第4話 決めろ!フィニッシュムーブ!
崩れかけた壁。
火花を散らして壊れた照明。
そしてその中に、怪人と機械仕掛けの鬼武者が一人ずつ。
シンクロブレスで変身し、アーマーのおかげで大幅に身体能力が向上した。
その力で足元の悪い中、縦横無尽に飛び回って怪人を蹴り飛ばす。
『気を付けて。相手はまだ倒れてないわよ』
マスクから紫織の忠告が聞こえ、それと同時に視界のモニターが警告マークを表示する。
目の前で怪人が立ち上がる。
ダメージがないわけではないが、それでも精々がかすり傷程度。
相手の猛攻を搔い潜っての一撃も、かえって怪人の怒りを買う結果につながるだけだった。
「ふ、ふざけるなぁぁああああああああ!!!!!!」
「おー元気なことで。そのまま寝ててくれた方がありがたいんだが」
「なんで!なんでおもいどおりにならない!!なんでいつもじゃまがはいるんだぁああ!!」
怪人が叫び、周囲に飛ばした透明な何かを頭上に集める。
「…俺ちゃんの読みが正しければ……」
手にした刃【共鳴刀:鳴銀】を強く握り、怪人に構える。
「うわぁあああああ!!」
怪人が叫びながら、手を上に伸ばしてから振り下ろす。
ぞわっとした感覚が全身に流れ、頭上にとてつもない殺気を感じる。
「いけるはず!」
何かが迫るような気配を感じて、上方向に鳴銀を切り上げる。
(ガキャン!)
(ズドドンッ!)
硬い何かを切った感覚がして、自分の左右真横に何かが落ちた音がした。
「おっし!案外切れるもんだね」
『…アンタ今センサー見てた?』
「センサー?」
『うっそ。信じられない』
呆れた声で紫織が話すと、視界が変わった。
スコープのレティクルとメーターやら数値やらが現れ、辺りのものを指示している。
そして何より、この視界では今まで見えなかった怪人の操る何かをくっきりとみることができた。
「おー!スキャンモード的なやつ!?」
『その通りよ。むしろ今まで使わずに見切れてたことが驚きよ』
「そこはまぁ、なんとなくわかるっていうか」
『普通は分からないのよ』
「ンなこと言われてm」
左右から危険を感じ、そのあと一瞬遅れてマスク内に警告が響く。
即座に後ろへ飛んで回避すると、左右に切り分けられていた塊が勢いよく衝突して一つの塊になった。
そのまま怪人から隠れる様に距離を取り、物陰から相手を観察する。
「おー怖。油断も隙も無いなこりゃ」
『暢気言ってる場合?相手の能力もわからないのに…』
「それなら検討がついてる」
『…冗談でしょ?』
「いや大マジだぜ?確信を持ったのはスキャナーのおかげだけどよ」
ここまでで手がかり自体はあった。
不可視ではないが透明で、形を自由に変え、光を反射し、切れなくはないが相当の硬度を持ったもの。
「硝子だろ、あれ」
そして何より、これだけ辺りが滅茶苦茶なのにガラスの音だけが聞こえなかった。
歩いているときも怪人が暴れた時もガラスの割れる音は聞こえず、這いずって逃げる時は服にくっつきもしなかった。
「スキャナーの成分分析か?赤外線だのサーマルだのも見れて便利だねぇ」
『…確かに硝子の成分が検出されてる。なかなかやるじゃない』
「んー褒められるって心地いいね」
『でも目的は対象の鎮圧。ここからが本番よ』
「あいよぉ!」
巨大な硝子の拳が正面から迫ってくる。
こちらを殴り飛ばさんと進むそれを、軽く足蹴にして飛び越える。
「……」
怪人は黙っているが、その口角は確かに上がっていた。
すぐさま迎撃の体制に入る。
しかし怪人は先ほどの一つの拳を二つの手に分けていた。
空中でこちら目掛けて飛んで来る手のひらは、飛ぶ羽虫を潰すように左右を挟んできた。
「っっんにゃろぉ!」
ブレスに装填されたシンクロレコードを、鳴銀のスロットに差し替えてトリガーを引く。
[【窮鼠】・オーバーシンクロ]
刃が白く輝き、音叉のような音を放つ。
「窮鼠!鼠返し!」
体をねじり、円を描くように刃を振るう。
硝子の手は真っ二つに割れ、勢いのままお互いがぶつかり粉々となった。
「はぁっ!」
きらきらと散る粒の中を突っ切り、思い切り両の手で刃を振り下ろした。
「!?」
怪人は咄嗟に腕を交差させて頭上に構える。
振り下ろされた刃はその腕に阻まれ、ギリギリと火花を散らしながら抑え込まれた。
「じゃまするな!せいぎずらしやがって!!」
「テメェが暴れっからこうなってんだろうが!!」
怪人の腕を斜め下に流し、そのまま下から切り上げる。
攻撃で後ろへと体制が崩れた怪人に、連続で切り込む。
右、左、上、下、斜め。
硝子でできた相手の表皮を、火花と共に削る。
「うがぁぁああ!!」
跳ね除けようと怪人は腕を振り回す。
それを距離を取り回避する。
『っ!そっちはダメ!』
紫織が警告をするも、時すでに遅し。
飛んだ先には、砕いた硝子が無数の鋭い針になって待ち構えていた。
「しまっ!」
セリフを言いきる前に、針はこちらに飛んでくる。
[【窮鼠】・オーバーシンクロ]
咄嗟に鳴銀のトリガーを押し、一閃を繰り出す。
しかしその時にはすでに遅く。
「ぐあぁ!」
鋭い透明な針が、体中に突き刺さった。
斬撃での防御により、かろうじて致命的な損傷には至らなかった。
だが装甲の隙間に食いこむように刺さる硝子は、筋肉を深く傷つけ動けなくするには十分だ。
「あが…!」
[装着者のダメージを確認しました。リカバリープロセスを起動します]
マスク内で機械音声が聞こえると、ひどかった痛みは和らいだ。
これのおかげで、あれだけ動き回っても呼吸がしやすかったのだろ。
だが腕が動かない。
手を多少動かすことはできるが、力を籠めることができずに刀が手からこぼれる。
「ちぃっ…すまねぇお嬢。調子に乗った」
『それを言うならこっちも警告が遅れたわ。…動ける?』
「足は何とか。腕はペンが握れるかどうかぐらい」
『一度距離を取って。計器が妙な反応を出してる』
「どうやらそんな暇なさそうだぜ」
武器からレコードを取り出し、再びブレスへ装填する。
そして怪人の方を見ると、異様な光景が広がっていた。
怪人の周りを、きらきらと光る塵が舞っている。
よく聞くと、風の音とは違う何かが削れるような音が聞こえる。
「嫌な予感しかしないんだが、あれなに?」
『今解析してる。……うそでしょ』
息をのむ声が聞こえ、マスク内のモニターに解析結果が写る。
『あの塵は全て硝子よ。砂粒ほどに細かくして、その塵を全て操作してるわ』
「砂?」
「ーーーーーーーー!!!」
怪人が叫ぶと、塵が嵐となってに降り注ぐ。
「っぶねぇ!」
危険を感じ、急いでその場から離れる。
その直後、先ほどまでいた場所は砂で覆われていた。
崩れた瓦礫も、ひび割れた地面も、そのすべてが削れて砂になっていた。
「ぇええ!!あっという間に砂場が完成!?」
『高速でガラスの粒をぶつけて、相手を削っているのね。原理で言えばサンドブラストと同じね』
「普通コンクリとガラスってコンクリ勝つんじゃないの!?」
『砕けてもまた元の形に戻るなら、ガラスも同じことができる。それに砕けるなら破片が刺さってさらに威力も上がるわ』
「最悪だ!!」
ろくに動かない腕をぶら下げながら、必死に硝子の嵐から逃げる。
自分の感覚とセンサーを頼りに何とか回避をするが、後ろからはザリザリと削れる音が聞こえる。
「ひぇぇええ!!たぁすけてぇ!!」
『あの量と速度、アンタの今の装甲じゃ1分も持たずに削りきられるわね』
「怖いこと言わないで!」
逃げる途中、足元に転がっていたコンクリートの塊を怪人に蹴り飛ばす。
それはすぐさま叩き落とされたが、その叩き落とす動作に合わせてガラスの塵が舞った。
「…これだ!」
思い付きだが、光明が見えた気がした。
「お嬢!ちょっと頼みごとがあるんだが、いいか?」
『内容によるとしか…』
「えーっとな、ごにょごにょごにょ」
『……可能性はあるわね。今からナビするから、上手く誘導しなさい』
「任された!」
ホログラムのディスプレイに道案内の地図が表示される。
それを合図にして、進行方向を一気に変え怪人へと向かっていく。
「場所変えようぜ、ガラスお化けよぉ!!」
怪人に対して思い切り体当たりをし、何枚か壁を破って移動する。
「オラオラァ!一緒にお散歩しようぜ!」
たどり着いたのは地下駐車場。
止まっていた車たちが衝撃を受け、けたたましくブザーを鳴らす。
「いちいちちょこまかと!!」
「鼠なんでね、それが仕事だ!」
怪人が再び嵐を起こすため、手を上にかざす。
周囲の車の窓や照明から、溶ける様にガラスが流れて怪人の元に集まっていく。
その時を狙い、天井の配管をけり壊す。
一瞬にして中から水が噴き出し、カーテンのようにお互いの間を遮った。
「こんなものぉ!!」
怪人はそれに気にも取られず、ガラスの粉塵を突っ込ませた。
ガリガリと削れる音が駐車場に響き渡る。
「これでとどめだぁ!!!」
怪人がとどめを刺さんと巨腕を振り上げ、カーテンを払う。
「こっちのセリフだぜ。そいつはよぉ」
水をかき分けた中で、怪人は一歩後ろに退く。
全身のアーマーは、熱く、赤く、鈍く光る。
大袖や籠手の張り重ねた金属は放熱板のように開き、毛を逆立てた獣の姿に見紛うほど。
全身から立ち昇る熱気は空気を歪め、気迫のように景色を揺らがせる。
[【窮鼠】・オーバーシンクロ]
「一瞬。ほんの一瞬だけで十分」
脚部の排熱機構がうねりを上げ、貯めた空気を一気に放出する。
破裂音と共に蹴り上がった足は、怪人を宙へと舞い上がらせる。
「がぁっ!」
呻く怪人へ、すかさずもう片方の足で一撃を繰り出す。
浮かんだ怪人はさらに上昇し、天井を突き破ってはるか上空を飛ぶ。
「とうっ!」
それを追うように自らも青空の中へと飛び込む。
瓦礫と破壊音が詰まった閉所から一転して外へ。
飛び出した陰に、建物周囲に集まっていた人々が一斉に目線を向ける。
「ここらで終いにしようか」
全身のエネルギーが右足へと集まる。
怪人は危機を察し、腕を正面へクロスさせて防御姿勢を取る。
「【窮鼠】!!」
全身をひねり、各部の排熱機構とブースターが爆発的な加速を生む。
瞬間的なスピードと、迸り輝く右足のエネルギー。
相乗効果によって倍増したその威力は、まさに必殺技と呼ぶにふさわしい。
「鼠返し・脚!」
高速で振り下ろされる脳天への縦回し蹴り。
怪人のガードを無視して繰り出された一撃は、再び両者を地上に戻す。
凄まじい轟音と共に立ち上る土煙と爆破の硝煙。
「ぐあぁぁあああああ!!」
断末魔は外の人々にも聞こえるほどに大きく、同時に衝撃波が辺り一帯を揺らす。
「ふぅ…これにて終幕ってな」
衝撃から逃れる様に爆心地から離れ、一旦の決着に一息つく。
「……あ!」
『どうしたのよ。いきなり何か思い出したみたいな声上げて』
「その通りだよ!俺人ひとりやっちった!」
『なんだ』
「何だとはなんだ!いくらコッチが危なかったとはいえまずいだろ!」
『それなら問題ないわ。ほら、爆発の中見てみなさい』
「え?」
だんだんと落ち着いてきた煙の中へ目を凝らすと、うつ伏せに倒れる男が一人見えた。
そしてその頭上に、煌々と光る半透明な何かが見えた。
たとえるなら、球体になって浮かぶ魔方陣が一番近い。
よくわからない文字列を光らせながら円形にグルグルと回っている。
『腰についてるレコードを出して。浮いてるあれを回収するの』
「あ、ほんとだいつの間についてる。回収、回収?回収!?」
『いいから。起動させて端子を向ける』
何が何だかよくわからないが、ひとまずは言われたとおりにする。
取り出したレコードには何の模様も色もついていなかった。
そしてその無機質なレコードの歯車部分を押し込み、反対側の端子を光へと向ける。
すると光は紐のようになって端子へと吸い込まれる。
光を吸い込むごとにレコードに模様が刻まれ色がにじみ出る。
完全に吸い込み切った時には、レコードは電子回路のような枝分かれした直線が刻まれ、各パーツは水色に変わった。
光が消えたことを確認し、倒れている男のそばに駆け寄る。
顔を覗き込むと、モール内で見たあの男のものと同じだった。
完全に白目をむいて伸びているが、これといったケガもなく気絶しているだけだ。
『はい、回収完了。そこの男は後に任せて大丈夫だから』
「お、おう。それならいいんだが」
『それにしても無茶するわ。配管の水でガラスの塵を防ごうなんて』
「ただの思い付きじゃないぜ。怪人が腕を振った時、周りのガラスも風に乗って一緒に舞ったのが見えたんだ。逃げてる時のガラスの挙動も含めてなんとなく仕組みが分かった。」
怪人の操るガラスは、『大きさ』と『軽さ』が比例している。
つまり操るガラスが小さくなるほど、小さな風や細かい振動の影響を受けやすくなるということだ。
そしてガラスの操作には視界に頼っている部分が大きい。
逃げている最中に何度か姿を隠す場面があったが、その際の攻撃は狙いが外れていたことから、操作自体は自在にできるが細かな操作は目に頼らなければならないことが分かった。
こうした状況から、流れる水で幕を作ることで視界を一時的に遮りながら塵を防御し、その一瞬の隙をついての早期決着となった。。
「まぁ長期戦になったらジリ貧だったからな。腕折れてるし」
「それもそうね。とにかく今はお疲れさま」
「おう、ありがと……う?」
ねぎらいの言葉に感謝しようとしたが、マスク内から聞こえるはずの声が外から聞こえた。
「変身解除していいわよ」
声の方を向くと、雑にまとめた長い髪と着慣れたような制服姿の見知った顔がいた。
「紫織のお嬢!?なんでここに!?」
「後で説明するって言ったでしょ?」
「言われたけど!」
ブレスからコードを抜き取り、変身を解除する。
そして紫織に向かって詰め寄る。
「何から何まで意味が分からねぇよ!いきなりブレス渡してきて戦えだのなんだの言ってきて!そもそもあの怪人すらよくわかんねぇのに!よく頑張ったよ俺ちゃん!」
「一つずつ説明するから落ち着いて」
「落ち着けるか!」
「いいニュースと悪いニュースがあるけど、どっちから聞きたい?」
「この流れでそれやる!?」
怒涛の抗議を遮って話す紫織に、正直ちょっと引く。
多分心が鉄とかでできてると思う。
「…じゃあ、悪い方から」
「アンタのことが上司にバレたわ」
「最悪すぎる。じゃあいい方は?」
「アンタが定職に就けるチャンスよ」
「へ?」
そういうと、紫織は半歩下がって横にはける。
空いた場所に対して、向こうからコツコツと足音を立てながら向かってくる人影が見えた。
「うわぁ、こりゃ大変だね」
瓦礫に声を出しながらやってきたのは、和らげな雰囲気をまとったスーツ姿の男だった。
「やあ。初めましてだね」
「…………だれ?!?!」
~つづく~




