第十五章:盗み見が見つかって
少女は両手を腰に当て、俺を見下ろしながら言った。
「今、私のこと盗み見してたでしょ?」
アルベールは慌てて、ぎこちない笑みを浮かべ、首を何度も横に振った。顔が熱い。心臓がバクバクと鳴っている。頭の中はただ一つの思いでいっぱいだった。まずい、見つかった。
「ち、違うよ。俺はただ通りかかっただけで……それに、葉っぱを見てただけだ。君のことなんて見てない。」
少女は一歩ずつ、ゆっくりと近づいてきた。彼女の顔が、俺の顔のすぐ近くまで来る。彼女の温かな吐息が、俺の頬にかかる。ジャスミンの香りが、ほのかに漂う。
「嘘ついてるでしょ?」
俺は唾を飲み込んだ。喉がからからだ。
「俺は……俺は……」
彼女は目を細め、じっと俺の目を覗き込んだ。その瞳は、二つの宝石のように輝いていた。そしてその中に、いたずらっぽい光を見た。
「認めなよ。私のこと、見てたんでしょ?」
俺は降参した。両手をついて立ち上がり、服の埃を払った。それから、正直に言った。
「ごめん。君の言う通りだ。俺は……実は寂しかったんだ。ここを通りかかったら、君がすごく楽しそうに遊んでるのが見えて、それで立ち止まって見てた。」
彼女は小首をかしげた。その仕草が、やたらと可愛かった。栗色の髪が、さらりと揺れる。
「そっか。君、相手がいないんだ。」
俺は頷いた。何も言えなかった。
「ここに来たばかりでしょ? なんか、よそ者っぽい顔してるもん。」
俺はまた頷いた。
「うん、まあ、そんなところ。」
少女はにっこり笑った。春の日差しのような、輝く笑顔だった。
「じゃあ、私が一緒に遊んであげる。」
俺はまばたきした。
「え?」
「この街を案内してあげるよ。私、たくさんいい場所知ってるんだ。」
その言葉を聞いて、俺の心臓は今にも飛び出しそうだった。美人の女の子に案内してもらえるなんて、これ以上ない幸せじゃないか。
「い、いいの?」俺はどもりながら言った。
「もちろん!」彼女は笑った。「行こう!」
そして彼女は俺の手を引いた。
彼女の手は小さくて、温かかった。背筋に電気が走るのを感じた。
彼女は本当におしゃべりで、そしてとてもいたずらっ子だった。いつもエネルギーに満ちあふれているように見えた。一歩歩くたびに、小鳥のように跳ねる。何か言うたびに、くすくすと笑う。
俺は彼女に名前を尋ねた。
「ナスチャ。」
とても綺麗な名前だと思った。
彼女は俺をあちこちに連れて行った。狭い路地。賑やかな市場。広い広場。古い建物。石の彫像。秘密の庭園。彼女はそれぞれの場所の歴史を話し、伝説の物語を語り、ここの人々のことを教えてくれた。
俺はただ黙って聞いていた。話すことがないからではない。彼女の話を聞くのが好きだったからだ。彼女の声は、鈴の音のように澄んでいた。笑うたびに、目の端に小さな皺ができる。
綺麗だ。
俺たちは小さな公園を通りかかった。楓の木はすでに葉を落とし、枯れ枝だけが残っていた。それでもナスチャは、枯れ葉の上を跳ね回り、カサカサという音を立てていた。
「聞いて!」彼女は言い、葉っぱを踏んだ。「いい音でしょ?」
俺は思わず笑った。
「いい音だ。」
彼女は笑い、そして前へ走り出した。俺は追いかけた。
やがて、二人とも腹が減ってきた。ちょうど昼時だった。俺は彼女に尋ねた。
「家に帰る? それとも、一緒に飯でも行く?」
彼女は答えた。
「うち、両親が遠くで働いてるから、一人暮らしなの。今日は君と遊べて楽しいし、このままでいいよ。」
俺は彼女を見た。一人で生きる少女。友達もいない。家族もいない。孤独だ。俺と同じだ。
「じゃあ、これからは、君は一人じゃない。」俺は、考えるより先に言っていた。
彼女は俺を見た。目を大きく見開いて。それから、微笑んだ。
「君って、本当にバカだね。」
「わかってる。」
「でも……ありがとう。」
そして二人はラーメン屋に行った。こんな寒い日には、熱々のラーメンが最高だ。濃厚なスープ。柔らかい肉。半熟卵。俺はむさぼるように食べた。
ナスチャはそれを見て、くすくす笑った。
「君、まるで何日も食べてないみたい。」
「ごめん。」俺は照れくさそうに口を拭った。「腹が減ってたんだ。」
「いいよ。私、嬉しい。」
彼女がそう言うと、俺の心は温かくなった。
俺は彼女に聞いた。
「友達はいるの?」
彼女は首を振った。
「君がここでの初めての友達。私、この街に引っ越してきたばかりで、まだ一週間しか経ってないの。ここの学校に入学するために来たんだ。」
俺は頷いた。新しく来た少女。友達がいない。その気持ちが、わかった。
昼食の後、俺たちは散歩を続けた。
ナスチャは、街の端にある小さな湖に俺を連れて行った。湖面は鏡のように静かだった。夕方の最後の日差しが水面に反射し、きらきらと光の粒を作っていた。
俺たちは石のベンチに座り、湖を眺めた。
ナスチャはしばらく黙っていた。彼女が黙っているのは、これが初めてだった。
俺は彼女を見た。彼女は湖の方を向いて、遠い目をしていた。
「何か、悲しいことでもあるの?」俺は尋ねた。
彼女は俺の方を向き、微笑んだ。でもその笑顔は、いつものいたずらっぽい笑顔ではなかった。寂しげな笑顔だった。
「何でもない。ただ……ちょっと家が恋しくなっただけ。」
俺は黙っていた。その気持ちは、わかる。前世でも、今生でも、どこにいても。
「本当に一人で住んでるの?」俺は聞いた。
「うん。両親は遠くで働いてる。お金は送ってくれるけど……ここにはいない。」彼女は笑った。「でも大丈夫。慣れてるから。」
俺は彼女を見た。一人で生きる少女。見知らぬ街で。友達もなく、家族もなく。孤独だ。俺と同じだ。
「じゃあ、これからは、君は一人じゃない。」俺は言った。「俺もここで一人だ。俺も誰もいない。だから……俺たちは友達になれる。俺は君のそばにいる。君が望むなら。」
沈黙が流れた。
そしてナスチャは笑った。本当の笑顔だった。輝くように。温かく。
「君って、本当にバカだね。」
「でも……ありがとう。」
彼女は俺の肩に頭を寄せた。
俺はそこに立ち尽くし、動けなかった。心臓が、今にも胸から飛び出しそうだった。彼女の髪の香りが、ほのかに空気に漂う。ジャスミン。甘い。
太陽が木々の向こうに沈んでいく。空はオレンジ色に染まった。最初の星が、瞬き始めた。
俺たちはそこに立っていた。湖のほとりで、夕暮れの空の下。何も言わず。ただ、そこに立っていた。
そして、この瞬間が永遠に続けばいいと、俺は願った。
その夜、俺たちは彼女の家の門の前で別れた。
「また明日ね?」俺は言った。
「うん。」彼女は頷いた。「また明日。」
彼女は家の中に入った。だが、扉を閉める前に、振り返って、とても明るい笑顔を見せた。
「おやすみ、アルベール。」
「おやすみ、ナスチャ。」
扉が閉まった。
俺はしばらくそこに立ち、閉じた扉を見つめていた。それから背を向け、ホテルへと歩き出した。
頭の中は、彼女の姿でいっぱいだった。
その夜、俺はベッドの上で枕を抱きしめ、天井を見つめていた。
彼女。彼女。彼女。
他のことは何も考えられなかった。
彼女の笑顔。彼女の声。彼女の手。彼女の髪の香り。
細部の一つ一つまで、覚えていた。
こんな風に感じたのは、初めてだった。前世では、俺は結婚していた。だが、それは愛ではなかった。決められた結婚。やがて地獄へと変わっていく、味気ない結婚生活。
でも、これは初めて、俺が本当に誰かを好きになったということだ。本当にそばにいたいと思った。本当に守りたいと思った。
俺は目を閉じ、眠ろうとした。でも、眠れなかった。
俺は彼女のことが好きになってしまった。
部屋の扉が開いた。ダリウスが酒を持って入ってきた。
「おう、まだ寝てないのか?」
俺は起き上がり、彼を見た。
「どうしたんですか?」
ダリウスは隣の椅子に座り、酒を一口飲んだ。
「どうやら、俺たちはここに二週間ほど滞在することになりそうだ。」
俺はまばたきした。
「二週間?」
「ああ。俺には片付けなきゃならん用事がある。それに、この二週間は、お前の修行にも付き合ってやれない。」
彼は俺に金の入った袋を投げた。重い。とても重い。
「ほら。小遣いだ。好きに使え。」
俺は袋を見て、それから彼を見た。
「師匠……どこからそんな金を?」
「ちょっと借りた。細かいことは聞くな。」
俺はため息をついた。また誰かから借りたのか。でもまあ、いい。大事なのは、俺に金があること。そして、二週間あること。
ナスチャと一緒にいられる、二週間。
思わず笑みがこぼれた。
ダリウスは俺を見て、眉を上げた。
「どうやら、何か企んでるな。」
「何でもないです。」俺は笑みを隠そうとして言った。「ただ……この休暇を楽しみたいだけです。」
ダリウスはしばらく俺を見て、それから笑った。
「ああ。楽しめ。お前はまだ若いんだから。戦いばかりじゃつまらんぞ。」
彼は立ち上がり、扉の方へ歩いた。
「あ、そうだ。」
「はい?」
「あの娘……美人だな。」
俺は顔を赤らめた。
「師匠……知ってるんですか?」
「俺は何でも知ってる。」彼は笑い、扉を閉めた。
俺はベッドに横たわり、心臓はまだ速く打っていた。
二週間。
この二週間を、彼女のために使う。
そして、何にも邪魔させない。




