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第九話 最終保管庫

## 第九話 最終保管庫


海底都市ネレイス。


管理塔最深部。


---


「月面保管計画」


---


その文字を見た学者たちは大騒ぎだった。


---


「月だ!」


「月へ行った文明だ!」


「宇宙文明だったんだ!」


---


しかし慎太郎は腕を組んだ。


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「おかしい」


---


「何がです?」


---


「古代文明の記録を読んできた」


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「はい」


---


「連中は記録魔だ」


---


「そうですね」


---


「空中城の資料にも」


---


「うむ」


---


「地上知識庫にも」


---


「うむ」


---


「海底都市にも」


---


「うむ」


---


「月への有人飛行記録がない」


---


全員が静かになった。


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確かにそうだった。


---


農業記録はある。


行政記録もある。


橋の設計図もある。


人口統計もある。


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なのに。


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月へ行くための巨大技術だけが存在しない。


---


慎太郎は資料を読み返した。


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すると気付く。


---


「月面保管計画」


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ではない。


---


正確には。


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**月面保管計画番号。**


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その後の部分が削れていた。


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「なるほど」


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慎太郎は笑った。


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「月じゃない」


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「え?」


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「管理番号だ」


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「管理番号?」


---


「保管庫の分類記号だ」


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古代文明らしい発想だった。


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学者たちは一斉に資料を見直す。


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そして発見する。


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第一知識庫。


地上保管計画。


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第二知識庫。


空中保管計画。


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第三知識庫。


海底保管計画。


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つまり。


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第四は。


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別の場所。


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「宇宙だ」


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全員が固まった。


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慎太郎は奥へ進む。


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そこで見つけた。


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小さな台座。


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中央に水晶。


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そして説明文。


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> 最終保管庫引寄せ鍵


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「鍵?」


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慎太郎が触れる。


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光が走った。


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管理塔全体が震える。


---


ゴゴゴゴゴ……


---


深海都市が揺れる。


---


学者たち。


---


「何をしました!?」


---


「知らん」


---


「またですか!」


---


「説明書通りだ!」


---


そして映像が現れる。


---


古代人の記録。


---


> 最終保管庫は常時移動中。

>

> 発見は困難である。


---


> 発見できない場合、

>

> 引寄せ鍵を使用せよ。


---


> 保管庫は自動帰還を開始する。


---


慎太郎。


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「便利だな」


---


映像は続く。


---


> 帰還予想時間

>

> 27日


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王都レノアオ。


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二十七日後。


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異変が起きた。


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夜空。


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巨大な光。


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流星ではない。


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星でもない。


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月でもない。


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王都の全住民が見上げる。


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「なんだあれ」


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「空が光ってる」


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「落ちてくるぞ!」


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そして。


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雲を突き抜けて現れた。


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巨大構造物。


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長さ五キロ以上。


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箱舟のような形。


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空中城より大きい。


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海底都市より小さい。


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だが異様な存在感。


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王都郊外の平原へゆっくり降下する。


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轟音。


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地鳴り。


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風圧。


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誰もが息を呑んだ。


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慎太郎だけは笑っていた。


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「来たな」


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最終保管庫。


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古代文明最後の遺産。


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その入口には一行だけ刻まれていた。


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> 第一が失われても。

>

> 第二が失われても。

>

> 第三が失われても。


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さらに続く。


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> ここが残る。


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慎太郎は扉に手を置く。


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ゆっくりと開く。


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中は意外だった。


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黄金はない。


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宝石もない。


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巨大兵器もない。


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そこにあったのは。


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無数の種子。


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植物。


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果樹。


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薬草。


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穀物。


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家畜の記録。


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生態系記録。


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そして。


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数億冊規模の知識保存区画。


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慎太郎は理解した。


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「文明の再起動装置か」


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古代人は戦争に備えたのではない。


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文明崩壊に備えていた。


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知識。


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食料。


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種子。


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教育。


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生態系。


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全てを未来へ渡すために。


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その時。


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最奥の管理室で最後の映像が起動した。


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老人が微笑む。


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> おめでとう。


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> 君たちは第四保管庫を見つけた。


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> ならば我々の勝ちだ。


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慎太郎が首を傾げる。


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「勝ち?」


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> 文明は滅んだ。


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> だが知識は残った。


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> 未来の人類が受け取った。


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> それで十分だ。


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映像はそこで終わった。


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静寂。


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慎太郎はしばらく考えた後、


管理室の窓から王国を見下ろした。


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鳩便網。


文庫。


学校。


研究所。


街道。


橋。


農地。


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かつて彼が少しずつ整えてきたものが見える。


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そして呟く。


---


「なるほど」


---


「確かに勝ちだな」


---


こうしてシアロアルス王国は、


古代文明の最終保管庫を受け継ぐことになった。


そして智慎太郎はまだ知らない。


最終保管庫の最奥には、


まだ誰も開けていない区画が一つだけ残されていることを。


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