌ、後ろに乗れ」
先日はマリアンヌが先行したため、俺一人で乗って向かったが今は二人ともこの場にいる。
「え?」
一瞬呆けた顔をしたマリアンヌだが、俺が意図した言葉を察すると歩みよる。
手を貸して、マリアンヌが後ろに乗ると、
「落とされないようにしっかり掴まれ」
と警告し、マリアンヌが俺の胴体に手を回したことを確認すると手綱を締めた。
「ンマーン」
独特的な鳴き声を上げ、秋刀馬が駆け出した。
夕刻、日が沈み夜闇が溶けだす。
夕闇の空の下、秋刀馬が駆ける。
行先はサンマが出没したオフィス街である。
サンマランドの南部はサンマイクロコンピュータ産業で賑わい、一大都市と化している。
サンマの背丈より遥かに高いビル群に迫る中、日は完全に落ちていた。
三界に入ると、秋刀馬から降りる。
「…細蘭のこともある。二人で行動するぞ」
「了解であります」
いつでも村正刀魚を抜けるように手にかけ、ビル群を歩き回る。
サンマは闇を好む。
潜むとしたらビルの間にある狭路だろう。
一つ一つ確認し、四つ目でそれを見つけた。
赤い絨毯の中で横たわるように眠る人。
しかし、その体は所々が穿たれサンマに啄まれたことが見て取れる。
絨毯のように広がるそれは血の海で、その者は執拗に痛めつけられたようだ。
そして。横たわるよう死体のそばにサンマが立っていた。
馬のように逞しい足に、虎のように鋭い鉤爪を持った普通のサンマの姿。
であるのだが、その体表はさんまが包帯のように巻き付いており異形の体を表している。
「人間かぁ…?」
サンマが振り返り、問う…
否、人語を操る異形のサンマはサンマであらず、サン魔である。
「ああ、人間だとも。お前を狩る人間だ!!」
村正刀魚を引き抜き、上段に構えると踏み込む。
生命力の高いサン魔を仕留めるには魔力炉を突くのが効率が良い。
サン魔は構えもせずに俺を向かえいれる。
容赦なく村正刀魚を振り下ろし、刃は魔力炉へ当たる。
が、斬れない。
体表を覆うさんまで刃が通らないのだ。
「俺様はサンマミー!お前の斬撃など俺に通らん!」
サンマミーが吼える。
それは事実であり、俺は村正刀魚を引き戻し後ずさる。
「三魔さん!伏せて!」
背後よりマリアンヌの声が響き、俺が屈むのと同時に炸裂音が鳴り渡る 。
秋刀魚銃より放たれた弾丸はサンマミーに向かって一直線に飛ぶ。
「甘いわ!!」
サンマミーが叫び、右腕を振るうと腕に巻きついていたさんまが鞭のようにしなり弾丸を絡めとる。
「銃弾など効かぬわ!!」
「ならこいつならどうだ!」
村正刀魚を下段から突き出す。
「同じことよ!」
空を裂き、サンマミーの喉元へと迫る村正刀魚であったがサンマミーのさんまが再び鞭のようにしなると巻きつかれ勢いを削がれる。
負けじと踏み込んで押し込もうとするが、何重にも巻かれたさんまにより完全に勢いが潰された。
「ふんぬっ!」
サンマミーが腕を力強く引き、村正刀魚が引っ張られる。
決して離すまいと足を地面につけて踏ん張るのだが、サンマの剛力に叶うはずも無く村正刀魚こど宙に巻き上げらると、数瞬後には後方へ投げ飛ばされる。
何とか受身をとり無傷で地面に着いて立ち上がる。
「大丈夫でありますか!三魔さん!」
マリアンヌが心配そうに駆け寄る。
「無事だ」
「なんというサン魔でありますか…」
「ああ、防御だけはしっかりしている。中々手強い。一人では倒せなかったかもしれないな」
「…一人では?」
「ああ一人ではな」
マリアンヌの目を見据える。
「任せたぞ」
呟くと下段に構えて駆け出す。
「自暴自棄か!」
サンマミーは勝ち誇ったように笑う。
先程同様に村正刀魚をサンマミーへ向けて突き出す。
「勢いがあろうと変わりませんよ!!」
サンマミーがさんまをしならせ、村正刀魚に巻き付けようと振るう。
その瞬間。
「今です!三魔さん!」
マリアンヌの叫び声に応じて、身を屈める。
と、同時に俺の背から鉄の弾丸が飛び出しサンマミーへと迫る。
「なっ!?」
村正刀魚に気を取られていたサンマミーは咄嗟に弾丸を巻取ろうと腕を振るおうとするが、さんまが村正刀魚に引っかかり伸ばせない。
がら空きの胴に秋刀魚銃の弾丸が叩き込まれ、鮮血が飛ぶ。
「なっー!?」
痛みに気がいき、村正刀魚を巻き付けていたさんまが緩む。
その一瞬で刃を返し、拘束を解くと下段から振り上げてサンマミーの右腕を斬り落とす。
「っー!!」
一瞬の気の緩みで致命打を受けたサンマミー。
しかし、腐ってもサン魔。
直ぐに残った左腕をしならせ、さんまを鞭のように伸ばしてビルの非常階段の手すりへと巻き付けると、、さんまで自分の体を持ち上げ逃亡を図る。
「待て!!」
俺の叫びを聞くはずもなく、サンマミーは体を持ち上げ、ビルの屋上へと消えていった。
「追いかけるぞ!」
マリアンヌに声を掛け、非常階段を昇る。
息を乱しながらも登りあげ、屋上へと押し入る。
閑散とした屋上が広がり、月がすぐ側にあるように錯覚する。
隣のビルとの距離は狭く、入口からも隣の屋上が見て取れる。
そこに。
サンマミーが両断され、肉塊と化していた。
サンマミーの死体のそばで血を帯びた刀が月光を反射して光る。
月光を浴びながら、そいつは俺を見据えて立っていた。
黒衣を纏い、秋刀魚仮面で己の顔を隠し、さながら幽鬼の如く揺らめいていた。
「お前は…だれだ」
「……敢えて名乗るのであれば…そうだな」
低くくぐもった声で、男だと感じる。
「サンマーベリック…とでも名乗っておこうか」
サンマーベリックと名乗る男は、そのまま黒衣を翻し、俺に背を向けると駆け出した。
「待て!!」
隣のビルに乗り移り、サンマミーの死体を超えて追う。
だが、サンマーベリックは俺が追いつくよりも早く、屋上から飛び降り視界から消えた。
サンマーベリックが飛び降りた屋上から身を乗り出し、姿を探す。
しかし、その姿を捉えることは出来なかった。
「サンマーベリック…一体何者なんだ…」




