第3話 理由はどうあれ、英雄的行動
人は誰しも、選択を迫られる時がある。
今日の晩御飯は何しようかとか、欲しかった高額商品を買うかとか、人生のパートナーを決めるときとか。
規模や重大さはどうあれ、それはその人個人が決めることだ。
中には、命の危険がかかったものもあるだろう。
しかし、どれも自らで選ばなければいけないのは確かだ。
突如現れた怪人によって平和は壊された。
今、怪人の魔の手によって目の前の少女の命が消えようとしている。
次の瞬間には飛び出していた。
人を助けたいとか、誰かの役に立ちたいとか、そんな立派なものじゃない。
俺ちゃんはただ、自分が傷つかないために動いただけだ。
半年前の、紫織を助けたあの時もそうだ。
どこまでも自分が大事で、どこまでも臆病で。
それでも、動いたのだからしょうがない。
「っっっっぶねぇ!!ギリギリセーフ!」
土煙が晴れ、少女を抱える俺ちゃんの姿があらわになった。
「嬢ちゃん大丈夫かい!?ケガは!?」
腕に抱えていた少女は、涙を目に貯めながら小さくうなずく。
「フゥー…そりゃよかった。嬢ちゃん名前は?」
少女をそっと降ろしてついた汚れを払う。
「…はなこ」
「奥ゆかしくて素敵な名前だ。お母さんやお父さんはどこかわかるかい?」
「わかんない…」
「そうか…。なぁに!俺ちゃんがキッチリ守護ってやるさぁ!」
泣き叫びそうになる少女を、空元気でなだていると、怪人が叫び始めた。
「な、なんでいきてるんだ!」
少女へ自分の後ろに隠れるように手招きをし、怪人の目を見て答える。
「なんでもなにも、五体満足だから生きてんだろ。見てわかんねぇか?」
「お、お、おまえ、さっきつぶした!なのにいきてる!」
「だから潰れてねぇって」
「なんで!なんで!これでにかいめなのに!おれはつよくなったのに!!」
思い通りにならないのが気に入らないのか、怪人が腕を振り回して暴れ始めた。
地面をたたきながら叫び、建物全体が揺れている。
「ママ…パパ…」
少女がキュッと服をつかんできた。
優しくその手をほどき、目線を合わせて手を握る。
「嬢ちゃん、よく聞いてくれ」
「…うん」
「俺ちゃんは今からあのカイブツと戦ってくる。嬢ちゃんはその隙にあっちから外に出て、パパやママを探すんだ」
光が差し込んでいる先を指さすと、少女は怯えながら答える。
「無理だよぅ、怖いよぅ」
不安を口にする少女へ、今できる最大の笑顔で答える。
「大丈夫!嬢ちゃんは強いさ!あんなおっかないカイブツの前で泣かなかったじゃないか。俺ちゃんが嬢ちゃんを守る、嬢ちゃんはパパとママを守るんだ」
両親を守る。
その言葉に奮起したのか、少女は袖で涙をぬぐい外へと走っていった。
「任せたぜ!」
その様子を見て、怪人の癇癪の矛先が変わった。
「うううう!うぁぁぁああああああ!!!」
駆け出す少女に目掛け、怪人が飛びかかろうとする。
「させねぇよ!」
怪人が飛び上がった瞬間を狙う。
足元にあった崩れた建物の一部、その中の鉄筋とコンクリートがハンマーのようになっているものを拾って、怪人の顔面へと思い切り振りぬく。
「おらぁっ!!」
怪人はコンクリートが砕けるほどの攻撃をモロに喰らい、フルスイングの勢いのまま後方へと吹き飛んだ。
「おーホームラン。俺ちゃんこんなに怪力だったっけ?」
身に覚えのない剛腕に驚いていると、怪人が無傷で立ち上がってきた。
「おまえ…よくもぉぉ…よくもぉぉおおおおお!!」
ひるんだ様子はなかったが、逆鱗には触れたらしい。
さらに激高して叫びをあげている。
「さーてと、こっからは気合と根性とアドリブよ!」
怪人の気は引いた。
が、ここからはノープラン。考えなしともいう。
ちびっこの手前でカッコをつけのはいいが、これといった有効打や解決策は今のところ皆無。
だが見当がないわけではない。
「一か八かだが…」
怪人が大きく手を振り回し、それと同時に周囲へと破壊が飛び散る。
「ーーーーー!」
言葉にすらなっていない叫びが響く。
「やるっきゃねぇよなぁ!」
轟音を鳴らしながら迫る破壊の跡。
それから逃げる様に、怪人の周囲を大きく駆け回る。
「よっ!ほっ!」
パルクールの要領で瓦礫の中を軽やかに進む。
落ちた天井を滑り抜け、割れた地面を飛び越え、崩れた隙間を火の輪くぐりのように通り抜ける。
次第に怪人の行動は荒さを増し、段々と見えない何かからの衝撃が迫ってくる。
「っ!こっちか!」
倒れた柱を越えようとした瞬間、神経を刺すような鋭い予感がした。
咄嗟に瓦礫を蹴り、進行方向を変えて脇にある家具店へと飛び込む。
(なんとなく見えてきたぜ。あいつのやってることが!)
店にある大きなカーテンを掴み、帆を張るようにたゆませながら広げる。
怪人の起こす破壊。それは、見えない何かによって引き起こされている。
「っ今!」
タイミングを見計らい掴んだ布を離すと、広げた布に包まれて巨大な拳が姿を現した。
「なるほど、通りで2発までしか同時に来ないわけだ。握りこぶしは交互にしか出せねぇもんなぁ」
これで相手の攻撃がよく見えるようになり、逃げやすくなった。
後は体力の続く限り逃げて、救助が来るのを待てばこっちのもの。
迫ってくる様子も攻撃の予兆も、すべてを見てから回避する。
ギリギリだった追いかけっこはしゃべる余裕も出てくるほどになった。
「いやぁ何とかなるもんだね!がははははっ!」
それまでは自分の勘のようなもので何とかしていたが、これで一安心。
と、思っていると。
「うううううう!!ばかにするなぁああ!!」
その声と同時に布の中身が消え、周囲にきらきらと光る無数の球体が現れた。
「ふーん…でかいのだけじゃないんだ」
(ヒュガガガガ!!)
雨のように透明な球体が降り注ぐ。
「がはっ!」
先ほどの破壊とはうって変わり、威力はそのままに速度が上がっている。
もはや走って避けられるものではなくなり、360度からの打撃をもろに受け続ける。
「なんで速度上がって威力落ちてねぇんだよ!!」
腕で顔を覆い防御するものの、その猛攻に耐えられずガードはすぐに剝がされた。
そしてその隙を狙うかのように腹部への一撃が入り、大きく吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。
直撃の際、バキバキッ!という音が聞こえた。感覚的には肋骨だろうか。
口の中に鉄の味が溢れる。
「カハッ…ヒュッ」
肺にうまく空気を送り込めず、掠れた息だけが出てくる。
「これはちょっと……まずいかも…」
やっぱり無謀だったか。
むしろ、理外の化け物相手に生身のままここまでやれたのだ。
あの少女もここまで時間を稼げば怪人も簡単に追えない場所まではたどり着いているだろう。
拾った命が惜しくないわけではないが、ここまでだと考えよう。
目を瞑り、今までのことを思い出す。
最後の最後に人助けをできたことを誇りに思って……
「……誇り?」
瞬間、ある作品の名台詞が脳裏によぎる。
『俺たちは兵士だ。兵器じゃない。生きることこそが、人間の使命であり誇りだ』
これは【ザ・ソルジャー】の第一作目。
主人公である新人隊員アルバートが、仲間たちと共に敵拠点へ最後の戦いを挑む際のセリフ。
無敵の兵器として戦ってきた部隊が、友情や信頼を築き、避けられぬ戦いに人として立ち向かおうと告げるシーン。
アクション映画ではあるが、こうした人の心情や変化を描いたシーンが印象的で、このシリーズを追うきっかけにもなった。
そうだ。
ここで諦めてはいけない。最後まで戦うことが大事なんだ。
そしてそのセリフと共に…
「まだ映画観てねぇぇええええええええ!!!!!」
今日の目的も思い出した。
「ボケっと辞世の句読んでる場合じゃねぇ!」
気合で体を起こし、近くの瓦礫の陰に隠れる。
(ガガガガガン!!)
無数の球体が辺りの瓦礫を壊し、俺ちゃんのことを探している。
そこをばれないように、カサカサと這いずりながら移動して身を隠す。
「ひぃぃ~!オタスケ!」
少し進み、何処かの店の中で隠れて息を整える。
勇んでみたものの、限界なことには変わりない。
一度状況を整理して、この状況の打開策を考える。
まず、相手は人が変身した怪人だということ。
それは目の前で本人から「これでにかいめ」という言葉もあったから間違いないだろう。なぜそうなったのかは謎だが。
次に、怪人は見えない何かで攻撃をしてくる。
布で捕らえたときは体の一部が透明な分身として表れていると思った。
だがそのあとにきゃだいな拳が消えるさまと、無数の透明な玉が出現したのを見て別のもだと分かった。
つまり、あの怪人は『透明になった何か』ではなく『もともと透けている何か』を操っている。
でなければ、分裂した際に光が反射して見えるようになること自体がおかしいのだから。
何によって何が起きているか。それがわかれば、突破口が見える。はず。
(ドガァン!ガラガラガラ…!!)
俺ちゃんを見失ったのか、怪人はそこらじゅうを壊して回っている。
…少しの違和感がある。
ここに来るまでにあるはずのものがなかった。
なにか、何かが引っ掛かっている。
(ヒュン!カシャァァア!)
頭を抱えていると、視界の外から何かが飛んできた。
滑りながら目の前にやってきたそれは、何処かで見たことのあるアタッシュケースだ。
「……なに!?こわい!!」
(ヴィー!ヴィー!)
「立て続けになに!?」
突然ポケットに入れていた携帯が鳴る。
取り出して画面を見ると、非通知からの着信だった。
「…いや普通に無理でしょ。この状況だし」(ピッ)
『この状況だから話を聞いてほしいんだけれど』
「ぎゃっ!!」
着信拒否した瞬間、アタッシュケースから突然声が聞こえた。
思わず叫びをあげる。
「誰だてめぇ!」
『私よ』
「その声は…紫織のお嬢か!?」
『大正解。これまで何回もあってるんだから直ぐに分かりなさい』
「ンな無茶な」
声の主は紫織だった。
「なんでケースからしゃべってんだよ」
『ケースからじゃないし、アンタが電話を切るからでしょう。それより早く開けなさい』
急かす紫織に渋々ケースを開けると、中には見覚えのある機械が入っていた。
ダイバー用の分厚く厳つい腕時計のようなモニターと操作ボタン、音叉に似たU字形状のパーツが特徴的なスロット。
半年前に使用した、あの変身デバイスだ。
「こ、これって!」
『【シンクロブレス】。詳細は追って話すけれど、兎に角それを使って戦いなさい』
「え!?でもこれって使っていいの?!」
『ほんとはだめだけど、今はちょっと事情が事情なの!』
「事情って何?」
『後で説明する!いいから早く武装して!』
何が何だかさっぱりだが、使っていいのであれば使わせてもらう。
相手は人知を超えた怪人なのだ。
ならばこちらもそれ相応の力をもって相手するのみ。
ケースからシンクロブレスを取り出したタイミングで、背後の壁がはじけて崩れる。
ヒュンヒュンと透明な何かを空を切りながら周囲に漂わせる、怪人の姿が砂埃から現れた。
「またまたピンチか。ヒーローはこういう状況じゃなきゃ変身できない決まりでもあるのかねぇ」
「覚悟しろよ、ドロドロお化け。今度はこっちの番だぜ」
ブレスを構え、腕部に着ける。
ブレスは自動で装着され、起動音声が鳴った。
[シンクロブレス、起動しました]
ポケットから細長い歯車のついたシリンダー【シンクロレコード】を取り出し、そのまま歯車部分を押し込む。
[【窮鼠】]
ゼンマイが巻かれるような音と共にシンクロレコードの模様に光が走る。
そしてレコードをブレスのスロットに差し込む。
[コネクト]
周囲に銀色の雲が漂い始める。
霧よりも深く、煙よりも重い雲は、琴のような高く響き渡る音色を奏でる。
この摩訶不思議な光景に、怪人も辺りを見回して困惑している様子だ。
一つ、深呼吸をする。
心を整え、拳を握る。
「共鳴武装!」
ブレスの竜頭部分を押し込む。
[シンクロ・アップ]
それに反応し、銀色の煙は体を包むように集まり、鋼の鎧へと姿を変える。
その姿はまるで、機械仕掛けの鬼武者だった。
鱗張りのような籠手や筋肉の形に沿って作られた胴や足の装甲。
鋭く真っ直ぐ生えた2本の角と、額と胸に輝く鼠を模したエンブレム。
生物と機械の融合を感じさせるその見た目は、まさにヒーローそのものだ。
「装着完了!」
空を払うように腕を振る。
「みためがかわったところでぇぇえええ!!」
変身を目の前で見ていた怪人は、警戒する様子もなく攻撃を仕掛けてきた。
光に反射して輝く無数の球体を、嵐のように周囲へ飛び回らせた。
横風に吹かれる雨のように飛んでくるそれに、逃げるではなく突っ込んでいく。
『ちょっと!何してんの!?』
マスク内で聞こえる紫織の声を無視して、そのまま駆ける。
球体が当たる寸前、数センチのところで足に力を籠める。
それに呼応するように、脚部装甲のつま先部分から爪が飛び出しスパイクのように地面に刺さり食い込む。
「っ!」
体をねじりながら前へとジャンプし、球体の間をすり抜ける。
「っぃぃいい!!」
怪人はそれを追うように、球体を操って進路を妨害する。
突然進行方向に現れた球体は、追尾するように軌道を変える。
(ガシャン!ボッ!)
次の瞬間には、爪を突き立てひび割れた壁に張り付いていた。
草刷と大袖型のスラスターから、排熱用の熱気を放出して瞬間的な加速と回避を行う。
球体もその動きに追いついてくるが、壁や天井を獣のように駆け回って標準をずらし続ける。
そして速度が乗ったタイミングで、怪人へと一気に距離を詰める。
「ぐっ!」
怪人は一瞬ひるんで、即座に迎撃のために両腕を振り下ろした。
その一瞬の隙を突き、怪人を飛び越えて背後に回る。
怪人はそれに対応しようとしたが。
(ガガガガガン!)
「バハッ!」
追尾してきた球体はその勢いのまま、怪人に突っ込んでいった。
意図しない連撃に、怪人が体制を崩す。
よろけた怪人の背中をけって飛び、一気に距離を取って体制を整える。
「へっ!どんなもんよ!」
余裕ぶった態度を取り、上がった息をごまかす。
『調子に乗らない。いい動きだったことは否定しないけど、まだ相手は倒れてないわよ』
「わかってらぁ。こっちも文字通り骨折って立ってんだ」
シンクロブレスのボタンを操作し、左腰に手をかざす。
かざした場所の空間がゆがみ、刀の柄がゆがみから生える様に現れた。
[サモン・SCW-006 共鳴刀:鳴銀]
刀を抜くように、現れた武器を掴んでゆっくりと怪人に向かって構える。
「散々暴れてくれたなぁ?こっからの俺ちゃんは一味違うぞ!」
「今の俺ちゃんは、しぶといぜ!」
ー続くー




