第七話 天空知識院
## 第七話 天空知識院
アストラ・ライブラリア発見から三年。
王都レノアオは大きく変わっていた。
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アルグラード文庫。
天空知識院。
王立工学研究所。
王立農業研究所。
王立地図院。
王立統計局。
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全ての源流は慎太郎が持ち帰った知識だった。
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しかし慎太郎は浮かない顔をしていた。
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宰相が尋ねる。
「どうした」
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「おかしいんです」
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「何が」
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「知識庫が二つある」
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「うむ」
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「なら三つ目がある」
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会議室が静まる。
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慎太郎は地図を広げた。
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第一知識庫。
アルグラード。
地上保管型。
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第二知識庫。
アストラ・ライブラリア。
空中保管型。
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「古代人は慎重すぎる」
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「それは分かる」
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「なら海にも作る」
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全員が黙った。
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確かにそうだった。
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洪水。
戦争。
火山。
疫病。
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あらゆる災害を想定していた古代文明なら、
知識を一箇所に保管するはずがない。
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慎太郎はさらに調査を続けた。
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天空城の資料。
古地図。
記録。
航海日誌。
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数万冊。
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そして発見する。
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一文。
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> 第三保管庫
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> 海底都市ネレイス
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「やっぱりあった」
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考古学者たちは頭を抱えた。
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「またですか」
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「まただ」
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「隊長、普通の遺跡はないんですか」
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「知らん」
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その頃。
天空城では別の発見が続いていた。
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失われた農法。
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新型風車。
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高効率水車。
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病気の予防法。
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保存食技術。
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道路管理制度。
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どれも地味だった。
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だが国家を強くする知識だった。
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十年後。
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シアロアルス王国。
人口増加。
飢饉激減。
識字率上昇。
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周辺国は驚いていた。
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「なぜあの国だけ発展する」
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「金山でも見つけたのか」
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「違う」
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商人は答えた。
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「本だ」
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「は?」
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「本が増えた」
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「意味が分からん」
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だが事実だった。
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王国では子供が読み書きを学ぶ。
職人が技術書を読む。
農民が農業本を読む。
役人が統計を学ぶ。
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知識が社会を循環していた。
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そして慎太郎は相変わらずだった。
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王国最高機密の責任者。
情報局長。
特命冒険者。
天空知識院名誉院長。
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肩書だけで紙一枚埋まる。
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だが本人は。
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冒険者ギルド。
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依頼書を眺めていた。
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薬草採取。
狼退治。
荷馬車護衛。
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「いいなあ」
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受付嬢ももう慣れていた。
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「また言ってますね」
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「普通の冒険者になりたい」
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「隊長は普通じゃありません」
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「そうか」
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「はい」
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その時。
情報局の伝令が飛び込んできた。
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「隊長!」
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「なんだ」
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「海からです!」
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「海?」
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「沖合五百キロ!」
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「うむ」
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「海面下に巨大構造物が確認されました!」
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慎太郎は立ち上がる。
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「海底都市か」
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伝令。
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「まだ何も言ってませんよ?」
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慎太郎。
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「第三知識庫だろう」
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伝令。
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「はい」
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慎太郎は笑った。
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数年前なら驚いた。
しかし今は違う。
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第一は地上。
第二は天空。
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なら第三は海。
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古代文明ならやる。
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そう確信していた。
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こうして王国は新たな遠征を開始する。
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**海底都市ネレイス探索計画。**
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後に歴史書は記す。
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> 知識を求める冒険者は、
> 財宝を追わなかった。
>
> だが結果として、
> どの王より大きな財産を国へもたらした。
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そして智慎太郎は、
今日も嬉しそうに遠征準備を進めていた。
今度の冒険は――海の底だった。




