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人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
22/77

第十九魚 村正

 闇ありし所にサンマあり。

 死をもたらす災厄の化身。

 サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。

 だが、人は希望の光を手に入れた。

 人を守り、人を導く存在。

 人は彼らを称えてこう呼んだ。

『日魔星』


闇ありし所にサンマあり。

 死をもたらす災厄の化身。

 サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。

 だが、人は希望の光を手に入れた。

 人を守り、人を導く存在。

 人は彼らを称えてこう呼んだ。

『日魔星』


(前奏)

 ゆけ〜さんまの戦士〜

 魔を討つ戦士よ〜

秋刀魚を掲げて〜

(オォォォォ~)

 鳴り渡るサンマの咆哮

 終わりを告げる魔笛

 散りゆく人の運命(さだめ)

 響く

 慟哭を聞け

 さんまの戦士よ

 叫べ!

 怒りの声

 振るえ!

 怒りの秋刀魚(やいぱ)

 戦え!

 怒りの戦士

 正しき心

 秋刀魚の一太刀

 魔を討つ戦士 三魔〜!!


  『戦え!日魔星』(字数稼ぎ)

 


 父の訃報を聞いた時、俺はまだ子供で日魔星と名乗るには弱すぎた。

「お父さんのように強い日魔星になりたい!」

 父の背中に何度も声をかけた。

 寡黙な父はそれを是とも否ともしなかった。

 ただサンマを狩り続けて、怪我を負いボロボロになりながらも戦い続けていた。

 どうして戦うのか。戦っていたのか。

 それは今となっては聞くことができない。

 父と過した時間は僅かで、類推することも出来ない。

 僅かな親子の時間。ほんのひと時であったのだけど、父の愛は確かに感じていた。

 母は俺が生まれてすぐに死んだらしく、日魔星としての激務の中、俺を育て続けてくれた。

 俺が知らないだけで、そこには多くの苦労があったのだろう。

 だからこそ、父が作った塩辛いさんまの塩焼きや、焦げたさんまの蒲焼きは父の愛を感じられた。

 父を愛していた。

 ある時から俺は父は長くないと感じてしまった。

 父は誰よりも多くのサンマと戦い続け、その体は限界だったのだ。

「お願い、お家にいて」

 無垢にして残酷な願い。

 父に生きていて欲しくて、そう懇願した。

 父はいつも懇願する俺の手を振りほどき、微笑みかけてから任務へと向かっていった。

 やがて…父は、仲間の日魔星の子供を庇い、負傷を負って死んでしまった。

 俺はひとりぼっちになり、正式に三魔の名前を引き継いだ。

 父が最後に救った子供は秋魚女という少女だと伝え聞いた。

 元々、限界に近かったとはいえ、直接の原因は彼女である。

 それを知った時。

 俺は---


 朦朧としていた秋魚女が立ち上がり、俺は支えようと彼女の元へと駆けた。

 その時であった。

 秋魚女の茶目が何かに無理やりこじ開けられた様に見開かれた。

 見開かれた両目は焦点が合わず、狂ったように回り続け。

 そして、不意に止まり…さんまが目を突破って現れた。

「……!?」

 目の前のおぞましき光景に我を忘れ、固まってしまう。

 秋魚女の目から生えたさんまはそんな俺を見て嗤う。

「お仲間から聞きませんでしたか?私は不死身のサンマガタマハリバエだと」

 秋魚女の声だった。

 秋魚女の声で、サンマガタマハリバエが喋っていた。

「どういう…ことだ…?」

「私はね、寄生ができるんですよ。先程、こちらのお嬢さんに寄生させて頂いて貴方を殺すために機会を待っていたのですよ」

 サンマガタマハリバエが嗤う。

 秋魚女の顔で邪悪に、俺を嘲笑う。

「さん…ま…きっ…て…」

「秋魚女!?」

「ええ。今のは本人ですよ。敢えて意識を残しておりますとも。…さぁ、私事お仲間を斬ってご覧なさい!」

 秋魚女が両腕を広げる。

「ああ…そうでした。今の貴方は武器がありませんねぇ!!」

 秋刀魚は先程のサンマキシマムとの戦いで砕け散った。

 今の俺には武器がない。

 …いや、そもそも秋刀魚があった所で俺に秋魚女を斬れようか。

「さんま…きって…ごろじて」

 再び秋魚女が喋る。

「可哀想ですね。このお嬢さん、貴方が斬らないから苦しんでいるんですよ」

 俺は動けない。

 秋魚女が苦しんでいる。それでも。

「この卑怯者!!秋魚女を返すであります!」

 マリアンヌが秋魚女の肉体の背後に立ち、秋刀魚銃を構えていた。

「お嬢さん。なんでそこの日魔星に斬られた私が生きていたんだと思いますか?」

 秋魚女の顔が嗤いながら、マリアンヌに問う。

「貴方のお父さんとお母さんに寄生していたんですよ!!いやぁ!!死んだ人間を内から貪るのは楽でいいですよ!!」

「----っ!!」

 マリアンヌが秋刀魚銃の引き金を引く。

 だが、マリアンヌはとうにサン魔力が尽き、立っているのがやっとの状態なのだ。

 虚しく空砲が鳴るのみである。

「ええ、やはり撃てませんよねぇ」

 そう嘲笑うと同時に秋魚女の腕がマリアンヌへと伸びる。

「逃げろ!マリアンヌ!!」

 叫ぶ。

 しかし、時は遅くマリアンヌは秋魚女の肉体に首を掴まれ俺の方へ突き出される。

「この方も貴方の大切な人なんですかね?」

「………マリアンヌを離せ」

「分かりました。離してあげますよ」

 秋魚女の腕が下がり、マリアンヌの足が地に着く。

 と、次の瞬間。

 腕が勢いよく振り下げられ、マリアンヌが地面に叩きつけられる。

「っ…!」

 うつ伏せに地に伏したマリアンヌの体を秋魚女の足が踏みつける。

「はははははっ!離してあげましたともええ!!お礼はないんですかね?」

 サンマガタマハリバエが笑う。

「…外道め」

「私にそんな口聞いていいんですか?」

 秋魚女の足が強く踏みつけられ、マリアンヌが呻く。

「やめろ!!」

 足の力が抜かれ、マリアンヌから足が離される。

「貴方が私の言うことを聞けば、こちらのお嬢さんは生かして帰してあげますよ」

「なんだ?」

「即答ですか。それほど大切な人間なんですねぇ」

「お前に関係ない」

「確かに人間同士の劣情関係ありませんね。…それでは貴方、大人しく殺されなさい」

「いいだろう。早くやれ」

「三魔さん!?ダメであります!逃げてください!」

 マリアンヌが叫ぶ。

「貴方はだまっていなさい」

 再び秋魚女の足がマリアンヌを踏みつける。

「やめろ。俺は大人しく殺される。彼女を傷つけるな」

「こちらは従順ですね。では、そのまま大人しく殺されてください!」

 秋魚女の右目に生えていたさんまが地に落ちる。

 途端、そのさんまが肥大化し…サンマとなる。

 サンマは笑いながら俺の元へ近づいてくる。

「さんま…いや…にげて」

 秋魚女がサンマの向こうで涙を流していた。

「秋魚女…すまない、逃げられない」

 サンマの鉤爪が振り下ろされる。

 鮮血が飛び散る。

 夜空を染め、地を濡らす鮮血が。

 血の雨が降り、それが致命傷なのだと知る。

 その傷を受けた者は決して助からぬと。

 …鉤爪を受け、鮮血をあげるもの。

 それはサンマキシマムであった。

「どういうことだ!?」

「…再戦を願った使い手をこのような下衆に殺されてなるものか」

 サンマキシマムは胴体から血を流しながら答えた。

 俺から受けた傷で致命傷を負っていたサンマキシマムが立ち上がる事ですら驚きなのだが、俺を庇い更に傷を負っていた。

「なに…某はどうせここで死ねんよ」

 サンマキシマムは呟くと、自分の胴体に鉤爪を突き刺したサンマを持ち上げその首をへし折ると秋魚女の肉体へ投げつけた。

 サンマの死体が舞い、秋魚女に当たると、吹き飛ばしマリアンヌから引き剥がした。

「三魔よ…酷だがもはや、あの女は助からぬ。主が斬れ」

 そう呟くと、サンマキシマムが膝を着く。

「だが…秋刀魚は砕け散って…」

「これを使え」

 サンマキシマムは自分の刀を突き出す。

「この刀の銘は村正。銘を呼べ、宣言しろ己の刀だと」

 うねりのある特徴的な刃文、反り返りの少ない刀長。

 村正、はるか五百年以上前より伝わる名刀である。

 その村正を受け取る。

 ずっしりとした、名刀ゆえの重さのようなものを感じるが手に馴染む。

 そして、俺は宣言する。

「村正!!」

 銘を叫ぶ。

 己の刀だと認識する。

 瞬間、村正が輝き、砕け散ってはずの秋刀魚の破片が飛来した。


 それは一つの合理である。

 妖刀村正。

 そう呼ばれる村正は、事実徳川の者を斬るという不吉な刀として知られている。

 事実故に幕末には多くの攘夷志士に所有され戦乱を渡ることになる。

 言わば、攘夷志士にとって多くの人が持つ大衆刀であり、多くの人の願いを受けてきたものなのである。

 それは、さんまもしかり。

 秋に多くが漁獲され、秋の味覚として日本で親しまれてきたさんま。

 大衆魚とされ、多くの人の美味しいものを食べたいという願いを叶えてきたさんま。

 そのさんまの力を持つ秋刀魚は概念的にその側面を持つ。

 で、あるならば。

 秋刀魚と村正は実質的に同じものである。

 秋刀魚とは村正で、村正とは秋刀魚なのである。

 概念的サンマリアージュ。

 その合理が秋刀魚と村正を結びつけ、一つの願いの形となる。

村正刀魚(ムラマサンマ)

 闇を裂く、新たなる希望の名である。


 光が引くと、手には刀が収まっていた。

「そうだ。それがお前の刀、村正刀魚だ」

「村正刀魚…。サンマキシマム、礼を言う」

「よい。三魔よその刀を持って俺を超えてみろ…」

 そこでサンマキシマムは塵となり消えていった。

「サンマキシマム…」

 お前とはもう一度戦うのだろうな。

 何故か、そんな予感がした。

 だが、今の相手はお前じゃない。

 村正刀魚をサンマガタマハリバエへ向ける。

「なんなんですか!!土壇場で意味のわからない奇跡を起こすなんて!!」

 刀を構えたまま、迫る。

「いいのですか?私を斬ればこのお嬢さんも死にますよ!?」

「…それでも斬らなければいけない」

 心の痛みを無視して、更に迫る。

「さんま…いいの…ころして」

 秋魚女が呟く。

「…すまない」

 サンマガタマハリバエに刀を向ける。

「さんまずっと…あやまりたかった………あなたのおとうさんは…わたしが」

 秋魚女が罪を告白するように言葉を漏らす。

「しっていたよ」

「うらんで…いた?」

 俺は口を噤む。

「貴方、このお嬢さんを恨んでらっしゃる!?なんてことだ!!宿主を間違えるとは!!」

 サンマガタマハリバエが叫ぶ。

 俺は村正刀魚を振り上げる。

「秋魚女、俺はお前のこと一度も恨んだことない」

 父は人を守って死んだのだから。

 俺は父のことをよく知らない。

 それでも父の生き方は知っていた。

「俺は父と同じだ。恨むはずがないさ」

 父がなんのために戦っていたのかは知らない。

 俺と同じ理由なのか、似たなにかなのか。

 父と戦う理由は違う。

 でも、生き方は同じなのだ。

「俺はな、お前に恨まれていると思っていたよ」

 父が早く駆けつけていればもしかしたら、秋魚女の家族が助かっていたかもしれないからだ。

 あの日、三界の発現を感じ、現場へ向かおうとした父を俺が引き止めてしまったからだ。

 父の体が限界で、長くない。

 それを子供ながらに感じていたのだ。

 父を引き止めて手を握って、生きて欲しいと願った。

 俺を見て父は静かに微笑んで、手を振り切った。

 時間にしてたった数分だったかもしれない。

 それでも、その数分が無ければ彼女の両親は助かっていたのかもしれない。

「さんま…わたしはあなたをうらんでません…わ…」

「…ありがとう、秋魚女」

 村正刀魚を振り下ろす。

「…ありがとう…さんま」

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