第5話 ヒーローの新人研修 その1
拝啓、母ちゃんと父ちゃん。
元気にしてますか?
俺ちゃんが突然いなくなって驚いているかもしれませんが、俺ちゃんは元気です。
俺ちゃんは今、
「まてゴラァぁあああああ!!飛ぶんじゃねぇぇえええ!!!!」
魔法使いのひったくりを追っています。
ー1か月前ー
「あの、これはどういう…」
何やらすごく高い役職の人が働いてそうな執務室に、俺ちゃんと紫織、そして目の前の謎の男がいる。
ショッピングモールからノンストップでここまで連れてこられたが、何が何だかさっぱりだ。
(アンタのことが上司にバレたわ)
バレれば解体されて瓶詰め。
以前聞いた言葉が脳裏をよぎる。
何だろう冷汗が止まらない。
「そんなに緊張することはないよ。取って食おうってわけでもないさ」
男が口を開いた。
「君とは少し話をしてみたいと思っていてね」
優しい口調と表情で話しかけてくる。
一切の敵意や害意は感じないが、それが逆に怖い。
ていうかなんで紫織は一言も発しないのか。
頼みの綱はあなたしかいないのですけど?
「えっと、ここがどこで誰が何なのかすらわからないんですけど」
「おっと、まずはそこからだね。説明が遅れていたよ」
そういうと男は窓を背にしておかれた大きなデスクへと向かい、机上の機械を操作し始めた。
*
1999年。
恐怖の大王が現れ世界が終わるといわれた世紀末に、突如として『魔法』が発見された。
のちに【術法】と呼ばれるこの技術は即座に解析され、プログラムのように構築する一つの技術体系としてわずか数年で世界中のテクノロジーに組み込まれた。
しかし2015年、コードを起因とした大規模な災害【大崩壊】が発生。
地球規模で起きたこの災害によって、人類の生活圏は約5割を失い、あらゆるインフラが機能不全に陥る。
パニックや暴動による二次被害での死傷者を含めると、世界総人口の約8割が被害を受けた。
こうした混乱を解決するため、かろうじて残った各地の政府機関は統合し、一つの管理機構を設立した。
通称【セントラル】、中央維持管理機構の誕生である。
セントラルは残った生活可能な土地を居住区画としてエリア・都市に区分けし、その土地の整備と建設、そして難民たちの受け入れを実施。
それから現在2026年に至るまで、文明を守っている。
*
「…壮大なムービーが上映された…」
突然目の前にホロスクリーンが現れたかと思えば、セントラルという組織の説明映像が上映された。
「とまあ、見てもらった通りだ。私たちはこの世界で、人々の安全と生活を守っている」
「そんな組織が俺ちゃんに何の用で」
「君は、別の世界から来たんだろう?」
「!?」
心臓が口から飛び出るかと思うくらいはねた。
「いやっちょっ何言ってんのかわかんないっすね何ですか漫画の読みすぎっすよははは」(ここまで一息)
「隠さなくてもいいよ。紫織くんに確認済みだからね」
「え!?」
紫織の方に目線を向ける。
「……」
ものすごく明後日の方向を向いていた。
せめて申し訳なさそうな顔をしていればまだマシだったものを。
「治安維持と大層なことは言ったが、基本的には警察と変わらないよ。一点を除いては」
「一点って…?」
「コードを使った犯罪。【術法事案】だ」
「横文字多くないっすか?」
「旧アメリカがメインで作った組織だからね、正直私も困ってる」
男はコホンと息を整え、漏れてしまった本音を照れくさそうに隠そうとする。
「それはそれとして、先ほどの映像では説明されていなかったことがあるんだ」
「はぁ…」
「コードは自然発生する」
「はぁ……はぁ!?」
コードの強さも恐ろしさも、身に染みて経験している。
いとも簡単に人を超人に変えてしまう代物が、そうポンポン現れてたまるか。
「発生するのにも条件とかがあるんだけれども、まぁダイヤモンドみたいなものだよ。人口ダイヤと天然ダイヤがあるみたいに、コードにも人口と天然があるんだ」
「そんな愉快な感じなんすか」
「不思議なことにね。そして人口と天然では異なる点もいろいろあるが、どれも不用意に使えば大惨事になってしまうわけだ。大崩壊のようにね」
男はそういうと、紫織の持っていたケースを受け取り、こちらへと渡してきた。
「昨今コード・ケースが増加している。我々も対処しているが、いかんせん人手が常に足りない状況だ。…そのケースを開けてみてくれ」
怪しいような、信頼できるような不思議な感覚。
恐る恐るケースを開けると、中には見覚えのある機械と、新品の制服が入っていた。
「君を解剖して研究材料にするのは簡単だ。しかし君ほどの才能を持った人物をなくしてしまうのはもったいない」
男は右手をこちらへと差し出してきた。
「そこでどうだろうか。うちで働かないかい?」
「……勧誘が始まった!?」
突然のことであごが外れるかと思った。
「君の能力を買っているのもそうだけど、恩返しの部分も多いんだ。君には2度もうちのピンチを助けてもらった。だからこそ、一緒に仕事をしたいと思ったんだよ。もちろん、そのために最大限のサポートはさせてもらうさ」
そういってもらえるのは嬉しい。
が、そこまで自分が持ち上げられる理由がわからない。
確かに2回の戦闘を経験して、その両方で勝利を収めている。
「本当に、俺でいいんですか?」
「君しかいない」
どのみち断ったところで、待っているのは細々と生きるか瓶詰めにされるかのどれかだ。
少し考えて、深呼吸を一つする。
「わかりました。最大限のサポート、忘れないでくださいよ」
俺ちゃんは、男の差し出した手を取った。
「ありがとう。感謝するよ」
「それじゃあ、この契約書にサインしてね」
「途端に胡散臭くなった!」




