第十八魚 血闘
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
刃と刃。
互いを敵とする者同士、それを構えるのであれば斬り結ぶのみである。
ある者は他者のため。
ある者は自己のため。
構えた武器は同じなれど、その在り方は真逆であった。
故にこそ、刃は振るわれる。
他者を否定し、自己を肯定する為に。
肉を裂き、骨を断ち、命を斬る。
死合うのであれば立つもの一人のみである。
ひりつく空気。
頬を撫でる死の気配。
永遠に続く一瞬。
死合いの幕が上がる。
「参れ」
サンマキシマムが中段に構える。
「一手、馳走する」
同じように中段に構え、踏み込むと振り下ろし一閃。
狙うはサンマキシマムの小手である。
サンマキシマムは急所を狙い一撃で斬り捨てられる相手ではない。
まずは隙を作ることだ。
対するサンマキシマムはこちらの手を読んでいたとの如く、刀を走らせ俺の秋刀魚を払う。
刃鳴る音。金属同士がぶつかり合い、高く透き通った音が鳴る。
そのまま押し込むように前進しながら、秋刀魚を振り切る。
サンマキシマムの刀を無理やり斬り下げ、腕を引くと魔力炉目掛けて刺突する。
だが、半歩たりず切っ先がサンマキシマムの肌を撫でるのみだ。
身を引こうと足に力を込めた瞬間、サンマキシマムの膝蹴りが飛んでくる。
喰らうまいと、秋刀魚を引き戻し頭を打ちつける。
人の身であれば、それで足の骨は折れるだろうが相手はサン魔。
苦悶の表情すら上げず、そのまま蹴りあげ秋刀魚が弾かれてしまう。
幸い膝蹴りの軌道はずれ、身を引くことができ今の一合は無傷で終わる。
「…腕を上げたな。次は某が馳走しよう」
サンマキシマムは上段に構え、踏み込む。
弧を描くように振り下ろされる刃。
サンマキシマムの技量で音速と化し、生半可の者では振り下ろされる刃を捉えることもできず、躱すことは不可能だろう。
事実、一度目の立ち合いでは、サンマキシマムの太刀の殆どを回避することが叶わなかった。
サンマスラオと細蘭のおかげだろう。
今はその軌道を捉えられている。
サンマキシマムの太刀へ斬り返し、受け止める。
一合目と同じ形である。
振り下ろされた刃を、下段から振り上げた受け止めた形であるが、この場合不利なのは受けての方である。
攻め手が己の体重を乗せて刀を振り切れば、支え続けることなど容易ではない。
立ち合いにおいて対敵の刀を受け止めるというのは悪手であるのだ。
かくなる上は、身を引くことであるがそれは対敵の刀を自由にしてしまうことである。
身を引いている無防備な身体に刺突をされればひとたまりもない。
俺は咄嗟にサン魔力を秋刀魚から放つ。
指向性のない単なる爆発であるが、サンマキシマムの刀を弾き飛ばし、胴体へ刺突する。
目論見は当たり、サンマキシマムの腹に秋刀魚が突き刺さる。
下段変弾鋒入、柳生新陰流の剣術で対敵の刀を下段より跳ね上げ、その隙に対敵の空の胴を刺突する技である。
実際は受け止めてから放つ技ではないのだが、状況を打開するために思いついた方法はその外しであった。
「ほう?散魔ノ太刀を身につけたか?」
秋刀魚で腹を貫かれながらもサンマキシマムは笑った。
「ああ…!!お前を倒すために」
「善き哉」
腹に穴を空けた程度ではサン魔を討てるはずもなく、
秋刀魚を引き抜き、距離をとる。
再び、距離を挟んで刃を向け合う。
「力比べでもしてみるか」
サンマキシマムはそう宣言すると、踏み込み左斜めから刃を滑らせて袈裟斬りを放つ。
応えるように右斜めより袈裟斬りを放ち、互いの刃がぶつかり合う。
そのまま、刃を押し込み合い鍔元で受け合い膠着状態となる。
西洋剣術で言われる鍔迫り合いである。
この場合、切っ先が対敵の方を向いているものが有利ではあるが、どちらの切っ先も外れている。
体重を乗せ、力で押し込もうとする。
が…
「…!?」
易々とサンマキシマムに押し込まれてしまう。
更に力を込めて押し込もうとするがびくともしない。
そこで気づく。
サンマキシマムは力で押しているのではなく、刀を経由してサン魔力で押しているのだ。
からくりに気づくと、同じようにサン魔力で応える。
押し込まれていた刃を押し返し、再び拮抗する。
そのまま押し込もうとするが、そう易々とさせてくれない。
サンマキシマムがサン魔力を強め再び押される。
「ぐっ…!!」
単純なサン魔力による力比べであった。
サン魔力の容量ではなく、出量で勝つ。
互いにサン魔力をぶつけ合い、そして爆ぜた。
ぶつかり合ったサン魔力が反発しあった結果である。
「よもやここまで育つとはな…。殺さずにおいて正解であった」
距離を取りながら、サンマキシマムが呟く。
「ならばこの一撃、どう凌ぐ?」
サンマキシマムが刀にサン魔力を集める。
集められたサン魔力が灼熱の焔となり、大気を灼く。
サンマキシマムの必殺の太刀である。
俺は同様に秋刀魚にサン魔力を集める。
集められたサン魔力が凍てつく吹雪となり、大気を凍らせる。
互いに必殺の太刀。
対敵の命を斬り捨てるための一撃である。
「サン魔剣」
その一言で荒ぶる焔は一層燃え上がる。
「焔分固定」
燃え上がった焔は全て刀へと収束する。
「三魔ノ汐灼」
振るわれる刃は全てを焼き尽くす。
「零刀・散魔」
その一言で荒ぶる冷気は一層に荒れ狂う。
「戒刀」
荒れ狂う吹雪は全て刀へと収束する。
「秋刀魚ノ開闢」
振るわれる刃は全てを凍てつかせる。
二つの刃がぶつかり合う。
互いに対極。
しかして同じもの。
ただ敵を屠るのみの刃である。
サンマを討て〜
運命の戦士よ〜
(前奏)
闇は蠢く
爪を研ぎ
人を貪る
暴虐のサンマ
サンマを討て〜
運命の戦士よ
必殺の太刀で
己の剣
燃やせ!サンマインド!
七輪が如く灼熱の焔!
おお〜
サンマを断つ
戦士!日魔星!!
『燃えよ!サンマインド』
灼熱と絶対零度。
その二つがぶつかり合い世界が震える。
刃を振るいし者は己が力を全てかけてその一刀を成す。
ぶつかり合い、削り合い。
そして。
砕け散る。
俺の頬を焼いていた灼熱の焔は絶対零度に呑み込まれ、消えていく。
「魚ォォォォオオオオ!!」
叫び声と共に秋刀魚が押し込まれ、そして。
サンマキシマムへ至る。
鮮血が舞い、それすらも凍りついていく。
絶対零度の刃に裂かれたサンマキシマムが地に付す。
「…見事!!」
その一言を呟くとサンマキシマムが笑う。
「…最強の敵だったよ、お前は」
秋刀魚を向け、止めを刺そうと向ける。
その瞬間、秋刀魚が砕け散った。
「…!?」
「…ただの秋刀魚では耐えられなかったか…」
砕け散った秋刀魚を目にしてサンマキシマムが答える。
「よい。この身は放っておけば崩れ去る」
サンマキシマムが目をつぶる。
サンマキシマムを背にしてマリアンヌの方へ向く。
「勝った…でありますね」
「ああ。最強の敵だったよ」
嘘偽りのない、本心であった。
「決着はつきまして?」
先程は朦朧としていた秋魚女が秋刀馬から降りて聞いてきた。
「ああ。…お前は大丈夫なのか?」
「少し…まだ少しふらふらしますわ」
秋魚女が頭を抑えながら答える。
「俺が支えるよ。医者に見てもらおう」
秋魚女に駆け寄ろうとする。
その瞬間。
……秋魚女の両の目を突き破りサンマが生えてきた。




