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第2話 ピンチがヒーローを作る。らしい。

 一人、アパートの中で目を覚ました。


 カーテンを開け、朝の陽ざしを浴びながら深呼吸をする。


「うーん、流石に見慣れたなぁ」


 目の前には宙を飛ぶ車に浮かぶホログラムの広告、生い茂る緑と立ち並ぶビル群が広がっていた。

 まさに『未来都市』というにふさわしい光景。


 俺ちゃんの名前は神宮寺 白陽(じんぐうじ はくよう)、17歳。

 普通の高校生だったが、今ではこの街【第16エリア・1番都市『通称:新東京』】で一人暮らしをしている。


 なぜそうなったのかは、半年ほど前に遡る。




 ~半年前~




 気づいたときには、全体が灰色に染まった取調室らしき場所にいた。


 目の前には誰もおらず、ポツンとおかれた机を前にして手錠を机の脚にかけられていた。幸い、服や持ち物はそのままのようだ。


「おはよう、10時間ぶりね。よく眠れた?」


 部屋中に声が響いた。どこかに仕込まれたスピーカーから、聞き覚えのある声がする。


「改めて自己紹介からね。私は平塚 紫織(ひらつか しおり)。セントラルの研究開発部門の主任、最高責任者よ」


「スピーカー越しに名前だけ言われても困るんだけど」


「…それもそうね。これでどうかしら」


 目の前の壁が透明になり、スーツを着た一人の少女が姿を現した。


「あ!あの時の!」


 姿を見て思い出した。

 ここで目が覚める前、廃墟のような場所で迷っていさ最中に出会った少女だ。

 謎の怪物に襲われているところを目撃して、勢いで割って入り何とか追い払った。

 その後は警戒されながらも街まで共に行動し、現れた別の怪物の襲撃から身を挺して自分を逃がそうとした紫織を助けるべく、彼女の持ち物だった腕部装着型の変身アイテムで武装し、怪物を倒した。

 しかし、変身が解除されたタイミングで電気ショックを喰らい、そのまま気絶して目を覚ますと…


「なんで俺ちゃんつかまってるの?」


 この状況である。


「保安上仕方なくよ。私はいらないって言ったけれど、上層部がうるさくて」


「ほへー」


「随分のんきね。まぁいいわ、さっそく始めましょう」


「なにを?」


「簡単な質問よ。ちょっと長いかもだけど、それさえ終われば帰っていいから」


「なぁんだ、そんなことかい。いいよ!俺ちゃんなんでも答えちゃうよ!」


「なら早く終わりそうね。じゃあまずは一つ目…」



 ~5時間後~



「いい加減にして!!!」


「こっちのセリフだってーの!!!!」


 質疑応答は、言葉の殴り合いになっていた。

 最初の1時間半は穏やかだったはずなのに、どうしてこうなった。


「さっきからめちゃくちゃなことばかり!少しは真面目に答えなさいよ!」


「まじめにやってるっての!」


「「ふーっふーっ」」


 お互いに興奮しきって、壁がなければ取っ組み合いの喧嘩が始まる勢いだ。


「じゃあ答えてみなさいよ!あなたの名前と出身は!」


「神宮寺白陽!東京生まれ!」


「身分証は!」


「これ!」スパコーンッ!


「埒が明かない!」


「何が不満なんだよ!」


 こちらとしては全部真面目に答えている。

 身分証のマイナンバーは見せたし、出身も偽りなく東京の--区と答えている。

 なのに何が不満なのか。


「まったく、なんであ(・)り(・)も(・)し(・)な(・)い(・)場(・)所(・)を(・)答(・)え(・)る(・)の(・)か(・)し(・)ら(・)」




「へ?」


 聞き捨てならな言葉が聞こえた。


「ありもしない?何言ってんの?東京は東京でしょ?」


「何を言い出すかと思えば、東京も--区も旧称。今は1番都市の居住4区でしょ?」


「そんな番号で呼ぶなんて、SF小説の中じゃあるまいし。ここ日本よ?」


「…まって?もしかして、知らないの?【大崩壊】のこと」


「だいh、なに?」



 ~数十分後~



「いやいやwwそんなわけw……まじ?」


「大マジよ。まさかアンタが4件目とは…」


 お互いに認識のすり合わせを行った結果、あることが分かった。


 どうやら、俺ちゃんは元居た場所とは別(・)の(・)世(・)界(・)に迷い込んだようだ。

 この世界は俺ちゃんの世界と同じ西暦2026年らしいが、とある技術の確立により科学技術が進歩した世界らしい。

 廃墟でいきなり目が覚めたり怪物に襲われた時点で薄々考えてはいたが、まさかテクノロジーの世界に異世界転移するとは思わなかった。


 目の前の紫織は「特定の地点で分岐した平行世界」だとかなんとか言ってたが、どうにも小難しくてこの場ではわからない。


「報告すべき…いやそんなことすれば……研究対象…実験…」


 口を手で押さえながら腕を組む姿から、ぶつぶつと嫌な単語が聞こえてくる。


「あのー、それで俺ちゃんはいつ頃元の場所に戻れる感じですか?」


「現状は無理ね」


「んな!?」


 あまりにもあっさり告げられた。


「それじゃあ俺ちゃんどうしろっていうんだよ!戸籍もなければ寄る辺もねぇ!野垂れ死にしろってか!?」


「そうはいってないでしょ」


「やだーっ!このまま死にたくないーっ!お袋と親父に会いたいーっ!」


 地べたでドタドタと暴れまわっていると、頭を抱えながら唸っていた紫織が深い呼吸で息を整え、口を開いた。


「…一つ、提案があるわ」


「やだやだやだやだやだy…ん?」


「貴方に住民としての戸籍データと経歴、ある程度の資金を渡すことができる」


「なんか怪しいな…」


「最後まで聞く。その代わり、定期的に私の検査を受けること」


「それだけ?ほんとにそれだけでいいのか?」


 ずいっと顔を近づけ、透明な壁越しにこちらを見つめる。


「まず、今のあなたはとても貴重な存在よ。現在までで3つしか報告されていない事象、「時空間転移」の実例4件目なんだから。そして貴重ということは、それだけ狙われることにもなる」


「具体的には?」


「このままだと細胞単位まで解剖されて未来永劫ガラスの中よ」


「えぇ…困る」


「それは私も同じよ。私は研究者として、あなたの生きたデータが欲しい。でもこのまま上に報告すれば、それも叶わなくなる」


「取引ってやつかい?ここで話してもいいやつ?」


「そこは研究開発主任の力よ。とにかく、どうするの?このまま飼い殺しにされるか、少なくとも死ななくて済むようにするか」


「…一つ聞いていいか」


「なに?」


「なんでここまでしてくれる?研究者ならしゃべらない標本にしちまったほうが効率いいだろ」


 紫織は少し口をつぐんで、その後すぐにそらした目を合わせる。


「貴方には助けられた。過程や動機がなんであれ、結果としてはそう。だからその分の借りは返したい」


「おまえ…」


「それはそれとして研究もしたい。私も満足できる条件に入れてこれね」


「おまえ…!」


「で、どうするの?」


「ぐぬぬぬぬ……背に腹は代えられん」




「それじゃあ、定期的に精密検査するから。荷物の中にケータイとクレジット、身分証とかも入れてあるわ。一応連絡先も登録しておいた」


「何から何まで助かる。面倒見いいんだな」


「見逃してあげるんだから、簡単に死なれちゃ困るだけ。はい、じゃあお気をつけて」


「お世話になりました~」


 紫織に入り口まで見送られ、施設を後にする。


 振り返ると、遥か上空にまで伸びている建造物が夕日を背に影を落としていた。


「さてと…これからどうすっかねぇ」



 ~現在~



『本日の1番都市の天気は晴れ、気温は23度と比較的過ごしやすい日になるでしょう。続いては特集です』


 テレビをつけると、ニュース番組が天気予報を告げていた。


「上着…は要らねぇか」


 紫織との取引から半年ほど経ち、少しずつこの世界での暮らしも慣れてきた。


 最初のほうは住むところを確保するのにも苦労し、働き口もないのでひもじい思いをしていた。

 が、上手くバイトを見つけることができ、一人暮らしが成立するレベルまでにはなれた。今は街の端のほうで暮らしている。


「やべ、遅れる遅れる」


 用事を思い出し、いそいそと朝食の食パンを詰め込みながら身支度をする。

 リサイクルショップで買った服を着て、こちらに来た時に持っていたバックに中古のケータイを入れて、つけていたテレビのリモコンに手を伸ばす。


『…近年頻発する【術法《コード》】犯罪に対して、本日は専門家の方にお越しいただきました。本日はよろ…』


【術法(コード)】…

 この世界にやってきて知った、俺ちゃんの世界からはるかに進んだテクノロジー。

 刻むことで発動する魔方陣のような代物で、肉眼では見えない刻(・)印(・)を対象に刻むことによって【術法(コード)】を施し、刻印にエネルギーを流すことで動作する。

 電子回路のように使うこともできるため、精密な刻印を刻みこむことで基盤などを最小限にでき、これにより機械の大幅な出力増加と軽量化が実現。

 人間社会は街中を車や人やホログラムが飛び交う未来都市に変わった。

 らしい。

 調べた限りではそう言う風に書かれていた。

 にわかには信じがたいが、玄関から外の景色を見ると嫌でも納得せざるおえない。

 ワイヤレスイヤホンサイズの端末で、無数のホログラムモニターを展開している人が、大勢街中を歩いているのだから最初は驚いたものだ。


『違法改造【術法《コード》】は目視確認の取り締まりが難しk』

 プツン


「そろそろ出るか…」


 手にしたリモコンを置き、荷物を抱えて扉を開ける。


「いってきまーす」


 一人暮らしだが、この習慣だけは抜けない。



 *


 今日は土曜日。久々の休みの日だ。

 そこまで貯金があるわけではないので贅沢も限られているが、それでも存分に羽を伸ばすために朝から出かけていた。

 やってきたのは1番都市でも屈指の大型ショッピングモール。

 周りは家族連れや仲のいい男女、若者のグループなど”THE・休日の光景”が繰り広げられていた。

 とはいえ、自分もその一部であることには変わりない。


「ご注文をどうぞ!」


「ポップコーンセット一つ。味はキャラメルで、ドリンクはジンジャーエールで」


 売店で頼んだのは、この世界に来る前にもよく頼んでいたセット。


 何を隠そう、今日は映画を見に来たのだ。

 元々映画や漫画といった娯楽は好きであったが、今まで余裕がなかったため泣く泣く断念していた。

 しかしこれまでのバイトのおかげで、巨大なスクリーンのプレミア席を買うことに成功した。


「~♪」


 見る作品は「ザ・ソルジャー4 ファイナルミッション」。

 世界的に人気なアクションシリーズの完結編である。

 偶然テレビで流れていた地上波版を見て以降、シリーズにドはまりしスピンオフやドラマシリーズをサブスクで見漁っていた。

 そう、今の俺ちゃんは最高のテンションとコンディションでこの作品に臨む”兵士”なのである。


「たーのしーみだなー!」


 あまりの浮かれ具合を隠しきれない。




「♪~……ん?」


 そんな中だった。

 脳内に警告が走る。

 背筋が凍るような感覚が全身を駆け巡り、何かを知らせていた。

 ふと辺りに視線を向けると、猫背でぶつぶつと何かを呟く男が一人。

 目の焦点はあっておらず、腹を抱える様によたよたと歩いている。


「…してやる……ぜんぶ…」


 いやな言葉が聞こえてきた。

 大抵の場合、このような言葉の後には厄介ごとが付いてくる。

 顔を背け、見なかったことにしようとした時だった。


 偶然、男と目が合ったしまった。


 見ていたのだから、それは目ぐらい合う。

 しかしこの手の相手にとって、目が合うことさえもいかに危険か。


「なにみてんだよぉおおお!!」


 男は抱えていた腕を振り上げ、思い切り振り下ろす。

 それと同時に空気が揺らぎ、何かが高速で迫る音がした。


 咄嗟に防御の姿勢をとったが、次の瞬間には地面にめり込むほどの衝撃が上から襲ってきた。


「おぐっ!」


 漏れ出すような嗚咽を吐き出すと、意識が遠くなっていた。


 霞む視界となかで、逃げ惑う人が写った。






 ~いつかの精密検査の時・どこかの一室~


「これ、渡しておく」


「ん?……ってこれあの時のシリンダーじゃねぇか!」


「大きな声出さなくてもわかってる」


「じゃあなんで」


「簡単に言えば、感よ」


「カン」


「元々その【シンクロレコード】は、コードの安全な使用と不正な改造解析を防ぐために開発した代物。

 だから中身のリセットとか改造が簡単にできないようになってるの。

 本来はマスターアクセス権とかを設定してから使うけど、それはそういう過程をすっ飛ばして使ったから、現状誰も触れない置物になってるってわけ」


「え。えと、それは……勝手に使ってごめんなさい」


「別にいいわよ。あの時はアレが最善だと思ったからそうした。責任の所在は私にあるわ」


「そう…それなら、まぁ……ありがとう」


「素直でよろしい。話は戻るけど、登録した使用者はセキュリティの都合で変更できなくなってるの。だからそれは廃棄処分。でももったいないからアンタに渡す」


「もったいないから」


「それだけじゃないわよ。あの時襲ってきた奴がまた来ないとは限らないでしょ?だから護身のため。貴重な研究対象をみすみす殺されてたまるもんですか」


「私欲と合理性のごった煮」


「一応最高機密だから、ばれないように誤魔化して身に着けておいて」


「じゃあ渡すなよ!」






「………はっ」


 いつかの記憶の中から目が覚める。


「う~ん…頭いてぇ…」


 ズキズキと痛む頭を抱えながら、辺りを見回す。


 周囲は無残にも荒れていた。あれほどまでに賑わっていた場所は、割れたガラスとひびの入った壁に置き換わっている。


「あらら、こりゃぁ酷いね」


塵と埃にまみれた体を起こし、ここから離れる。


あちこちから悲鳴や何かが壊れる音が聞こえる。

痛む体を引きずりながら外へと移動すると、次第に音が大きくなっていった。


そうして痛みもだんだんと引いていき、十分に動けるようになったころ。

吹き抜けの大広間から叫ぶような笑い声が響いてきた。


恐る恐る物陰から声の元を除くと、異様なものが暴れまわっていた。

かろうじて人のシルエットはしているが、溶けたガラスのような見た目と異様に肥大化した手足はまさに”怪人”と呼ぶにふさわしいものだ。


「どいつもこいつもばかにしやがってぇぇえええええ!」


怪人は周りの建物や逃げ遅れた人に向かって暴れながら襲い掛かる。

明らかに自分を制御できていない。


「おれはもうまけいぬじゃないんだぁあああ!!!!」


柱や窓を破片にして飛び散らせる。

あまりの暴れっぷりに耳が痛くなるくらいだ。


そして怪人が暴れる最中の、一瞬の静寂にそれは聞こえた。




「……ぐすっ」


明らかに子供の声だ。

声の聞こえた方向を向くと、逃げ遅れたのだろうか瓦礫の隙間でうずくまっている少女の姿が見えた。


怪人もそれに気づいたのか、声のする方向に首を向けた。


「ぁあああ!あああああ!!おれはわるくないぃぃいいいい!」


はじける様に怪人が発狂し、両腕を振り上げる。

また俺ちゃんを潰したときのような、見(・)え(・)な(・)い(・)巨(・)腕(・)が降ってくる。


「ひぐっ…ママぁ…」


少女はそれに気づかずに、けれども恐怖の声が漏れ出ていた。





そして凄まじい衝撃が辺りを揺らし、土煙が舞い上がった。


「ふ、ふふふふふ!だれもおれをじゃまできない!!」


怪人は高笑いをあげる。


土煙は次第に晴れ、跡には大きな円形状のクレーターと、






「っっっっぶねぇぇええ!ギリギリセーフ!」


少女を抱える、俺ちゃんの姿があった。




ー続くー

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