第7話 ヒーローの新人研修 その3
~第16エリア・1番都市・1番地区:中央管理機関4F・事務処理部門階層~
【ロッカールーム】
セントラルの中でも現場対応を主に行う部門が持つ、作戦指令室兼待機室。
事案対応のための装備整備や出動待機を行うための設備があり、車両発進等の即時対応を行うために一律で地下階層に設置されるため、地上階層には存在しない。
「神宮寺白陽、ただいま戻りましたー」
「おそい」
「これでも急いだってーの」
ここ、4階に存在するロッカールームは資料上ではただの研究資料室として記録されている。
しかし実際は、支局長の命によって設立された部隊、
【Specialized・Wide-area・Assignment for・Limitless・Law-enforcement・Operations・Wing】
〘特殊広域任務 無制限執行機動部隊〙
通称【渡り鳥小隊】の活動拠点として運用されている。
現在この部隊には平塚紫織と神宮寺白陽の2名が所属しており、各々が別部門の所属と兼任という形で現在は活動している。
*
「またモニターとにらめっこしてる」
「それが仕事だもの。文句を言われる筋合いはないわ」
「別に文句はねーよ」
紫織が部屋の奥でホロモニターを操作している。
毎度毎度猫背で作業をするものだから、こっちとしては健康が気になる。
いらぬ心配だろうが、まともな食事をとっている様子を見たことがないことが一番大きい。
「最後に飯食ったのいつだよ」
「昨日の朝」
「丸二日じゃねぇか」
紫織を横目に部屋の中央部にある円卓へ向かう。
円卓は手のひらを置くと淡く光りだし、無数のホロモニターを展開しはじめた。
それを見た紫織が、デスクから立ち上がり伸びをする
「早速始めるわよ」
腕のマルチデバイス【シンクロブレス】のボタンを操作し、内部のデータを円卓に転送する。
すると先ほどまでいた商店街のデータが一気に表示された。
「まさかマジで秘密部隊みたいなことやるとはな…」
「みたいじゃなくて本物よ。初めての単独での事案対応になるわね」
この部隊の設立自体は1ヶ月前にはすでに終わっていた。
これまではすでに対応中の事案や他部隊のサポートといった形での関りだけだったが、今回からは【渡り鳥】単独での対応になる。
局長が言うに「【術法事案】はいつ起きるかわからないからね。一先ずは他との連携の仕方や対応の基本を学んでいこう」とのこと。
そのため、こんなに少人数での対応は初めてだ。
不安と緊張で肩が縮こまる。
「何ビビってんのよ。アンタがお世話になった人なら、助けになるぐらいしたら?」
これ以上ない正論に思わず唖然とした。
その通りだ。コッチに来てからオオハシのおっちゃんにはかなりお世話になった。
住む場所の相談や仕事の紹介、ちょっとした生活の悩みから人生の相談まで、おっちゃんは深くは聞かずに、でも親身に支えてくれた。
きっとそういう面倒見のいいところが、人が集まる要因なのだろう。
そんなおっちゃんが直接相談してきたのなら、答えるのが筋というものだろう。
頬を軽く叩き、気合を入れる。
「よっしゃ!やってやらぁ!」
「それじゃあ、状況の整理から」
*
被害者は大橋平助49歳と、その妻である大橋静江45歳の2人。
被害現場は「駆け込み通り商店街」の中央広場。
2週間前、大橋静江の巨大石像が本人の許諾なしで中央広場に出現。
数度の撤去を行うも、翌朝には同じ形で同じ場所に新たに設置されている。
撤去した際の石像は元に戻っていなかったことから、石像は新しいものを元あった場所に出現させている。
現場を簡易的な測定機を用いて観測したところ、一般流通されている術法の10倍以上の残留反応が検出された。
この観測結果と、報告された現象を元にデータベースを調べ、未登録または違法改造のコードを使用していると判断。
以上をもって事態をコード・ケースと認定し、渡り鳥が調査を行うこととする。
*
「今晩現場に向かうわよ」
「現場百回とはよく言うもんな……ってお嬢もいくのか!?」
「研究者はフィールドワークが基本よ」
「そうは言うけどなぁ」
「それに今のアンタは残留した魔力の解析できないでしょ?」
「うっ…ぐぬぬ」
「ほら、早く準備する」
「わっとと、そう急かさないでくれよ」
ー駆け込み通り商店街・中央広場ー
「っっったぁぁ…!もう疲れたぁ!」
「はいお疲れ。それじゃ、見張りに入るわよ」
時刻は0時。月が天高く輝く頃。
再出現のデータを取るとのことで、今ある石像を細かく砕いて車の荷台で運んでいた。
それがようやく終わり、一息つく間もなく今度は広場の監視を行うために建物の屋上で座り込む。
肉体労働が連続しないだけありがたいが、こんな深夜にこの疲れでは流石に答えるというもの。
「なぁなぁ」
「なに?」
物陰で電子機器を操作する紫織に話しかける。
「寝ないように話しかけていいか」
「勝手にしなさいよ」
「ありがと。んじゃあさ…」
~2時間後~
「……んで、結局俺ちゃんがチャーハンを作ることでその場は収まったわけだ」
「どういう状況よ」
「お、ようやく反応が返ってきた」
2時間近く下らない話をして、ようやく紫織が反応を示した。
「別にいいでしょ。今は仕事中」
「わかってるっての」
すっかり辺りも真っ暗になり、街頭の明かりがぽつぽつと道を照らすのみとなった。
風が建物の間を抜ける様に吹き、冷たさから少し身震いをする。
「そういえばよ。魔力っていうけど、具体的に何のことかわかんねーんだよな」
「アンタほんとに言ってる?」
「しゃーねーだろ。座学の時に一気に詰め込んだんで、所々曖昧でよ」
「……仕方ないわね」
そういうと紫織は手を止め、持っていた計器を使い話始める。
「今後も仕事で関わるから、ちゃんと覚えておくこと。私の仕事増やしたくないし」
「へい」
「魔力ていうのは、昔そう呼んでた名残でそのまま読んでるだけ。コードを動かすためのエネルギーを総じて【魔力】って呼んでる。電気や熱を使うときは、それらを魔力に変換して使ってるってわけ」
「へー」
「いくつか魔力の特性はあるけど、中でもコードを使えば魔力反応が発生することが一番ね。人体に有害ではないし残留しても時間経過で自然消滅するけど、使ったコードが強力だったり複雑だったりすると発生量も増えるの。それをこの計器で調べてるってわけ」
(ビーッ!ビーッ!)
「そうそう、こんな風に異常値を検出するとアラートが……」
お互いの目を見て、すかさず二人で広場に顔を向ける。
そこには見知らぬ人影が立っていた。
黒いローブのようなものを着ていて身体的特徴は分かりずらかったが、それでもこんな時間に広場の真ん中、石像があった場所を見つめている人物は怪しいにもほどがある。
「お嬢、魔力反応はどこから出てる」
「あのローブのやつから」
「…俺ちゃんが声かけてみるから、お嬢は隠れてみててくれ」
「わかった。無茶はしないこと」
グッと親指を立て、屋根から路地裏へと静かに飛び降りる。
ローブの人物は何やら石像があった場所を眺めながらうろうろしている。
刺激しないよう、ゆっくりと近づき少し離れた位置で止まる。
「あのー、どうかされましたか」
「!?」
突然声をかけられたことに驚いたのか、ビクッと体を震わせ、その後固まる。
「こんな夜中に何してるんですか?」
「……」
ローブの人物はしゃべらない。
何も言わず、動かず、ただじっとしているだけだ。
「最近ここらで違法な建造物が出来たらしくて、取り締まりのために見回りをしてまして」
「……」
「ちょっとお話、聞かせてもらえませんか」
ゆっくりと、にじり寄るように距離を詰める。
そしてローブに手が触れようとした瞬間。
中から、異形の手がこちらを掴んできた。
~続く~




