第十六魚 猟師
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
(前奏)
ゆけ〜さんまの戦士〜
魔を討つ戦士よ〜
秋刀魚を掲げて〜
(オォォォォ~)
鳴り渡るサンマの咆哮
終わりを告げる魔笛
散りゆく人の運命
響く
慟哭を聞け
さんまの戦士よ
叫べ!
怒りの声
振るえ!
怒りの秋刀魚
戦え!
怒りの戦士
正しき心
秋刀魚の一太刀
魔を討つ戦士 三魔〜!!
『戦え!日魔星』
細蘭の剛拳が迫る。
それを躱すのでは無く、秋刀魚で受け止める。
サン魔力同士がぶつかり合い、空気が震える。
次の瞬間には、秋刀魚を返し細蘭の首元へ突きつける。
「やるようになったじゃないか」
悔しさを微塵も隠そうとせず、細蘭が呟く。
「細蘭のおかげだ」
一礼して、距離をとる。
「動きもマシになってきたようだな」
俺と細蘭の組手を見ていたサンマスラオが声を上げる。
「…受けてみよ」
サンマスラオは勢いをつけて、サン丸太をぶん投げる。
爆風を起こしながら、サン丸太が俺へと迫る。
集中。
自分と秋刀魚が一体に、秋刀魚そのものであると認識する。
身体中の血液は流しているのではなく、流れているのだ。
それと同様。
秋刀魚へ流すのではなく、流れていると感じる。
秋刀魚を振るう。
サン丸太はその原型も残さず、砕け散った。
「よい。及第点だ」
サンマスラオは及第点をつけながらも、満足気に言い放つ。
「三魔よ、明日にも帰るがよい」
「はい…師匠。ありがとうございました!!」
誠心誠意、サンマスラオに感謝を伝える。
「師匠…か。いいものだな」
サンマスラオは少し照れながら答えた。
魔窟。
月明かりも通さんと生い茂る木々の中で息を殺し身を潜める。
つい先刻から銃撃を皮切りにサンマランドが襲撃されている。
邸内には多くのサンマが放たれ蹂躙されている。
「な、なんとかしなければであります」
異常事態に困惑してしまう。
どうにか平静を保とうと、秋刀魚銃を握りしめる。
邸内に放たれたサンマを討とうと多くの日魔星が駆け出したが、屋敷に隣接する森より銃撃されそのほとんどが倒れた。
まずは森に潜むサンマを討たねばと、自分を含めて数人の日魔星で駆けつけたのだが、相手の位置を掴むことも叶わず、一人、また一人と地面に倒れた。
なんとか、一際大きな樹の影に隠れることが出来たが一重に運としか言いようがない。
銃声は鳴り響き、仲間たちの悲鳴が聞こえてくる。
何とかしなければ。
その言葉が反芻され、仲間の元へ駆けつけたい衝動が走る。
しかし、理性がそれでは丸裸も同然だと今にも駆け出しそうな体を抑えていた。
秋刀魚を扱えるほどのものはおらず、私以外は量産型秋刀魚を扱っている。
近接武器である量産型秋刀魚では、例えサンマを発見出来ても間合いに入る前に撃たれてしまう。
現状では、遠距離から攻撃が可能な秋刀魚銃が頼りである。
私がサンマを発見して討たなければいけない。
それが戦況だ。
サンマは巧妙に姿を隠している。
居場所をつきとめなければ。
そう考えていた時に、近くの茂みから気配がした。
冷や汗をかきながら秋刀魚銃を向ける。
「いい加減、サン魔力の調整をしてくださる?」
「…秋魚女でありますか?」
「あら、またおさんまキメてらっしゃるの?」
茂みから秋魚女が現れ、身を屈めながら私の隣へ座る。
「で、サンマの居場所はつきとめたのかしら?」
「ま、まだであります」
「全く。このような無謀をかましておいて役に立たないこと。敵の位置も掴めてないのに敵の間合いに入ってどうするの」
秋魚女が呆れながら言う。
「それでもなんとかしなければって…思ったであります」
「…貴方に死なれたら困りますのに」
秋魚女は最後に小声で呟くと、木陰から身をのぞかせた。
その瞬間、銃声が轟く。
秋魚女へ向かって飛来する鉄のサンマを既の所で躱す。
「あら、やっぱり位置が割れてますのね。貴方のサン魔力がダダ漏れのせいでしてよ」
「申し訳ないであります」
背筋に冷たいものが走る。
秋魚女は状況を打開しようと、黙考し始める。
私も何か策を考えなければと、考えようとした瞬間、視界に秋魚女の右肩が映る。
右肩に包帯を巻いているが、血が滲んでいる。
「秋魚女、怪我をしているでありますか?」
「…かすり傷でしてよ。問題ありませんわ」
さも当然と答えると、再び沈黙する。
だが、滲んでいる血の量からすると重傷であるように感じられた。
傷を負ってからも戦い、開いてしまったのではないのだろうか。
「…秋魚女、本当に問題ないのでありますね?」
「ええ。こんなこと確認する暇があるなら策の一つや二つお考えになって?」
「策ならあるであります」
「へぇ。どんな策ですの?」
「…秋刀魚を貸して欲しいであります」
「秋刀魚を?貴方のようなサン魔力弱者に秋刀魚が扱えて?」
私の言ったことに唖然としながら秋魚女が答える。
…私のサン魔力が低い。
それは事実である。
三魔さんや秋魚女のように長時間、秋刀魚を扱うことは出来ないだろう。
だが、一瞬でいい。
策…と言うには単純すぎるのだけど、一瞬で事足りる。
秋魚女に策を伝え、了承を得て秋刀魚を預かる。
「秋魚女、任せたであります」
距離を取った秋魚女に向かって小声でつぶやく。
恐らく聞こえてはいないのだろうけど。
呟くと、立ち上がり、デタラメに走り出す。
言ってしまえば、突貫である。
すかさず銃声がなり、鉄のさんまが飛来する。
それは真っ直ぐに私の頭を目掛けて飛来する…が、私を貫くことは無い。
頭を貫くその直前に、さんまを秋刀魚で受け止める。
対敵は恐ろしく精巧な射撃精度を持っている。
そのため、ほとんどのものは頭を撃ち抜かれてしまった。
秋魚女は右肩で済んだが、距離によるものだろう。
対して、今の私は距離を詰められており、無防備に身を晒したのだ。
格好の的だろう。
ならば、サンマが外すことなどない。
確実に私の頭目掛けてさんまが放たれる。
狙いが分かるなら後は受けるだけだ。
ありったけのサン魔力を込めて秋刀魚を起動すると頭を守る。
後は、秋魚女任せだ。
「見えましたわ!!」
秋魚女が叫ぶと同時に、さんまが放たれた地点へ秋刀魚大銃を放つ。
一帯への制圧射撃ではあるが、サンマからの攻撃は止む。
サン魔力を一気に使ったため、視界が霞む。
気力を振りしぼり、秋刀魚銃を向ける。
秋刀魚大銃による銃雨の中、一瞬黒い影が揺れる。
その影目掛けて、一発叩き込む。
サンマの悲鳴が鳴り響く。
その悲鳴を多いつぶすかの如く、轟音が鳴り渡りサンマをミンチにする。
「圧勝ですわ」
ありったけの銃弾を叩き込んだあと秋魚女が得意気に胸を張る。
「助けられたであります…」
ヘタリ込みながら、お礼を言う。
「よろしくてよ」
私の元までくると、手を差し出しながら秋魚女が言う。
その手を取ろうと手を伸ばす。
「へぇ…。あの時の女の子じゃないか」
どこからともなく声が響いた。
夕暮れ時、修行を終えサンマスラオのためにさんまを調理しようとしていたところだった。
小柄な老人が訪れた。
「これはこれは、サワンナ法師」
サンマスラオが頭を下げる。
釣られて頭を下げると、
「いいよ、頭を上げて。今はもっと重要なことがある」
穏やかな声だった。
「法師、それは?」
サンマスラオが問う。
「三魔くん…というのはそこの君だね?」
サワンナ法師が俺の方へ向き、尋ねてくる。
「はい、そうです」
「そうかいそうかい。あのね、君は今すぐにここを立ってもらう」
「…それは…何故ですか?」
「私はね、少し特別なんだよ。時折、未来を感じるんだ」
「未来を…感じる?」
「そう。早い話、未来予測さ」
突拍子のない話であった。
「三魔、この人の力を疑うな」
サンマスラオに言われて、信じることにする。
「私が感じた未来…それはね、君の故郷に対して嫌な気配がしたんだ」
「サンマランドに!?」
「そうさ。具体的にということではないんのだけどね」
「分かりました、直ぐに立ちます」
サワンナ法師に礼を告げ、
「師匠、本当にお世話になりました」
再度、サンマスラオにお礼をする。
「よい。それより早くたつがよい」
無言で頷き、サンマウンテンバイクに跨る。
「…それでいくつもりかい?」
サワンナ法師に問われる。
現状、移動手段はサンマウンテンバイクのみである。
一日近くかかってしまうが、他にどうしようもない。
「それじゃ、間に合わないよ」
サワンナ法師が無情に告げた。
「しかし、今はこれしか…」
「いいから、それから降りて。私たちに任せなさい」
サワンナ法師は微笑みながら、本殿へ来るように言う。
逸る気持ちを抱えながら、後を追う。
マリアンヌ、秋魚女…母秋刀魚。
無事でいてくれ。
普段は祈ることなどしないのだが、サンマ神に祈らざる負えなかった。




