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人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
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第十三魚 脳筋

 闇ありし所にサンマあり。

 死をもたらす災厄の化身。

 サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。

 だが、人は希望の光を手に入れた。

 人を守り、人を導く存在。

 人は彼らを称えてこう呼んだ。

『日魔星』


(前奏)

 ゆけ〜さんまの戦士〜

 魔を討つ戦士よ〜

 秋刀魚を掲げて〜

(オォォォォ~)

 鳴り渡るサンマの咆哮

 終わりを告げる魔笛

 散りゆく人の運命(さだめ)

 響く

 慟哭を聞け

 さんまの戦士よ

 叫べ!

 怒りの声

 振るえ!

 怒りの秋刀魚(やいば)

 戦え!

 怒りの戦士

 正しき心

 秋刀魚の一太刀

 魔を討つ戦士 三魔〜!!


  『戦え!日魔星』


 流れ落ちる水の音が耳を打つ。

 滝に身を打たれながら、秋刀魚と一体になるように神経を研ぎ澄ます。

 自分が広がっていくような感覚。その感覚の先で、水を割る音が聞こえる。

 秋刀魚を一閃。

 水と共に流れ落ちてきたサン丸太が割れ、水面に叩きつけられる。

 だが気を抜けない。

 続いてサン丸太が落下してくる。

 再び構えて秋刀魚を一閃。

 刃は届かない。

 しかし、サン丸太は確かに二つに割れる。

「ようやく様になってきたではないか」

 滝口より俺を見下ろしてサンマスラオが声をかける。

「いえ、まだです」

「そうとも。実戦以外では必ず今の一撃を放てるようにせねば使い物にならない」

 サンマスラオは滝口よりサン丸太を投下する。

 流水を滑り迫るサン丸太。

 神経を研ぎ澄まし、その一つ一つに秋刀魚を振るう。

 修行を始めて五日目。

 ようやく散魔ノ太刀への糸口が見えてきた。


「主ならば儂の元に来なくともいずれ散魔ノ太刀に至っていただろうよ」

 修行の一日目、俺の剣筋をみてサンマスラオが口した。

「筋はよいのだ。あとはきっかけだろうよ」

 サンマスラオは一見、口ぶりから粗暴に感じるが達観した性格で、修行は厳しいながらも無理がない程度であった。

 そのおかげか、短時間ながらも自分で己の成長を感じられるほどだ。

「しかし、弱い。散魔ノ太刀を身につけたところで儂には敵いはせんだろ」

 サンマスラオは豪快に笑っていた。

 初対面時の手合わせ…とサンマスラオが言い張る戦闘でそのデタラメな強さを知っている俺は心の底から再戦はしたくないと思った。

「どうだ?修行を終えたらもう一度、手を合わせてやろうか?」

「丁重にお断りします」

「つまらんやつよのぉ」

  サン魔との師弟関係。

 恐らく数週間前の俺に言ったら信じてもらえないような奇妙な関係ではあるが、嫌ではなかった。

 サンマスラオが住む、熊野三魔山の原子林で修行にあけ狂う。

 滝の傍にサンマスラオのサンマイホームだという、木の小屋があり、そこに寝たまりをする。

 サン魔と寝食を共にすることは未だに慣れないが、やはり嫌ではない。

 サンマ柄というのだろうか。

 サンマスラオは嫌いになれるサンマではなかった。

 太陽が頂点まで来ると傍で見ていたサンマスラオが声を上げる。

「昼餉にするぞ、三魔」

 その声に従い、秋刀魚を収める。

 サンマスラオがサン火棒(サンマッチ)で火を起こし、さんまを調理する。

 と言っても、塩をかけて約程度のものだが。

「食ったらこの文をもって本宮本社にいけ」

 さんまを頬張りながら、サンマスラオが文を投げてよこす。

日魔導師(サンマドウシ)のサワンマ法師宛だ」

 日魔導師。

 サン魔力で武器を強化して戦う日魔星とは違い、純粋にサン魔力そのものによる日魔法(サンマホウ)によりサンマと戦う存在だ。

 日魔星の武器はどれも強力であるが、数に限りがあるため頭数は少ない。

 反面、日魔導師は修行をすれば戦うこと自体はできるため、日魔星と比較して頭数は多い。

 共にサンマを狩る者同士、協力関係が構築されている。

 特に、サン魔力の高い日魔導師はサンマの出現を感じ取れるため、司令役として日魔星の詰所で力を貸してくれている。

 母秋刀魚はそんな日魔導師の一人である。

「分かりました」

 懐に文を入れ、さんまを頬張る。

「それでは、いってきます」

 さんまを呑み込むと、立ち上がり本宮本社へ向かった。

 聖域(サンマチュアリ)は三つの神社からなる。

 この原子林は三つの神社の中間点にあり、本宮本社は原子林を登った山間部にある。

 さほど距離はなく、十数分歩くと本宮本社の石段まで着く。

 それを登り、最上段に片足をかけたところで声をかけられる。

「おい、そこのお前。日魔星だな?なんのようだ?」

 女性の声だった。

 真っ白な白衣に朱色の緋袴、所謂巫女服に身を包み、短く纏めた黒髪に透き通った白肌。

 清廉、そんな印象を感じさせる。

 マリアンヌと比較して…少し年上、俺と同じぐらいと感じるが、育った体つきだ。

「サンマスラオの使いだ」

「サンマスラオだと?証明出来るものはあるか?」

 凛として、威圧感のある声だ。

「文がある。サワンマ法師宛だ」

 懐から文を出す。

 その文を彼女は訝しげに受け取ると、隅々まで目を走らせる。

「確かにサンマスラオからのものだな。私から渡しておこう」

 彼女は文を懐に入れ、本殿へと向かっていった。

 これでお使いは済んだだろう。

 俺は、踵を返してサンマスラオの元に戻った。

 サンマスラオに文を渡してきたことを伝えると、

「ご苦労だった。暫し待っておれ」

 と指示される。

 いつもなら食事を終えると、軽い修行から入っていくため、待機は初めてだった。

 待ち続けると、原子林に先程の女性が訪れた。

「ほほう細蘭(さいら)、主か。」

 細蘭と呼ばれた女性はサンマスラオに一礼をする。

 先程の巫女装束とは違い、今は道着を着ている。

「三魔よ、この者に稽古をつけてもらえ」

 サンマスラオが俺に告げる。

「…この人にか?」

「そうだ。秋刀魚を使って一本とってみろ」

「それは危険ではありませんか?」

 サンマスラオは稽古に真剣を使えと言う。

 無論、サンマスラオとの稽古では真剣を扱うが、相手は女性である。

 もし怪我でもさせたら、夢見が悪い。

 と、考えた時だった。

 鳩尾に強烈な一撃が入った。

「お前、私を舐めてるだろ」

 女性…細蘭はいつの間にか俺の目前まで迫ると容赦なく痛烈な一撃をお見舞いしてきた。

「くっ…」

 鳩尾に入った拳を引き抜かれ、同時に詰まった息を吐き出す。

 瞬間であった。

 次は容赦のない右横蹴りが俺の顔面を襲い、地に叩きつけられた。

「この軟弱野郎の稽古を付ければいいんだろう?簡単さ。かかってきな」

 細蘭の声が降ってくる。

 油断していた。

 自省し、立ち上がると秋刀魚を構える。

「私の秋刀魚衣を生半可な刃で傷つけられると思うな!!全力でこい」

 細蘭が両の拳を脇に構え、宣言する。

 全力でこい。そう宣言されたが、やはり本気で打ち込む訳にはいかない。

 俺は軽く踏み込み斬り掛かる。

 細蘭は右腕を上げ、道着で秋刀魚を受け止める体制に出た。

 不味い。

 咄嗟に秋刀魚を引こうとするが、間に合わず切っ先が道着にあたる。

 だが。道着は微塵も切れない。まるで、鋼鉄に秋刀魚を当てたような重い感触が走る。

「腑抜けもの!!」

 細蘭の一喝と共に、再び鳩尾に痛みが走る。

「なんのための稽古と心得える?」

 怒号。鳩尾に突き刺さった拳を押し込められる。

 口から空気が漏れだし、窒息する。

「もう一度言う。全力でこい」

 拳が引き抜かれ、喘ぐ。

 呼吸を整え、秋刀魚を構える。

 相手は日魔導師。

 サンマを相手取る修羅である。女性などと侮った自分の恥、地面を蹴って斬り掛かる。

 振り落とす刃は細蘭に向かって一直線に落ちていくが、彼女の腕で止められてしまう。

 秋刀魚衣。

 日魔導師が纏う防護着で、サン魔力に比例してその硬度が上がると聞いていたがこれ程とは…。

「そいつが全力か?」

 再度、細蘭の拳が迫る。

 しかし、そう何度も喰らってられない。

 直ぐに秋刀魚を引き、後方へ跳ぶ。

 間一髪で拳を避けられる。

「なんてデタラメな強さだ…!!」

「言っだろ、舐めるなと。日魔導師が紡ぎし日魔拳法(サンマけんぽう)千年の歴史、そう簡単に破れると思うな!!」

 今度は細蘭が駆ける。

 迅雷。そう言い表すに遜色ない速度で俺との距離を詰め、拳を振るう。

 咄嗟に秋刀魚を盾にし、その一撃を受けるが、まるで重車輌に追突されたの如く衝撃を受けきれずに弾き飛ばされる。

 背後にあった樹に叩きつけられ、意識が飛かける。

 若干の既視感を抱えながら、細蘭を視認する前に右へ退く。

 間一髪、退くと同時に樹に細蘭の拳が突き刺さった。

 細蘭の攻撃を避けられた上に、大きな隙が出来た。

 好機。

 察するが否や、お返しとばかりにがら空きの胴体に拳を入れる。

「くっ…!」

 鋼鉄を殴りつけたような感触で、殴りつけた拳に痛みが走るのだが、彼女の拳同様、衝撃は殺しきれなかったようで、一瞬苦悶の表情が走る。

 そのまま拳を振り抜くと、彼女の体が宙を舞う。

 畳み掛けるように秋刀魚を振り抜き、彼女の秋刀魚衣を一閃。

 今度は確かな手応えがあった。

 振り抜いた秋刀魚から彼女へ意識を向けると、そこには一糸まとわぬ細蘭の姿が広がっていた。

「やるではないか」

 口調は平静を装っているが、頬が紅潮し局部を隠す腕は震えていた。

 そこで、自分の非礼さに気づき目線を外す。

「三魔!!主もおの子よのぉ!!」

 サンマスラオの豪快な笑い声が聞こえる。

「その…申し訳ない」

 日魔星のコートを脱ぐと、なるべく見ないようにして渡す。

 コートを受け取った細蘭はそれで体を隠すと言った。

「…これからしばらく稽古をつけてやる。明石細蘭だ」

 名を名乗りながら右手を突き出す。

「しばらく世話になる。秋水三魔だ。改めて頼む」

 左手を差し出して握手を交わす。

 ようやく散魔ノ太刀を習得する糸口を掴めてきた所で、よい修練相手が出来た。

 そう思いながら、彼女から手を離した。

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