第十七章:白樺の国
列車は夜の中を疾走していた。鉄の車輪が線路を軋ませ、疲れ果てた乗客たちを眠りへと誘う規則正しい音を立てていた。
アルベールは狭い車室の中で、ダリウスの向かいに座っていた。石油ランプの黄色い光が、師弟の顔に明暗の縞模様を落としていた。
「なぜ、奴らは俺たちを追ってくるんだ?」アルベールは疲れた声で尋ねた。
ダリウスは小さな皮の水筒から酒を一口含んだ。彼はアルベールを見ず、窓の外を見ていた。漆黒の闇が、目まぐるしい速さで流れ去っていく。
「ただの、俺が喧嘩を売っただけだ。」
アルベールは歯を食いしばった。
「でも師匠は強いじゃないか!師匠なら誰だって倒せるはずだ!なぜ逃げなきゃいけないんだ?」
ダリウスは水筒を置いた。今度は、アルベールの方を向いた。その冷たい灰色の瞳に、アルベールには名付けようのない何かが光った。
「もう聞くな。」彼の声は低くなった。「奴らはとても強くて、手を出すべきじゃないとだけ、覚えておけ。」
アルベールは黙った。
彼は窓の外に顔を向けた。建物、木々、雪に覆われた白い野原が、目まぐるしい速さで後ろへ流れていく。しかし、彼の目には何も映っていなかった。ただ一人の少女の姿だけがあった。栗色の乱れた髪、輝く瞳、いたずらっぽい笑顔。
ナスチャ。
彼は彼女を置き去りにした。
自分の気持ちに気づいたまさにその瞬間に、彼は彼女から離れなければならなかった。別れの言葉もなく。抱擁もなく。何もなく。ただ、急いで送った一通の手紙と、ポケットに残したその写しだけだった。
彼はその手紙を握りしめた。毎日読むだろう。一言一句、覚えるだろう。
そして彼は願った。もう一度だけでも、彼女に会えることを。
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## 別の場所で
黒い外套をまとった二人の人影が、高い建物の屋根の上に立ち、北へと走り去る列車をじっと見つめていた。
彼らはヴィナの王家の者たちだった。かつてこの王国にとって脅威であったダリウスを監視するために送り込まれた者たちだ。
「奴が本当にあの列車に乗っていると思うか?」
「間違いない。我々は二週間ずっと奴を尾行してきた。」
「では、一緒にいるガキは?」
「問題ではない。ただの名もなき小僧だ。気にする必要はない。」
彼らは知らなかった。その「名もなき小僧」こそが、かつて王家を震え上がらせた天才、アルベール・ローウェルであることを。彼らは知らなかった。その少年が、彼らが仕組んだ死から逃れたことを。
だが、彼らはすぐに知ることになる。
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## 列車の中 – 二日目
「回復魔法。」ダリウスは淡々と言った。「それは、すべての魔法の中で最も難しい。」
アルベールは向かいに座り、両手を膝の上に置き、師匠をじっと見つめていた。
「なぜ一番難しいんですか?」
「なぜなら、それは自然の法則に逆らうからだ。」ダリウスは手のひらを上げた。淡い青い光が手のひらから放たれる。「ほとんどの魔法は破壊だ。火は焼き、水は溺れさせ、石は砕く。だが、回復は創造だ。それは癒す。それは甦らせる。絶対的な魔力の制御が必要なんだ。」
アルベールは頷いた。理解した。回復は破壊の力ではない。それは生命の力だ。
「まず、傷の仕組みを理解しなければならない。」ダリウスは続けた。「すべての傷には、独自の魔力の流れがある。お前の目標は、その流れを見つけ、逆転させることだ。皮膚を癒し、骨を繋ぎ、血を止める。」
ダリウスは手を差し出した。彼の手のひらに小さな切り傷が現れた。血がにじむ。そして、アルベールの目の前で、その傷はゆっくりと閉じていった。新しい皮膚が生まれる。数秒で、痕跡は消えた。
「見たか?これが仕組みだ。」
アルベールは師匠の手を見つめた。学びたかった。学ぶ必要があった。もっと強くならなければならなかった。生き残らなければならなかった。
そして、忘れなければならなかった。
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その後の日々、アルベールは休みなく修行を続けた。
疲れ果てるまで修行した。体が倒れるまで修行した。自分で自分に傷をつけ、血が流れるまで修行した。
そうしたいからではない。そうする必要があったからだ。
立ち止まるたびに、ナスチャの姿が蘇る。彼女の笑顔。彼女の声。彼女の手。そして痛みが込み上げ、胸を締め付ける。
だから彼は止まらなかった。
体を痛めつけた。肉体の痛みで、心の痛みを覆い隠すために。
ダリウスは止めなかった。ただ教えた。魔力の制御の仕方。傷の癒し方。壊れたものを繋ぎ直す方法。
そしてその日々の中で、アルベールは回復魔法を理解し始めた。
習得したわけではない。上手くなったわけではない。だが、小さな傷を癒すことはできた。痛みを和らげることはできた。自分を救うことはできた。
それは、始まりだった。
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## 駅 – 五日目
列車は、凍てつく草原の真ん中にある小さな駅に停まった。
アルベールはホームに降り立ち、冷たい空気を吸い込んだ。雪がすべてを白く覆っていた。地元の人々は厚い外套に身を包み、足早に歩いていた。
突然、叫び声が響いた。
アルベールは振り返った。一人の男が地面に倒れていた。腹の大きな傷から血が流れ出ている。妻がそばにひざまずき、泣いていた。周りの人々は立ち尽くし、誰もどうすればいいかわからなかった。
アルベールは考えなかった。駆け寄った。
「私が助けます!」
彼は男のそばにひざまずいた。傷の上に手を置いた。集中した。魔力の流れを感じた。それを逆転させた。
淡い青い光が彼の手のひらから放たれた。傷が閉じ始めた。血が止まった。男は荒い息をついたが、生きていた。
アルベールはそこに座り、額に汗をかいた。やった。初めて、本当に危険な傷を癒した。
彼はダリウスを探して振り返った。
しかし、ダリウスはもうそこにはいなかった。
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## ホーム
アルベールはがらんとしたホームに立ち、目をさまよわせた。
「ダリウス!師匠!」
誰も答えなかった。
そして彼は、車両の扉の下に挟まれた小さな紙切れを見つけた。ダリウスの乱れた筆跡。
*「アルベール。*
*俺には片付けなければならないことがある。モラスまで一緒に行けなくなった。*
*お前は先に行け。モラスへ。そこで待っていろ。*
*心配するな。俺は大丈夫だ。*
*それからな……あの男の傷の件、よくやった。*
*ダリウス。」*
アルベールは手紙を読んだ。手が震えた。
一人で行きたくない。置き去りにされたくない。しかし、彼はダリウスを知っていた。彼は正当な理由がなければ去らない。
彼は手紙を折り、ポケットにしまった。そして次の列車に乗り込み、モラスへと向かった。
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## モラス – ラサンの首都
アルベールは雪の降る午後、モラスに着いた。
この街は、彼がこれまで訪れたどの場所ともまったく違っていた。白い樺の木でできた建物、雪が積もらないように急勾配の屋根。毎朝きれいに掃かれる雪の道。毛皮の外套を着た人々が、ゆっくりと、控えめに歩いている。
アルベールは中心街に小さな家を借りた。この住所をノートに書き留めた。ここにいる。ここで待つ。
彼は郵便局に行き、アラタスナリアから届いた手紙について尋ねた。なかった。
一日目。手紙はなかった。
二日目。手紙はなかった。
三日目。手紙はなかった。
毎日、彼は郵便局に行った。毎日、尋ねた。毎日、空っぽの手で家に戻った。
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## モラスの小さな家
アルベールは窓辺に座り、雪に覆われた通りを見つめていた。
ここに来て一ヶ月。長い、長い一ヶ月。回復魔法の修行と、待つことと、苦しむことに費やした一ヶ月。
彼は手の中の手紙を見た。写しだ。何百回も読んだ。一言一句、覚えている。
*「もし君も俺に想いがあるなら、返事をくれ。この国の上の、ラサン国の首都、モラスの郵便局に手紙を送ってくれ。」*
彼はその手紙を送った。住所もはっきり書いた。なのになぜ返事がない?
彼女が手紙を受け取らなかったのかもしれない。手紙が失われたのかもしれない。
あるいは……彼女はそれを読み、そして返事をしたくなかったのかもしれない。
彼女は俺に想いがなかったのかもしれない。
彼女はもう俺を忘れたのかもしれない。
アルベールは目を閉じた。胸に鋭い痛みを感じた。
彼はかつて、誰も必要とせずに生きられると思っていた。自分のためだけに生きると誓っていた。しかし、彼女に出会った。そして気づいた。時には、自分のために生きることは、一人で生きることではないのだと。
彼は彼女を愛していた。
そして今、彼は彼女を失いつつあった。
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## 別の場所で – ナスチャ
彼女は教室に座り、窓の外を見つめていた。
最初の数日、彼女は家から出なかった。食べなかった。眠らなかった。ただベッドに横たわり、天井を見つめ、泣いていた。
彼女は最初の友達を見つけたと信じていた。最初の恋人。信頼できる人。
しかし、彼は行ってしまった。別れの言葉もなく。説明もなく。
彼女は手紙が失われたことを知らなかった。アルベールが彼女に心からの言葉を書いたことを知らなかった。彼もまた心を痛めていることを知らなかった。
彼女はただ、彼が自分を置き去りにしたことだけを知っていた。
そしてその痛みは、消えなかった。
やがて、彼女は学校に行くようになった。しかし、彼女はもうあの明るい少女ではなかった。彼女は無口になった。教室の隅に座った。誰とも話さなかった。
周りの人々は変化に気づいた。声をかけた。しかし彼女はただ首を振るだけだった。
彼のことを話したくなかった。彼のことを思い出したくなかった。
でも、忘れられなかった。
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## モラス – 三ヶ月後
アルベールはまだ小さな家にこもっていた。
三ヶ月。長い、長い三ヶ月。
彼はまだ毎日郵便局に行った。まだ尋ねた。まだ待った。
しかし、彼の希望は尽きていた。
彼は知っていた。彼女が手紙を受け取らなかった可能性があることを。何かが起こった可能性があることを。しかし、彼女が返事をしたくなかった可能性もあることを。
彼女は俺に想いがなかったのかもしれない。
彼女はもう俺を忘れたのかもしれない。
その痛みは、消えなかった。ただ、毎日大きくなるばかりだった。
そしてついに、彼は希望を失った。
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## 百一日目
アルベールは窓辺に座り、雪を見ていた。
彼はもう郵便局に行くのをやめた。もう待つのをやめた。もう希望を持つことをやめた。
彼はただそこに座っていた。外を見て。そして、虚無を感じていた。
そして、扉が開いた。
ダリウスが入ってきた。
アルベールは振り返った。何か言おうとした。しかし、彼は止まった。
ダリウスはそこに立っていたが、もう以前の彼ではなかった。彼の顔には新しい傷跡があった。額から頬にかけて走る長い一本。首に別の一本。そして右腕は包帯で巻かれていた。
アルベールは立ち上がった。
「師匠……どうしたんですか?」
ダリウスは入ってきて、扉を閉めた。彼は隣の椅子に座り、ため息をついた。
「ただの……ちょっとした面倒事だ。」
アルベールはその傷跡を見た。彼は回復魔法を知っている。小さな傷は痕を残さず癒せることを知っている。なのに、これらの傷跡は……残っている。
つまり、それらの傷は恐ろしいものだったのだ。回復魔法でも消せないほどに。
「師匠……」アルベールは震える声で言った。「誰がこれを?」
ダリウスは彼を見た。その灰色の瞳に、アルベールには名付けようのない何かが光った。
「お前の知ったことじゃない。」彼は言った。「ただ、これをやった奴はとても強いということだけ、覚えておけ。俺よりも。俺が思っていたよりもずっと強くな。」
アルベールは黙った。師匠の顔の傷跡を見つめた。そして、新たな恐怖を感じた。
もし師匠をあんな風に傷つけられるほど強い奴がいるなら……
自分はどれだけ強くならなければ、生き残れないのか。




