第二十魚 死別
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
(前奏)
ゆけ〜さんまの戦士〜
魔を討つ戦士よ〜
秋刀魚を掲げて〜
(オォォォォ~)
鳴り渡るサンマの咆哮
終わりを告げる魔笛
散りゆく人の運命
響く
慟哭を聞け
さんまの戦士よ
叫べ!
怒りの声
振るえ!
怒りの秋刀魚
戦え!
怒りの戦士
正しき心
秋刀魚の一太刀
魔を討つ戦士 三魔〜!!
『戦え!日魔星』
雲により月光が遮られ、森の中に闇が広がっている。
闇の中に広がるのは、サン魔の嬌笑であった。
その嬌笑を遮るように一つの希望が生まれる。
闇を裂く一条の光。
魔を断つ剣、村正刀魚。
砕け散った秋魚女と好敵手より受け継いだ刀より生まれし新たなる希望。
その村正刀魚をサンマガタマハリバエへ振り下ろす。
「そう簡単にやられますか!」
サンマガタマハリバエが秋魚女の腕を突き出すと沢山のさんまが生え、村正刀魚の一太刀を受け止めようとする。
強固なさんまで防御されれば、確かに秋刀魚を受け止められていただろう。
だが、この刀は村正刀魚。
さんまを斬ることなど容易い。
渾身の力で振り下ろしさんま諸共、秋魚女の腕を飛ばす。
「あぁぁぁぁぁ!!」
秋魚女の声でサンマガタマハリバエが悲鳴をあげる。
サンマガタマハリバエは切り落とされた秋魚女の腕を抑え、背後に這う。
「来るんじゃない!」
秋魚女の声で無様に悲鳴を上げながら、俺から逃れるために這いつづける。
追い詰めるように、一歩、一歩近づく。
「動くな。これ以上、秋魚女の体を傷つけたくない」
村正刀魚を首元に突きつけ、脅す。
「鬼ですか貴方は!!この体は貴方の仲間のものですよ!?こちらのお嬢さんはまだ生きているんですよ?」
「そうみたいだな…」
「わかっているのならなぜ!!」
何も答えずに村正刀魚を一閃し、秋魚女の首を飛ばす。
秋魚女の頭が地面に転がり、やがて止まる。
「なぜぇぇ…」
秋魚女の頭はこちらを向き、瞠目して俺を睨む。
「鬼!!貴方はそれでも人間ですか!!」
頭だけの状態で秋魚女の口が動かし、俺を罵る。
断たれた傷口から、蛆の如くさんまが溢れ出し地べたを這いずりまわる。
「それがお前か」
醜く這いずり回るサンマの姿をした蛆は、のたうち回りながら、俺から逃れようと這う。
「逃がすわけがないだろ」
村正刀魚へサン魔力を集め、散魔ノ太刀の型をとる。
村正刀魚が淡く光り、当たり一体に凍てつく冷気が荒れ狂う。
刃をのたうち回る蛆サンマへ向け、踏み込む。
「秋刀魚ノ開闢」
荒れ狂うサン魔力が村正刀魚に一点集中し、凝縮されたサン魔力が絶対零度の刃となり駆ける。
のたうち回る蛆サンマは、振るわれた刃が駆け抜けると同時に冷気に呑まれ凍りついていく。
「なぜたぁぁぁ」
サンマガタマハリバエは最後まで秋魚女の声で断末魔を上げていた。
凍りついた蛆サンマは、一つ一つ氷の結晶へと砕け散って息絶えていく。
蛆サンマが一つ残らず砕け散るのを見ると納刀した。
「…サンマを狩るためなら…俺は鬼にでもなる」
首から上がない秋魚女の体の横で、マリアンヌが膝を着いていた。
「三魔さん…サンマガタマハリバエは?」
「討ったよ」
短く答え、再び散魔ノ太刀の型をとる。
「マリアンヌ…離れていてくれ」
「…体も残せない…のでありますか…」
「サンマガタマハリバエが寄生しているかもしれない」
かもれしない。
それだけの理由で、長年傍にいてくれた彼女の体を跡形もなく砕かなければいけなかった。
マリアンヌはゆっくりと、秋魚女の体から離れた。
それから俺は村正刀魚を振り下ろした。
秋魚女の体は、サン魔力の冷気により凍りつき、それから大気に解けるように崩れていく。
秋魚女だったものが氷の結晶となり、ヒラヒラと舞い上がる。
その様相はとても美しくて…。
「これがせめてもの弔いだ」
氷の結晶が地面に落ち、染み込むように溶けていく。
「マリアンヌ…帰ろう」
まだ上手く歩けそうにない彼女に手を貸すと、秋刀馬に乗せ、引っ張っていく。
「もう…こんなことは…」
「ああ…」
秋魚女が散った場所を背に歩き続けた。
森を抜け、屋敷が見えてくる。
至る所で火の手が上がっていたが、収まりサンマの姿は見えなかった。
多くの犠牲があったのだろう。
だが、俺たちはサンマに勝った…。
屋敷に着くと、母秋刀魚が傷ついた日魔星達の救護を行っていた。
「帰っていたのですか、三魔」
「つい先刻な」
「貴方も戦ってくれたのですね」
「…闘ったさ。それでも間に合わなかった…」
「三魔…誰が…?」
その問いに押し黙ってしまう。
秋魚女の最後を口にしようとするのだが、不思議と口が開かない。
「そうですか…秋魚女が」
母秋刀魚は全てを察して、その一言で言葉を噤んだ。
その沈黙に多くの悲しみが込められているのだろう。
「今現在、サンマの気配を感じませんが一応の警戒は解かないでください」
言い残すと、母秋刀魚は救護に回った。
屋敷はどうにか半壊ですんでいるが、多くの日魔星が犠牲になった。
「何か目的があったのか…」
「サン魔があれほど集まって一度に襲撃…なにかありそうであります」
サンマは普段、ただ無作為に現れては周囲一体に暴虐を謀る。
サンマは一応に知能が低く、人を貪ること以外に脳がないのだ。
しかし、サン魔はサンマと違い、ある程度の知能があり何らかの企みがあり顕界する。
そのサン魔があれほど多く、一度にサンマランドを襲撃したというのだ。
重要な目的があったというのは容易く類推ができる。
「サン魔達の狙いは一体……」
言いようのない不安が胸中に広がる。
「いいさ…奴らが何を企んでいようとも。奴らが来るなら討つだけだ」
日が昇り、サンマランドに朝がやってくる。
被害の状況をある程度把握でき、その凄惨たる状況に目がくらむ。
「話があります」
母秋刀魚に呼び出され、座式で一体一で向き合う。
「昨晩のサン魔の襲撃、何らかの目的があった。と考えるのが妥当です」
「はい、確かに」
「今はそれを突き止めるために日魔道士にも協力をお願いしております」
「…日魔道士はいつ?」
「今日の夕刻には」
「今の状況で分かっていることは…?」
「えぇ…一つ」
母秋刀魚が深刻そうな面持ちで答える。
「貴方の刀…それはもはや、秋刀魚ではありませんね?」
「はい。サンマキシマムというサン魔と戦い…そして、村正という刀を受け継ぎました。その村正と秋刀魚が融合したものがこの村正刀魚です」
「やはりそうですか」
「なにか関係が?」
「秋刀魚はサンマテリアルから造られますが、なかにはサンマテリアルが実際の刀を依代により強力な秋刀魚へと成る時があります」
「その一つがこの村正刀魚ということか」
「はい。そういったものを総称して日魔星剣と呼び、特に強力なものは相応しいものに受け継がれるようにサンマランドで保管していました」
「まさか…その日魔星剣が…?」
「はい。お察しの通りです。日魔星剣の中で最も強力とされる秋刀正宗が姿を消しました…」




